出版物原水禁ニュース
2005.8号 

弾道ミサイル「防衛」への疑問

軍事問題研究会 桜井 宏之

軍需産業技術担当者も認めた

「届くかどうかについて言える立場にない」。その発言は、良心の呵責に耐えかねたかのように筆者には感じられました。

 これは、昨年11月11日ー12日に開催された「第4回日米安全保障戦略会議」(主催:安全保障議員協議会他)で開催された「日本におけるミサイル防衛の課題」と題するセミナーでの出席パネラーの発言でした。

 同セミナーは、弾道ミサイル防衛(BMD)に関係する日米軍需産業の技術担当者が、BMDの技術的有効性をアピールするというものでした。

 会場からの質疑応答が許されたのを機会に筆者はこれまで疑問に思っていた、イージス艦から発射されるSM‐3ミサイルの迎撃高度が、北朝鮮から飛来するノドン・ミサイルの飛翔高度に届くのかという質問をぶつけました。冒頭の発言は、日本側パネラーによるその回答です。

 この回答で筆者のこれまでの疑問は確信に変わりました。日本がこれから導入するBMDシステムの中核をなすイージス艦搭載SM‐3ミサイルの迎撃高度では、北朝鮮ノドン・ミサイルを迎撃することができないのです。

弾道ミサイルの特性

 弾道ミサイルは爆弾などの弾頭を弾道飛行させるミサイルです。弾道とは重力によって放物線を描いて物体が飛行する道筋のことであり、弾道ミサイルはロケットとその誘導装置によってその道筋を付けます。ミサイルの誘導と加速はロケットエンジンの停止によって終わり、後は放物線を描いて目標に向かって飛翔することになります。

 ちなみにブースト段階というのは、ロケットエンジンの停止までのことをいい、この段階で迎撃すれば弾頭は目標に到達することはあり得なくなります。また弾道が放物線を描くのは地球の重力によるものですからエンジン停止後のミサイルの方向と速度が決まってしまえば、弾道は決まってしまいます。この段階をミッドコース段階といい、弾着直前をターミナル段階というのです。

 またエンジン停止時に地表と平行の面に対して45度の角度である場合が最も飛翔距離は伸びることになり、この際の最高飛翔高度は射程距離の1/4程度となります。当然、弾道ミサイルである限り、いかなる国のものであろうともこの原理から逃れることはできません。

 そこで最大射程が1,300kmといわれているノドン・ミサイルが最長弾道で発射された場合、最高飛翔高度は射程の1/3〜1/4程度(単純計算では1/4であるが、ブースト段階の上昇分や重力が減少することを考慮すると、計算上よりは高くなる)となり、概ね高度433km〜325kmを飛翔することになります。

SM‐3では届かないわけ

 現在の科学技術では弾道ミサイルの射程は、ミサイルのサイズにほぼ比例します。これは大型のミサイルの方がそれだけ燃料を搭載できるからです。大砲が、弾頭重量が重くなるにも関わらず、砲弾に詰める火薬量が増えるため、大口径ほど射程距離が長くなることと同じ理屈であると考えてもらって良いと思います。

 イージス艦のミサイル発射システムであるVLS(垂直発射システム)はミサイルを収納する容器の規格が定まっており、それを超える大型のミサイルを収納することはできません。そして現在の技術では、このVLSに収納できるサイズのミサイル(つまりSM‐3)は、ノドンの飛翔高度に届くほどの迎撃高度を得ることができないのです。

 冒頭のパネラーの発言は、筆者のこの指摘に対する婉曲の肯定だったのです。