出版物原水禁ニュース
2004.01号 

広島・長崎から58年・3
─核兵器の現状報告─ スティーブン・シュウォーツ

『ブリティン・オブ・ジ・アトミック・サイエンティスツ』誌発行人・事務局長

◆冷戦の残滓──今なお続く米ロの核の危険

 10年前に冷戦が終焉したにも関わらず、米国とロシアは、未だに両国合わせて1万9000発の核兵器を配備し続けている。世界の総量の95%である。毎日毎日、これらの兵器のうちの数千発が、陸上あるいは海上配備の弾道ミサイルに載せられ、数分でそのターゲットに向けて発射できる一触即発の警戒態勢に置かれている。われわれが長年に渡って心配していたような意図的な核戦争の可能性は日増しに遠ざかっている。しかし、偶発的な、あるいは許可されていない核兵器の発射の可能性は、それが米国側のものであれ、ロシア側であれ、受け入れようのない高さに留まっている。その理由は、どちらの国も、世界が非常に異なる状態にあった50年ほど前に最初に作られたターゲット計画や核態勢を変えようとしないことにある。それぞれの核態勢はある程度、相手の側によって決まってくるから、米ロ両国の市民、そして世界の他の国々の多くも、想像を絶する力を持った核兵器の人質となってしまっているのである。この状況は、冷戦時代よりも危険になっているといって良いだろう。
 なぜなら、今日ではほとんどの人々が、未だに何万発もの核兵器が存在し続けていることを知らないからである。いまでも、わずか10分のうちにそのターゲットに到着できるということについては、なおさら知らない。
 状況は、ロシアの否定のしようのない経済問題によって、大幅に悪化している。米国のミサイル発射地域に対するロシアの衛星の監視は、もはやほとんど存在していない。このことは、ロシアが、向かってくる弾道ミサイルを探知・追尾するのに、ほとんど地上配備のレーダー網だけに頼らざるを得ないことを意味している。しかし、そのレーダー網は、冷戦終焉以来衰退してきており、ロシアの北部海岸沖に位置する米国の潜水艦のミサイル発射地域からロシアの東海岸のほとんどに至る地域にギャップが存在しているのである。その結果、毎日のほとんどの時間、ロシアの担当者らは、攻撃に曝されているのかどうか、信頼性をもって判断しようのない状態に置かれているのである。ロシアのミサイルの警戒態勢が冷戦時代のレベルで維持されているのは主としてこのためである。偶発的な、あるいは、許可されていないミサイル発射の可能性の問題は、とりわけ危機状況においては、いくら強調しても強調しすぎるということはない。
 ブッシュ政権は、モスクワ条約(戦略攻撃兵器削減条約)で両国の核兵器をそれぞれ1700〜2200発に減らすことによって、これらの問題に対処できると主張する。しかし、この合意は、極めて欠陥が多く、意味のないものであるため、条約と呼ぶに値しない。たとえば、削減のための段階的期限がないため、両国は、2012年の条約期限切れの日まで、どんなに削減を少なくしても、多くしても、勝手なのである。そして、期限切れの日が来れば、「削減」は、無意味となる。多弾頭の「MIRV(多弾頭各個目標再突入弾)」型ミサイルは、もっとも危険で破壊力の大きなものだが、禁止されていない(消滅してしまったSTART2(戦略核兵器削減条約)では禁止されることになっていた)。削減は、作戦配備された戦略核(射程の長い核兵器)だけに適応されるものであり、しかも、その核弾頭(ミサイルのサイロ、潜水艦、爆撃機でさえ)の廃棄を定めた規定はない。これは、核兵器を警戒態勢から外し、貯蔵しておいて、いつでもまた配備できるということを意味する。実際モスクワ条約の下では、米ロ両国は、ビル・クリントン大統領とボリス・エリツィン大統領が1997年に合意したSTART3の枠組みの下で考えられていたより多くの核兵器を配備できるのである。

ブリティン・オブ・アトミック・サイエンティスツ表紙
「ブリティン・オブ・アトミック・サイエンティスツ」誌は発行以来
核戦争による終末の時が、あと何分かを示し続けている。

◆時計を元に戻す

 象徴的な「終末時計」の管理者として、われわれは、核拡散と核戦争の危険性という言う意味で、今何時であるかを世界に告げる責任を真剣にとらえている。1947年以来、われわれの時計の針は、17回動いている。1953年には真夜中(終末を象徴する)から2分のところまできた。米ロが恐ろしい水爆の実験を行った後のことである。1991年には、真夜中から17分のところまで後退した。冷戦の終えんの歓喜とSTART1が劇的に示した核兵器重視姿勢の変更かに見えた事態を受けてのことである。
 今日、時計の針は、真夜中から7分のところにある。針が最後に動いたのは、2002年2月27日のことである。いつ針が動くか──そして、どちらの方向に動くか──は、この先数ヶ月、数年のうちに世界の指導者らが何をするかだけでなく、皆さんや私が、そして、人類全体がわれわれの指導者らに核兵器は互いの安全保障にとって問題であって解決策ではないことをいかにして訴えるかにもかかっている。核兵器は、安全保障の幻想を提供するだけであって、互いを素早い無差別的消滅で脅し合っている限り、真の恒久的な平和は決して達成できないことを悟るべき時は、とっくにすぎている。(訳:田窪雅文)(完)