出版物原水禁ニュース
2006.2 号 

チェルノブイリ原発事故から20年

渡辺美紀子(原子力資料情報室)

昨年9月、ウィーンで開催されたIAEA(国際原子力機関)主催のチェルノブイリ国際会議で、「チェルノブイリ原発事故の放射線被曝による最終的な死亡数は約4,000人」と推計する調査結果を発表しました。

 IAEA、世界保健機関、国連開発計画など8つの国連機関とウクライナ、ベラルーシ、ロシア被災3ヵ国の専門家で構成されるチェルノブイリ・フォーラムがまとめた報告書「チェルノブイリの遺産」によると、死者4,000人の内訳は、これまでの明らかな死者が約60人(急性障害死28人、急性患者のその後の死亡19人、子どもの甲状腺がん死9人)、白血病を含むがん死が3,940件とされています。3,940件の内訳は、1986〜87年に消火や除染活動に従事した兵士や消防士20万人から2,200件、汚染地域からの避難住民11万6,000人から140件、高汚染地域の住民27万人から1,600件となっています。

この報告では健康被害につながる放射線をあびた可能性があるのは約60万人と限定され、高汚染地域ではないとされる汚染地域住民680万人に対するがん死5,000件などは、全体の数字からははずされてしまっています。会議では、「チェルノブイリの放射線被曝による健康影響は、小児甲状腺がんとロシアの高線量被曝した事故処理作業者の白血病の増加のみ」というのが主な見解として示されました。事故処理作業者の白血病の増加については、新たに認めたものです。乳がんなど他のがんや遺伝的影響については、「統計的に有意ではない」、「被曝との相関関係が認められない」などの理由で、すべて切り捨てられてしまっています。また、循環器や消化器疾患などがんや白血病以外の病気の増加については、ストレス、貧困、アルコール依存や喫煙などの社会的、精神的な問題であり、「人びとの不安をあおるような誤った情報」が健康状態を悪くしているとしています。ヨーロッパ諸国をはじめとする地球規模で広がった放射能汚染による被曝についても、まったく無視されています。事故から20年経過し、放射線被曝による被害はそれほど深刻ではないと結論し、被災地の援助対象者をしぼり込み、援助から経済振興へとかじを切ることが必要と提言しています。「被害の影響は予想よりはるかに小さかった」という結論で幕引きをしてしまおうと姿勢は断じて許されません。チェルノブイリ事故の影響は20年で到底けりがつくものではありません。放射線被曝とそれにともなう健康影響の「科学的解明」だけにこだわると、チェルノブイリ原発事故という大惨事の全体が見えなくなってしまいます。放射線被曝による免疫力の低下はさまざまな病気を引き起こし、また発症する前に死亡してしまうことも多いのです。

京都大学原子炉実験所の今中哲二さんを中心に「チェルノブイリ原発事故の実相解明への多角的アプローチ:20年を機会とする事故被害のまとめ」というプロジェクトが2004年10月からスタートしています。被災者、ジャーナリスト、NGO、科学者、社会学者らによる多角的視点でチェルノブイリを探ろうというものです。その研究活動からも、上記のチェルノブイリ・フォーラムがまとめた結果とは異なる貴重な情報が明らかになっています。小児甲状腺がんの死はベラルーシで8人、ロシアで1人となっていて、ウクライナではゼロとされています。しかし、キエフ内分泌研究所の調査では15〜20件の死亡が明らかになっていて、死亡率が約5%の死亡率が報告されています。マーティン・トンデル(公衆衛生学)は、スウェーデンの汚染地域で全がんが有意に増加したという調査結果を報告しています。

そのプロジェクト活動の一環として、チェルノブイリの救援活動や市民運動グループの人たちとともに、4月16日に東京でチェルノブイリ20年のシンポジウムを開催します。事故当時生まれていなかった若い人たちにも、チェルノブイリがどんな事故だったのかをしっかり伝わるようなシンポジウムをめざしています。プロジェクトメンバーのひとりでもある医師で作家のユーリー・シチェルバク氏が講演します。彼は事故直後から被災地に入り、被災者にインタビューを重ね、『チェルノブイリからの証言』(松岡信夫訳、技術と人間刊)にまとめ、なかなか伝わってこなかった現地の状況を私たちに提示しました。シンポジウム、ウクライナ出身の歌手オクサーナ・ステパニュックさんのミニコンサート、事故の内容をわかりやすく伝えるパネル、写真、被災地の子どもたちが描いた絵の展示、事故処理作業者の知られざる現実を描いた『The Sacrifice(犠牲者)』の上映など盛りだくさんの企画です。ぜひ、ご参加ください。