出版物原水禁ニュース
2005.2号 

NPTへ向けたエルバラダイ提案を考える

核廃絶へ向けたIAEAの危険な動き

米イラク侵攻の失敗、予断を許さぬ朝鮮半島

 被爆60周年を迎えた今年は、いろんな意味で大きな転換の年になると考えます。

 米軍のイラク侵攻は、1月末の選挙を待つまでもなく失敗は明らかで、今年一杯は駐留を続けるでしょうが、いま以上の増派はきわめて難しく、米国は撤退か徴兵制への移行かの選択を迫られるでしょう。

 北朝鮮問題も米国の対応にかかっていて、6ヵ国協議を継続することははっきりしていますが、昨年と同様、存在自体があいまいなウラン濃縮施設を含めた完全廃棄を求め続けるのかが、一つの焦点になるでしょう。しかし米国がその方針を変更するには、大きな政策変更が必要で、現在までは米国に変更の兆しは見えていません。六者協議が行き詰まり、最悪の場合、安保理付託、武力行使という事態も想定できます。

この最悪路線に関連するのが、日本の拉致問題のこう着からくる経済制裁です。日本がもし経済制裁に踏み切れば六者協議の停滞、安保理付託へと進む危険もあります。

NPT崩壊の危険と米国の姿勢

ところで、2005年はNPT(核不拡散条約)再検討会議が開かれます。2000年の再検討会議では、核保有国が「核廃絶への明確な約束」を含む13項目の合意が行われましたが、ブッシュ政権は、「核不拡散をめぐる情勢は劇的に変化した」「法的な拘束力ある指針とみなさない」として、この合意に縛られないとの認識を表明していると伝えられます(12月31日、共同)。

このような米国の立場は、崩壊の危機に立っているNPTを一層危ういものにすることは免れません。

米国は「拡散防止構想」(PSI)という、核兵器転用物質輸送の航空機や船舶を臨検する体制の構築を目指し、すでに昨年10月の東京湾での合同訓練を含めて12回もの訓練を行っています。しかしPSIは武力によって新たな核保有国出現を阻止するという姿勢ですが、自らは核軍縮・核廃絶への展望は示していません。

これはNPTを、新たな核保有国の出現を阻止する手段としてしか利用しないというもので、NPTの精神に立ち、NPTの欠陥を補完するという姿勢ではありません。このようなPSIに日本政府が参加すること自体、大きな問題があります。

IAEA事務局長の提案

一方、IAEA(国際原子力機関)のエルバラダイ事務局長は、核不拡散体制を強化するため、ウラン濃縮や再処理施設の新設を5年間凍結する案を、NPT再検討会議に提案すると、1月6日の各紙で報道されました。しかしこの提案のなかには、六ケ所村の再処理工場は含まれないとも報道されています。

このエルバラダイ提案は、昨年11月に「国連改革検討ハイレベル諮問委員会」が出した最終答申に「ウラン濃縮・再処理の自発的凍結」が盛り込まれているのを基にしたと伝えられていますが、答申の詳細は明らかでありません。

エルバラダイ事務局長は、ウラン濃縮・再処理の国際管理などを含めたあり方を検討するために、とりあえず5年間の凍結を提案するというのです。

ただ、日本は濃縮・再処理の国際管理に反対の姿勢を打ち出しています。

IAEAとは

IAEAとはどのような組織なのかを説明しましょう。1953年秋の国連総会で、米・アイゼンハワー大統領が「平和のための原子力」を提案し、原子力平和利用のための国際機関設立構想を提案しました。この提案を受けて56年にIAEA憲章が採択され、57年に設立されました。

こうした経緯があるため、IAEAは国連の機関ではありませんが、国連総会や安保理事会に年次報告を提出するなど、密接な関係にあります。IAEAは原子力の平和利用促進のための必要な援助・支援を行うことと、原子力の軍事転用を防止するという、2つの目的を持っています。

NPT(核不拡散条約)が70年に発効した後は、NPTに加盟する国は、原子力を軍事転用しないためにIAEA憲章とNPT条約に基づく「保障措置協定」をIAEAと結んでいます。保障措置協定には「包括的協定」と「個別協定」があり、さらに核兵器国による「自発的協定」があります。核兵器国はこの自発的協定によって、査察を受けなくてよいことになっています。ただイスラエル、インド、パキスタンはNPTに参加していないため、全く査察をうけていません。

しかし、イラク、北朝鮮などの核武装疑惑国が増加しているという状況のなかで、未申告の施設に対してもIAEAが直前の通告によって「抜き打ち査察」ができるように、「追加議定書」を「保障措置協定」に追加する決議が97年総会で決議されました。この「追加議定書」は各国がIAEAと個別に締結することになっています。しかし04年9月でIAEA加盟国は140ヵ国であるのに対して、「追加議定書」署名国は86ヵ国に過ぎず、多くの国が抜き打ち検査などを受けたくないと考えているようです。

さらに保障措置協定の合理化、効率化のための「総合保障措置」について議論され、02年3月の理事会で総合保障措置適用方法の基本概念が採択されました。それはIAEAが、核物質の転用も、未申告の核物質も原子力活動の兆候もないとの結論を出すことが必要で、日本は04年6月にそのように結論され、9月より適用されることになりました。現在までのところ日本はIAEAの優等生といえます。

エルバラダイ事務局長の核物質管理案

エルバラダイ事務局長は、昨年6月21日にカーネギー平和財団で「核不拡散:急激な変貌を遂げる世界におけるグローバルな安全保障」という題で講演していて、この講演の抜粋訳がピース・デポの「核兵器・核実験モニター」224号に掲載されています。

エルバラダイ事務局長は核物質の管理、核軍縮への誓約、集団的安全保障の3つの分野で提案していますが、前記の新聞報道に関連する核兵器転用可能物質管理の部分について紹介します。

エルバラダイ事務局長は、核物資管理について、@核物質および核技術に対する輸出管理を厳しくしなければならない。核物質の輸出管理は任意でなく拘束力を持つべきであり、核関連物質を製造する能力を持つすべての国を含めるために適用されなければならない。A現行の核不拡散体制における核燃料サイクルに適用される管理の有効性や妥当性を再考しなければならない。それは多国間管理の下で事業を管理するという合意によって、再処理やウラン濃縮を制限するということの検討。使用済み核燃料の貯蔵を、貯蔵可能な国への貯蔵。B各国の民生用原子力計画で、兵器使用可能物質(プルトニウム、高濃縮ウラン)の使用を止めることへの支援。C現存する核兵器使用可能な物質の廃棄。高濃縮ウランは希釈して廃棄する。プルトニウムについては発電用にMOX燃料として燃やすか、ガラス状にして処分するために高濃度の放射性廃棄物と混ぜるかの結論はまだ出ていない。D高濃縮ウランやプルトニウムの備蓄が廃棄されるまで、物理的保安・防護措置をとること。

エルバラダイ提案の危険性

エルバラダイ事務局長は、このほかにも核軍縮へ向けた検証可能で不可逆的なロードマップ作成を提案し、ブッシュ政権の新型核兵器開発を厳しく批判しています。また、インド、パキスタン、イスラエルの参加する核軍縮交渉テーブルの設定を提案しています(2.(核軍縮へ向けた)誓約の刷新と拡大)。

また集団的安全保障のための制度改革にも言及し(第3項)、国連安保理が効果的な予防外交と強制措置を用意すること。危険と不安定の原因に集団的に対処する必要。(核不使用などの)国際法の「絶対規範」の成立に向けた核兵器関連法体制の整備を訴え、これらの問題が市民社会において公開で討論されることを求めています。

エルバラダイ事務局長は、NPT条約とIAEA憲章にそって、原子力の平和利用を存続させつつ、核兵器の拡散を防止し、核軍縮を進めていくための大胆な提案を行っているのです。

問題は、エルバラダイ事務局長が原子力の平和利用はあくまで続けるという立場に立っているため、いくつかの大きな危険(弱点)をもっていることです。

第1に、再処理施設の共同利用の発想です。再処理によってどれだけ放射能汚染が周辺に被害をもたらすかの配慮がまったくありません。

第2に、使用済み核燃料の多国間管理で、具体的にロシアの名をあげています。これは一つの国に大量の使用済み核燃料を持ち込むことを意味します。何千年、何万年にもわたって管理の必要な使用済み核燃料を他国に移送し、処分する権利は誰にもありません。

第3は、再処理されたプルトニウムのMOX使用に反対していないことです。MOX=プルサーマル運転による危険などはまったく考慮されておらず、さらにMOX燃料を使用してもプルトニウムほとんど減少せず、処理の厄介な超ウラン元素を作り出します。

私たちの要求は、全ての国の再処理に反対し、プルトニウムなどの核兵器転用可能物質の国際管理です。そのための国際的な連帯した運動を進めましょう。


(W)