原水禁大会パンフ
2002年大会パンフ

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第一章 米国の核政策と世界

  

 
 
 
 
 
 
 
 
 

米ロの戦略攻撃核戦力削減条約と核廃絶

条約の乏しい中身

 米ロ両国は、五月二四日、戦略攻撃核戦力削減条約に調印しました。現在それぞれ六〇〇〇発程度配備している戦略核兵器を、二〇一二年まで二二〇〇発以下に減らそうというものです。ブッシュ大統領は、「プーチン大統領と私は、今日、両国間の長い対立の時代に終止符を打ち、全く新しい関係を切り開いた」と述べています。本当に両国の対立の時代は終わり、それだけ核廃絶が近づいたと言えるでしょうか。

 残念ながら、条約はそれほどすばらしいものではありません。A4で軽く二枚に収まってしまうこの条約は、どのような弾頭を、どのようなスケジュールで、いかにして削減するかを全く定めていません。そして、配備から外された弾頭についても処分方法を決めておらず、そのまま維持できることになっています。
 START(戦略核兵器削減条約)IやSTART

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では、細かい規定を設け、スケジュールや、ミサイル・航空機などの運搬手段の廃棄・変更方法などについて定めていました。たとえば、一基のミサイルに複数の弾頭を積んで、それぞれ別個の標的を狙えるMIRV(複数目標弾頭)という方式のものは、START
II
では、禁止となるはずでした。一基で敵の複数のミサイルサイロを破壊できるMIRV化ミサイルは、先制攻撃に使いやすいと考えられたからです。もっとも、MIRV化ミサイルの一部は、各ミサイルに弾頭一個だけを装着して、残りの弾頭を取り外すという形で、単弾頭にすることが許されていました。つまり、その外した弾頭をそのまま保存しておいて、また積めば、簡単に元の多弾頭になってしまうという問題が残っていました。しかし、米国の方が特に嫌っていた旧ソ連・ロシアのSS
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という大型ミサイルは、START
II
で破壊を義務づけられていました。それなら、たとえ弾頭を保管していても、簡単には元の態勢に戻すことはできません。このミサイルは、一基に一〇発の弾頭を積めるものです。ロシアは、現在、SS
18
を一四四基持っていますから、このシステムだけで、一五〇〇近い目標を一度に狙えるわけです。そして、これらのほとんどが、即座に発射できる態勢にあります。敵のミサイルが飛んでくると見ると、自国のミサイルが破壊される前に発射してしまえという態勢です。いまの状況で、ロシアが意図的に全面核戦争を米国に仕掛けるというのは、まず考えられませんが、システムの誤動作や判断の誤りによって一瞬のうちに核戦争が始まってしまうことが心配されています。実際、一九九五年一月二五日には、ノルウェー沖のアンドヤ島から発射された米国航空宇宙局(NASA)のオーロラ現象観測用の四段式探測ロケットが、自国を狙ったミサイルかも知れないとロシア側に認識されるという事件が起きています。大統領にも事態が知らされ、核攻撃の命令を伝達するためのブリーフケースが史上初めて起動し始めました。判断の時間は数分しかありません。幸い謎の物体は、北に大きく外れて北海に落下することが判明し、ロシアからのミサイルの発射は免れることができました。
 また、新条約では、検証方法や信頼醸成措置などについても定めていません。第二条でSTART Iは有効とすると述べていますから、START Iの検証措置は維持されることになりますが、START I自体が、二〇〇九年で失効してしまいます(START
II
は結局発効しないまま葬り去られます)。そもそも削減スケジュールを定めていませんから、それぞれ、好きなような方法で、好きなようなスケジュールに従って削減をし、二〇一二年一二月三一日の時点で二二〇〇以下になっていれば良いということです。しかも、条約の有効期限は同日で切れるのです。そうなるとこの条約に違反するということがあり得るのかという疑問がわいてきます。『アームズ・コントロール・トゥデイ』誌によると、米国は、「条約法に関するウイーン条約」によって、ある条約に署名した国は、その「条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務がある」から、条約の遵守を不可能とするような行為をすれば条約の違反となる、と主張しているようです。しかし、それをどのように判断するかについて規定はありません。それに、全面的核実験禁止条約(CTBT)に署名しておきながら、それを死文化しようとしたり、自ら推進した気候変動枠組み条約京都議定書の不支持を表明するなど、国際条約を無視する政策を取りつづけている米国のこのような発言には説得力がないでしょう。
 数え方についてさえはっきりしていません。条約は、その第一条で、米ロは「米国大統領が二〇〇一年一一月一三日に述べ、また、ロシア連邦の大統領が二〇〇一年一一月一三日と二〇〇一年一二月一三日に述べたとおり、戦略的核弾頭を削減し、制限し、二〇一二年一二月三一日までに各当事国の同弾頭の合計が一七〇〇〜二二〇〇を超えないようにする」と述べています。米国は、昨年一一月一三日の声明で、実際に「作戦配備された」核弾頭という言葉を使っていて、これらの弾頭の数を数えるのだと言っています。後に述べるとおり、これには、点検・修理中の潜水艦に搭載されたミサイルの弾頭や、いざというときのために保持しておく「状況対応」用の弾頭などは入りません。しかしロシア側は、五月二二日の声明で、条約には米国側の主張する「作戦配備」という用語は入っておらず、数え方の問題はこれから協議することになると述べています(年二回以上の「二国間実施委員会」開催が規定されています)。ロシア側は、交渉の中で、START Iのように、保有しているミサイルや爆撃機にそれぞれ何個積めると計算するかを条約で定義しその総数を数えるという方法を主張していました。何個積める能力を持っているかに焦点を合わせるものです。これなら保管しておいた弾頭を短期間でミサイルや爆撃機に積んで配備数を増やす能力を両国が持つという不安定性をある程度解消できます。
 さらに条約は、相手国に三カ月前に通告しさえすれば、いつでも、理由に関係なく、この条約から脱退できるとしています。START
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では、一方の当事国が、「異常な出来事がその至高の利益を危うくしている」と判断した場合にかぎり、相手国に、「その異常な出来事についての陳述」も含めた形で通知することによって初めて脱退できるとなっていました。
 もう一つ大事な点は、九・一一以降、管理の甘いロシアの核物質や戦術核がテロ組織の手に渡る危険性があれほど注目を浴びてきたにもかかわらず、これらの問題に全く触れていないことです。約三〇〇〇発の戦術核を撤退するという一九九一年と九二年のブッシュ大統領(現大統領の父親)のイニシアチブに応える形で旧ソ連・ロシアは、大量の戦術核を配備から外してきましたが、当初の約束が完全に履行されたのか、配備から外れた核がどう管理されているのか不明のままです。検証措置を伴う条約による削減ではないからです。ロシア下院のアレクセイ・アルバトフ議員は、九〇年代末に次のように言っています。「一九九一年にソ連は、約二万二〇〇〇発の戦術核兵器を持っていたが現在のロシアは、現在約三八〇〇発を持っている」。つまり一万八〇〇〇発ほどが配備から外されたことになりますが、正確なところは分かりません。米国は、一〇〇〇発あまりの戦術核を配備していますが、そのうちの約一八〇発が、英国の他、六つのNATO加盟の非核保有国に置かれています。核戦争となれば、これら非核保有国のパイロットが投下する予定です。非核保有国への核の移譲を禁止した核拡散防止条約(NPT)に矛盾する取り決めです。米国は、これら冷戦の遺物にしかすぎない核兵器を直ちに撤去し、ロシアと戦術核削減・廃棄の措置と透明性に関する交渉を行うべきです。このように、この条約は信頼に根ざす「全く新しい関係を切り開く」ものでは決してありません。

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