出版物原水禁ニュース
2006.7 号 

在外被爆者 長崎訴訟で最高裁判決
手当の支給義務は自治体との判断

韓国の原爆被害者を支援する長崎市民の会 平野 伸人 

在外被爆者裁判の経過

広島・長崎の原爆で被爆した韓国・朝鮮人、連合軍捕虜などの外国人被爆者,戦後の移民政策により広島や長崎からアメリカやブラジルをはじめとする南北アメリカに移り住んだ被爆者などのいわゆる「在外被爆者」は、被爆者援護法から適用除外されてきました。厚生省公衆衛生局長通達いわゆる「402号通達」により、日本を出国すると同時に、被爆者としての全ての権利を失効させてきたためでした。長い間、放置されてきた在外被爆者は、多くの「在外被爆者裁判」を提起して、被爆者としての権利回復をめざしてきました。その結果、大阪の郭貴勲裁判により、「被爆者はどこにいても被爆者」という判決が出て以来この402号通達は違法との司法判断が定着し、在外被爆者問題は大きく前進しました。しかし、厚生労働省は、裁判に負けるたびに最低限の手直しをおこない、根本的な解決を怠ってきました。

在外被爆者・長崎訴訟

 被爆地・長崎では,これまで全国に先駆けて多くの在外被爆者裁判が取り組まれています。まず、徴用工被爆者・金順吉裁判は勝訴はできなかったものの、その後の全国の在外被爆者裁判の提起のきっかけを作った歴史的な裁判です。

 そして、李康寧裁判は、在韓被爆者の李康寧さんが出国により打ち切られた健康管理手当の支払いを要求した裁判です。2001年12月26日の長崎地裁の1審判決も、2003年2月27日の福岡高裁の2審判決も、原告李康寧さんが勝訴しましたが、国の責任を認め国に支払い命令が出たため、国が上告しました。そして、支払義務者が国か長崎市かを巡って争われてきました。また、広瀬方人裁判は、李康寧裁判の過程で、「日本の社会の構成員でない李さんには請求権がない」との主張を国がしたため、日本人の広瀬さんが、中国に日本語教師として赴任中に打ち切られた健康管理手当の支払いを求めた裁判です。2003年3月13日の長崎地裁1審の判決は、広瀬さんの訴えを全面的に認め、健康管理手当の出国による打ち切りは「権利の濫用」として国に支払いを命じました。2004年3月19日の福岡高裁の2審判決では、原告の請求の権利は認められたのですが、時効が成立しているとして請求は却下されました。

最高裁で口頭弁論

最高裁に上告された2つの裁判は2〜3年も音沙汰がありませんでした。そして、今年4月4日に2つの裁判の口頭弁論が開かれました。争点は2つありました。最大の争点は、手当の支払い義務者は、国か長崎市(自治体)か。また、裁判の確定により国の責任の明確化がどの程度示されるかという点でした。そして、在外被爆者の手当支給などの請求に関して、時効の適用がなされるか否かということでした。

 李康寧さんの病状が悪化し来日できない状況の中、広瀬方人さんが代弁する形で「在外被爆者を差別し続けてきた国の責任と時効の不当性」を述べました。続いて、代理人の龍田紘一郎弁護士が病気で出廷できない李康寧裁判の陳述を述べました。

最高裁判決について

 4月4日の口頭弁論を経て6月13日、2つの長崎在外被爆者裁判の最高裁判決が下されました。その判決は、手当の支払い義務は国にはなく自治体(長崎市)にあるというものでした。しかも、広瀬裁判の争点である「時効問題」にはふれることなく広瀬さんの上告は却下されてしまいました。一審、二審の判決で原告の主張はほぼ認められているとはいえ、拍子抜けした判決であったといわざるを得ないものでした。国の在外被爆者差別政策を断罪し、在外被爆者問題の完全解決の道を開く判決を期待したのですが、果たせませんでした。

しかし、判決は制度改正前の国の施策を誤りと認めた初の最高裁判決であり、けっして敗訴というわけではありません。今後も、被爆者援護についての国の責任を追及していく取り組みを強めなければなりません。今回の最高裁判決を1つの節目として、さらに、在外被爆者の手帳取得問題や医療問題に取り組む必要があります。原水禁日本国民会議をはじめとする支援の皆様に感謝します。