出版物原水禁ニュース
2006.11 号 

首都圏で初の国民保護法による原子力防災訓練
国・自衛隊が参加 戸惑う周辺住民

反原子力茨城共同行動 根本 がん

「国籍不明のテロ集団が茨城県東海村の日本原子力発電・東海第2原発に対して追撃砲で攻撃し原子炉に損傷を与え、原子炉が自動停止。直ちに安全保障会議が開かれ、茨城県危機管理対策本部を設置。この間に原子炉心冷却機能が喪失した。自衛隊に対し国民保護法派遣を要請」。

 このようなシナリオの国民保護法に基づくテロ対策を含めた原子力防災訓練が、国、茨城県、東海村など9市町村で9月29日、実施されました。国民保護法訓練としては05年11月の福井県、06年8月北海道に次いで3番目となります。首都圏では初めてのことです。この訓練は、国民保護の制度作りを目的に実効をあげるためのもので、今後も引き続き各地で実施される計画です。国民保護法とは、「武力攻撃から国民を守る」ために国が、各都道府県・自治体が対処すべき方針と住民避難などを定めたものです。情報伝達も避難も国からの上意下達式に一元化するものと思わざるを得ない法律です。

 訓練は東海第2原発がテロ集団に攻撃された想定で始まりました。テロ集団は、「東海第2原発を追撃砲で攻撃、施設に損傷をあたえ逃走。途中、車両の強奪に失敗し、県警は1人を逮捕して潜伏地を特定。この時点で自衛隊に対し、国民保護法による出動要請を行う。警察官が常陸太田市河内西町付近でテロリストを目撃、その後、1人を逮捕し、続いて全員を逮捕した」というものです。

 日本原電東海発電所からの異常事態発生の通報により、茨城県危機管理対策本部が招集され、県庁に緊急対処事態対策本部を設置。県庁とオフサイトセンター、東海村などの市町村を繋いだテレビ会議で情報交換と事態の分析が行われました。ここで本部会議の音声が、隣の本部事務局に聞こえないというハプニングがありました。それも本部会議の参加者は、配られた原稿を小さい声で棒読み、という状況でのハプニングであり、それに音声調節の不具合が重なったものです。

 原発の事故想定は、テロ行為により外部電源が使用不能となり原子炉自動停止、主蒸気隔離弁フランジから大量漏洩し、冷却材の漏洩が始まります。送電停止により給復水系のポンプが全部停止、非常用ジーゼル発電機も非常用冷却装置も停止し、原子炉への注水喪失の失敗で炉心が露出、主蒸気隔離弁漏洩箇所から放射能が放出されるという多重事故です。

 今回訓練の特徴の一つに、原発から放射能が放出されたという情報を認め、共有されたことがあります。原発から放射能が放出されたということは、避難やその情報を伝えることや、サンプリングなど見えない放射能の流れる下で行うことになるはずですが、そんな緊張感はまったく感じられないのです。

 周辺住民の避難では、集合場所からバスで約6キロ離れた日立市水木交流センターと、4キロのところに設置された東海総合体育館が避難所に当てられ、その避難所へ移動するのです。この避難所設置位置の問題ですが、4?6キロというのは近すぎます。少なくとも30キロは離すべきでしょう。そのためにも複数の自治体による横断的な、危機に即応する組織が必要であると思います。

 このほか避難住民のための炊き出しも行われました。米90キロを一人前ずつ小分けにして茹でるというものですが、準備は前日からのものだったといいます。訓練だからこそ出来たものの、実際にそれは可能なのでしょうか。野天で放射能下の炊き出しにも感心は出来ません。この炊き出しには村内の民生委員が動員されました。

この訓練を終えて国の審議官や、県知事は「初期の目的は達せられ合格だ」と評価したが、参加した住民の間からは不安と不信の声が聞かれました。たとえば、避難誘導する際に、村の職員は防護服とマスクを着用したのに、住民には何の指示もなく、服装の注意も徹底しておらず、不満の声が聞かれました。また自衛隊の誘導に違和感を抱いた人が数多くいました。自衛隊員が住民の目にふれたのは、この避難行動のときくらいで、本当にテロ対策なのかと、首を傾げざるを得ないほど、自衛隊の参加は少ないものでした。あるいは努めて目にふれないようにしていたのかもしれません。

 県庁やオフサイトセンターでテレビ会議を行っていることは住民にはわかりません。テレビ会議で決定された指示が突然のように上意下達のかたちで住民に伝えられる。避難指示が出されるのは、事故が起きてからどんなに早くても2時間過ぎてからとなります。情報伝達は早ければ早いほどよいはずです。これでは、国民保護法による放射能対策は、果たして実効性があるのか疑問を感じざるを得ません。自然災害ならばともかく、自然災害プラス放射能災害に対して、一時的に屋内避難、その後、遠隔地へ避難するというのは一考を要するでしょう。原発事故の際は即避難すること、または放射能に極力晒されないことを考えるべきです。

 訓練を振り返って思うのは、テロ対策とはいうものの、国民保護法による訓練という名目のために無理やり押し付けたように思えます。そのため、今回の原子力防災訓練のシナリオは、相当な無理がありました。たとえば、2日間にわたる訓練要綱を僅か7時間に短縮し実施したことは、たとえ100機関、2,000人が参加したと規模を誇ってみても、細切れな訓練の印象は免れません。

 国民保護法による原子力防災訓練は、今後も各地域で行われるでしょう。その際、国民保護法による訓練のためとして市町村はもとより、電力、水道、ガス、道路、港湾、交通、通信、マスコミなど、公共機関を含んだすべてのものが関わらざるを得なくなります。つまり国民保護法による国民総動員の地ならしが行われつつあるという感じを、今回の訓練で痛感しました。