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2006.1 号 

話し合うことが罪になる「共謀罪」の本質

日本消費者連盟 吉村 英二 

「小泉劇場」の与党圧勝により、成立も秒読みかと思われた「共謀罪」新設法案は、来年以降に決着が持ち越されることになりました。特別国会では、衆議院での採決にも至らず時間切れとなり、1月からの通常国会では再び衆議院法務委員会から審議が始まります。

 これで同法案は、2003年3月の初上程以来、衆院解散による2度の廃案も含め、3年もの間国会にかかったままです。これだけ長期にわたって継続される法案も珍しく、それこそが問題の大きさを証明していると言えるでしょう。

 日本消費者連盟も連絡先のひとつを担っている盗聴法(組対法)に反対する市民連絡会ではこの間、平和フォーラムなど18の団体とともに、「話し合うことが罪になる共謀罪の新設に反対する市民団体共同声明」を呼びかけてきました。この共同声明には、05年12月8日現在で全国の約300の労組・市民団体から賛同が寄せられています。こうして高まった労働者・市民の反対の声も、同法案を成立させなかった大きな要因であることは間違いありません。

 この共同声明の中で私たちは、「共謀罪は、憲法の保障する内心、言論・表現の自由を侵す違憲の法律」だとして、その新設を断念するよう求めています。

 法務省は、こうした私たちの批判に対し、「それは曲解だ」として、「共謀罪」新設法案は、いわゆる暴力団やテロ集団、振り込め詐欺グループなどを対象として想定したもので、適用については厳格な要件によって限定されているとの説明を繰り返し、「市民団体や労働組合などには適用されず、まして居酒屋での冗談程度では共謀罪は成立しない」と強調してきました。

 しかし、本音の部分では別のことを目指していることが、先の特別国会の審議の中で明らかになりました。

 問題の「共謀罪」適用要件は、特別国会でも審議の焦点でした。適用要件については法案ではまったく不明確で、与党からでさえ疑問が投げかけられています。まさにその焦点をめぐる議論の中で、私たちの批判を裏付ける、驚くべき政府答弁がなされていたのです。

 05年10月25日の衆議院法務委員会では、民主・社民両野党から、執拗にこの点に関する質問が繰り返されていました。「条文に則せば、どのような団体であろうと『共謀』は罪に問われるのではないか」との追及に、法務省は「ケース・バイ・ケースだ」と逃げながらも、ついには「犯罪を目的とした団体」が適用対象だと答弁するまで追いつめられました。

 そんな中、民主党の枝野幸男議員が、「では、ある政治団体が政治資金規制法の届け出義務を怠った場合、または公職選挙法の組織的買収の罪を働いた場合はどうだ」と問い正したのに対し、富田茂之法務副大臣(公明党、弁護士出身)は、次のように答弁したのです。

「その候補者が当選してどういう政治を目指すのかとか、(中略)そこがどういう目的を持って行動しているのかというところも総合的に判断しなければ、これは一概に言えないと思いますけれども」。

 この答弁のポイントは二つ。一つは「犯罪を目的とした団体が対象だ」と言いながら、結局は政治団体も対象となり得ることを認めたこと。さらには、その政治団体が「どういう政治を目指す」のかによって適用の有無が決まると述べたことです。「目指す政治」「目的」の内容によっては処罰するということであるなら、これは「思想を処罰する」と宣言したも同然ではないでしょうか。この答弁で法務省は、はからずも大きな矛盾を抱えてしまったと言えるでしょう。

 すなわち、野党が追及したように、「共謀」だけを要件にすれば、すべての市民に対象が及び、それこそ居酒屋の冗談も取り締まりの対象となります。本音は別にして、法務省もそれだけは認めるわけにはいきません。「厳格な要件がある」との筋を通すには、別に要件が必要だと説明する以外にないのです。しかし、下手に客観的な要件を提示してしまっては、結果的に処罰対象を狭めることになり、それでは元の木阿弥となります。勢い、プラスされる要件として団体の「目的」を挙げてみたはいいものの、それでは今度は、それこそ本当に思想を処罰することになってしまうわけです。

 そもそも、暴力団にしろ詐欺グループにしろ、犯罪は「お金儲け」という目的達成への「手段」でしかありません。「お金儲け」は憲法にも認められた「正しい目的」だから、「目的」をも要件にすれば、法務省が法案の対象と説明している犯罪集団が、今度はほとんど網にかからないということにもなってしまいます。

 いずれにしろ、この答弁が法案の本質を表していることは間違いありません。

盗聴法(組織的犯罪対策法)に反対する市民連絡会のウェブサイト参照