出版物原水禁ニュース
2003.11号 

広島・長崎から58年・1
  −核兵器の現状報告−

スティーブン・シュウォーツ
『ブリティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』誌発行人・事務局長

◇35歳の核不拡散条約
 将来への希望か失敗か

 35年前の7月、核不拡散条約(NPT)が米、ソ、英によって署名された。これまで成立した軍備管理の合意の中でもっとも大きな成功を収めたともいえるこのNPTは、いわゆる水平核拡散−−確立された5つの核兵器国以外に核兵器が広がること−−を制限するのに役立ってきた(完全に阻止することはできなかったが)。
 ケネディー大統領は1975年までには核兵器保有国が15〜20ヵ国に達することを恐れたが、現在、核保有国は8ヵ国(米、ロ、英、仏、中、イスラエル、インド、パキスタン)、そして、活発に核兵器獲得に動いている国が後数ヵ国あるだけである。
 そして、この10年間で、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン、南アフリカ、ブラジル、アルゼンチンといった国々が、ソ連の崩壊後受け継いだ核兵器を手放したり、独自の核兵器開発計画を放棄したりした(イラクは言うまでもなく、第一次湾岸戦争の後、同国に課された厳しい国連・「国際原子力機関(IAEA)」の査察プロセスの下でその核兵器計画を解体することを強いられた。
今日条約に入っていないのは、イスラエル、インド、北朝鮮だけである。日本を含め10数ヵ国の工業国が核兵器を開発・配備する能力を持っていることを考えると、この成績は非常にすばらしいものといえる。
 NPTの核心をなすのは、核保有国と非核保有国の間の取引(バーゲン)である。条約に加盟する非核保有国は、安全保障及び監視されたかたちで民生用核技術へのアクセスを保証されるのと引き換えに、核兵器を持たないことに同意する。その代わり核保有国は、条約の第6条において「核軍備競争の早期の停止及び核軍備の縮小に関する効果的な措置につき、並びに厳重かつ効果的な国際管理の下における全面的かつ完全な軍備縮小に関する条約について、誠実に交渉を行うこと」を約束した。
 冷戦時代の軍拡競争は終わり、主要核保有国5ヵ国国の維持する核兵器の数は、ピーク時には6万5000発(1986年)だったものが、現在では、54%近く減少し、約3万発となっているが、NPTに加盟している非核保有国の多くは、核軍縮に向けた進展は少なすぎると主張している。核保有国の側、とりわけ米国は、これに対して緊張緩和や、核削減、最近のモスクワ条約の調印などは第6条に沿ったものであり、軍縮は段階的に起きるものであって、一気に起きるものではない、と主張する。
 しかし、この1年ほど、NPTは、他の多くの国際的合意と同じく、強化の一途をたどる重圧に曝されている。今年初めの北朝鮮による不幸なNPT脱退は、同条約の脱退の初めての例である。そして、表面化してきているイランの核の野望(ほとんどはNPTの下で合法的に達成されてきている)は、NPTの抱える明白な問題に光を当てること
になった。もしイランのような国が、NPTの下で核兵器を作る能力を(実際には作らないで)合法的に得ておいて、好きなときに、条約に縛られないで核兵器を開発するために、条約を放棄することができるとなれば、NPTは役に立つと言うより有害だ(なぜなら核拡散を規制するのではなく、可能にするからだ)と多くの政府・非政府専門家がいう。
 しかし、NPTに対する最大の重圧は、ブッシュ政権の国家安全保障政策から来ている。とりわけ、拡散の危険を除去するための先制攻撃を強調している点、そして、核兵器に改めて焦点を当てている点である。

米国の核のリバイバル

 議会の命令でブッシュ政権が提出した『核体勢の見直し』(2002年1月に完成)、2002年9月に発表した『国家安全保障戦略』、そして、それに続くかたちで2002年12月に発表された『大量破壊兵器と闘う国家戦略』は、米国の核ドクトリンと拡散防止政策の方向を相当に変えることになった。
 米国の以前の政権はすべて、拡散防止努力の焦点を兵器そのものに当ててきた。兵器が最大の問題だとみなされたから、それが広がっていくのをコントロールし、他の国がそれらを得ようとするのを思いとどまらせることに大きな努力が向けられた。しかし、今日では、「ならず者国家」やテロリストが核兵器を取得するのを防ぐことに力点が置かれている。(続く)
●訳・田窪雅文