出版物原水禁ニュース
2003.3 

チェルノブイリ原発事故から17年

「チェルノブイリ」は終わっていない

振津かつみ (チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西)

□いまも続く深刻なチェルノブイリヒバク

 原発事故により広島原爆の600倍(セシウム137で比較)ともいわれる放射能が北半球全体にばらまかれ、広大な地域が汚染され、数多くのヒバクシャが生み出されました。被災3国(ベラルーシ、ウクライナ、ロシア)だけでも900万人以上が被災し、40万人が移住。650万人以上が汚染地に住み続けています。今年、事故から17年目を迎えますが、被災地では今も放射能汚染と被曝が続いています。

クラスノポーリエの孤児院で


 私たち「チェルノブイリ・ヒバクシャ救援関西」が支援を続けているベラルーシの汚染地域のひとつにクラスノポーリエという地区があります。チェルノブイリ原発からは北東に250キロも離れています。美しい湖と白樺の林、広大な畑と草原、深い森に囲まれたのどかな農村地区です。この豊かな自然と伝統に生きる人々の暮らしをチェルノブイリの「黄色い雨」が襲いました。地区のおよそ3分の1が汚染のために移住対象地区(セシウム137で15キュリー以上の汚染)となり、事故前には2万人余りあった人口がほぼ半減。広大な農地の耕作が禁止され、地区全体の経済が大きな打撃を受けました。17年経ったいまも汚染した農地は回復せず、集団農場(コルホーズ)は経営破綻に追い込まれています。労働者への給料の未払いが何ヵ月も続くこともしばしばで、失業者も増えています。

□インフレと失業が追い打ち

 子どもたちへの養育手当や、老人が受け取るわずかの年金だけが、一家の唯一の現金収入という家庭も珍しくありません。国全体の経済難でインフレが続き、物価はどんどん上がっていきます。アルコール依存や病気のために、子供たちを養育できないような若い親たちも増えています。
 人々は、汚染した土地(1〜15キュリー)の自家菜園で採れる作物で、なんとか「自給自足」の生活をしています。地区で採れる作物は保健局で放射能量のサンプル調査のみを行っていますが、ミルクなどはいまでも常に数%は規制基準値(111ベクレル)を上回っています。豊かな森で採れる木の実やきのこ、野生の小動物などはもっと汚染レベルが高い(600ベクレル以上)。住民の体内放射能量は、ここ数年、改善のきざしがみられません。
 放射能の被害に生活困難が加わり、地区住民の健康状態は悪化しています。子どもたちの罹患率は事故前の3倍以上。結核の罹患率なども欧米諸国の10倍。小児の悪性腫瘍も増加しています。子ども人口3000人足らずのこの地区で、事故後の14年間に3人も小児甲状腺ガンが発生しています。事故から17年経って当時の子どもが青年になり、最近ではベラルーシ共和国全体でも青年層の甲状腺ガン増加が目立っています。

□チェルノブイリ被害を終わらせたい政府

 昨年8月にベラルーシ政府は、放射能汚染の実測による再評価もしないままにクラスノポーリエの街の一部を「汚染地域」の指定からはずし、これまで支給していたわずかばかりの「被災手当」も廃止してしまいました。民間レベルの外国からの支援に対する政府からの統制や、現地で救援受け入れの活動をしている人々への圧力も年々強まっています。事故から15年以上経って、ベラルーシ政府は「チェルノブイリを終わらせたい」と考えているようです。
 このような被災地の現状は、なにもクラスノポーリエ地区だけのことではありません。被災3国の汚染地域では、どこでも同じような状況が続いています。さらに事故処理作業で被曝した何十万人もの労働者・兵士、新しい土地でゼロからの生活を強いられている移住者たち…彼らの健康と生活の被害も深刻です。またチェルノブイリ原発サイトでは事故を起こした4号炉を覆う「石棺」の崩壊と、さらなる汚染の拡大も危ぶまれています。チェルノブイリは決して終わっていません。
 今後とも、長期にわたる国際的な支援が求められています。被害の拡大を懸念し、現地で粘り強く活動を続けているチェルノブイリのヒバクシャ自身との交流を深め、ともに問題を解決してゆけるような支援が大切だと思います。事故から17年を迎え、現地でも事故直後の混乱を直接には体験していない若い世代が社会参加していく時期を迎えています。若い世代に「チェルノブイリ」を伝え、ともに進んでゆけるような取り組みも課題となっています。

□チェルノブイリ事故は人類への警告

 チェルノブイリの教訓は、原発重大事故がひとたび起これば、その被害は甚大で、長期にわたり人間社会と環境・自然を苦しめ続けることを示しています。50基以上もの原発を抱え、過酷な稼働を続けている日本でも、いつチェルノブイリが起こるか知れません。
 私たちとともに広島を訪れ、原爆ヒバクシャと交流したチェルノブイリのヒバクシャは「反核を訴えるヒバクシャの活動を支持し連帯します。世界はヒバクシャとチェルノブイリの子どもたちや親たちの声に耳を傾けるべきです」と語りました。「核と人類は共存できない」ことをヒバクシャとともに闘うなかで学んできた日本の私たちは、核被害に苦しむ人々を支援し、これ以上のヒバクを許さないために、チェルノブイリをはじめ世界のヒバクシャとの連帯をさらに深めましょう。