資料
( 1973 )

アーサー・タンプリンの特別講演

(1973年8月2日原水禁大会国際会議での講演 )


 私はここで、アメリカ及び日本の原子力発電についての意見、さらに核兵器についての二、三の見解を皆さんにお話ししたいと思います。
 まず、私はすでに八日間にわたって、日本の各地の原子力施設を見てあるいたことを申し上げたいと思います。全体の印象を申し上げると、日本の原子力施設はアメリカにくらべ、良くも悪くもないということです。唯ひとつの相違点は、日本そのものが人口密度が高いため、原子炉もアメリカに比べ人口密集地帯に作られているということです。
 日本にやってきてみて、日本とアメリカの状況はまったく同じであることが分かりました。私は、イタリア、フランス、スェーデンにも行ってきましたが、どの国でも官僚は産業を保護し、産業は住民のことを考えません。国民の状況についてもまったく同じです。彼らは同じようなな不安をいだき、同じような目的と同じ様な抱負を抱いております。官僚や産業は住民の声を聞こうとはしないものです。
 そこで、私は原子炉について、アメリカ、日本を含め、原子力発電をもつすべての国の原子炉がもとめる代価について述べようと思います。

 まず、強力な原子力賛成はの一人の言葉を引用したいと思います。彼は、アメリカ原子力委員会のオークリッジ国立研究所の理事であり、アメリカでも有名な原子力学者のひとりです。私達は、長い間、原子力推進者からこのような率直な意見を聞きたいと待ちのぞんでいたものです。サイエンス誌の一九七二年七月七日号で、ワインズバーグ博士はこう言っております。  「私たち、核時代の人間は社会とファースト的取引をしました。(御存知のようにファーストは悪魔に魂を売り渡しました。)私たちは、無尽蔵のエネルギー源をつくりました。
 しかし、この不思議なエネルギー源の代価として社会がもとめられたものは、まったくわれわれが経験したことのない社会制度に対する警戒と、この制度の長寿命であります。」
 氏はまた、極く細かなことにも絶えず注意を払う週間をつける必要性を強調しています。更に、彼はこう言っています。
「ある意味では、われわれは軍事的聖職者といったものをつくりだしてしまったと言えます。これは、核兵器が不注意に用いられることを防ぐと同時に、戦争にまさに走らんとする状態と、戦争に突っこもうとする人間のあやまちを監視することの微妙なバランスともいうべきものを維持しているものであります。さらにこの軍事的聖職者は、少なくとも今すぐ消え去っていくようなものではありません。原子力の発見は社会制度に特別の要求を出したのです。原子爆弾の発見はわれわれすべての生存を左右する、この軍事的聖職者を作り出したのです。
 原子力の平和利用もおそらくもっと長期にわたり、同じことを社会に要求しているのではないかと私には思われます。」
 私たちは、原子力の批判者は原子炉を原子爆弾に代わらせようとする試みを批判してきました。この点については、平和利用は核爆弾以上に危険であると言っている原子力賛成派もいます。
 われわれ自身がよびおこした原子力平和利用の聖職者の歴史をふりかえってみるのも有益であろうかと思います。

 原子炉はいまだかつて人類が経験したことのないような大事故の可能性をもっています。このような事故は炉心の熔解によって起こります。熔解する間に、容器はこわれ、大量の放射能が大気中に流れ出ます。
 AECが、日本やアメリカで今日建設されているよりもっと小さな原子炉で調査したところ、この種の事故で三千〜四千人が被爆により即死、三万から四万が高放射能のを浴び、このうち多くが、ガンによって早死にすると予測されました。
 この種の遺伝的影響は、何世代にもわたって悲劇的な結果をもたらします。この種の損害は七千億ドルにのぼるでしょう。
 日本の場合、人工密度が高く、炉が大型であるから、この数字はもっと大きくなるでしょう。アメリカでも最近は炉が大型化していますから、同じく数字はもっと大きくなります。在来炉のこの種の事故を最小限におさえるものとして、AECと業界は緊急炉心冷却系(ECCS)にかなり大きく依存しています。しかし、この装置は実験がすんでいません。事実、この実験をするための装置は一九七五年にならないと完成しないのです。AECはECCSの小規模な実験を六回行いました。このいずれも失敗しています。したがって、ECCSが働かない可能性は大きいのです。
 ボストン・マサチュセッツの科学者のグループがこのECCSについての詳しい調査報告を出しています。彼らは、事故は非常に危険であり、原子力発電所をこれ以上建設すべきではないし、許可すべきではないという結論を出しました。ラルフ・ネーダらの活動によって、現在アメリカでは二〇以上の発電所が運転を中止させられています。
 物騒ないまの世の中では、テロリストの活動は、日常茶飯事になっています。原子力発電所が破壊されることも現実的な可能性となってきています。たとえ、ECCSの問題が解決できたとしても、発電所の破壊までくいとめられるわけではありません。ハイジャッカーは、オークリッジ国立研究所の原子炉を破壊するぞと脅かしました。スコットランドの民主主義者やアイルランド共和国軍隊は、イギリスの発電所をおびやかしました。ゲリラ集団がアルゼンチンの建設中の発電所を占領し、番人のもっていた武器をとって逃げました。

 原子力産業のもうひとつの未解決の、そして望ましくない特徴は、原子炉がつくり出す大量の放射性物質の危険です。この物質は核実験の死の灰に含まれているものと同じです。この核種は何千年以上も危険です。
 AECはこの問題を解決しようと長年にもわたって取り組んだ結果、カンサス州の岩塩抗に埋めることを考えました。カンサス州の地質学者が候補地を調べてみました。この地はすでに天然ガスをとるため、穴があけられていました。この廃坑のそばで、製塩会社が仕事をしていました。ある日、この会社がくぼみに一万七千五百ガロンの水を入れました。ところが、どういうわけか、この水が全部きえてなくなったのです。とうことは、岩塩坑にいれた放射性廃棄物はかならず地下水を汚染するということなのです。AECはこの計画を放棄せざるを得ませんでした。現在放射性廃棄物を長期にわたって貯蔵する方法は何もありません。現在彼らが考えているのは、いずれ良い方法が見つかるだろうという見込みから、さしあたって二五年間ぐらいの、暫定的な貯蔵方法、地上の廃棄物処理施設を考えています。
 AECは三年間これを隠しつづけていましたが、科学アカデミーは、AECの廃棄物処理貯蔵所のいずれの候補地も、地理学上満足できる状態にないことを報告しています。  いまや、私たちは、原子力時代の三十年目に入ろうとしています。しかし、つぎつぎに出てくる致死性の放射性物質をどう処理していいのかまったくわかっていないのです。この放射性物質は一〇〇〇年以上も、環境から隔離しておかねばならないのです。ここで、原子力発電はエネルギーの需要にとって、賢い解決方法であるのかという問いを考えみる必要があります。

 原子力産業のもっとも悪い産物はプルトニウム二三九です。この物質は天然に存在するものではなく、人為的につくられたものです。プルトニウムの致死性は、一千年どころではなく、人類の歴史より長い、五〇万年以上です。放射能による害に加え、ギースマンの研究によると、プルトニウム酸化物は、わずか二、三粒子であっても、著しいガンの影響を与えることが報告されています。われわれは、商業用発電だけでも、百万キロ以上のプルトニウムをもつようになりました。
 生物学的見地からの害に加え、プルトニウムは、あまり高度な技術がなくとも原爆をつくれるとう危険があります。もとうと思えば、発電所の中で原爆をつくることも出来るのです。高速増殖炉がつくられるようになれば、炉をいかにしてつくるかということより、いかにして原爆をつくらないかということを知ることのほうが大切になるでしょう。
 プルトニウムは二、三キロで、広島、長崎クラスの原爆をつくることができます。原子力発電を持つ国は、核保有国になる妊娠八ヶ月といってよいでしょう。
 くりかえしますが、二、三キロのプルトニウムで、広島、長崎クラスの原爆をつくることが出来るのです。そして、いずれ私たちは、百万キロ以上のプルトニウムを商業用発電分野でもつようになるのです。
 この物質が犯罪者の手にわたったり、また原爆用にプルトニウムのやみ市場ができたりすることは明白です。このような爆弾は国際組織だけでなく、国内組織や犯罪者の手にの入るようになるでしょう。
 もし、原子力産業がこのまま促進されるなら、核のゆすりの世の中になるでしょう。この危険は原子力も熱烈な支持者さえ、みとめています。原子力委員会のメンバーである、ラーソン氏の言葉を引用したいと思います。
 「ひとたび、この特殊物質が、ほんの少し、ただし経済的にみあう程度の量が盗まれたとしたら、この不正な物質の市場は、供給に刺激されて、発展するにちがいありません。ひとたびこの供給源の出所が明らかになれば、この市場はどんどん大きくなります。市場が広がれば、窃盗の回数、規模も大きくなります。一たんこうなれば、急速に自体は発展すると思われます」
 プルトニウムの転用の危険については、パグウオシュ会議でも取り上げられました。この議題は来年の会議でとりあげられることになっています。環境と世界平和に関する声明(メントン声明)には二、二〇〇 名の科学者が署名しました。この声明は原子力発電建設の中止もよびかけています。
 平和利用の聖職者の歴史が、未来の処方せんというわけではありません。アメリカも、他の国も原子力の道を歩み、官僚がしすでにおかしたあやまちをまたくりかえそうとしています。

 原子力発電を急速に開発させているものは、いわゆるエネルギー危機です。エネルギー危機は世界経済の経済成長マニアによってうまれたものです。どの国も国民総生産がたえず増加しなければいけないと考えています。これは資源の供給状況をみればあきらかです。私たちはエネルギー危機よりも前に、資源危機に直面しているのです。もし、私たちが、国民総生産の増加をつづけるなら、資源供給の確保をするため、また戦争をしかねません。そうなれば、これは必ずや核戦争になるでしょう。
 現在すでに核兵器をもっている国に加えて、今後多くの国が核兵器をもとうとしています。
 これらの先進国はいまのままの体制で経済を促進し、GNPを増加させようとしていますが、パイを大きくすることではなく、富を再分することによって、社会問題を解決すべきではないでしょうか。
 私はここでミクロネシアについての印象を二、三語りたいと思います。私はこの会場で、現在ミクロネシアで何が起こっているか、とくに軍事基地問題について、アメリカでは知ることの出来なかったことを聞くことができました。
 さらに、ロンゲラップ、ウトリックの住民はいわゆるICRPの許容線量以上の放射線を浴びております。放射能は今なお、これらの島に残っています。たとえ、住民の数が少なかろうと、これらの島を実験以前の状態にすべきであると思います。たとえば、アメリカは、スペイン上空で飛行機の事故を起こした時、汚染した土をドラムかんに入れてもちかえりました。住民がわずか百名であるということは理由になりません。この島を実験以前の状態にすべきです。

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