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2007.4 号 

人権侵害を追及するアムネスティ
「テロとの戦い」のレトリックに打ち勝つ

アムネスティ・インターナショナル日本 川上 園子 

「テロとの戦い」の影で拷問や虐待

2002年5月、米中央情報局(CIA)対テロセンター所長は9.11調査委員会でこう語りました。「9.11後、手加減はなくなった。制限なく攻撃的に、容赦なく、米国を脅かすいかなるテロリストも世界中で追跡することが、唯一我々がとるべき道だ」。

この言葉は忠実に実行され、米軍はアフガン攻撃の最中に「テロ」容疑者として誰彼かまわず拘束し、キューバにあるグアンタナモ米軍基地内の収容所に移送しました。米当局は、被収容者は「敵性戦闘員」だから、戦争捕虜の人道的な取り扱いを規定するジュネーブ条約は適用されないと主張しました。今も約400人といわれる被収容者のほとんどは犯罪容疑で起訴されることもなく、無期限に収容され続けています。

さらに米国は、拷問を正当化する珍妙な主張を作り上げました。02年8月、司法省による米大統領法律顧問宛の覚書には、大統領は拷問を命じることができ、尋問官は「拷問の域に達しない程度の深刻な苦痛を与えることができる」と書かれていました。これを根拠にラムズフェルド国防長官(当時)が承認したのは、「頭に袋を被せる、裸にする、感覚を遮断する、隔離拘禁する、苦痛を伴う姿勢をさせる、ストレス誘発のため犬をけしかける」などでした。

CIAは世界各地で「疑わしい」人(多くがイスラム教徒で中東・アフリカ系)を誘拐し「失踪」させ、ある国から別の国へと秘密裏に移送し拘禁しました。拘禁された人々には、弁護士をつけたり裁判を受ける権利が完全に否定されています。

米国のあからさまなやり方は、世界に影響を与えています。多くの国が「テロ対策」として基本的自由を厳しく制限し、人権を無視する法律を作り、政府に批判的な人を「テロ」や国家安全保障の敵とレッテルをはって投獄しています。スウェーデンでは01年10月、当局が難民申請中のエジプト人男性2人を米諜報機関の情報に基づいて拘束し、米当局に引き渡しました。エジプトに送還された2人は拷問を受け、公正とは言えない裁判で有罪判決を受けました。

拷問は国際法上絶対的に禁止されていますが、実際には各地で行われています。国際基準を満たさない司法手続きも少なく、その意味で、拷問を止めろ、司法手続きを保障せよという運動はさほど新しくはありません。新たな挑戦は、拷問や虐待、司法手続きや司法管轄権を否定する行為が対テロの名目で公然と再定義・正当化されて世界に蔓延しつつある、ということでした。

グアンタナモ収容所閉鎖を求める街頭アクション
グアンタナモ収容所閉鎖を求める
街頭アクション(07年1月ギリシャ)

ヨーロッパなどで高まる批判

国際人権団体であるアムネスティ・インターナショナルは、米主導の「テロとの戦い」の名による人権侵害を徹底的に追及しました。グアンタナモの被収容者や強制的失踪の被害者証言を集め、CIAの非公開のフライト記録を確認し、秘密移送と拷問の実態を暴き、世界中で、オレンジ色の囚人服を着た活動家たちがグアンタナモ収容所の閉鎖を要求しました。

06年、人権を無視したテロ対策への批判がようやく高まってきました。CIAの秘密移送に加担した欧州各国は説明責任を問われ、欧州評議会と議会が調査を実施。ドイツ、イタリアなどは自国の官僚がどのように加担したか調査を行い、デンマークは許可なしのCIAの飛行機が自国領空と空港を利用することを禁止しました。イタリアは数十人のCIA諜報員に逮捕状を出しました。

また06年のベルリン国際映画祭では、グアンタナモの収容の実態を描いた『グアンタナモ、僕達が見た真実』が銀熊賞を受賞し、収容所からの生還者に惜しみない拍手が送られました。一方でブッシュ政権はグアンタナモや秘密移送に固執し、アムネスティをはじめ世界の市民社会からの批判に耳も口も閉ざしています。

「テロ」による暴力は許されません。しかし「テロ」と戦うために、先人が築いてきた人権の枠組みを後退させることは許されるのか? それは本当に「テロ」を減らすことにつながっているのか? 「テロとの戦い」は誰の利益になっているのか? 私たちはそうした問いを、粘り強く米国やその他の政府、そして日本政府に突きつけていかなくてはなりません。

アムネスティ日本のサイトで、グアンタナモの閉鎖を求めるアクション展開中です。ぜひ参加してください!