出版物原水禁ニュース
2003.9号 

被爆58周年原水禁世界大会・国際会議報告(1)
アメリカの核戦略と北朝鮮核疑惑を考える
 北東アジアの緊張を終わらせるために、なにが必要か

 8月2日、横浜シンポジアで開催された「被爆58周年原水禁世界大会・国際会議」には150人が参加しました。今年の国際会議の特徴は、対テロ戦争などを理由に強化を図るブッシュ政権の核戦略が、北朝鮮の核疑惑とどのように関連しているのかについて焦点を当てて討論されたことです。わずか1日でしたが、内容のある充実した討論が行われました。討論は、小笠原公子さん(NCC平和・核問題委員会委員長)と市川定夫さん(埼玉大学名誉教授、原水禁副議長)、お二人の議長によってすすめられました。

多彩な参加者

 海外からは、朝鮮現代史研究で有名な米・シカゴ大歴史学部教授のブルース・カミングスさん、表紙に核の終末時計を載せていることで知られる『ブリティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』誌発行人で、核兵器の専門家のスティーブン・シュウォーツさん、韓国の「平和をつくる女性たちの会」の共同代表・李賢淑(イ・ヒョンスク)さん、また日本から立教大学教授の李鍾元(リー・ジョンオン)さん、日朝国交正常化を求める市民連絡会・立教大学講師の石坂浩一さんがパネラーとして参加しました。
 また、最初に国際会議に対するキーノート・スピーチが、大会実行委員会・福山事務局長より行われました。まず各パネラーの発言を紹介します。

◆ブッシュ登場で一挙に危機が訪れた
□ ブルース・カミングズさん

 朝鮮戦争では何人もの人がなくなったにもかかわらず、いまだに問題は解決していません。94年の枠組み合意に対する批判はあるが、原子炉が閉鎖され、国連とアメリカの監視下に置かれたことは評価すべきで、私は枠組み合意は良かったと思っています。
 朝鮮半島を取り巻く情勢は98年が大きな節目でした。98年2月に金大中大統領が太陽政策を掲げて、和解と協調の政策を進めました。米国も98年には経済制裁を解除しました。「吸収による統一」ではなく、二つのコリアの統一は次の世代にゆだね、今は和解と協調の政策を進めようと、お互いを知り合う交流が始まりました。これは現実的な政策でした。
 米朝関係も95年にペリー元国務長官が訪朝し、ワシントンで発表されたものは二つのコリアが並存する政策、つまり北朝鮮には、彼らが望むように存続させるというものでした。
 飢餓・飢きんに対応する援助が行われ、北朝鮮もミサイル実験を一時停止する約束を守っています。ワシントンとソウルの努力が長距離ミサイル開発の排除につながったのです。
 しかしブッシュ政権が発足すると、北朝鮮は多くの地下軍事基地(北朝鮮には1万〜1万5000もの洞窟がある)があるといって地中貫通爆弾(バンカー・バスター)の開発を進めました。北朝鮮に先制攻撃を行い、破壊・殲滅する考えを米国は90年代初頭、すでにもっていました。事実、軍部は再び朝鮮半島で戦争が起きるといっています。

◆北朝鮮の核カードに引っかかったケリー

 北朝鮮も98年にはワシントンの政策に深刻な疑問を持ち始めました。北朝鮮外務大臣は米政府関係者に「われわれはもう我慢ができなくなっている。わが国の将軍や原子力産業のリーダーたちは、米国が誠実に行動しなければ──枠組み合意に真剣でなければ、その結果が伴うことになる」と語りました。しかし米下院は共和党の完全な支配下にあり、クリントンは枠組み合意積極的な推進が不可能だったのです。
 03年10月、ケリー国務次官補は、北朝鮮の一人がヒソヒソ話の形で「北朝鮮は実際に核爆弾を2個もっている。さらにブッシュの戦略次第では爆弾、あるいは核分裂物資を世界の市場で売ることになるかもしれない」と語ったと、新聞記者に話しました。北がカードをひっくり返して見せ、ケリーはうまく引っかかったのです。どうするかという策がまったくないまま、世界のマスコミに伝えたのです。
 クリントン政権のときにも、北朝鮮側が核爆弾を持っているとという同じ話を伝えてきたが、無視していました。一方ブッシュ政権は、聞いたことはすべてリークしています。
 北朝鮮がパキスタンからウラン濃縮技術と施設を輸入したことは、クリントンが政権を去るに当たって、情報は詳しく説明されていましたが、ブッシュ政権は02年7月まで何もしなかった。クリントン政権では、北朝鮮が濃縮施設の建設を始めた証拠が上がってきていて、これらが核開発をしないという約束を破ったと考える者も少なくなかったが、一方で、北朝鮮がやろうとしていることを、ミサイルの取り決めを結び、米朝関係を正常化させていくなかで、終わらせることがてきると考えていました。
 ブッシュ政権は濃縮技術に関する証拠を18ヶ月も無視し、02年10月に北朝鮮と対決するのに使うことによって、解決可能な問題を大きな危機にしてしまい、どちらも後に引く余地がほとんどないという状況を作り出してしまったのです。
 このカードはまた、小泉・金会談によって日朝関係が進展するのをつぶすためにも利用されました。

◆自ら危機を作り出したブッシュ政権

 現在の危機の根源はブッシュの先制攻撃ドクトリンにあります。ライス大統領補佐官は、このドクトリンについて「先制攻撃は自己防衛のためだ。相手が攻撃すると予測できる場合は先制攻撃できる」と説明しています。
 ブッシュ政権は重要な政策変更を二つ行いました。「抑止から強制」と「核不拡散から対抗拡散」政策への移行です。それは圧倒的な軍事力で米国に同調を求め、押さえ込むとともに、より強力な核兵器の開発によって相手を脅かし、大量破壊兵器の開発を止めさせるというものです。国際的には68年に核不拡散の仕組みができ、核保有国は核で威嚇しないと約束し、国際司法裁判所も核兵器の使用は違法だといっているにもかかわらずです。
 現在、北朝鮮は「イラクは武装解除したといっているのに攻撃された。北朝鮮の安全保障の確保抜きに、核の放棄はできない」といっています。北朝鮮は国家としての生存を求めています。しかし、ブッシュは金正日が嫌いだからという理由でぶっつぶそうとしてるのです。ピョンヤンは火に油を注ぐような挑発行為を行っていますが、一方その火は、誰にも耳を貸そうとしない政権があおっているといえます。
 こうしたなかで、6ヵ国の協議の動きが始まっています。ブッシュは北朝鮮の主権を踏みにじることを考えているのでしょうが、北が核をもった場合には、米国の出来ることは限られてくるのです。

◆朝鮮半島は共存と統一のプロセスに入っている
□ 李鐘元(リー・ジョンウォン)さん

 カミングズさんの話を受けて四点ほど補強させてもらいたい。
(1)朝鮮半島の歩みが日本に直結しています。53年前に朝鮮戦争が起きて、7月で休戦して50年が経過しました。朝鮮戦争は日本の再軍備のきっかけになりましたが、現在の核危機は、米国の世界戦略の変化とも関係して、日本の第二の再軍備─日米同盟の強化と軍事力強化につながっています。
 98年のテポドン以降、日本がこれまで守ってきたものが崩され、核武装論にまでつながりだしています。日本の平和憲法体制を維持するためにも北の問題解決が必要になっています。
(2)朝鮮半島が分岐点を迎えています。北東アジアが共生の共同体になることが夢だと韓国の金大中前大統領は言いました。その方向に進むのか、それとも南アジアのように核武装による危機を迎えるのかの分岐点にいると考えます。
 南北関係は、すでに共存と統一のプロセスに入っていると思います。もちろんスムーズには進まないでしょうが、大局的には統一のプロセスに入っています。
 20年前は南北の当事者が反目していて、統一が進まないといわれていました。しかし2000年の南北首脳会談で相手を認め合い、共存していくことを確認しました。日本では南北が対立しているように見えますが、南北間の交流は進んでいます。政府間の会談は2ヵ月に1回のペースで行われ、また大勢の人が文化・経済・社会交流のために北朝鮮へ行っています。
 このように交流が進んだのは、南における北の認識の変化。つまり北への脅威感が薄れてきているということです。90年代当初の金泳三時代は韓国が北朝鮮に強硬に圧力をかけていました。それが90年代後半から変化してきました。その背景には韓国国民が北朝鮮の弱さを認識したからです。GNPは韓国の25分の1しかないという事実を知って、威嚇的な北の政策は弱さの反映だと韓国の人たちは認識したのです。こうした現状認識の上に、南北交渉があるのです。

◆米との関係改善に、核兵器しか持ち出せない

(3)しかし、北と南の当事者の話が進んでいるのに、なぜ核危機が起きているのか?それは北が体制を維持しようとしていること。もう一つは生き残りのためには対米・対日関係の改善が必要だが、そのための手段が破壊的なものしか持っていないということです。
 破壊的な手段を持ち出さざるを得ないのはそれしか力がないということでしょう。しかし、副作用も生まれます。例えば枠組み合意では、米国から譲歩を引き出しましたが、米国、日本の世論からは反発を買いました。また核ミサイルは米国の戦略にも影響します。米国の世界戦略の一部として北朝鮮も組み込まれることになり、それが北東アジアにも影響して不安定化につながっていくだろうと考えます。

◆明らかでない米の北朝鮮政策の不安

(4)最後に現状をどうとらえていくのか。
 去年から現在までの動きのなかで分かることは、経済的危機とブッシュの出現による米国に対する軍事的な危機感を北朝鮮は持っています。それに対応するために短期的には日本に対して、拉致を認め、韓国とは鉄道の接続などを行いながら対外関係の改善に動いています。
 しかし一方で、米国への不信から核能力の強化に動いています。軍事的な意味はないが、政治的な意味は大きいと北朝鮮は考え、急ピッチで核の開発を進めているかもしれない。北の米国だけ重視するやり方は、成功も収めたが、逆に米国の政策に左右される状態に陥ってしまいました。これまで北朝鮮は瀬戸際外交をやってきましたが、現在は小康状態にあります。それには中国の役割が大きいと思います。しかしそれは中国への依存を一層強めることになるので、ロシアへの接近も図っているのが現状です。
 米国の戦略の不安定さ、不透明さにも注意を向けることが必要です。対話と圧力といっていますが、本格的な交渉もしないで、軍事攻撃の圧力をかけています。戦争のコストは高いのでやりづらい面はありますが、時間稼ぎをしているとの疑いもあります。
 米国は北朝鮮に「時間はこっちにある。時間がないのは北だ」としていっていますが、米国に時間があるのだろうか。その根拠は何なのだろうかと思います。
 米国は何をしたいのか、政権変更を求めようとしているのか。核武装を止めさせるのか。
 うがった見方をすると核武装を進める曖昧な政策を進めているようにも見えます。もっとも気になるのは米国が北朝鮮に対してどういう政策で進もうとしているのだろうかが見えないことです。このまま進めば、北の核武装が現実のものになる危険があります。

◆韓国と日本の運動交流はますます重要になる
□ 李賢淑(イ・ヒョンスク)さん

 現在の核危機の特徴は曖昧性です。高濃縮ウラン計画や核兵器を所有していると北朝鮮は主張している。しかし、それが事実がどうかは証明されていません。そのなかで感情的対立だけが増幅しています。
 第2の特徴は北朝鮮と米国に信頼関係がないことです。アメリカは核兵器の解体を、北朝鮮は安全保障を求めていますが、内容ではなくプロセスが異なるのです。米国は「核兵器をなくせ、それをしたら安全は保障する」といっています。一方北朝鮮は「安全保障を認めれば核は保有しない」。プロセスが逆で、なぜこうした現象が生まれたのか、信頼関係がないからです。
 韓国のNGOの運動について紹介します。現状の行き詰まり状態を解決するために、人々の交流と人道援助を行っています。大事なのは危機を回避し、敵意を解消することです。現在はさまざまなイデオロギーをもったNGOが6月15日と8月15日に南北朝鮮の交流やイベントを行っています。労働者、女性など各層の交流も行っています。また多くの国でミーティングを開催し、朝鮮半島に住む人間が何を考えているのかを伝えています。NCPKPというNGOが設立され、議員や学者も参加して、平和的に核危機を解決することを目的とした運動を行っています。そのための政策を米国民に発信しています。
 そこでは(1)北の核問題は米国と北の対話によって解決すべきであること、(2)北朝鮮の高濃度ウラン計画の曖昧さが危機の根本にあるからワシントンは証拠を示さなくてはならない、(3)北朝鮮の核放棄こそ米国にとってもメリットになるから多国間による不可侵条約を結ぶこと、(4)北朝鮮は国際社会のメンバーになるために国際的な関係をつくるべきだ、などです。つまり、基本的な私たちの考えは朝鮮半島における核の使用に反対ということです。それは北朝鮮も米国も例外ではありません。先制攻撃による解決ではなく、交渉、話し合いによって問題を解決をすべきだと考えています。こうした考えはブッシュ政権の高官にも伝えました。今後日本と韓国の運動の交流はますます重要になってくるでしょう。お互いに交流を強めましょう。

 ※この報告は10月号に続きます。次号では石坂さん、シュウォーツさんの報告。討論などを予定。