核兵器に手をかすメガネのHOYA
2001

1.HOYA問題概観
「水爆に手をかすメガネのHOYA」

 メガネのHOYAの米国現地法人が、米国の水爆研究施設に主要部品を提供しています。この施設は、サンフランシスコの近くに建設中の「国立点火施設(NIF)」という巨大な施設で、レーザーのエネルギーを使って、水爆の爆発現象(核融合)を小規模で再現しようというものです。NIF自体はもちろん兵器にはなりませんが、ここで核兵器設計集団を訓練すると同時に、得られた情報を核兵器の設計に活かそうという計画です。HOYAが納入しているのは、レーザー光の増幅用の特殊ガラスで、施設の中核的部品です。現在の計画では、施設は、2008年に完成予定です。
 今年2月6日の共同電でこの事実が報じられた後、広島市長や被爆者団体などの反対でHOYAは同9日に一時納入を見合わせると発表しましたが、3月22日に26日から納入を再開と宣言しました。HOYAと核兵器研究所との関係は1970年代初頭に遡り、HOYAは、NIFの前身に当たる水爆研究施設「シバ」や「ノバ」にもガラスを提供してきました。 
 広島・長崎の両市長、東京調布市議会、広島県府中町議会は、米国の核兵器研究に協力するHOYAの行為を非難する態度を表明しています。

NIFはなんのために必要なの?

 施設の目的は二つあります。一つは、核兵器の設計能力を持った集団を維持するというものです。次の世代の科学者たちに小規模の予行演習の場を提供することによって、本番、つまり核兵器の設計・核実験に備えさせようという訳です。もう一つは、核兵器開発用のコンピューター・コードを開発することです。核実験をしなくても、核兵器を設計・開発する能力を得ようと言うわけです。米国は保有するすべての核兵器の設計に変更を加える計画です。
 HOYAはこのような施設を、核兵器とあまり関係のない施設だとか、核兵器が放置される危険を防ぐのに必要な施設だとかいって、納入を正当化しようとしています。どちらも嘘です。
 米国会計検査院は、NIFの85%の実験は、核兵器物理の研究のためのものといっています。残りの15%の中にも、核兵器の影響を調べるものが含まれます。
 また、米国はNIFがなくても核兵器を放置したりしません。NIFでの研究は、
核兵器が偶発的に爆発するのを防ぐのには役に立ちません。

NIFは兵器になるの?

NIFは、フットボールのスタジアムほどの大きさですから、これ自体は兵器にはなりません。水爆の爆発現象を「実験室」で再現して研究するための施設です。巨大な施設の中で192本のレーザー・ビームを走らせながら、その過程でエネルギーを増幅していきます。レーザー光がHOYAのガラスの中を通る際に強度を増していくのです。最後に直径一〇メートルの丸い容器の中心部にこのエネルギーを集中させ、直径数ミリのカプセル内に封入された二重水素と三重水素(トリチウム)の核融合を起こさせようという計画です。

NIF(国立点火施設)を作っているのは誰?

NIFを作っているのは、ローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)というところで、米国の二つの主要核兵器研究所のうちの一つです。管轄は、核兵器の研究・開発・製造に責任を負うエネルギー省です。日本などのレーザー核融合施設と違い、NIFの予算の100%が核兵器部門から来ています。

国立点火施設というのはどういう意味?

レーザーを使った核融合の研究は、これまでも行われていますが、現段階では、レーザーとして提供されるエネルギーを利用して核融合を起こすだけで、この外部のエネルギーの提供が終われば、反応も終わってしまいます。NIFでは、きわめて短時間ながら、自発的な反応の持続を起こそうとしています。核融合自体のエネルギーで反応が持続するこの状況を「点火」といいます。ここから「国立点火施設」という名前がきています。要するに小規模の核融合「爆発」です。これが実現すればNIFの核融合現象は、水爆でのものに近づくとNIF関係者はいいます。

未臨界実験との関係は?

 未臨界実験は水爆の引き金となる原爆部分に関するものです。水爆では、原爆部分からのエネルギーを使って、水素の核融合を起こさせます。NIFは、この水爆のエネルギーの大半を出す核融合の研究に使われます。しかも、小規模ながら核融合爆発を起こして、水爆の現象を調べようというものですから、核兵器研究のかなめとされています。

HOYAの役割

 HOYAが提供する特殊ガラス(79X44X4.5センチメートル)は、施設の中核的部品です。しかもこのガラスの大量製造能力を持っているのは、ドイツのショット社の米国子会社とHOYAだけです。HOYAは、NIFに必要な3500枚のガラス板のうちの約半分を数年かけて納入する予定です。(契約額は、5000万ドル、約58億円。)両社は、フランスの同様の核兵器施設「メガジュール(LMJ)」にもガラスを納入する計画です。HOYAは1月段階でNIF用に600枚、LMJ用に125枚の製造を終えています。LLNLによると両社合わせた年間製造能力は約1500枚、NIFとLMJを合わせてた最終的必要総量は、約8000枚です。

HOYAの行為をやめさせる法律は?

武器輸出3原則

 政府は、武器輸出3原則では、現地法人による行為を規制できないとしています。1967年以来維持されている3原則は、輸出に関連した許可制度の「運用方針」だから、現地法人には適用されないというわけです。また、もともと1)共産圏、2)国連決議で武器輸出が禁止されている国、3)紛争当事国への輸出を禁止することを謳った3原則の下で、日米安保に基づく米国への武器技術供与などは例外として認めてきました。究極の破壊兵器である核兵器の研究開発に協力することを許すような原則でいいのでしょうか。

非核3原則

 「持たず、作らず、持ち込ませず」という非核3原則は、外国の核兵器研究への協力については直接触れていませんが、HOYAの行為は3原則の精神に反するものであることは明らかでしょう。

包括的核実験禁止条約(CTBT)

 CTBTを批准した日本がNIFに協力することは、「核兵器の開発及び質的改善を抑制し並びに高度な新型核兵器の開発を終了させる」という条約の精神に反します。さらに、日本は、核実験を「実現させ、奨励し、又は、いかなる態様によるかを問わずこれに参加することを慎む」義務を負っています。CTBTがたとえ発効していなくても、日本には、条約の趣旨目的(核実験の禁止)を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務があります。米国はCTBTを死文化させようとしており、核実験を行う可能性があります。このような国の核兵器研究にHOYAが参加することを許しておけば、それは条約に違反する行為と言えるでしょう。また、CTBTが発効した後に米国が条約を脱退して核実験を行えば、HOYAの関係者は、「核爆発を生じせしめたものは、7年以下の懲役に処する」との原子炉法規制等の条項の下で罰せられることになるでしょう。

広島市長 秋葉忠利 2月9日

「核兵器廃絶の国際世論醸成に向け主導的な役割を果たすべき被爆国の関連企業が、このような核兵器の研究・開発にかかわる施設に主要装置を納入することは、被爆地・広島市の市長として看過できない。被爆者及び広島市民を代表して抗議の意を表明する。」

長崎市長 伊藤一長4月5日

「被爆国の企業が、このような核兵器備蓄管理の研究・開発を目的とした施設に、資材の納入再開をしたことは、被爆都市長崎の市民として、断じて許すことはできず、ここに強く抗議するとともに、今後の資材納入の停止を強く求めます。」

調布市議会意見書の政府に対する要求

「米国現地法人とはいえ、本社を日本に持つ企業が核兵器開発の協力を行う
ことは許されない。HOYAに対し、外務省は適切な指導を行い、「国立点火
施設(NIF)への部品納入をやめさせること。」

広島県府中町議会意見書の政府に対する要求

「HOYA株式会社による米国への核兵器研究・開発協力が、日本の非核3原則の精神に反しており、米国の現地法人による行為であっても認められないことを国会の場で明確にすべきであること」

2.HOYA問題経緯

1973年 HOYAと米国核兵器研究所との関係始まる
1977年 HOYAの部品を使った核兵器研究施設シバ完成。
1984年 HOYAの部品を使った核兵器研究施設ノバ完成。

2001年

2月6日付共同 HOYAがNIFへガラスを納入と報道。
2月7日 原水禁HOYAに公開質問状(1)
2月9日 広島市長、HOYAへの抗議文
HOYA出荷の見合わせを発表。
2月20日  HOYAは同日付け回答で「NIFでの研究は、垂直、水平いずれの方向でも核の拡散につながらない」、「NIF計画は、国防技術の維持・拡大を中心に据えたものではない」との「結論をもとに、今回のNIFへのレーザーガラスの供給を決定しています。以上のことから、HOYA株式会社では、レーザーガラスのNIFプロジェクトへの供給は、核兵器の開発に直接関わるものではないと認識いたしております」と説明。

3月13日 「レーザーガラスのNIF納入に関する公開質問状(その2)」をHOYAに送り「NIFは国防技術の維持・拡大を中心に据えたものではない」とする根拠を求める。(未回答)
3月22日 CTBTの批准を拒否し、いつ核実験を再開するやもしれない核保有国の核兵器協力するとことが、CTBTを批准した日本の義務に反することになる可能性についての質問状(その3)。(未回答)
3月22日 HOYAは同日付け回答で3月26日づけて納入を再開すると通告。(納入再開は未確認)
3月26日 CTBTに関する質問などへの明確な回答を要求する質問状(その4)

4月4日  グリーンアクション、原子力資料情報室及び原水禁は、HOYAの引用したシンポジウムの「結論」を書いた大阪大学の山中龍彦教授に、いかなる根拠に基づき「結論」を書いたのかと問う質問状。
4月5日 長崎市長、HOYAへの抗議文

4月9日 「結論」の誤りを認める山中教授の回答。
4月10日 原水禁、HOYA事務所を訪れ、41団体の抗議文手渡す。
4月17日 山中教授へ再質問。「結論」の誤りについてHOYA及び長崎・広島両市長に説明するとともに、不明な点をさらに明確にするよう要請。
4月23日
HOYAがリバモア研究所にNIFの実験の80%が民生用であると明言して欲しいと依頼し、その明言が得られなかったことをリバモアの回答が示しているのになぜ納入を止めないかなどと問う質問状(その5)
5月18日 民主党桑原豊衆議院議員、外務委員会で質問
6月1日 「HOYAに核兵器研究・開発協力を止めさせる実行委員会」結成
6月4日 NIFのあるローレンス・リバモア研究所が核兵器の開発をしていることに抗議して研究所を辞めたコンピューター技術者のアイザック・トロッツ氏と実行委員会、HOYA本社を訪れ、抗議文を手渡す
6月14日 社民党今川政美衆議院議員、安全保障委員会で質問

  HOYAは、原水禁が6月4日に面会を強要したとして、原水禁との「一切の面談・交渉・連絡を打ち切る」と通告。(実際は受け付けの女性ではなく誰かしかるべき人に抗議文を手渡したいと要請しただけ。これによりHOYAは都合の悪い質問にはまともに応えることなく、無視したままに終わった。)
9月28日 東京都調布市議会、広島県府中町議会HOYAを非難する意見書採択

3.HOYAの主張と政府の文書等の記述との対照表

HOYA主張

「NIF計画は、国防技術の維持・拡大を中心に据えたものではないとの結論を得ている。」2月20日

「NIFのミッションの一つ」は、「米国が核削減に向け現有する核兵器を放置する危険性を回避」するもの。4月10日
「ノバはあくまでエネルギーの平和利用のために使われると信じている」
1985年4月 上の「結論」を書いた山中龍彦大阪大学教授
「説明が舌足らず」だったが、本来の意味は、NIF計画は「新たな核兵器の開発につながるものではなく、国防技術の維持・管理を目的にしたものであり、拡大を目的にしたものではない」ということ。

米国エネルギー省

HOYAが原水禁に提供したエネルギー省の文書

「THE NATIONAL IGNITION FACILITY(NIF) AND THE ISSUE OF NONPROLIFERATION」 Final Study Prepared by the U.S. Department of Energy Office of Arms Control and Nonproliferation [December 19, 1995]

「NIFの主たる目的は、核兵器に関連した物理学の専門家集団を米国で維持することにある。」 8ページ
「核兵器維持管理計画におけるNIFの主たる役割は、もっと一般的な意味で核兵器に関連した物理に関する中核的な知的・技術的能力を維持することにあるが、セカンダリーやブースト型プライマリー過程の一部に関連したコンピューター・コードの予測能力の改善のための特定のデータを提供することもできる。」 14ページ

2002年度予算書

「NIFは将来に渡って核抑止力を維持する能力にとって欠くことのできない要素」

ローレンス・リバモア研究所のレーザー研究に関する文書 Laser Programs 25th Anniversary

「ノバは広範な形で核兵器計画に活用した」

ローレンス・リバモア研究所のHOYAへの回答2001年3月19日

「新たな核兵器というのは、普通、相当に新しい核弾頭の設計概念や進んだ兵器概念を伴うもの」(新たかどうかは米国が決める)

国防省がエネルギー省に与えている義務

「新しい核弾頭を設計し、製造し、認証する能力を維持すること」(NIFは、その中核)」

元クリントン大統領科学顧問フランク・フォン・ヒッペル教授

「NIFは、核兵器の安全性を確認したり改善したりするためには使うことはできない」

米国会計検査院

「NIFで行われる実験の85%は、核兵器の爆発過程を調べるためのもの」

エネルギー省国家核安全保障局報告書(2001年4月6日)

「NIFは、研究所の科学者達が、これまでに研究できなかったような物理的状態における核兵器の振る舞いについて調べることを可能にする能力を大きく高める。」

「[NIFの]点火という目標は、[エネルギー省の]「国防計画(DP)」にとって、いくつかの理由で重要である。第一に実験施設内における点火は、知られている限り、熱核燃焼に関連した兵器問題を研究する唯一の手段である。第二に、点火は、はっきりと目に見える形で、次世代の[核兵器]設計者達の能力を試す複雑で難しい実験を必要とする。ネバダ実験場で行われていたようなものである。第三に、点火という課題は、核兵器維持管理計画に最高レベルの才能を持った人々を引きつけるのに必要である。第四に、難しい総合的な問題として、高等なシミュレーション・ソフトにとって、重要な検証テストとなる。最後に、点火に関連した、いくつかの核兵器物理実験が提案されている。これらの特定の実験の有用性については、さらに研究が必要である。しかし、他の開発と同じく、点火は、未だ概念化もされていないが、核抑止の長期的維持に決定的となるような核兵器プログラムに貢献する可能性がある。」

「点火は、重要な道具となる。なぜなら、[核兵器]設計者にとって設計・検証の課題を提供するからである。これは、核実験が行われていたときに存在していたようなものであり、高度な科学的な能力を維持し、「核兵器の認証者を認証する」手段となる。点火カプセルにおける条件は、核兵器におけるものと全く同じではないが、はっきりした総合的な難しい問題を解決するという課題は、確固とした核兵器設計プログラムを維持するのに重要である。」