原水禁大会
2003.8.2 

被爆58周年原水爆禁止世界大会
国際会議 キーノートスピーチ

はじめに

 私たちは被爆58周年原水爆禁止世界大会を、この横浜国際会議を皮切りにスタートさせますが、開幕に当たり大会実行委員会として若干、米国の核戦略、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の核問題についての見解を述べたいと考えます。
 ご承知のように、3月に始まった米軍のイラクへの攻撃は大量破壊兵器の危険を取り除くという名目からでしたが、もともと国際法的には認められない攻撃でした。そして、5月1日のブッシュ米大統領の終結宣言にもかかわらず、イラク側の激しいゲリラ攻撃によって終息の展望は見えていません。また大量破壊兵器も一切見つかっていません。一応「統治評議会」が発足したものの、イラク国民の求める政治形態が作り出されるかどうかは不透明で、今後、アラブ対欧米間の文明の衝突へと発展する危険さえ強く感じます。(※1)
 一方、北東アジアにおいては北朝鮮の核開発疑惑が、大きな緊張を作り出しています。北朝鮮の核問題は、対応を誤れば北東アジア全体に大きな混乱と緊張を作り出すだけでなく、朝鮮半島における軍事的動乱、さらには日本への大きな影響が予想されます。
 私たちはあくまで対話による解決を強く求めておりますが、本日の会議によって、解決への道筋が見いだされればと期待しております。
 米ブッシュ政権は、登場後に9.11という悲劇的な事件を経験しておりますが、それでも対テロ戦争などを大きな理由とした核戦力の増強計画は大変危険であると私たちは認識します。米国の核一国主義の内容を検討することも本日の大きなテーマであり、検討結果を今後の運動に生かしたいと考えており、本日の国際会議に参加された方々の問題提起、討論に大きく期待する次第です。

1.米国・核の一国主義

 米国でブッシュ大統領が登場して、まず最初にとった行動はCTBTの死文化方針であり、ついでABM制限条約からの一方的な脱退通告でした。02年5月に米ロ首脳会談によって「戦略攻撃兵器削減条約」が調印されましたが、その時点で米ロの核戦力の差は歴然としていました。

 ブッシュ政権は01年12月末に「核戦略見直し報告」(NPR)を議会に提出しましたが、ここではイラク、イラン、北朝鮮に加え、ロシア、中国、リビア、シリアの7ヵ国に対する核攻撃さえ検討していると伝えられています。さらに02年9月20日「国家安全保障戦略」を発表し、圧倒的な軍事的優位の維持、国際条約よりも自国の立場の優先、大量破壊兵器を開発している「ならず者国家」やテロ組織に対して先制攻撃を行う、などの戦略を明らかにしました。さらに02年12月10日に二つの文書を包括的に組み込んだ「大量破壊兵器と戦う国家戦略」を発表しました。
 こうした戦略に基づいて、ミサイル防衛(MD)の開発・配備を急ぐ一方、5キロトン以下の地中貫通型核兵器の研究にも着手しようとしています。
 ブッシュドクトリンは、これまでの世界の核軍縮への動き大きく後退させ、世界を再び核軍拡の道に追いやりかねない危険を強く持っています。私たちには米国の核軍拡を阻止し、核の廃絶された社会実現のために、世界の反核運動との連携が一層求められています。
 私たちはMDシステム配備をはじめとする米国の核戦力増強や、核実験再開などに反対する具体的な運動を展開するとともに、05年に開催されるNPT再検討会議に向けて各国政府・NGOと協力して核廃絶への展望を見いだしたいと考えます。(※2)
 米・英軍はまた、イラク攻撃に劣化ウラン弾やクラスター爆弾、気化爆弾などを使用しました。劣化ウラン弾は放射能の影響を、クラスター爆弾は地雷と同等の被害を、長期にわたってイラク国民に与え続けます。私たちはこうした兵器の製造・使用に反対します。

2.北朝鮮の核疑惑

 02年10月にケリー米国務次官補が訪朝し、北朝鮮のウラン濃縮疑惑について発表して以来、米朝間は緊張の度を次第に高めてきました。
 現在、北朝鮮は核爆弾1、2発を保有し、さらに94年の米朝合意で封印された8000本の使用済み核燃料を再処理し、6発分ほどの核爆弾用プルトニウムを抽出したとの疑いが持たれています。
 しかし韓国政府はこれらの情報に懐疑的であり、どの程度の信憑性があるかははっきりしません。最近の北朝鮮は、核兵器保有へ明確な意志をもって進んでいるかのようにふるまっています。
 これまで北朝鮮は米国に明確な形での体制保証を求め、まず核放棄が前提とする米国との間で大きな開きがあり、これが緊張の高まりをもたらしていたのですが、韓国の一貫した対話解決の決意と中国の積極的な仲介の努力によって、第2回米朝中三国協議では一定の前進が期待されます。
 万一、第2回米朝中協議が決裂した場合、国連安保常任理事会での議長非難声明、さらには安保理での決議、経済制裁、海上封鎖などへ発展する事態も予想されます。しかし情報閉鎖の北朝鮮では、国民は極度の緊張を強いられており、これ以上北朝鮮を追いつめることは、偶発的な衝突も含めた大きな軍事紛争へと発展する危険があります。
 その場合、韓国、日本に大きな被害をもたらすだけでなく、北朝鮮の民衆も大きな被害を被ります。そのような状態を作り出さないためにも、あくまで対話による解決という方針が貫かれなければなりません。
 米日韓三国は、日本、韓国の参加する多国間協議を求めていて、それは第2回米朝中協議で実現する可能性があります。しかし拉致問題をその場に持ち出すことは、解決の道筋をもつれさせるだけです。
 日本は核問題と拉致問題を切り離すこと、核問題の交渉と並行して国交正常化実現の努力を行うなかで拉致問題の解決を図るという方針を明確にすべきでしょう。(※3)
 北朝鮮も冷戦時代の思考から一日も早く抜け出すべきです。北朝鮮の平和的安定も北東アジア全体の平和的秩序構築を図るなかでしか得られないのです。しかし軍事優先の「先軍政治」によって、国防委員会の権力がますます強化されており、転換も厳しいと予測されます。
 しかし私たちは、北東アジア全体の平和的共生の視点から、対話を通じ、北東アジア非核地帯化などの具体的提案を行っていく必要があります。

3.ミサイル防衛配備(MD)システム配備の危険

 米国は04年からアラスカにまず最初のミサイル防衛(MD)システムを配備しようとしていますが、さらにイージス艦による海上発射MDの配備も進めようとしています。
 このイージス艦配備のMDは、日本に対しても北朝鮮の核脅威を理由に、共同配備の働きかけがあり、日本も新型パトリオット・PAC3とセットでの配備を検討しています。
 また米国は台湾に対しても、PAC3、イージス艦配備MDの売却を考えています。しかしこのような日本、台湾によるMDシステムの配備は、米国の中国核戦力無力化戦略と深く結びついていることは明らかで、それに反発する中国の核戦力増強がすすみ、その結果として印パへの影響など、アジア全体の緊張・不安定化を招くことになるでしょう。
 しかもPAC3はもちろん、イージス艦配備型MDの両方とも兵器としての信頼性は、現在はまだほとんど存在しないといえるのです。(※4)
 私たちは北朝鮮脅威論に名を借りた米日両国による、アジアへのMDシステム配備に強く反対していかなければなりません。
 また北朝鮮の核問題やイラク戦争に便乗する形で、小泉内閣は有事法制3法案を成立させ、さらに自衛隊のイラク派兵を実現するため、イラク措置法を成立させました。一方、横須賀や沖縄などの米軍基地機能の強化も図られています。私たちは日本の戦争参加に反対すると共に、在日米軍基地機能の縮小・撤去を要求します。
 さらに北朝鮮の核武装に対抗するという名目で、日本の核武装論がマスメディアを賑わす機会が増えてきました。広島、長崎の核兵器による被害から58年、被爆体験の風化も進んでいて、国民の間で、日本の核武装に対する拒否反応も少しずつ減少しています。
 私たちは改めて広島、長崎の原爆投下のもたらした影響を問い直し、ヒバク体験を継承する運動を強化しなければなりません。日本、さらに世界の反核運動に課せられた使命の大きさを再確認し、運動を発展させましょう。


 
(※1)米国のイラク占領の大きな目的の一つに石油資源の確保にあることは明らかだ。01年5月米国は「国家エネルギー政策報告書」を発表し、そのなかで「今後20年間に米国の輸入石油の比率は3分の2にまで増加する」と予測している。下記の表はBritish Petrolecum(英国石油)統計資料で、それによると米国の石油は11年で掘り尽くされる。
国名 2001年末埋蔵量
(×10億バレル)
01年末可採年数
サウジアラビア 261.8 85
イラク 112.5 100〜
イラン 89.7 67.4
ベネズエラ 77.7 63.5〜
ロシア 48.6 19.1
アメリカ 30.4 10.7
イギリス 4.9 5.6

(※2)今日注意すべきことは、米ロ間で依然として偶発的核戦争の危険が存在していることである。それは米ロの圧倒的な軍事力の差と、今日も米ロが核ミサイルの多くを即座に発射できるアラート態勢に置いていることにある。また米原潜がロシア近海で多数展開していることもロシアに緊張を強いている。米ロ間のアラート態勢の解除、原潜の相互の領土からの一定の引き離しなど、より具体的な偶発戦争防止態勢の確立が求められる。

(※3)核問題が再燃して以来の小泉内閣の対応は無策の一語に尽きる。意識的に拉致問題を絡め、日朝関係の前進ができないようにし、有事関連3法案の成立など、日本を戦争国家へと導いている感がある。この方向を主導している日本版ネオコンの台頭に警戒を強めなければならない。

(※4)弾道ミサイルの発射は、発射段階(ブースト段階)、大気圏外段階、大気圏再突入段階の3段階に区分できる。イージス艦発射MDは大気圏外での破壊を目的とし、PAC3は大気圏再突入段階での破壊を目的としている。しかし米国ではイージス艦発射MDの最新の実験(6/18)に失敗している。PAC3も、開発段階から一つ上に上がった運用段階の迎撃実験では7発中2発しか成功していない。しかもどちらもノドンレベルのものを対象にした実験は行っていない。