出版物原水禁ニュース
2005.3号 

在外被爆者訴訟─広島高裁で国に賠償命令

三菱広島徴用工・被爆者裁判を支援する会 中谷 悦子

 2005年1月19日、三菱広島徴用工訴訟控訴審で、厚生労働省が被爆者援護法を在外被爆者に適用せず(1)被爆者手当の交付を認めず、各種手当て支給認定をしないことは法の目的・趣旨に反し、(2)やむを得ない理由で来日できない在外被爆者に、来日できないことを以て申請を受理せず、または却下し、処分しないことは不合理な差別として違法である、(3)その原因をつくった402号通達による損害として、原告一人に対し100万円の損害賠償を命じた判決が下されました。 今回の判決で強く糾弾・指摘されたのは、日本政府の在外被爆者援護のあり方と厚生労働省官僚の業務のあり方であり、1957年に制定された原爆医療法、1968年制定の原爆特別措置法のいわゆる原爆二法、それを受け継ぐ形で1994年に制定された被爆者援護法の立法の原点に返れということです。

 この裁判は、戦争中に三菱重工広島機械製作所に強制連行され被爆した元徴用工たち40名が、強制連行・強制労働の慰謝料、未払い賃金、被爆後の放置、在韓被爆者が被爆者援護法の実質的な適用外とされてきたことに対する損害賠償などを求めておこしたものです。日本敗戦50年の1995年に46名の原告によって提訴された第1審では、時効・除斥という月日の経過を盾に原告たちの訴えを全面的に退けただけに、今回来日した原告たちの喜びはひとしおでした。この間に死亡した原告は25名にのぼり、高齢化の進行を考えると、10年という歳月は原告たちにとって生き抜くことの厳しさを突きつけた年月でもありました。

 在外被爆者への被爆者援護法不適用による違法判決では、(ア)被爆者援護法に一貫して謳われている法制定の趣旨、目的が、被爆という極めて特殊で深刻な被害を受けている被爆者一人ひとりを救済することにあり、高齢化の進行という現実に対応することを求めていることに改めて言及し、「被爆者救済のために制定された法律が、技術的、形式的な要件のために、被爆者に適用されないというのは本末転倒である」と強い言葉で指摘しています。

国はこの裁判の中で、「日本国内に現在居住しない被爆者に対して被爆者援護法が適用されないことは立法の審議経過から明らかであり、原爆被害による損害に対する補償は高度の政策的判断を要する問題で、立法府の政策的・技術的な判断に委ねられている」という主張をしていましたが、判決では、「法の解釈は、法の趣旨、目的に照らして法文を合理的、合目的的に解釈するべきものであり、立法の経過や、これらから推察される立法者意志は、個々の具体的な問題にまで及んで論議されてはいないので、あくまでも解釈の際の参考であるにすぎない」と断言しています。被爆者個々人の救済の立場に立つならば、来日出来ない場合についての代替手段や方法があるはずであり、そのために必要な調査も行ってこなかったことにもふれています。

(イ)402号通達(74年7月の旧厚生省局長通達)については、孫振斗裁判で在外被爆者への手帳交付を認めざるを得ない立場に追い込まれた日本政府が、在外被爆者からの申請者数が大幅に増加するであろうことを予測し、歯止め策として通達を出した形跡が強いことを指摘し、廃止とそれに伴う扱いが改正されてから後に申請が殺到し、未だ未処理があることを現実的な裏付けとして、402号通達発出に関わった厚生省(当時)役人に過失があったことを認めています。その結果、原告たちが「被爆者としての具体的権利や利益を喪失し」、「失望感、不満感、怒り、無念さ、被差別感、焦燥感という精神的な損害を受けた」としてとして損害賠償を命じました。

 通達が廃止された2003年3月1日以降、各種手当が韓国にいても支給されるようになり、在外被爆者問題は解決されたと考えている人が多いのですが、来日しない限り、申請を受理しない姿勢は変わらず、病気のために来日できない人は健康管理手当を受け取ることができない現実があります。

残念なことに国は最高裁に上告をしましたが、被爆者救済の観点に立ち、最高裁での勝利を勝ち取り、判決を確定しなければなりません。全国のみなさんにも被爆者の高齢化に伴い一刻を争う問題として考えていただきたいと思います。

原告たちが訴えてきた強制連行・強制労働の不法性については、残念なことに国の不法行為の可能性が認められましたが、三菱については認められませんでした。しかし、国家無答責論(旧憲法下では個人の損害への賠償を負わないとする)を退けているなど、司法の流れを感じるものもあり、人間の尊厳の回復と社会正義の実現のために、原告たちは最後まで闘いを続けていく決意を固めています。