安倍内閣は今国会に、米軍再編関連予算と米軍再編特措法案を提出しました。米軍再編特措法案は予算の支出根拠となるために、衆参両院ともに予算採決の直後から審議が行われます。法案にはさまざまな問題点がありますが、成立すれば米軍再編は開始されてしまいます。
在日米軍再編に関係する費用は、(1) 在沖縄海兵隊のグアムへの移転費用、(2) 基地周辺自治体への再編交付金、(3) 基地建設・部隊移転・訓練移転の費用??の3つに分けることができます。(1) は、日本が7000億円を支払うことで米国と合意しました。(2) は、総額1000億円を10年間で支出する方針です。(3) については、政府は明確な金額を示していません。
(3) の中には、普天間基地の名護移設費用、キャンプ座間への陸軍司令部移転費用、空母艦載機部隊の岩国基地移転費用、返還された基地を更地に戻す費用など多額の建設・土木費用が含まれています。また、戦闘機の訓練移転費用も毎年支払われます。
ローレンス米国防副次官は、日本の負担総額を「3兆円」としました。防衛省の守屋事務次官も、グアム移転を除いた費用は2兆円といっています。しかし日本政府はこうした発言を否定しています。
普天間基地の名護移設費用だけで1兆円といわれていることを考えれば、日本負担の総額は3兆円を超えるかもしれません。これほどの事業が、総額も示されないまま開始されるのです。
■米軍再編関連法案に含まれる経費
●グアム移転費 7000億円
(内訳)基地建設 3220億円(財政支出)
家族住宅 2930億円(融資)
基地内インフラ 850億円(融資)
●基地交付金 1000億円
■新規の法律を必要としない経費
●基地建設・部隊移転費 不明
内訳:普天間基地移設、嘉手納以南の土地返還、キャンプ座間への陸軍司令部移転、岩国基地への空母艦載機移駐、戦闘機の訓練移転 他
日米政府は沖縄に駐留する海兵隊員8,000名と家族9,000名を、2014年までにグアムに移転させることで合意しました。米国政府は、移転にともなうグアムの新基地建設や家族住宅建設の費用を総額1兆1800億円(102.7億ドル)と算出しています。海兵隊のグアム移転は、沖縄の基地負担を軽減することが目的であることから、日本は7000億円(60.9億ドル)を、支出することになりました。(詳細は上の資料1)。
グアムは米国の準州です。米軍が米国内に建設する基地の費用を、日本が負担する必要があるでしょうか。米国内の米軍にお金を払う条約や協定は、日米間に存在しません。これを前例として認めてしまえば、在日米軍が本土に戻るたびに、日本の予算で米国内に基地を作らなければならなくなります。

米海軍横須賀基地内の家族住宅。
アパートだけではなく、スーパー、
体育館なども併設されている。
また支出方法にも問題があります。基地建設は、全額日本の予算で支払われますが、既存の防衛費の枠内で費用が支出されるので、新たな法律は作られません。家族住宅や基地内インフラについては、国際協力銀行(JBIC)の融資で行われます。そのための法律改正が、米軍再編関連法案に盛り込まれます。日本政府は、家族住宅などは米軍から家賃や使用料を取るため、将来的に回収できると説明しています。しかし発展途上国への貸付けを主業務とする国際協力銀行が、世界1の大国である米国に融資をするのは問題です。
米国は「グアム統合軍事開発計画」を発表しています。グアム島を空・海・海兵の一大拠点とするものです。米国には在日米軍再編協議の前から、沖縄海兵隊をグアムに移転する計画があったのかもしれません。
政府は米軍再編に関係する自治体を対象にして、新たな「再編交付金」制度を作ります。10年間で総額1000億円の支出を予定しており、米軍再編関連法案に盛り込まれます。再編交付金は、市町村の対応を(1) 首長の受け入れ表明、(2) 環境影響評価の実施、(3) 着工、(4) 部隊の移転──の4段階で判断して支出されます。またこれまでの交付金が「箱モノ」が対象だったのに対して、今回は講演会などのソフト事業にも使えるようになります。
米軍基地の周辺自治体が「再編交付金」を要求するには、首長による米軍再編の受け入れ表明が必要です。再編に反対している自治体には交付されません。「再編交付金」は、米軍基地という「迷惑施設」の「迷惑料」です。同じ迷惑をうけながら、賛成か反対かによって交付金の交付が決まるのは、行政の公平を損なうものです。
岩国市は、新市庁舎を建設しています。81億5,000万円のうち49億円を政府の補助でまかなう予定で、既に2年間交付されています。 最終年度の07年度は35億円を見込んでいました。
政府から岩国市への補助は、SACO関係費が当てられていました。SACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)は1996年、沖縄の基地負担軽減のため、普天間基地の返還や、海兵隊実弾砲撃演習の訓練移転などで合意しました。その中で普天間基地のKC130空中給油機を岩国基地に移転することになり、岩国市も同意。見返りとして、新市庁舎建設への補助金交付が決まったのです。
SACOで岩国基地へ移転とされたKC130空中給油機が、米軍再編で再度検討され、岩国基地移転を基本に鹿屋基地(鹿児島県)・グアムにローテーション展開へと変わりました。そこで政府は岩国市への補助金を、SACO関係費から米軍再編関係費に移したのです。岩国市は米軍再編による空母艦載機移転に反対しています。政府は、移転を受け入れない限り、補助金交付は困難としているのです。岩国市が拒否をしても空母艦載機の移転は行われるのでしょう。移転が行われた後に、周辺自治体は交付金を受け取りながら、最も負担の大きい岩国市は交付金を受けられないということにもなりかねません。
在日米軍再編に関する日米合意の内容は、(1) 対テロ戦争・弾道ミサイル防衛・大量破壊兵器拡散防止に日米が共同で取り組む、(2) 米軍は在日米軍基地や空港・港湾などの民間施設を自由に使用する、(3) 在日米軍基地と自衛隊基地を一体化して使用する、(4) 米軍と自衛隊が一体となって活動する──というものです。
歴代の政府は憲法下で許される武力行使を、個別的自衛権に限定し、専守防衛を国是としてきました。ところが今回の合意によって日本は今後、核攻撃を含む先制攻撃戦略をとる米国とともに、対テロ戦争や大量破壊兵器拡散防止に参加することになったのです。また、日米安保条約では米軍が在日米軍基地を使用できる要件を、日本の防衛と極東の安全維持に限定してきました。しかし米軍再編によって、米軍は日本国内の基地から世界中へ出撃するようになるのです。

神奈川・相模総合補給廠を
人間の鎖で包囲(06年11月12日)
在日米軍再編は、日本国憲法・自衛隊法・日米安保条約を、大きく踏み越える内容を含んでいます。本来であれば憲法改正・自衛隊法改正・日米安保条約改正が必要です。しかしそうした内容を含む合意が、日米安全保障協議委員会に参加した4者(外務大臣・防衛庁長官、国務長官・国防長官)によって決められてしまい、国会での審議や承認すら行われていません。
国会では、再編関連法案や再編関連予算を審議する前に、米軍再編に関する日米合意の是非、日米安保条約や国内法との関係、米軍再編全体の予算が議論されるべきなのです。