出版物原水禁ニュース
2005.11号 

英国再処理工場:大規模な漏えい事故

原子力資料情報室 澤井 正子

事故を招いた「新プラント信仰」

イギリスの再処理工場「ソープ」で4月に見つかった漏えい事故について、施設を運転している英国原子力グループ・セラフィールド(BNG)の『調査委員会報告書』が8月になってから公表されました。『報告書』はBNGが5月下旬にまとめたもので、工場の所有者である政府の原子力廃止措置機関(NDA)の代表もオブザーバーとして参加しています。NDAの方の調査はいまも続いており、今年中にまとめられる予定です。ソープ工場での事故調査・復旧作業はあまり進んでいないようで、少なくとも来年3月までは工場が動く見込みはありません。

配管破断原因は「金属疲労」

ソープ工場で4月18日から19日ごろ、計量セル(計量槽が設置された小部屋)で約83立方メートルの使用済み燃料の硝酸溶液の漏えいが見つかり、計量槽へ溶液を送っている配管が破断していることが確認されました。示した図は事故を起こしたソープ再処理工場の清澄・計量工程の断面をあらわしています。図にはありませんが、この工程の前に使用済み燃料貯蔵プールや燃料の剪断(せんだん)工程があり、その後、剪断した燃料を硝酸に溶かす溶解工程があります。そこで作られた溶液が、清澄機供給槽→清澄機→分配機→計量槽→中間貯槽と経由して、次の分離工程へと移送されます。

THORP再処理工場ー清澄・計量セル断面図

【THORP再処理工場ー清澄・計量セル断面図】

(『NUCLEAR ENGINEERING INTERNATIONAL August 2005』から作成)

清澄機では、硝酸に溶けない使用済燃料の残りカスを遠心分離法によって分離します。計量槽では、「死の灰(核分裂生成物)」「ウラン」「プルトニウム」の3つの成分を分離する次の工程のために、溶液の計量、硝酸濃度の測定・調整が行われる。計量槽はAとBの2つ設置されています。破断した配管はB槽へ接続されていたもので、破断箇所は槽の上部と配管の接続部分です。計量槽は天井から吊下げられ計量台に4本のロッドによって支持されており、上下に移動するしくみです。当初の設計から変更され、容器の動きを抑制する目的の「耐震ブロック」が設置されていなかったことも重なり、配管の接続部分に"過大な負荷"がかかり「金属疲労」が生じ破断に至った、と『報告書』は断定しています。

2004年7月頃から亀裂発生

『報告書』は「金属疲労」の根拠として、(1)運転中の計量槽がの振動データ、(2)溶液のかくはん・吐出の間の容器の移動記録、(3)容器の振動サイクルが設計値より増幅された可能性などをあげています。「配管が破断したのは2005年1月15日前後と推定されますが、これ以前から配管では漏えいが始まっており、それは2004年7月くらいまでさかのぼる」といいます。漏えいが事故発覚の約9ヶ月前から発生していたことを示す証拠としては、2004年7月から溶液の発送受領データで核物質量の不一致が確認されていたことや、同時期から2005年3月までに漏水警報器が100回以上警報を出したが運転員がこれに注意を払わなかった事実が報告されています。

「新プラント信仰」

『報告書』で一番驚いたのは、「新プラント信仰」とでも呼ぶべき考え方がソープ工場の運転員らを支配していたという点です。「計量担当者や運転員、チームリーダー、そして管理担当者らの回答は、このような規模の漏えいはありえないことであり、書類に何かの間違いがあるにちがいない」、「大規模な破断などありえないとする観念の奥には、ソープには漏えいなどあり得ない、最高の水準で建設された新しいプラントであるという思い込みがあった」など、現場の生々しい声が報告されています。

大量の高レベル放射性物質を扱う原子力プラントとしての危険性と化学プラントとしての危険性を合わせ持つ再処理工場の運転員たちが、施設の持つ危険性を全く自覚しないまま、工場の運転を10年間も続けていたのです。工場竣工直後だけではなく10年経っても、「新プラント信仰」が「ソープ工場内のあらゆるレベルに浸透している」というのだ。原子力産業における「安全神話」という虚偽性はこんな状態にまで至っています。

■ソープ(THORP)は、Thermal Oxide Reprocessing Plant(熱中性子炉酸化物燃料再処理工場)の略。

■『BNGS報告書』は、
http://www.bnfl.co.uk/library/upload/docs/005/2765_1.PDFで公開されている。