資料
1997

(被爆52周年原水爆禁止世界大会実行委員会用資料 1997年)

核兵器廃絶に向けた歴史的な勢い(抄訳)

ダグラス・ロウチ(カナダの前軍縮大使、現在上院議員)


歴史的な勢い

 すべての核兵器をなくす方向へ歴史的勢いが高まっていることは、間違いない。最近の国際司法裁判所や「核廃絶に関するキャンベラ委員会」の動き、世界各国の元将官61人からなるグループの先例のない宣言などは、すべて、核兵器に対する法的・政治的・軍事的議論が高まっていることを示している。また、包括的核実験禁止条約(CTBT)の達成と核拡散防止条約(NPT)の無期限延長は、国際社会における軍縮への進展を表すものである。核兵器禁止条約の交渉を開始したり、南半球の既存の非核地帯条約の地位を強化したりすることを呼びかける国連決議は、核廃絶を求める鬱積した要求が世界の国々の間で高まりつつあることの現れである。

 核廃絶に向けた勢いがどれほど強くなっているかを示すためにこれらの動きを簡単に振り返っておこう。

●1995年に、核拡散防止条約(NPT)が、いくつかの原則を基礎として、無期限に延長された。そこには、「核兵器を廃絶することを最終的な目標として、これらの兵器を世界的に減らすための体系的で漸進的な努力」が含まれている。再検討の過程が設定され、1997年から毎年準備会議が開かれることになった。
●1996年7月8日、国際司法裁判所(世界法廷とも呼ばれる)が、核兵器の使用は一般に人道法の原則と規則に違反するとの勧告的意見を出した。裁判所は、核兵器が合法的に使用されるような極限的自衛の状況があるか否かについてははっきりと判断することはできないと考えたが、核兵器の使用及び使用の威嚇は、国際法に従わなければならないと判断した。また、この世界最高の法的機関は、各国政府は、完全な核軍備撤廃に向けた交渉を追求するだけでなく、これを終結させなければならないと、全員一致で明確に述べている。
●1996年8月8日、ジュネーブの軍縮会議において、28カ国からのなるグループが、2020年までに核兵器の廃絶を達成するための3段階の行動計画を提出した。
●1996年8月14日、オーストラリア政府が主催する「核廃絶に関するキャンベラ委員会」(17人の国際的著名人で構成)「核兵器は人類すべてとその居住環境に対する容認することのできない脅威をなす」と宣言し、核保有国に対し、すべての核兵器を廃絶することを直ちにかつ無条件に約束するよう求めた。
●1996年9月10日、国連の総会は、包括的核実験禁止条約(CTBT)を採択し署名開放した。この条約は、批准されれば、核実験に終止符を打つものである。国際法となるには、この条約は、原子炉を持つ44カ国が批准しなければならない。
●1996年12月5日、米ロ両国、それに日本*を含む17カ国の元将官たちが61人が「長期的な国際的核政策は、「連続的で完全かつ変更不能の核廃絶という原則の宣言に基づくものでなければならない」と宣言した。これらの軍事的指導者たちは、次のように述べている。
「自分たちの国や国民の安全保障に生涯を捧げてきたわれわれ軍人は、核兵器保有国の兵器庫における核兵器の存続、それに、他の国々によるこれらの兵器の取得の可能性という絶え間ない脅威が、世界の平和と安全保障を、さらに、我々が守ろうと専心している人々の安全と存続を脅かしていると確信している。」
*日本の署名者は次の二人:左近允尚敏(元統幕会議事務局長)志方俊之(元陸自北部方面総監)。
●1996年12月10日、国連総会は、マレーシアが他の45の共同提案国と提出した決議を採択した。この決議は、世界法廷の決定に続く措置で、1997年に核兵器禁止条約の交渉を開始し、早期に締結することを呼びかけるものである。条約は、核兵器の開発、生産、実験、配備、貯蔵、移転、威嚇、使用を禁止するものである。決議は、賛成115、反対22、棄権32で採択された*。

*中国は、核保有国のなかで唯一の賛成票を投じた。賛成票を投じた他の国としては、スウェーデン、ニュージーランド、インド、パキスタン、南アフリカなどがある。反対の先頭に立ったのは、米国、英国、フランス、ロシア、NATOのほとんどの国々(カナダも含む)である。棄権国としては、日本、オーストラリア、オーストリア、イスラエル、フィンランド、それにNATOの三つの北欧の国々、デンマーク、アイスランド、ノルウェーがある。

 南半球の非地帯条約を強化することを目的とするもう一つの国連総会決議は、トラテロルコ条約、ラロトンガ条約、バンコック条約、ペリンダバ条約という既存の非核地帯条約を基礎とするものである。これらの条約は、それぞれ、ラテンアメリカ、カリブ海、南太平洋、東南アジア、アフリカを非核地帯とするものである。

 決議は、すべての国々に、特に中東などにおける非核地帯を増やし、南半球の既存の非核地帯の地位を強化するように呼びかけている。

核を維持しようとするNATO

 これらのすべてのステップは、どのような歴史的勢いが生まれているかを示すものだが、核兵器保有国及びその同盟国と、非同盟国を中心とする非核保有国との間に袋小路のような状況が存在していることも事実である。それは、核兵器を保持し続けようとするNATOの立場に起因している。

 1996年12月半ばにブリュッセルで開かれた閣僚級防衛会議は、コミュニケを発表して、次のように述べている。

 「われわれは、同盟の核戦力は同盟の戦争防止戦略のなかでユニークで非常に重要な役割を果たし続けることを確認する。」

 このNATOの文書は、世界法廷の決定を無視しただけでなく、「核兵器の基本的目的は政治的なものであり、平和を維持し、強要を防止することにある」と宣言している。ヨーロッパにおける米国の核戦力の存在は、「同盟のヨーロッパと北アメリカの加盟国の非常に重要で永続的な政治的・軍事的リンクであり続ける」とNATOは述べている。NATOが世界の世論に対して唯一譲歩を示したのは、現在のNATOの拡大が達成された場合には、新しい加盟国に領土には核兵器を配備しないと保証したことだけである。

 西側核保有国は、61カ国からなる軍縮会議(CD)で、核軍縮に関する審議のための(つまり条約交渉のためでない)委員会を設置するようにという要求にさえ抵抗し続けている。CDでは、核分裂性物質の生産禁止のための作業、それに、地雷禁止条約の交渉の見込みさえ妨げられるほど、敵対的な雰囲気が漂っている。

 現在のところ、核保有国は、善を装っている。彼らは、「究極的」な核軍縮に賛成だと言うのである。彼らは、核兵器削減に向けた「体系的で漸進的な努力」を支持する。START2が完全に実施されれば、核兵器の数は、冷戦時のピークの5万6000発から焼く1万3000発まで減るだろう。

 一方、核保有国は、、ゼロに到達するためのプログラムを設定することを無条件に約束することに抵抗を示しているということで、非同盟諸国から非難されている。NATOは、核兵器の維持が「必須」だという。西側核保有国は、世界法廷を愚弄し、核廃絶について直ちに約束するようにというキャンベラ委員会の呼びかけを無視し、元将官たちの声に背を向けている。米国は、毎年核戦争の準備に270億ドルを費やしているが、核兵器の設計能力を持つ9つの新しい施設を建設する計画である。あらゆる環境におけるすべての核実験を永久に禁止するはずのCTBTにかかわらず、米国は、信頼性、耐久性、殺傷能力などの高い核兵器の設計について学ぶために地下で未臨界実験を行おうとしている。国家政策の核心をなすものとして核実験を保持し続けるということは、核兵器を正当化するものであり、その世界的拡散を防止しようとする努力の障害となる。

 証拠は、豊富かつ明確である。西側核保有国は、その核兵器を放棄しようとはしていない――少なくとも世界に完全な平和の条件が整うまでは。そして、安全保障会議の常任理事国とドイツとが、不安定をの種を蒔く兵器を世界のさまざまな地域にそそぎ込んでいる主要な武器承認だという状況がある限り、そのような条件は達成されそうもない。

 すべての国々は、NPTの維持に注意を集中しなければならない。2000年の再検討会議までに核軍縮に向けたはっきりとした進展が無ければ、会議の後NPTから抜け出すという声がすでに聞こえてくる。核保有国がその義務を真剣にとらえなければ、NPTが崩壊してしまうというのは、まさに、NPTの再検討・延長会議の議長のジャヤンサ・ダナパラが警告したことである。

 「決定の真摯な実行から少しでもはずれれば、冷戦後の痴愚所の自由と民主化についてシニシズムを招くだけでなく、条約の加盟国の多数の不満が危険な形で高まる恐れがある。これらの国々は、第10条の下での自らの権利を行使し、条約から脱退する可能性がある。」

 現在の袋小路を打開する責任は、明らかに核保有国の側にある。これらの国々が、核のない世界の達成に向けて確約することが、第一の条件である。キャンベラ委員会が述べている。

 「この約束は、討論の調子、戦争計画の骨子、近代化プログラムのタイミングいや必要性そのものを一変することになるだろう。」

 核保有国は、次のような一連の措置を取ることによって、核兵器がその安全保障態勢のなかで果たす役割をさらに低減する意向を示すことができる。

●核戦力の臨戦態勢解除
●運搬手段からの核弾頭の取り外し
●非戦略的核配備の停止
●未臨界核実験の準備の中止
●米ロのさらなる核削減交渉の開始
●核保有国間による核兵器先制使用をしないとの約束

市民の運動

 歴史上の偉大なアイデアはすべて、三つの段階を経ている。まず、アイデアが馬鹿にされる。そして、猛烈な反対を受ける。最後に、一般通念として受け入れられる。核兵器廃絶の運動は、第二段階に入っている。

 核兵器の廃絶のための構造的基礎を確立する法的・政治的・軍事的作業は、世界各地の市民社会の運動の発展の中に見られる一般の人々の意識の高揚の結果、実現したものである。世界法廷の決定は、勧告的意見を出すようにと世界法廷に求める国連の決議案に賛成票を投じよという圧力を市民がかけなければ、起きなかったはずである。この件が開始された際、世界法廷の登録官は、この運動を支持した700以上のNGOを代表する市民代表団を迎え入れた。世界法廷に証拠を提出できるのは、国家と国連機関だけだが、登録官は、何百万人もの人々が署名した「公的良心の宣言」とアピールを、関連文書として受け取った。この行為は、世界法廷が、この問題に関する世界的な関心の強さを認めたということを示している。実際、何人かの判事は、この点についてそれぞれの意見のなかで触れている。

 ウィーラマントリー判事は、人道法の核心をなす「公的良心の命令」に注目するよう促している。核兵器に関する世界の良心は、しばしば明確な形で表明されていると、彼は述べている。

 「ほとんどすべての国の非常に多数の一般の人々、多国的な性格を持つ職業組織、それに世界中の他のさまざまなグループが、幾たびも、公的良心が核兵器の非使用を命じているとの確信を表明している。世界各地で、大統領や首相、高位聖職者、労働者や学生、女性や子どもなどが、核兵器とその危険について強い反対を表明し続けている。」

 この公的良心の最近の表明が、アボリション2000という運動である。これは、ダイナミックな国際的市民運動で、効果的な検証と実施のための条項を定めて、時間枠の下で段階的に核兵器を廃絶する条約の交渉を2000年までに終結させることをめざすものである。このような交渉に直ちに入ることをすべての国に呼びかける「アボリション2000宣言」には、6つの大陸の700ほどの組織が署名している。最近「仏領」ポリネシアのモーレアで開かれたアボリション2000の会議は、核の惨害の矢面に立たされてきた南太平洋の植民地化された先住民の被害に特に目を向けた。先住民の土地におけるウランの採掘や核実験、プルトニウムや核廃棄物の投棄、貯蔵、輸送、それに、核のインフラのための土地の収奪などである。会議は次のように宣言した。

 「自決、主権、独立という奪うことのできない権利は、核兵器を地球上から永久に無くしてしまう共通の闘いに世界の諸民族が加われるようにするうえで、決定的に重要なものである。」

カナダにおける核廃絶運動

 カナダでどのような運動ををしているかについてお話ししたい。「アボリション2000」のカナダ支部的なものとして、「カナダ核廃絶ネットワーク(CNANW)」が、1996年に4月に設立された。目的は、教育活動や対話を通じて、カナダの国民やカナダ政府の中に、核兵器の廃絶が好ましく、可能だという考え方の支持を築くことにある。CNANWは、カナダ政府に対し文書を提出し、特に、世界法廷の決定に照らして、カナダの核に関連したすべての活動の合法性について公式な再検討を行うよう要請した。カナダの外務大臣、ロイド・アクスワージー氏は、インターネット上で三つの質問を提示し、世界法廷の決定に対してカナダはどう対応すべきか、国民の意見を求めた。その後、カナダ政府は、議会の外交貿易委員会に対し、公聴会を開き、国民の意見書を奨励する形で、カナダの核政策について再検討するよう要請した。

 カナダ政府は、特に、プロジェクト・プラウシェアの意見を求めるよう要請した。なぜなら、カナダ教会会議を母体とするこの平和と公正を求める組織は、紛争の平和的解決、非軍事化、公平・公正・持続可能な発展に根ざした安全保障などの分野で重要な役割を演じているからである。また、プロジェクト・プラウシェアは、世界法廷の決定に関する理解を広めるためにカナダ全土で一連の協議を行ってきたからである。

 これらの協議は、円卓会議の形をとるもので、1996年9月にカナダの10の州すべての18の都市で実施された。これらの円卓会議には、さまざまな職業の404人の人々が参加した。国会議員や、州議会議員、市長、市議会議員、聖職者、大学教授、教師、医師、弁護士、判事、ジャーナリスト、編集者、先住民指導者、組合運動の指導者、財団の理事、平和運動活動家、教育委員、学校当局関係者、学生などさまざまである。実業家も一部参加したが、招待された数(あるいは期待された数)ほどではなかった。軍人も何人か招待されたが、誰も参加しなかった。

 軍縮運動に普通かかわらないような個人やグループも含め、地域社会の広範な層の指導者や活動家を巻き込むことによって、円卓会議が強調しようとしたのは、社会のすべてのレベル(国際的なものから地方的なものにいたるまで)が、核の脅威という現実と向かい合い、具体的な行動を要求する機会と責任を持っているということである。

 私は、円卓会議のなかで、情報提供者、そして、討論のリーダーとしての役割を果たすよう依頼された。参加者のためには、核廃絶の主張を明らかにする小冊子が用意された。そして、米国のワシントンにある「防衛情報センター(CDI)」の制作した22分のビデオ『核兵器の廃絶』が、各ミーティングの冒頭で上映された。ミーティングの長さは、2時間半だった。各ミーティングでは、報告書作成責任者が任命されて、ミーティングの報告書を作った。18の報告書すべてをまとめて全国の報告書にし、これをカナダ政府に提出した。

 核兵器を国際的な議論の中心的な位置に引き戻すことになった過去1年間の重要な出来事について一般国民がいかに知らないかということについて、驚きがあり、各地の円卓会議でこれが広く表明された。この知識の欠如のために、カナダ政府に対し核廃絶をめざす総合的プログラムの作成を促進し、推進せよという声がほとんど起きてこないのである。その一方で、核兵器の維持を求める世論がないことも確かである。

 しかし、現在の状況−−世界法廷が核軍備撤廃交渉の<締結>を要請したこと、安全保障理事会の5つの常任理事国が核兵器を持ち続ける一方で、世界の残りの国々が核兵器を取得を禁じられているという状態の維持が不可能であること−−が説明されると、参加者の間に行動を緊急に起こさなければという意識が生じた。その結果、教育プログラムについて、また、冷戦後の世界の安全保障問題の核心をなすこの問題にもっとマスコミが注意を払うようにするための努力について、議論された。

 インターネットが、情報の取得という点で、主流マスコミをバイパスするコミュニケーション革命を提供するということが指摘された。(参加者の多くは、インターネットを使っているという。)したがって、人々は、今日、以前より多くの情報を得ることのできる可能性を持っている。一方、インターネットで情報を得るためには、その前に情報を求める動機が必要である。一般の人々は、明らかにその段階にはない。そのため、いまだに主として主流のマスコミによって形成される世論は、戦争防止という決定的に重要な仕事に関して弱いのである。だが、積極的な世論がないからといって、政府が、核廃絶をしなければならないという世界法廷の意見を実行に移すための断固とした態度をとらないでいいというものではない、との意見が多くの参加者から出された。

 一般の人々に対する教育を行い行動につなげることが、「アボリション2000」のキャンペーンにとって非常に重要だとみなされた。一般の人々を教育し、軍国主義と構造的暴力によって権威を維持している国際的権力構造を問題にするためには、地方レベルの組織活動が必要である。その結果、安全保障政策の創出が民主化されれば、軍隊を基礎とする安全保障は拒否され、人間を基礎とする安全保障が選ばれるようになるだろう。そうなれば、核兵器の廃絶は、必然的に、それに続くことになる。

 円卓会議は、カナダと米国の間の全体的で複雑な関係に特に注意を払った。冷戦の時代には、東西の敵対意識が強く、カナダが、核兵器の問題に関して何かをするという余地はほとんどなかったとうことが、認識された。巡航ミサイルの飛行実験が、カナダ国内で大きな論争を呼んだにもかかわらず、カナダで受け入れられることになってしまったことは、その一つの現れにすぎない。だが、冷戦の終焉とソ連の崩壊、それに東西間の新しいパートナーシップの芽生えとともに、米国がその核兵器を保持する正当性(そして、軍事支出面での他のトップ13カ国すべての軍事支出を上回る軍事予算を維持し続ける正当性)は失われてしまった。核兵器は、不必要で使用不能であるだけでなく、その存続は、国際関係の不安定要因として働く。

 多くの参加者が、核廃絶の問題は、カナダ人の価値観に直接訴えるものだと指摘した。私たちは、平和的な国民であることに誇りを持っている。たしかに、20世紀の状況がそれを要求した際には自由のために戦いはした。だが、国連、国際法、さらには平和のための条件づくりをめざした組織や機構(平和維持、検証技術など)などの登場とともに、紛争を解決するための手段としての戦争の魅力は、カナダ人にとって、たとえ過去には少しはあったとしても、なくなってしまっている。今日カナダが、自ら進んで軍事同盟に加わったり、核兵器の維持を支持したりすることはありそうにない。国民の意識の向かうところは、平和の推進(国連機構を通じた)であり、戦争の準備ではない。

 円卓会議においては、カナダの政府は、相対立する圧力の狭間にあって、曖昧な政策の選択に陥ることが多いが、その資源を、軍備ではなく、平和と開発のために使うべきだとの意見が明確に表明された。たとえば、カナダが現在も109億ドルの予算を維持しており、陸・海・空の臨戦態勢を維持する政策を支えるのに使われているということについて相当の驚き、あるいは怒りさえがあった。これは、冷戦時代の支出ピークからわずかに16%減っているにすぎない。その一方で、カナダの政府開発援助(ODA)予算(カナダが開発途上国の闘いにどれほど取り組んでいるかを示すもの)は、31%も削減されて23億9000万ドルとなっているのである。軍国主義がいまだに連邦政府の予算を規定しているのではないだろうか。この考え方は、核兵器に関する現状維持を支持する考え方と同じものではないだろうか。この考え方の下で、カナダは、軍縮のための作業をする一方で包括的な核廃絶に反対の票を投じているのである。こうして、核兵器を無期限に維持することを黙認しているのである。

 円卓会議においては、核兵器に関するカナダの態度の曖昧さは、ある意味では、カナダ人自身の曖昧さを反映したものだと指摘された。たとえば、私たちは、暴力を軽蔑するといいながら、暴力に慣らされてしまっている−−街頭において、組織内において、あるいは、エンターテイメントにおいて。だから、核兵器を使用する−−それによって、私たちとまったく同じいきる権利を持っている無数の個人を殺す−−と威嚇するシステムの一部となることによって共有する暴力について、ほとんど考えようとしないのは、当然ともいえる。何人かの参加者は、私たちの社会から暴力を根絶するまで、私たちの軍事システムから核兵器を根絶することはできそうにないと考えた。

 このような話し合いの中から、軍事的な意味あいだけでなく経済的な意味あいをも帯びてきている暴力的システムの頂点にあるものとしての核兵器という一般的な認識が生まれた。そして、さらに、核兵器と暴力の問題は、今日のもっとも重要な道徳的問題であるとの認識が生まれた。多くの参加者は(聖職者たちだけでなく)、カナダの教会や寺院、モスクに対し、暴力を容認することの影響についてカナダ人が敏感になるようもっと努力することを求めた。この点では、地域社会に基礎を置く組織が暴力に対し−−国内及び国外における、軍事的及び経済的な形の暴力に対し−−反対の声を上げる必要が強調された。 円卓会議は、カナダ人の価値観が、平和の追求に強く根ざすものであることを示した。カナダ社会を代表する相当の部分が、核廃絶プログラムを確保するために直ちに−−いつか遠い将来ではなく−−努力するとカナダ政府が確約することを歓迎し、これを支持するだろう。

 円卓会議は、さまざまな個人的な、あるいは、地域社会による運動を生み出した。

1.多くの人々は、アクスワージー外務大臣の質問に応じるために、彼に直接手紙を書くことに決めた。

2.多くの参加者が、陳情書のコピーを取った。1枚当たり25の署名を集め、地域の国会議員に渡し、最終的に国会で提出してもらうためである。陳情書の主要パラグラフには次のようにある。
 「したがって、陳情者は、すべての核兵器の廃絶のための拘束力を持つタイムテーブルを定めた国際条約の交渉の即時開始と2000年までの締結を議会が支持することを祈願し要請する」
3.いくつかの都市では、円卓会議が決議文を市議会に送った。それは、市が、カナダ政府に対し次のことを要請するよう求めるものである。

 「すべての核兵器の廃絶のための拘束力を持つタイムテーブルを定めた国際条約の交渉の即時開始と2000年までの締結を支持すること」
 何人かの市会議員と市長は、この決議文を、カナダ市町村連合に持ち込んで全国的行動を求めると約束した。

4.多くの参加者は、円卓会議で表明されたアイデアを、自分たちの組織に持ち帰って、次のようなものを促進することに努めると言った。

●学校用のスピーカー(演説者)
●若者の平和会議
●個人宅を使った会合(ビデオや討議用資料を利用する)
●教師用教材

5.何人かの編集者は、地方紙の寄稿欄用の短い原稿を歓迎すると述べた。

6.何人かの州議会の議員は、「アボリション2000」の目標を支持する平議員動議を用意すると述べた。

7.何人かの参加者は、プロジェクト・プラウシェアが、北アメリカにおける核廃絶の主張の注目度を高め、共同行動を促進するために、米国・メキシコ・カナダのNGOの会議を開くよう要請した。

8.何人かの参加者は、他の組織と協力して、1996年10月21−25日の軍縮週間を記念する地域的模様オシを計画すると述べた。

9.何人かの参加者は、地域の在郷軍人会に対し、「戦争の記憶装置」から「平和の象徴」に生まれ変わるよう提案すると約束した。

10.いくつかの円卓会議は、核廃絶のための措置に関するカナダ政府の進展を再検討するためにまた会合を開きたいと述べた。

 カナダの試みは、進行中のものである。議会の委員会は、その再検討作業を始めたところで、しばらくは、終結を見ないかもしれない。カナダ・ネットワークの主要メンバーは、「世界法廷の勧告的意見のカナダの政策にとっての意味あい」に関するセミナーをオタワで3月6−7日に開く。また、米国の原子力潜水艦のテストをカナダの西海岸のナヌース湾で行うことを認めるカナダ米国間の協定を破棄するようカナダ政府に働きかけるキャンペーンも進行中である。

 世界から核兵器をなくするための闘いは、長く難しいものとなるだろう。意志力の弱ものにはものには無理である。無知あるいは、イデオロギー、欲望などのために現状を維持したいと欲するものの反対は、強く、おそらく、醜いものになるだろう。しかし、核兵器を封じ込め、廃絶する方向に歴史的勢いが働いていることは否定できない。私たちは、勇気、決意、希望を失ってはならない。

(訳:田窪雅文) 


参考▼1996年9月


カナダ外務・貿易省のホームページ(抄訳)

 アクスワージー外務大臣、軍縮に関するカナダ国民のコメントを求める
核兵器の使用の合法性に関する国際使用裁判所の勧告的意見を受けて、外務大臣のロイド・アクスワージー氏は、カナダの軍縮政策に関する一連の質問を検討するようすべてのカナダ人に求める。

…………

 アクスワージー大臣は、[核兵器の]問題は、徹底的でオープンな一般の討議の対象にされるべきであると信じており、この問題に関してカナダ国民の意見を是非聞きたいと考えている。

…………

 アクスワージー氏は、軍備管理・軍縮問題に関するカナダ国民のコメントを求める。下にあるのは、回答者の参考のための三つの一般的な質問だが、この問題のどの面についてでも自由に意見を提示していただきたい。

1.国際司法裁判所の意見が核兵器の拡散防止、軍備管理・軍縮などに向けた世界的努力
に与える影響についてのどのように考えるか。

2.核拡散を防止し、核実験を禁止し、核分裂性物質の生産を禁止し、そして、包括的・多国間核軍縮に集中することをめざして進むというカナダの現在のアプローチをどう思うか。

3.国際司法裁判所の裁判長は、「核兵器の問題は、非常に重要なものである。残念ながら、この問題は、裁判所にとって、そこに出された問題に関する直接的な明確な答えが無いとの判断を下さなければならない分野であることが判明した。我々は、国際社会が……できるだけ速やかに、国際法の不備を正す措置を取るよう希望する他はない。国際法というのは、諸国家自体の創造物に過ぎないのである。」と述べている。カナダは、これからどうすればいいと考えるか。

 我々は、核兵器と通常兵器の双方に関連した一般劇な軍備管理・軍縮問題、あるいはその他の関連した問題についてのみなさんの意見を歓迎する。コメントは次のようにお送りいただきたい。

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