出版物原水禁ニュース
2005.12号 

《在外被爆者・長崎訴訟/原告完全勝訴》
司法にも良心は残っていた──在外被爆者裁判上告も断念させ確定

全国被爆二世協会長 平野 伸人

残された課題の解決に全力を注ごう

 在外被爆者問題は、外国にいるという理由だけで日本国から差別され続けた「被爆者」が被爆者援護法に基づく平等な援護を求めて国を相手にたたかいつづけた歴史です。

 国(厚生労働省)は、被爆者援護法が「国家補償に基づく」ものではなくあくまで「社会保障法」であるという立場を変えず、日本国外の被爆者(在外被爆者)を、被爆者援護法の対象とすることを拒み続けてきました。在外被爆者は、韓国や北朝鮮やアメリカ・ブラジルなどに5,000人あまり現存します。しかし、この数もあくまで推定にすぎず、未だに多くの被爆者が援護から取り残されています。このような行政の怠慢に対して、在外被爆者は協力して、司法の手により解決の糸口を見つけようとしました。そして、多くの在外被爆者裁判により、「被爆者の権利」を獲得していきました。しかし、国はその都度、司法判断のぎりぎりの対応しか示さず、今回の崔季澈(チェ・ゲジョル)さんのように来日できないために援護が受けられない在外被爆者が出てきました。本当に援護が必要な被爆者が見捨てられていました。崔さんは、在外被爆者の来日要件の撤廃を求めて、長崎地裁に提訴しました。

「被爆者はどこにいても被爆者」という司法判断が定着している現在、海外からの申請を認めないとか、死亡した場所が日本でないから葬祭料を支払わないなどという理不尽な行政対応が認められるわけがなく、当然の長崎地裁判決は原告の完全勝訴でした。しかし、昨年7月に、原告の崔季澈さんは78歳で亡くなってしまい、崔さんを救いたいという裁判の当初の目的は果たせませんでした。それでも、今後、崔さんのような人を出さないためにと、裁判は続けられました。そして、一審勝訴をかち取りました。しかし、被告・長崎市は無謀かつ不当な控訴をおこなってしまいました。長崎市は国の意向に逆らえず、高齢化し一刻の猶予もなく救済を求めている在外被爆者を苦しめる暴挙をおこなってしまったのです。さらに、広島における在米被爆者裁判においても原告の訴えを認める判決が下されましたが、広島市も控訴してしまいました。こうして、福岡高裁での判決に注目が集まったのです。

 9月26日午後3時、福岡高等裁判所501大法廷は、100人を超える傍聴者で埋め尽くされました。開廷後の判決言い渡しでは、在外被爆者崔季澈さんが寝たきりで来日できないため、韓国から申請した健康管理手当の却下処分の取り消しを求める裁判と崔さんが死亡したために遺族が請求した「葬祭料請求」の却下処分の取り消しを求める裁判において原告勝訴の判決が下されました。一審判決を踏襲し、かつ在外被爆者を差別している被告の責任を厳しく断罪する内容でした。完全勝訴です。

 司法判断は明らかであるにもかかわらず、両市と、両市を操る国(厚生労働省)は、時間稼ぎのためとしかいいようのない控訴を行いました。そして、控訴から一年、当然ながら正義公正に基づいた判決が下されました。これまでの、国の被爆者援護のあり方が根本的に問い直される重要な判決といえるでしょう。

 当然の判決とはいえ、上告して、時間稼ぎをするのではないかという一抹の不安はありましたが、国の論理はことごとく退けられ、上告する理由もなくなり、国と、その操り人形にすぎない「被告・長崎市」はついに上告を断念するに至りました。崔季澈さんのような被爆者を再び出さないためにも、国はこの判決の意味を十分に認識し、在外被爆者の完全援護の道を探ってもらいたいと思います。それが、亡くなった崔さんの思いに答える唯一の方法です。