出版物原水禁ニュース
2003.7号 

日本防衛のあり方が根本的に変わる

日本政府、ミサイル防衛(MD)システム導入を決める
専守防衛から攻撃型に変身、底なしの防衛費増大へ

◆ミサイル防衛(MD)=専守防衛からの決別

 集団的自衛権に抵触、膨大な防衛費
 日本政府は米国から早期導入を求められていたミサイル防衛(MD)システム配備の方針を固め、具体的な検討に入りました。しかしこのMDの導入は、(1)これまでの日本の防衛概念=専守防衛論を根本的に変え、攻撃的なものにしてしまう、(2)集団的自衛権に入り込む、(3)防衛費の飛躍的な増大に道を開くなど、私たちがとうてい認めることのできない大きな問題を含んでいます。
 防衛庁の計画では、相手側が発射する弾道ミサイルを、(1)ミッドコース(大気圏外)で迎撃する。(2)そこで撃ち漏らしたミサイルをターミナル段階(落下直前)で迎撃するという2段階の構想です。
 そしてミッドコース段階のMDには、米国が独自に開発したイージス艦発射型「SM3(スタンダードミサイル3)」を導入し、ターミナル段階のMDには同じく米国が開発したパトリオット(PAC3)を導入するというものです。

図は外務省のサイトより(外交青書)

◆ミサイル迎撃に精度が不明なPAC3

 パトリオットに関しては、70年代初めに航空自衛隊が地対空誘導弾ナイキ・ハーキユリーズ(ナイキJ)を配備し、つぎにその後継機種としてパトリオット(PAC2)を導入しました。
 このPAC2は湾岸戦争でも使われましたが、性能は今ひとつで、このため米軍は全く新しいタイプのPAC3を開発しました。日本もそれを導入するというのですが、性能面でどれだけ向上したかは疑問です。
 PAC2までは目標とすれ違う瞬間に爆発し、爆風や破片で相手を破壊するシステムでしたが、PAC3は「体当たり破壊」(hit-to-kill)方式で、ロケット・モーターを内蔵しています。まずレーダーが接近中の弾道ミサイルを探知し、その情報を「射撃管制ステーション」に送ります。「射撃管制ステーション」のオペレーターが目標を確認し、PAC3ミサイルに発射命令を送信します。PAC3は初期誘導の後は、自動的に目標を固定し、目標に接近し、撃墜するシステムになっています。
 しかし大気圏に再突入した後の弾頭のスピードは射程500キロでマッハ7、射程1000キロでマッハ10とといわれていて、どれほどうまく目標に命中するか、その命中精度は未知数です。たしかに初期の開発段階では11回のうち10回、標的に命中しましたが、実戦に近いテストでは7回の試射で2回しか命中していません。このため今後数年間はテストが必要といわれています。つまりまだまだ改良途中のミサイルシステムなのです。
 今回のイラク侵攻に際してはPAC3も配備されたと推定されますが、イラクのミサイルは発射されず、その命中精度は未確認のままです。むしろPAC3(またはPAC2)が味方の空・海軍機を撃墜する事故が発生しています。
 このように効果についてはっきりしないのですが、一応、航空自衛隊独自では対応(発射)できます。つまり日本の自主性が保たれるのです。

◆完全な米軍支配下におかれるSM3

 しかし、問題はSM3の導入です。SM3が有効に機能するためには、相手側弾道ミサイルの発射を探知し、追尾する早期警戒衛星の情報が不可欠になります。弾道ミサイルがどの方向へ、どの早さで飛ぶかを計算し、SM3に伝えるのです。この情報を受けて、SM3を弾道ミサイルが飛んでくる方向へ打ち上げるのです。そして早期警戒衛星は米軍に頼らなければなりません。米軍との共同運用というよりも、完全な支配下に置かれることになります。
 しかも、迎撃能力が劣っているだけでなく、本格的な攻撃に対してはほとんど役に立たないといえます。
 日本はこれまで米国と共同で99年から「海上配備型上層防衛システム=NTWD」の共同技術研究を進めてきました。しかしこの研究は、SM3の後に配備を予定しているタイプのものです。つまりより迎撃能力を高めた、SM3よりも次世代の迎撃ミサイルの研究を行ってきたのです。
 この次世代の研究はなかなか進まず、予定が大幅に遅れていました。米国政府は研究の促進を強く求めていましたが、なかなかメドが立たないため、来年度(04年度)から独自に開発してきた、つまり日米共同研究の前のタイプのミサイルシステムの配備を決定し、日本にも同じシステムを配備しないかと働きかけていたのです。

◆何のためのミサイル防衛か

 しかしなぜそれほど、ミサイル防衛システム配備を急ぐのでしょう。緊急に配備を急ぐ必要はないのです。 ブッシュ大統領が登場し、国防長官にラムズフェルド氏が就任しました。ラムズフェルド国防長官は就任前から、宇宙に軍事力を展開することに積極的でした。 まずミサイル防衛に大きな予算が割かれるようになります。これはまた軍需産業の強い要求によるものでもあります。
 ブッシュ米大統領がイラク、北朝鮮、イランを悪の枢軸と呼び、大量破壊兵器による攻撃の危険を強調しましたが、現在、もっとも心配しなければならない危険はテロ攻撃であって、どこかの国が米国にミサイル攻撃を行うと信じている人はほとんどいないでしょう。そのような攻撃を行ったら、その国は壊滅的な報復攻撃を受け、国家体制は崩壊します。
 私たちは北朝鮮の核武装に反対し、大量のミサイル配備にも憂慮しています。しかしその解決はあくまで対話による平和的な解決で、米国がイラクに対したように、武力による威嚇で追いつめることは、北朝鮮に暴発せよというのと同じことでしょう。だからこそ韓国も中国も、そして日本も平和解決を主張しているわけです。
 誰も北朝鮮が突然、日本や米国に対して攻撃をしかけてくるとは考えていません。つまり北朝鮮を相手にMDシステムを配備する緊急性など存在しないのです。
 それでもブッシュ政権は、迎撃能力の劣るSM3を04年度から配備することにしました。それは第一に、強大な軍事力を保持し、米国が必要と認めたときに(イラクに侵攻したように)、相手に攻撃を行うというネオコン(新保守派)の思想によるものといえます。

◆日本のネオコンの要求

 こうした米国のネオコンに共鳴し、日本の防衛力強化を図ろうとするタカ派の人々によって、日本にミサイル防衛システムの導入が図られているのです。
 しかし、SM3の導入は、米軍の運用下に入ることだと述べました。仮に朝鮮半島から弾道ミサイルが発射された場合、日本に到達するのは10分以内です。この間に迎撃ミサイルを発射しなければならないのです。弾道ミサイル発射が日本への攻撃でない場合(ミサイル発射実験や他国への発射)であっても、情報を握る米軍から迎撃の要請があれば、日本は迎撃ミサイルを発射させなければなりません。日本に発射の是非を判断する自主性はなく、むしろ戦争の危険を高めるだけです。また集団的自衛権に抵触するのは当然です。
第2の問題は、ここまでしてミサイル防衛体制を整備したとしても、どれだけ有効かという問題です。
 弾道ミサイルは(1)ブースト(発射)段階(2)ミッドコース(大気圏外)段階(3)ターミナル(落下直前)段階を経て、目標を攻撃します。SM3は大気圏外を飛んているときに撃ち落とすシステムだというのは、この時間帯が一番長いという理由です。
 しかしこのときの弾道ミサイルは、かすかな赤外線を放出しているだけで 探知が難しく、しかも大気圏外には大気が存在しないため、弾頭の回りにおとりのミサイルを飛ばしても(にせの弾頭、金属製の風船、弾頭自身の見せかけを変える、弾頭に薄いカバーをかぶせ液体窒素で冷やすなど)、すべてが同じ早さで飛ぶため、おとりと本物の弾頭を識別することはきわめて困難で、迎撃できる保証は少ないのです。
 弾道ミサイルと迎撃ミサイルは矛と盾の関係で、互いに能力を競うことになります。日本のミサイル防衛システム導入は、アジアに際限のない防衛力増強をもたらすでしょう。

◆膨大な費用−それは底なし?

 MDはどれくらいの費用を必要とするのでしょう。日本はすでに4隻のイージス艦を保有していますが、まずこれの改修費が必要です。さらに建造費1,200億円で、新型イージス艦2隻の建造も計画しています。また丸ごと米国から購入するイージス戦闘システムだけでも1隻分5億ドルといわれています。
 それにPAC3の導入費も必要です。防衛庁はPAC3の導入を06年度としていて、そのための費用としてPAC3導入費2,000億円、レーダーや指揮通信システムの整備費1,800億円など計5,000億円と試算しているとのことです。これは最小経費です。
 これ以外にもMDの導入には、新防衛大綱を策定する必要があり、そのうえで「中期防衛力整備計画(01〜05年度)」の全面的な見直しが必要になってきます。日本の防衛体制は、有事関連3法案の成立とともに、装備面でも大きな転換点を迎えています。MD導入反対運動も大きくしなければなりません。

(W)
7月3日一部加筆