出版物原水禁ニュース
2003.10号 

被爆58周年原水禁世界大会・国際会議報告(2)

アメリカの核戦略と北朝鮮核疑惑を考える
情報操作に惑わされずに、北東アジアの平和を築こう

◆日朝問題をこじらした強硬派の責任

□石坂浩一さん(日朝国交正常化を求める市民連絡会)

 昨年9月に歴史的な日朝首脳会談が行われたにもかかわらず、それ以降、かえって日朝関係が後退して、北朝鮮批判以外の声が出せない状況になっています。
 私たちは市民団体として異なった声や、韓国の意見を紹介し、また韓国の運動と交流してきました。
 日朝首脳会談の1年ほど前から、日本と北朝鮮間で水面下の交渉が行われていて、日本政府内の北朝鮮に対する穏健派と強硬派の存在も明らかになっていました。穏健派は小泉首相や福田官房長官、そして田中均・外務省アジア太洋州局長(その後外務審議官に転任)らで、これら外務省の人たちは朝鮮戦争の危機は回避しなければならないと考えています。
 強硬派は安倍官房副長官や拉致議連の人たちで、どこまで戦争を具体的に考えているかは分かりませんが、非常に好戦的な言葉を発していて、これが韓国や中国を不安にさせているのです。
 日朝首脳会談で、北朝鮮・金正日国防委員長自身が拉致と8人の死亡を認めたことに、日本で感情的な対応が組織化されていきます。
「拉致被害者を救う会」の佐藤勝巳氏ら主なメンバーは、北朝鮮の政権を打倒することが必要だと主張していて、拉致被害者5人が日本に帰って以降、北朝鮮が対応しきれないようにハードルを高めてきました。ですから拉致問題が日朝間の大きな障害になるように持っていった責任は、日本の政治家や強硬な世論を導いた人々にあると考えられます。

◆日朝国交回復をけん制する米国

 一方、同じ時期に、米国政府の日本政府へのけん制として、北朝鮮のウラン濃縮・核開発疑惑が出されてきます。李鐘元さんが米国の方針は「交渉はしない、圧力は加える」政策だと指摘されましたが、日本が拉致問題で北朝鮮に圧力を加える。これは米国と北朝鮮との関係を日本もなぞっているともいえるわけです。
 日本では今年に入って、大変攻撃的な発言が相次いでいます。拉致議連に関わっていた石破防衛庁長官は「北朝鮮のミサイル基地に先制攻撃をすることは可能だ」と国会で答弁しましたし、また米国と連動したミサイル防衛計画導入でも積極的な動きがあります。
 しかし朝鮮中央通信が、4月に拉致被害者の家族を求めがあれば、日本に送り返すという論評を出しましたが、こうした論評は新聞には載りません。NHKだけが報道しましたが、私たちが接する情報は操作されていて、北朝鮮はけしからん、圧力をかけろという報道だけが伝えられるということになっています。こうした情報の作られ方は、かつて韓国で軍事独裁政権の70年代〜80年代になされていた手法で、いま日本で行われているともいえます。万景峰号の日本寄港取りやめは、こうした脈絡のなかで出てきています。万景峰号はスパイ船だという報道が、読売新聞の一面トップ記事で書かれるという状況になっています。
 このように日朝関係は、いまは暗礁に乗り上げているように見えますが、7月に入って小泉再訪朝計画が報道されました。これは日本政府として、米国の言いなりになって、場合によっては戦争に巻き込まれるような状況は避けたい、日本政府としての選択肢を残しておくという考えがあるということだと考えます。
 一方では一部月刊誌が、北との窓口になってきた外務官僚叩きのキャンペーンをしています。
 しかし水面下ではさまざまな動きがあるのです。私たちも外務省の良識的な人たちの努力を、世論として生かしていくことが求められます。
 拉致問題でも、圧力をかけるだけでは問題が解決しない、などの議論も必要です。

◆まずピョンヤン宣言に立ち戻る

 今後の私たちの運動ですが、私たち自身の、さまざまな懸案を解決して国交正常化に至る、そうした青写真を提起して、議論することが必要です。そのためには昨年9月の日朝ピョンヤン宣言に立ち戻ることが必要だと思います。
 軍事力ではなくて、外交によって日朝関係をつくり、そこから盧大統領の言うような、東アジアの共同体というものを目指して一つ一つ合意を積み重ねていくことが必要です。このような努力の過程で、北東アジア非核地帯も議論の対象になり得ると思います。

◆参加パネラー間の質疑

●李鐘元(リ・ジョンウォン)さん

 ブッシュ政権は何を展望しているのかよくわからない。強硬派の人たちはいまは戦争が難しい状況だけれど、ブッシュが再選を果たした後では、本格的な軍事的圧力も含めて北朝鮮に圧迫を加えることが可能だといっています。
 いま一つは、在韓米軍が、休戦ラインのすぐ近くに配備されていますが、戦争では大きな犠牲が予測されます。これを南方に再配置、さらに出来れば米国のハワイかグアムに移したい、つまり米軍の犠牲が生じない布陣をとりたいとしています。
 さらに実戦使用を念頭においた小型核兵器の研究に議会がゴーサインを出しましたが、これは強力なバンカーバスター(地中貫通爆弾)として、北朝鮮の地下に配備している通常戦力はかなり無力化出来る。そのような態勢をとれば、北朝鮮に本格的な圧力を加えることが出来るといわれています。
 北朝鮮はその懸念をかなり深めていて、逆にこの2年間に急いで対抗措置をとる必要がある。通常兵力が無力化される可能性があるので、核抑止力を持つべきだと北朝鮮の軍事専門家は考えるはずです。
 いうならば米国の中途半端な政策が、そこまで視野に入れたものかどうか、ということです。
 それはNPT体制に対する米国自身の否定なのですね。つまり核不拡散のための先制攻撃といいながら、その先制攻撃は小型核兵器の使用を前提とした戦略ですので、常識では矛盾するわけですが、それについて米国内の議論はどうなっているでしょう。

●ブルース・カミングズさん

 ブッシュ政権の外交政策がわかりづらいのは、幾つか理由があると思います。一つは、ブッシュは前任者と違う政策を取ろうとしていることです。
 二番目にブッシュ政権は内部分裂を起こしていて、これが難しい要因でもあります。とくに北朝鮮問題では分裂しています。国務省はクリントン政権のときに結んだ枠組みを遂行すべきだと考えています。とくに北朝鮮に係わってきた国務省のスタッフはそう思っています。
 しかし実際に権力を持っているのはラムズフェルド国防長官とか、チェイニー副大統領です。
 北朝鮮に対する方針は、米国のイラクへの対応が参考になります。チェイニー副大統領が8月に行ったスピーチで、IAEAを使ってイラクで大量破壊兵器を見つけるのは難しい。カフォルニア程の大きなイラクで、見つけるのは難しいだろう言っています。
 そして最終的には同盟国の意向を無視して、イラクとの開戦に踏み切ったわけです。
 北朝鮮に対する先制攻撃の可能性はないとはいえません。もし戦争するとすれば大量の軍隊が必要ですから、攻撃の前になんらかの動きは出てくると思います。
 多国間協議については、ブッシュは再選まで引き延ばそうとするのではないか。北朝鮮の核武装への動きを引き延ばそうと。
 現在もイラクで混乱が続いていますし、いま明らかなことは、再選を目指しているということです。米国の世論も割れていますし、ブッシュの人気も50%ぐらいまで下がっています。ですからブッシュが多国間協議の方針を支持して、実現するのは喜ばしいことです。

●スティーブン・シュウォーツさん

 北朝鮮の核能力について、特に情報について誤解があると思います。現在では北朝鮮が一つか二つの核兵器を持っているということになっていますが、私はまだ懐疑的です。
 つまり米国政府の情報は疑わしいということです。もちろん北朝鮮は核兵器を持ちたいと思っているでしょうし、その能力もあると思いますが、まだ持っているとは信じがたいというのが正直なところです。米国でもその点について議論があります。日本や韓国の人たち、あるいは政府はどう考えているでしょうか。

●石坂浩一さん

 日本政府が公式に北朝鮮が核を保有していると認めたことはありません。米国から得ている情報が非常に大きいと思います。日本独自の情報というのはあまりないと思いますが、政治家のレベルでは攻撃的な発言の声に隠れてしまって、冷静な現状認識が出来ないという状況になっている気がします。
 しかし全体にマスコミ報道によって、北朝鮮が何をしているか分からない、危険だと思われているのが現実です。情報操作については、私たちも問題だと思っています。情報については政府のほうがマスコミよりも冷静だといえるかもしれません。

●李賢淑(イ・ヒョンスク)さん
 (韓国・平和をつくる女たちの会)

 まずブルース・カミングズさん質問があります。私は、米国の共和党、民主党の超党派の議員らがピョンヤンを訪問して帰国した直後に訪米して、話しました。そのとき北朝鮮の核問題に関して、前向きな形で解決出来るだろうとおっしゃいました。彼らの提案は、解決に繋がるのでしょうか。私は議会──共和党内でも大きなかい離があると思います。
 次に李さんに対してです。多くの人が北朝鮮の人たちは、みんな共産主義者だ。中国人とかベトナム人とは違うのだ。だからこの行き詰まった状況を解決するためには軍事的な介入以外にないのだという人たちがいます。この点についてどうお考えでしょうか。

●カミングズさん(米シカゴ大学歴史学教授)

 ピョンヤンへの訪問は非常に重要なときに行ったと思います。彼らは北朝鮮から帰国後、国家安全保障の担当者や副大統領と会談しています。共和党内にもかなり穏健派の人たちがいるのです。穏健派はクリントンの政策を継承していくべきだと言っています。
 一方、北朝鮮が嫌いというグループもいるわけで、ブッシュ大統領はこれら両方のバランスの中にいて、かなり苦しい立場ではないでしょうか。右の人たちも抑え込まなければならないし、北朝鮮から何らかの確約を得ることも難しい。
 多国間協議で、日本、中国、ロシア、韓国が入ってくることでそれらの国がこういうことを主張したから、米国の立場が実現できなかったと言えます。北朝鮮との交渉に5ヵ国が入ることで、ブッシュ大統領は対話型で話を進めることが出来ると思います。そうでないと実際には手足を縛られた形で次の選挙までは何も出来ないという状況だったと思います。

●李鐘元さん(立教大学教授)

 北朝鮮が経済政策を変えようとしたのは80年代からです。これがあまり成功しなかった理由の一つは、北朝鮮自身の消極性、大胆な改革が出来ないという内的な限界もありますが、いま1つは改革への試みが十分に試される状況が与えられなかったと思います。
 ですから本当に変われるのか、その試みにチャンスを与えてみようじゃないかというのが、私の見方です。
 北朝鮮の共産主義がどのように特殊なのかというのは、いろんな観察はあり得ると思いますが、ナショナリズムと結びつきましたし、さらに分断国家ですので、変化すると南との関係はどうなるのかというのがあります。そういう意味で非常に変化が難しい体制状況ではあるのですが、やはりその変化の試みにチャンスを与えることが必要ではないか考えます。
 それから先ほどのシュウォーツさんの質問についてですが、米国のイラクについての情報操作が、韓国や日本でのブッシュ政権の誠実さに大きな疑問を投げかけているのは事実ですが、しかし北朝鮮の核開発の状況については、ちょっと厄介な問題があります。米国は時折いろんな情報を流しますが、北朝鮮自身が核兵器を持っているということを強く示唆しているわけです。イラクと大きな違いで、その点が難しいわけです。

◆地中貫通型小型核兵器の製造は困難

●シュウォーツさん

 地中貫通型の兵器についてですが、いくつか重要な問題があります。第1に、この新しいタイプの兵器開発は、政治的には必要とされていますが、軍部の中では必要だという声は全く出ていません。第2は、低威力の核兵器が爆発し、地中深くまで貫通することが出来て、さらに死の灰が降らないような兵器の開発は、物理的に不可能だということです。
 地中深くミサイルを打ち込む研究がいろいろ行われていますが、15メートル位しか地中に入らないのです。一番低威力、10キロトンの核爆弾であるとして、大気圏にかなりの放射能汚染を引き起こしますが、しかし貫通能力は15メートル程だということです
 ローレンス・リバモアで核兵器の設計を行ってきたジェイ・ビービスが次のように書いています。
「何年かにわたって従来型の地下貫通型のものを開発してきた。そして新しい材料等を使ってきたけれども、それによって決して必要な貫通力を得ることは出来ないということがこれまでのところわかっている」。
※地中貫通爆弾については、原水禁大パンフの16、17頁参照のこと。
※シュウォーツさんより米国の核兵器の状況、NPTの現状などについて報告がありました。次号より紹介します。

発言者紹介●石坂浩一:日朝国交正常化を求める市民連絡会議、立教大学講師●ブルース・カミングズ:米シカゴ大学歴史学教授、朝鮮半島問題専門家●ステーブン・シュウォーツ:「ブリティン・オブ・ジ・アトミックサイエンティスツ」誌発行人●李鐘元(リ・ジョン・ウォン):立教大学教授●李賢淑(イ・ヒョンスク):韓国「平和を作る女たちの会」