出版物原水禁ニュース
2004.01号 

イラン核開発疑惑で揺れるNPT体制

〜ウラン濃縮、プルトニウム抽出の疑惑 NPT脱退の恐れ、英・仏・独の仲介で収拾〜

イランをめぐる核開発疑惑ほど、現在の核不拡散条約(NPT)体制の危うさを示している問題はありません。NPT条約第4条で認められている「核の平和利用」の権利は、いまや諸刃の剣となりつつあります。中東では特にイスラエルの核保有が黙認されているという状況が、問題をいっそう複雑化させていると言えます。昨年来のイラン核開発疑惑をまとめてみました。

IAEAイラン非難決議

 国際原子力機関(IAEA)理事会は、11月26日、イランが秘密裏にウラン濃縮やプルトニウムの抽出を長年に渡って行ってきたことを非難すると同時に、同国が情報の公開に向けて動き始めたことを評価する決議を採択しました。同決議は、また「イランの深刻な義務違反がさらに明らかになった場合には、理事会は直ちに会議を開き・・・IAEAの規約及びイランの保障措置協定に従い、可能なあらゆるオプションを検討する」と述べています。
 決議は、イランの行為が保障措置協定の不履行にあたるとして、国連安保理への付託を主張する米国と、これに反対する英仏独などの妥協の産物でした。1970年の発効以来の核拡散条約(NPT)加盟国であるイランは、IAEAとの保障措置協定の下で、核兵器用に転用しうる核物質(ウランやプルトニウム)の取り扱いについてIAEAに報告することを義務づけられています。安保理付託となれば、経済制裁などの措置がとられる可能性があり、そうなるとイランがNPTから脱退する事態も予想されました。決議は、今回は付託しないが、さらなる重大な違反があれば付託することを示唆すると同時に、IAEA事務局長に対し、調査を進め包括的な報告書を04年2月半ばまでに出すことを求めています。3月の理事会で検討するためです。また、未申告施設の査察や、環境サンプリングをはじめとする最新の技術の活用などをIAEAに認める追加議定書の締結と実施をイランに要求しています。NPTを守るための圧力が、北朝鮮に次ぐ第二のNPT脱退宣言をもたらし、逆にNPTの危機を招くという事態をかろうじて避けた格好です。

イラン反体制派が核兵器開発と告発

 ことの発端は、02年8月14日にイランの反体制組織(イラン抵抗全国会議)が、イランは少なくとも2カ所で核兵器開発計画を進めていると発表したことでした。これを受けて03年2月にIAEA事務局長らがイランを訪問(02年10月の予定が延期)した際、イラン側は、初めて、ナタンツの二つの濃縮プラント(完成間近のパイロットプラントと建設中の実用規模プラント)とアラクの重水製造プラント(建設中)の存在についてIAEAに説明しました。また、1991年に中国からウランを輸入していたことも認めました。そして、03年5月5日イランは、アラクでプルトニウムの生産に適した重水減速・冷却型研究炉の建設計画があることを書簡で初めてIAEAに報告しました。しかし、ナタンツやカライでのサンプリングで濃縮ウランが検出された後も、ウランを使った濃縮実験やプルトニウムの分離実験はしていないと主張し続けました。IAEAの専門家たちは、パイロットプラントの規模から言って、建設開始以前にウランを使った濃縮実験をまったくしていないとは考えられないと判断しました。(イランは、6月25日、IAEA理事会の要求を無視し、パイロットプラントへのウラン導入を開始。)

イランの核関連施設地図
各施設のポイント、地名をクリックすると、グローバル・セキュリティー科学・国際安全保障研究所(ISIS)のサイトにあるそれぞれの衛星写真などのページを開く、クリッカブル・マップ。リンク先の写真の多くはさらに大きな写真へのリンクになっています。
軽水炉 重水炉 重水製造工場
ウラン濃縮施設 ウラン鉱山 その他の研究炉・研究施設

事態打開に英・仏・独の外相がイラン訪問

 IAEA理事会は、9月12日の決議で、10月末までにIAEAが持つすべての疑問に答える措置をとることと、ウラン濃縮・プルトニウム抽出関連の活動をすべて中断するよう要求しました。イランは、期限切れを控えた10月21日、事態の打開を求めてテヘランを訪問していた英仏独外務大臣との会談の結果を声明の形で発表し、追加議定書の調印・実施と上記の活動の中断の意向を明らかにしました。イランは、また、同日付けのIAEA宛の書簡で、つぎのように認めました。「1998年から2002年にかけ、1991年に輸入した6フッ化ウランを使ってカライ電気会社で遠心分離器の実験を行った。1991年から2000年まで、[ラシュカール・アバドで]レーザー濃縮プログラムを実施していた・・・1988年から92年にかけて、7kgの2酸化ウランを照射し、[テヘラン原子力研究センターで]少量のプルトニウムを抽出した。」(しかし、イランは、ナタンツやカライで検出された濃縮ウランについては、輸入機器に付着していたものだとする主張を変えていません。輸入先の情報をイランから得たIAEAは、この主張の裏付け調査を進めています。)
 そして、11月10日、イランは、同日付けでウラン濃縮・プルトニウム抽出関連の活動を中断すると発表しました。しかし、何時これらの活動を再開するかは、イランが決めるとしています。
 英独仏は、イランにウラン濃縮・プルトニウム抽出計画を完全に放棄させるには、原子力平和利用に協力することが必要だと言っています。その中核をなすのがブシェール原発です。ペルシャ湾北岸に建設中のこの原発は、ドイツの会社が1974年に建設を開始、その後、イラン革命、イラン・イラク戦争などの影響で中断されていた2基のうちの1基の工事をロシアが再開したという変わり種です。燃料もロシアが提供する計画です。ロシアは、使用済み燃料のロシアへの返還についての確約を得た上で05年に運転を開始する意向です。2基目の工事開始については、両国の交渉が行われているようです。米国は、石油・ガス資源の豊富なイランが原子力に関心を持つのはそもそもおかしいと主張して、運転開始に反対してきました。将来、使用済み燃料からプルトニウムを抽出しないとの確信を持てないというわけです。しかし、イランの原子力開発の初期には米国も協力しています。プルトニウム抽出実験のためにウランの照射をしたのは米国が1967年に提供したテヘラン研究炉です。

核兵器保有への懸念をはらむNPT

 イランのケースは、原子力の平和利用に関する「奪い得ない権利」を非核保有国に認め、設備・科学技術情報を最大限に提供することを各国の義務としたNPTの弱点を示しています。どの国であれ、ウラン濃縮・プルトニウム抽出計画を平和利用目的と公表して進めることには、条約上、反対する理由はありません。NPTの下で核兵器用物質の製造能力を確立しておいてから、NPTを脱退することが可能なわけです。エルバラダイIAEA事務局長は、『エコノミスト』誌(03年10月18日)で、濃縮・再処理を多国間の管理化にある施設でのみ行うようにすることを提案しています。英独蘭合弁のウラン濃縮会社ウレンコのようなものを想定しているのでしょう。この案だと、日本の核燃料サイクル計画は違反することになります。(イランの濃縮施設は、このウレンコ型らしく、事情は複雑です。)
 核保有国以外によるウラン濃縮を禁止し、プルトニウム抽出は、全面的に禁止するというのがもう一つの可能性です。これには核保有国・非核保有国間の不公平を高めるものとの批判が当然でてくるでしょう。
 エルバラダイ事務局長は、上述の論文でつぎのように言っています。「核兵器の存在そのものが、その追求をもたらす。」核による抑止が効かないテロ集団を前にした今「『対テロ戦争』をきっかけとして、すべての国の利益になると同時に核兵器への依存を時代遅れとするような世界的安全保障文化に向かって動くべきであろう。」

(田窪雅文)