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2003.3 

アメリカの核戦略とイラク情勢

◇米英だけでイラク攻撃は可能か

 いまやイラク問題は米・英VS世界の反戦・平和運動の対立となってきました。2月15日に時間差を持ちながら世界各地で開催されたイラク攻撃反対集会は、1000万人を超え、史上最大の反戦集会となりました。こうした平和・反戦の声の高まりに応えて、国連安保理は当面査察継続を決め、各国とも武力攻撃反対でまとまりつつあります(日、英、スペインをなどを除いて)。小泉内閣のアメリカ追随ぶりは目を覆うばかりですが、イギリスのブレア首相の涙ぐましいアメリカ支持も、どうなっているのかと思います。
 イラクによるよほどの決議違反がない限り、もはや仏、独の妥協はないでしょう。
 仏・独・ロVS米・英の対立は、9.11テロ以降、国際政治でも進んでいた一元化にストップをかけるだけでなく、今後のNATOのありようにまで影響する可能性を持っています。
 しかしアメリカはすでに20万人の軍隊をイラク周辺に集結させています。なんの行動もなく撤収することは、アメリカの権威の敗北を意味します。これだけ孤立すればかえって単独攻撃に踏み切る危険が強まったといえます。ただ、イラク攻撃には膨大な戦費が必要で、米・英だけで戦うには負担が大きすぎます。米エール大学・ノードハウス教授の試算では短期終結なら500億ドル、長期化した場合の直接の戦費が1400億ドル、戦後の占領コスト、原油価格の高騰の影響などを加えて計1兆9千億ドルとしています(2月19日の内閣府資料)。その8割は同盟国負担を期待しているのですから、戦費の面からも米・英単独攻撃をためらわせるのに十分でしょう。
 こうしていま、イラクに対する短期決戦説もささやかれています。だが、ブッシュが振り上げたこぶしを降ろすために短期決戦を戦うというのは、あまりにも理不尽で危険といえます。対イラク戦争が短期に収束する保証は全くありません。しかし米・英が単独攻撃を行った場合、大量殺りく、大規模破壊兵器が使われるでしょう。後述するように国連決議違反の兵器や核兵器の使用さえ心配しなければなりません。

◇アメリカの核攻撃オプション

 いかにブッシュといえども核兵器は使わないとは思いますが、ブッシュだからこそ核兵器を使うということだってあり得るのです。そんなことに配慮する人間なら、そもそもイラク攻撃はしないでしょうから。
 アメリカがイラクに武力攻撃を行い、イラクが生物・化学兵器を使用した場合、アメリカは核兵器を使う可能性があるという戦略は、すでにクリントン政権のときから存在していたといえます。
 1997年11月にクリントン大統領が署名した「大統領決定命令(PDD)60」(秘密文書)は、生物兵器や化学兵器の攻撃に対して、核兵器を使用することを決めたものだと報じられました。クリントン政権は核兵器の使用を否定しましたが、それ以前のアフリカ非核地帯条約(ANWFZ)に関してや、その他の発言によって、生物・化学兵器の攻撃に対して核攻撃を行うオプションは存在していたのです。
 ブッシュ現大統領になって、アメリカ政府は02年9月に「国家安全保障戦略」を発表し、さらに12月に「大量破壊兵器と戦う国家戦略」発表しました。
「国家安全保障戦略」は先制攻撃を法的に正当化するブッシュ政権の最初の試み(浅井基文・明治学院大学)と考えられています。
「大量破壊兵力と戦う国家戦略」では、「アメリカはアメリカに対する、あるいは海外のアメリカ軍、友好国および同盟国に対する大量破壊兵器の使用に対しては、圧倒的な軍事力で──われわれのすべてのオプションを含めて──応じる権利を保持することを明確にし続ける」「大量破壊兵器の脅威に対するわれわれの全般的な抑止態勢は、わが国の通常兵器および核兵器による対応および防衛能力に加えて、効果的な情報収集、監視、阻止および国内法執行能力によって強化される」と述べ、核兵器使用もあり得ると示唆しています。また先制攻撃があり得るとも述べています。

◇核爆弾・B61−11

 イラクで使用されるかもしれない一つの核兵器について説明します。
 それは地中貫通型爆弾でB61-11(核爆弾B61の11番目の改良型)と呼ばれる核爆弾です。1996〜97年にかけてすでに50発がミズーリ空軍基地のB-2ステルス爆撃隊に配備されています。
 米ソ冷戦の時期には堅固なソ連の地下施設を破壊するために、B53と呼ばれる核爆弾が配備されていました。しかしB53は9メガトン(TNT火薬換算900万トン)もあり、大きく重いためにB52にしか搭載できませんでした。新しい核爆弾の開発が進み、アメリカはB61シリーズを登場させます。最初のB61は100〜500キロトンの核爆弾でしたが、B61-11は大幅に小型化されました。破壊力は当初最小で0.3キロトン、最大で10キロトンと推測されていましたが、02年1月8日に議会に提出された「核態勢の見直し」(NPR)では、一つの(大きな)威力のものとなっていて威力ははっきりしていません。貫通力は2〜8メートル、核爆発による衝撃波で周囲数百メートルの地下施設を破壊します。形は鋭い円錐形で、先端部分に衝撃に耐える硬鋼製のノーズ・コーンを装着し、ほぼ垂直に落下するよう114キロのバラスト(おもり)を内蔵しています。尾部に衝突角度とスピードを調整する減速フレア、安定翼が装着されています。全長368センチ、直径34センチ、重量は548キロです。
 ただ貫通力が求められるため、高々度(2000〜7000メートル)から投下しなければなりません(誘導システムはない)。弾道計算で投下するのですが、96年2月のアラスカ、96年11月のテキサスでのフルスケール投下テストは成功しましたが、このときはわずか2メートルの貫通だったといわれます。
 0.3〜10キロトンの威力は広島原爆(15キロトン)の3分の2〜50分の1ですが、0.3キロトンであれ、爆発すれば当然地下だけでなく、地表部分にも被害が及び、放射能被害も大きいといえます。地下の堅固な施設を爆破するという名目で核兵器を使用できるのです。絶対に使わせてはなりません。

◇核爆弾に次ぐ威力のバンカーバスター

 なおこのほかアフガン戦争でも投下されたバンカー・バスターといわれる地中貫徹誘導爆弾があります。
これは正式にはGBU-28/Bと呼ばれ、高性能誘導レーザー装置をつけています。湾岸戦争で、バクダッド近郊のアル・タジ空軍基地内の強固な指揮・通信施設を破壊するため、それまでのBLU-109/Bを使ったのですが、表面を傷つけただけといわれ、急いで開発されました。湾岸戦争終了(2月28日)直前に2機のF-111戦闘爆撃機から2個投下されて、今度は目標を破壊しました。貫通力はコンクリートで10メートル、硬い岩盤で8メートルといわれています。
 全長8.42メートル、直径37センチ、重量は2100キロ(いずれも推定値)で、戦闘爆撃機・爆撃機が搭載する通常爆弾のなかでもっとも大きく、重く、核兵器についで破壊力があるといわれています。
 このほか親爆弾が200個に分散して落下するクラスタ(集束)爆弾、周囲4海里(約7.4キロ)も炎で焼き尽くし、炎に灼かれなくても酸欠で人を殺戮する燃料気化爆弾・ディジー・カッター(BLU-82)もアフガンで使われました。このクラスタ爆弾とディジー・カッターは非人道兵器として、国連が使用してはならないと決議している兵器です。戦争はすべて非人道的なものですが、破壊力の大きさはそれだけ一般市民に被害をひろげます。 戦争反対の声を一層高めましょう。

(W)