出版物原水禁ニュース
2007.4 号 

【インタビュー】
日本の運動には創造力と想像力が必要
─グリーンピース・ジャパン 星川 淳 事務局長に聞く─

星川 淳さん

【プロフィール】

1952年東京生まれ。グリーンピース・ジャパン事務局長、作家・翻訳家。インド、アメリカ滞在後、1982年より屋久島に定住。著訳書のテーマは、精神世界、環境思想、持続可能な社会、先住民文化、平和と多岐にわたる。著書に『日本はなぜ世界一クジラを殺すのか』(幻冬舎新書)、『魂の民主主義』(築地書館)、『屋久島水讃歌』(南日本新聞社)、『地球生活』(平凡社ライブラリー)、『環太平洋インナーネット紀行』(NTT出版)、共著に坂本龍一監修『非戦』(幻冬舎)、訳書にR・ライト『暴走する文明』(NHK出版)、B・ジョハン セン他『アメリカ建国とイロコイ民主制』(みすず書房)、P・アンダーウッド『一万年の旅路』(翔泳社)、J・ラヴロック『ガイアの時代』(工作舎)ほか多数。TUP(平和をめざす翻訳者たち)監修『世界は変えられる』(七つ森書館)に対し、日本ジャーナリスト会議より市民メディア賞受賞(04年)。

関連リンク:http://www.greenpeace.or.jp/

──まず初めに、星川さんご自身はどのようなきっかけで活動に参加するようになりましたか。

高校時代には全共闘運動があり、60〜70年代は世界的に社会が揺れ動いた時代で、その波を受けて思春期を送りました。冷戦時代は子どもでしたが、米ソ間で高まる緊張感や核戦争の危険性がリアルな脅威としてありました。核戦争で人類や世界が滅びるような時代の中で、言わば滅びに向かう文明を感じていました。80年代の世界的な反核運動の高まりもまた、先進国の人々の間にあった日常的な核戦争の脅威が背景にあったのでしょう。私自身、このような核戦争に対する脅威から、核兵器や原子力、そしてその他の生命や自然を危うくする環境問題を何とかしたいと思うようになり、持続可能な社会、文化や文明作りを目指して世界各地で暮らしたあと、1982年に鹿児島県屋久島へ移住しました。

──屋久島ではどのような暮らしを?

持続可能な社会への自分なりの実践・実験の場として30歳で移り住み、最初の5年間は自給的な有機農業やエネルギーなど、地球や自然にできるだけ負荷のかからない暮らしを整えることに集中しましたが、86年にチェルノブイリの原発事故が起こります。この時、どんなに持続可能な暮らしをしても、世界のどこかで原子力事故が起きれば元も子もないことに気づいたのです。

──どういった経過でグリーンピース・ジャパン事務局長に就任されましたか。

グリーンピースとは、組織ができて間もない70年代の頃から縁があり、長く支援者の一人として関わってきました。2001年の同時多発テロ事件以来、平和というテーマで執筆にとどまらず情報を発信しましたが、2005年9月の衆院総選挙前に日本社会が放っておけないくらいに変質してしまったことを痛感し、国内外の政策決定に近い場所にしばらく身を置いてみたいと思うようになりました。そんな時、グリーンピース・ジャパンが事務局長を募集していることを知り、応募するに至りました。就任から1年2ヵ月になります。

──グリーンピースという組織について、また国内外での主要な活動はどうなっているのでしょうか。

グリーンピースの原点は、米国がアリューシャン列島で行っていた地下核実験に抗議するため、1971年にカナダの市民が船を出した直接行動です。団体の大きな柱として、当初から核問題がありました。最初は「反核」が最大の活動のテーマで、その後70年代終わりから80年代にかけて捕鯨反対が加わり、同時に仏や旧ソ連、中国の核実験などに対する抗議活動を続けていました。「反核」、「反捕鯨」という二つの大きな柱となる活動に加え、現在は、乱獲漁業や海の汚染など「海洋生態系問題」、そして原生林保護など「森林問題」、新しい活動としては遺伝子組み換え食品・農作物の問題というように、徐々に活動の分野が広がっています。

原爆ドーム前で核廃絶とストップ六ヶ所!のアピール
原爆ドーム前で核廃絶とストップ六ヶ所!
のアピール行動(05年8月)

──グリーンピースは何ヵ国で活動していますか?

支部が置かれている国は39ヵ国です。ただし、例えばグリーンピース東南アジアはタイに支部があるのですが、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ベトナム、ミャンマーなど、複数の国にまたがって活動しています。小さな支所のような事務所もあり、活動はもっと多くの国々で展開しています。設立後しばらくはカナダや北米で支持を広げ、それから英国に移って、現在の国際本部はオランダにあります。現状では290万人いる会員数の大半が欧州ですが、欧米中心ではいけないという意識が早くからあったため、アジアや太平洋地域、中南米などへ積極的に活動を広げてきました。グリーンピース地中海のように、トルコやイスラエルからレバノン、北アフリカまで様々な国の人々が一緒に活動している支部もあります。

──労働団体の国際組織は大きなところもありますが、平和・市民団体でこれだけ大きな規模は珍しいと思いますが、今年の主要な取り組みは?

クジラ保護区の南極海で捕鯨中止をアピール
クジラ保護区の南極海で
捕鯨中止をアピール(06年1月)

以前は各支部が個々で活動することが多かったようですが、最近は各支部間の国際的な連携を強めようと努力しています。問題が1つの国で起きた時、その国だけでは解決しにくい場合も少なくありません。そこで世界各国から働きかけ、経験のある活動家が支援に入ることが効果を発揮することもあります。今年の主要な取り組みとしては、エネルギーや気候変動、地球温暖化の問題があります。次が海洋生態系、そして森林問題です。同時に、新たにアフリカへ活動を拡げようという取り組みも提案されています。平和・軍縮の活動は90年代から少し休止状態だったのですが、今年から改めて取り組みが始まりました。遺伝子組み換えの問題については、グリーンピース・ジャパンは昨年から始めました。欧州やアジアでは既にかなりの成果を上げています。今後は遺伝子組み換え食品・農作物の問題から、持続的な農業の育成という枠組みへ発展させることも決まっています。

──グリーンピース・ジャパンは、日本でどのような課題に取り組んでいますか。

青森県庁へスライド投射で再処理ストップをアピール
青森県庁へスライド投射で
再処理ストップをアピール(06年2月21日)

1989年に発足して18年目になります。東京の事務所に正職員が現在14名おり、会員数は約6,000名です。私達の活動は会員の皆さんの寄付に支えられていますが、欧州に比べ日本はまだとても小規模です。反捕鯨のイメージが強いかと思いますが、この問題は世代によってずいぶん認識が違います。日本の“調査捕鯨”は、科学の名目で、国際社会が商業捕鯨の永久禁止を決めた南極海サンクチュアリ(鯨類保護区)に世界で一国だけ乗り込み、商業捕鯨時代とまったく変わらない船団方式の捕鯨を行って、絶滅危惧種を含む年間900頭ものクジラを捕殺する国営偽装といえるものだからです。その暴走が、日本の近海漁業全体の復興を考えたり、先住民による「生存捕鯨」(国際捕鯨委員会もグリーンピースも承認)のように、本来の伝統文化と世界からも認められる捕鯨が国内で成立しうるかどうかの議論も妨げています。エネルギー関連では、原子力や核燃料サイクル、核兵器まで含めた核問題と、気候変動の問題があります。そして、遺伝子組み換え食品の問題。食に敏感な日本人には理解されやすい問題であり、日本で遺伝子組み換え食品がストップできれば世界的に良い影響を与えられるので、そこへ貢献したいと考えています。平和・軍縮の問題では憲法9条ですが、単に守るというだけでなく、どのようにして9条を活かすかを若い人へ問いかけ、一緒に取り組んでいきます。

──安倍政権でも、国会で「戦後レジームからの脱却」が語られ、戦後の平和・民主主義が変質しつつある中で、憲法改悪、国民投票法案、そして共謀罪などの問題があるかと思いますが、このような状況はどうお考えでしょうか。

戦争体験、特に直接の体験が薄れていく中で、安倍政権が代表する戦前復古の動きがあると思います。共謀罪はその兆しでしょう。民主的な人々の連帯や意見交換などを根っこから崩す、戦争のできる国作りへの法案と感じて、共謀罪反対の運動に加わりました。もう一つは、市場原理主義やグローバリゼーションが跋扈する資本主義の独り勝ち状態から格差拡大や環境汚染などの問題が生まれ、放置されることによって危機的な状態にまでふくらんでいます。「グリーン(環境)」と、「ピース(平和)」はどちらも欠けては一方だけを解決することができないという原点に立って提言をし、活動していくことが大切です。

──グリーンピースの活動は、労働運動や反戦運動に関わってきた人にとってものすごく新鮮ですね。平和フォーラムも50年以上憲法問題に取り組んでいますが、条文は守っても実態は違っています。また、米軍再編によって集団的自衛権が実質的に変わるわけです。このような状況への危機意識もあり、70年代から大きく世界へ広がったグリーンピースのような新しい運動作りへの期待もあります。ですので、お互い取り組んでいる課題や活動で協力し、一層幅広い連帯と広い運動作りができるのではないかと感じます。

平和フォーラム・原水禁の皆さんの、核兵器や戦争の被害などの現実を原点とした運動の積み重ねに敬意を表します。時代に合った運動を広げるには、日本社会全体、そして日本の運動にクリエイティビティ(創造力)とイマジネーション(想像力)が必要だと思います。「平和」は単に在るものでなく、努力や葛藤の中で創出し、「平和」や「核のない世界」を作る立場に立ち続けることが大切です。運動の課題としては、例えば9条などですが、守るというアプローチばかりでなく、過ちの分析と繰り返さないための方策がもっと必要です。人間の持っている良い活力を、どうすれば最大に汲み上げられるかですね。ぜひこれからも、若い世代や団塊の世代を含め、世代や社会的な枠を超えた運動の中で協力していきましょう。

〈インタビュ─を終えて〉

星川さんとは以前に何度か短い言葉を交わしたことがありましたが、時間をとっての意見交換は今回が初めてです。対面して、話していると国際的に拡大するグリーンピース運動を背景として、「やさしさと決意」、何よりも運動に対する「信頼」が伝わってきます。「過ちは繰り返しませぬ」と広島の慰霊碑に書かれています。星川さんは語ります。「今の時代、日本の自公政権は過ちを犯し続けている。憲法まで改悪しようとしている。何とかしなければ」と。国の政策決定が行われる場所の近くに自分をおこうと決意し、グリーンピースの事務局長を引き受け、屋久島から東京へ出てきた。世界で290万人を超える会員、国内でも6,000人を超える会員。星川さんに期待がまた集まる。

〈福山真劫〉

写真:(C)Greenpeace/J.Sutton-Hibbert