出版物原水禁ニュース
2006.5 号 

原爆症認定裁判の判決迫る

原爆症集団訴訟を支援する広島県民会議世話人 宮崎 安男 

 原子爆弾がもたらした被害の全体像を、正確に国に認めさせようとして始まった「原爆症認定集団訴訟」が、地方裁判所段階で山場を迎えようとしています。

 2003年提訴を第一陣とする集団訴訟は、2006年4月現在、原告169人で、全国17都道府県、12地方裁判所において公判がすすめられ、05年12月大阪、06年2月広島で結審し、この5〜8月にそれの判決が予想されています。つづいて、千葉・東京・熊本などの結審も予定され、これらの裁判をさらに有利に進めるため、3月14日から第2次の集団申請・集団訴訟の運動も始まりました。

集団訴訟とは何か?

 原爆被害の最大の特徴は、人類史上例を見ない残虐な原爆死とともに、生き残った被爆者も生涯をガンをはじめとするさまざまな放射線後障害で苦しめられる人間破壊にあり、この「原爆生」が一般戦災者と異なる特徴と言えます。

 しかし、国は被爆者に対し健康管理上の医療給付はするが、その疾病が原爆に起因することを認めず、原爆被害を「小さく、軽く、狭く」押さえようとしています。これからの核政策を容易に進めるために、被爆者援護法では、「疾病や傷害が原爆に起因し、現に医療を受けている人々」に対し医療特別手当(月額13万円余)その治療者に特別手当(5万円余)を支給する認定被爆者制度を設けていますが、その受給者は全被爆者の約1.2%2,000人余にすぎず、被爆者がどんな重篤な病にあっても、原爆とは関係ないと却下されてきました。

 この却下処分を不服とする裁判で、この数年原告勝利の判決が続いていますが、国は提訴者一人のみに適用するだけで、認定基準そのものは変えませんでした。

 この現状を打開し、命あるなかで、この苦しみは原爆の故だと、国に認めさせたいとの思いを結実し、国の政策変更を求めるために日本被団協の提唱で始まった裁判が集団訴訟です。

裁判の争点は何か?

 援護法第10条では「原子爆弾の傷害作用に起因して負傷し、または疾病にかかり、現に医療を要する状態にある被爆者に対し、必要な医療の給付を行う。……」そのためには審議会の議を経て厚生大臣の認定を必要とするとされています。今日まで認定基準は極めて限定して運用され、被爆者の実態とはあまりにもかけ離れていました。裁判はこの認定審議の在り方と、使われる基準の争いであり、原爆被害全体の争いが核兵器廃絶へ向けた争いです。

 国は基準に「原因確率」なるものを用い、機械的に申請内容にあてはめ、審議は月に1回、1時間に約20件を処理、1件3分で、「専門的知見」によって、却下するという通知が申請者に届けられるだけでした。この原因確率は、近距離の直接放射線量のみを用い、被爆者の疾病の現状や、内部被爆、誘導被爆をほとんど無視するもので、最高裁でもその機械的運用を戒められた代物です。

裁判は被爆者だけの問題ではない

 この裁判をたたかうのは、原告だけ被爆者だけの問題ではありません。最近の政府の国民保護計画によれば、「核兵器による放射能被害では、ハンカチで口を覆い、風上に逃げろ」「核兵器攻撃を受けても充分守れることを外国に知らせておく必要がある」「広島・長崎の原爆のときでも爆心地周辺でも生き残った人は沢山おった」などと、政府高官が発言を繰り返しています。熱線・爆風・放射能の複合的被害の原爆の全体像は余りにも隠ぺいされています。核兵器攻撃から安全などの道はありません。安全なのは唯一核兵器そのものを無くすことです。

 いま、愛国心で国家の政策を実行する人を賛美し、一方戦争の被害を受ける国民は(原爆さえも)犠牲もやむを得ないという国策がよみがえろうとしています。原爆被害の全体像を明らかにする原爆症認定裁判の意義はますます大きいものがあります。

 原告のうちすでに22人が故人となられた、文字どおり命を懸けた裁判です。