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>資料 www.gensuikin.org 2002.11.18

リークされた『核態勢の見直し』─核にしがみつく態勢

田窪雅文 

 三月九日、米国の秘密報告書『核態勢の見直し(NPR)』を入手した『ロサンゼルス・タイムズ』紙が、ブッシュ政権は、「少なくとも七つの国に対して核兵器を使用する非常事態計画を準備することと、一定の戦場の条件において使用する小型核兵器を作ることを軍部に命じた」と報じた。七つの国とは中国、ロシア、イラク、北朝鮮、イラン、リビア、シリアである。一月二九日の年頭教書でブッシュ大統領が、北朝鮮、イラン、イラクを「悪の枢軸」と呼んだ後でもあり、この報道は注目を集めた。
 一月八日に議会に提出されたNPRは、二〇〇〇年の秋に議会がだした指示に基づくものである。議会は、向こう五〜一〇年の米国の核戦力の方向を示すために包括的「核態勢見直し」を実施するようにと国防省に要求していた。前回のNPRは、一九九四年にクリントン政権が行ったものである。冷戦の終了後に出された九四年のNPRは、核態勢の大幅な変更が期待されたが、政府の説明などによると、中身はそれまでの政策を踏襲するものだった(こちらはまだ秘密のままである)。今回のNPRは、クリントン政権が脱核兵器依存の明確な方向を打ち出し得なかったことの付けが回ってきたものともいえる。
 全文で五六ページというNPRのかなりの部分が抜粋の形でグローバル・セキュリティーという団体のホームページにでている(http://www.globalsecurity.org)。また、核問題についての鋭い分析で知られる「自然資源防護協議会(NRDC)」は、二月一三日に発表した『見せかけの核の抑制─米国の核戦力増強のためのブッシュ政権秘密計画』という報告でNPRの中身を分析している。これはリークに先立つものだが、「様々なソースから得た」情報をもとに、NPRの内容を正確に捉えている。NRDCの報告を参考にしながら、以下NPRの内容を見ておきたい。
 一月の時点で公表されたNPRの前書きの中でラムズフェルド国防長官は、「まず第一に、『核態勢見直し』は、戦略戦力の計画に関連した冷戦時代の慣行を過去のものとしている。」と新しさを強調している。「ソ連の崩壊から一〇年経ったいま、米国の核戦力の利用計画は、米ロ間の新しい関係にも関わらず、わずかの変更しか経てこなかった」。「この見直しの結果、米国はもはや、ロシアが、旧ソ連が与えていた脅威の単なる小型版の脅威をなしているかのように、米国の戦力を計画し、大きさを決め、維持するというようなことはしない」と国防長官はいう。
 昨年、一一月一三日、ブッシュ大統領は、三日間の米ロサミットの冒頭で、戦略核を向こう一〇年間で一七〇〇〜二二〇〇発に削減すると発表した。NPRは、一〇年後の「二〇一二年に計画されている戦力構成は、トライデント戦略潜水艦一四隻(一四隻のうち二隻は、常に検査・修理状態におかれる)、ミニットマンIIIICBM五〇〇基、B52H戦略爆撃機七六機、及びB2戦略爆撃機二一機である」と述べている。ブッシュ政権は、順次検査・修理に回される潜水艦二隻分二四〇発については、配備戦略核として勘定しないという新しい数え方を導入している。また、『アームズ・コントロール・トゥデイ』誌(四月号)は、三月初めに国防省高官が二〇一二年の戦略核は、幅のあった数字のうち上限の二二〇〇発とする線に落ち着いたと述べたと報じている。これまでの数え方で行くと二四四〇発である。これだとクリントン政権の目指した二〇〇〇〜二五〇〇発という数と同じレベルである。
 米ソは、一九九一年に第一次戦略核兵器削減条約(STARTI)で、当時米ソそれぞれ一万発以上だった配備戦略核を七年間で約六〇〇〇発ずつに減らすことを決めた(これは、九四年に発効し、昨年一二月五日に削減が終了した)。続いて九三年に米ロの間で締結されたSTARTIIは、二〇〇三年一月一日までに、配備戦略核を三〇〇〇〜三五〇〇発に削減することを決めた。クリントンとエリツィン両大統領は、一九九七年三月のヘルシンキ・サミットで、このSTARTIIの実施期限を二〇〇三年一月から二〇〇七年末に遅らせた上で、STARTIIの発効と同時にSTARTIIIの交渉を開始して、同じ二〇〇七年末までに戦略核の上限を二〇〇〇〜二五〇〇発とすることをなどを決めていた。このときの合意文書には、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の継承国についての合意なども含まれていたため、共和党側が、上院での批准に反対し、STARTIIIに向けた交渉を阻んできた。また、STARTIIが発効するまで、STARTIのレベル(六〇〇〇発)以下に下げてはいけないとする条項を国防歳出権限法に追加して、削減を阻止してきたのも共和党である(この条項は、一二月二八日にブッシュが署名した二〇〇二年度国防歳出権限法で破棄された)。だから、ブッシュ政権が、現在六〇〇〇発以上ある戦略核を一七〇〇〜二二〇〇発に減らす計画だと強調しても有り難みがない。
 NPRは、保有核を「現役(アクティブ)」と「非現役(イナクティブ)」の二つに分類する。「現役」は、トリチウムその他の寿命の短い構成要素を取り外していないものであり、最新の弾頭改善を加えてある。これには実際に配備中の弾頭の他、そのスペア、さらに短期間で配備可能な「状況対応(レスポンシブ)」用が含まれる。「非現役」は寿命の短い構成要素をはずされたものである。こちらは、配備に数週間から数年かかる。NPRは、現在、戦略核・非戦略核合わせて、「現役」核が約八〇〇〇発あるとしている。NPRの数え方に従えば、このうちの約六一五〇発の配備戦略核が、二〇〇七年に三八〇〇発、二〇一二年に二二〇〇発になるという計画である。
 NRDCは、二〇一二年の核戦力には、この他につぎのようなものがあると説明する。先に触れた検査・修理中潜水艦二隻分約二四〇発。「状況対応戦力」に入るミサイル弾頭及び核爆弾一三五〇発。NATO諸国配備用「非戦略」核爆弾約八〇〇発。「状況対応戦力」に入る海上発射巡航核ミサイルの「非戦略」弾頭約三二〇発。戦略及び非戦略用「スペアー」核弾頭約一六〇発。「非現役」ストック約四九〇〇発。合計約七八〇〇発である。これと「現役」配備戦略核の二二〇〇発を合わせると一万発となる。
 さらに、核弾頭を解体した形で維持されるものが五〇〇〇発ある。水爆の引き金の役目を果たす「第一段階(プライマリー)」のプルトニウムの芯の部分(ピット)と、「第二段階(セカンダリー)」の高濃縮ウランなどの部分とを分けて保管しておいて、必要となればまた組み立て直すという計画だ。
 実は、配備からはずした核兵器をこのような形で保管し、一万発プラス五〇〇〇発分という体制を予見できる将来に渡って維持するという計画の基礎を作ったのは、一九九四年の「核態勢見直し」なのである。配備からはずされた弾頭は、この一万発のグループの中を移動するだけで、総数は変わらない。このようなことが可能なのは、STARTIもSTARTIIも、配備からはずされた核弾頭の処分については何も定めていなかったからである。だが、これは、配備からはずされたロシアの核兵器についても、規制のしようがないことを意味する。特にそもそも条約の対象となっていない戦術核の行方は不安である。ロシアの戦術核の数は、四〇〇〇〜五〇〇〇と推定されているが、二万発という数字さえある。
 そこで、米国上院は、一九九二年七月にSTARTIを批准するにあたり、批准決議の中でつぎのように述べている。「旧ソ連の核兵器及び核分裂性物質のコントロールの喪失の可能性は、米国及び国際的平和・安全保障に重大な脅威をもたらすものであるから、今後の戦略攻撃的兵器の削減にかんする合意に関連して、大統領は、適切な取り決めを追求するものとする。」また、前述のヘルシンキ・サミットでの合意は、STARTIIIの交渉につぎのような要素が含まれるとしている。すなわち、「保有する戦略核弾頭についての透明性と、戦略核弾頭の破壊、その他、大幅な削減の不可逆性−−弾頭数の急速な増大の防止を含む−−を推進するための技術的・組織的措置」である。さらに、STARTIIIの文脈において、「適切な信頼醸成・透明性措置を含むために、海上発射の長距離巡航核ミサイルと戦術核システムにかんする措置を検討することに両大統領は合意した」のである。
 だが、ブッシュは、昨年一一月一三日に削減計画を発表するに当たって、米ロは「信頼に基礎を置く新しい関係」にあり、STARTの合意に要したような「果てしない軍備管理の議論」は必要ないとし、条約を目指さない意向を示した。これに対し、プーチン大統領は、同日、ロシア大使館で「世界は、残念ながら、信頼だけの上に国際関係を築く状態からはほど遠い。だからこそ、現在は、軍備管理や軍縮の分野では既存の条約や協定の基礎に依存することが非常に重要なのだ」と述べ、条約の締結を求めた。
 一九九七年のSTARTIIの修正は米国上院で批准されていない。また、ロシアのSTARTIとSTARTII(修正も含む)の批准文書は、「ABM制限条約」の維持を条件としているが、米国は、昨年一二月一三日、ABM制限条約からの脱退を通告している(六ヵ月後に有効となる)。従って、STARTIIが発効する見込みはないし、下手をするとSTARTIも中に浮いてしまい、冷戦終了後の削減がまったく拘束力のないものになる可能性さえでている。
 幸い、二月五日、パウエル国務長官は、上院外交委員会で、戦略核の削減について「法的拘束力を持つ」合意を目指していると述べてロシア側の要請に応じていることを明らかにした。五月下旬に予定されているモスクワ・サミットでの調印をねらったものである。これが、条約になるのか、行政協定の形をとるのか定かでない。前者だと、上院の三分の二以上の賛成が必要だが、後者だと、両院の過半数の賛成が必要となる。上院外交委員会の民主・共和両党の代表は、連名でブッシュ政権に書簡を送り、核兵器の削減に関する合意は上院が審議する権限を持つ条約でしかあり得ないとして、上院の権限を侵さないよう要請している。文書は、二〜三ページ程度になると言われているが、中身がどれほどのものになるかは現時点では分からない。
 戦略核の数の多さからいって、依然としてロシアを最大の標的にしているようである。STARTIIIで一五〇〇発のレベルまで下げようと言うロシア側の提案に米国の軍部が反対してきた理由について、ワシントンのシンクタンク「防衛情報センター(CDI)」所長で、戦略空軍にいた経歴を持つブルース・ブレアは、二〇〇〇年五月、つぎのように説明している。核戦争計画を記した秘密文書「単一統合作戦計画(SIOP)」に載っている攻撃目標の数は、二〇〇〇年現在三〇〇〇である。ロシアには、SIOPが最重要の範疇に入れている攻撃目標が二二六〇ある。戦略計画担当者らは最重要目標の八〇%を破壊することを目指すから、約一八〇〇発がロシアに間違いなく到達する計画となる。これに余裕を見た分と中国を加え、さらにSIOPには入っていないロシア、中国の目標、それにイラン、イラク、北朝鮮などを加えると戦略核が最低限二五〇〇発必要となる。
 攻撃の対象についてはNPRはつぎのように言う。「核攻撃能力の要件を設定するにあたり、米国が備えておかなければならない事態を区別しなければならない。」それは、
即時的事態、潜在的事態、予測されない事態である。「即時的事態とは、良く理解された現在の危険に関するもの」であり、例としては、「イラクによるイスラエルあるいは近隣諸国に対する攻撃、北朝鮮による韓国に対する攻撃、あるいは、台湾の地位を巡る軍事的対立などがある。」「北朝鮮、イラク、イラン、シリア、リビアは即時的、潜在的、予測されない事態に関わる可能性のある国々に入る。これらすべての国々が、米国及びその安全保障上のパートナーに対し、長年に渡る敵意を持っている。特に北朝鮮とイラクは、慢性的軍事的懸念対象となっている。すべてが、テロリストを支援するか、匿っており、活発な大量破壊兵器及びミサイル計画を持っている。」
 「中国はいまなお戦略的目的を発展させつつあり、また、核戦力及び非核戦力の近代化を続けていることからいって、即時的あるいは潜在的事態に関連する可能性のある国である。」「ロシアは、米国を除けば、もっとも強力な核戦力と、程度は劣るとしても、相当の通常兵器能力を維持している。しかし、モスクワとの間には、現在では、冷戦時代のようなイデオロギー的紛争の種はない。米国は、ロシアともっと協力的な関係を求めており、恐怖の均衡政策の枠組み−−それは定義そのものからいって、相互の不信と敵意の表現である−−から抜け出そうとしている。したがって、ロシアを巻き込んだ[核攻撃]事態は、あり得ることではあるが、予想されることではない。」それならなぜもっと核兵器の数を減らせないのだろうか。
 また、ロシアと中国以外の名指しされた国々が、NPT加盟の非核保有国であるのが問題である。唯一、北朝鮮だけが、現在少数の核を持っているかもしれないと米国が疑っている国の範疇に入るだけである。米国は、NPTの再検討・延長会議の直前にあたる
一九九五年四月五日、非核保有国に対して核攻撃は掛けないとする「消極的安全保障」の声明を出している。米国またはその同盟国に対する攻撃が、「核兵器国と連携しまたは同盟して、当該非核兵器国により実施されまたは支援される場合を除き、それらの非核兵器国に対して核兵器を使用しないことを再確認する。」というものである。だが、九四年の「核態勢の見直し」の説明の中でも、ドイッチェ国防副長官(当時)は、化学兵器・生物兵器の「使用を考慮している国」は、米国の核戦力を「計算に入れなければならない」と述べている。違いは、ブッシュ政権の方が実際に核兵器を使用しかねないと懸念されることだろう。 
 核兵器の開発の必要については、NPRはつぎのように述べる。「核兵器は、非核兵器の攻撃に耐えることのできるターゲットに対して使うことができる。(たとえば、地下深くのバンカーや生物兵器施設。)」このような「堅固な地中深く埋められたターゲット(HDBT)」の攻撃用としては、現在、限定的な地中貫通能力をもつB61−11(一九九七年に配備)しかないとしている。(そして、B61のシリーズは威力を調整できるはずだが、このB61−11は、単一の威力しか持っておらず、もっと貫通能力が高く、威力は低く抑えられるものを開発すべきだと述べる。エネルギー省と国防省の共同計画の第六・二及び六・二A段階の研究が四月に始められ、「既存の核弾頭を五〇〇〇ポンド級の貫通爆弾に入れてB61−11よりも相当に高い地中貫通能力を得られるかどうかを確認する」ことになるという。エネルギー省は、三月一四日の上院軍事委員会で、B61とB83の二つの核爆弾の修正について検討することになると述べている。前者は、ロスアラモス国立研究所、後者はローレンス・リバモア研究所がそれぞれ担当する。この修正は核実験を必要としないかもしれない。
 研究はこのような既存の弾頭の変更関係にとどまらない。エネルギー省は、「各国立研究所及びワシントンの本部で新型核弾頭概念チームを再設置する。これは、我々のつぎの世代の核兵器設計者及び技術者を訓練するユニークな機会を提供する。」そして、「指示を受ければ、国の新しい必要に応じて新しい核弾頭を設計、開発、製造し、認定すること、及び、必要に応じて地下核実験を再開する準備態勢を維持すること」ができるように「核兵器施設体系を再活性化する」。 
 NPRは、核実験については、指示があってから二〜三年で実験再開ができる態勢を維持する現在の規定は、長すぎるかもしれないから、コスト・ベニフィット分析をおこない、最善の準備期間を決めるとしている。また、未臨界実験は、核実験準備態勢を維持する上で重要な要素だという。核実験の予行演習の役割を果たしているのである。同時に、未臨界実験は核反応の計測をしないものだから、予行演習としては不十分であり、計測態勢もテストする実験をする必要があると述べている。(核実験再開問題については本誌四月号拙稿参照。)さらに、ピットの製造能力の増強なども謳っている。増強計画は、核弾頭だけにとどまらない。新しいICBMを二〇二〇年、SLBMとSSBNを二〇三〇年に、新しい重爆撃機を二〇四〇年に配備する計画である。
 「ロナルド・レーガンの第一期における冷戦の再燃以来、米国の防衛戦略において核兵器がこれほど強調されたことはない。」とNRDCがいう所以である。

出典: 軍縮問題資料(2002年6月号)