出版物原水禁ニュース
2007.6 号 

原爆症認定集団訴訟の現状とこれから
司法により5たび断罪された国の基準

原爆症認定集団訴訟・東京弁護団 中川 重徳

4月2日から4日まで、全国の被爆者が厚労省前にテントを設置し、原爆症認定集団訴訟の一括解決を求めて、「にんげんをかえせ!─被爆者の勝利を呼ぶ座り込み」を決行しました。この行動の中で、原告・被爆者らの代表と下村官房副長官の面談が実現し、一括解決に向け一定の前進をかちとることができました。あらためて、裁判の現状と課題を報告します。

厚労省前で座り込む被爆者
厚労省前で座り込む被爆者(07年4月)

1%も満たない原爆症認定の現状

 原爆症認定集団訴訟は、広島・長崎の被爆者が、2003年に全国の地方裁判所に相次いで提訴し、現在、15の地方裁判所、5つの高等裁判所で争われています。原告たちは、(1) 厚生労働大臣の却下処分を取り消して自分たちの病気を原爆症と認定すること、(2) 違法な却下処分に対する慰謝料の支払いを求めています。

 高齢化し病身の被爆者たちが裁判を起こしたのはなぜでしょうか。

 現在、被爆者健康手帳を持っている人は、全国に25万数千人います。さらに、いろいろな理由で被爆者健康手帳を取得できない人々がたくさんいます。そして、被爆者の高齢化とともに、がん等の病気が多発しています。放射線影響研究所(広島・長崎)の研究では、放射線はがんだけでなく、心筋梗塞や脳出血、糖尿病などさまざまな病気の発症を後押しすることが明らかにされています。ところが、現実に自分の病気を原爆症と認定されている被爆者は、わずか2,000人あまり、手帳保持者との比率では0.87%でしかないのです。

被爆者の実態を無視する認定制度

 被爆者援護法は、(1) 被爆者の疾病が原子爆弾の放射線に起因して発症し、または治癒能力が放射線の影響を受けていると言えること(放射線起因性)、(2) 現に治療を要する状態にあること(要医療性)が満たされれば、申請を受けた厚生労働省は原爆症と認定し、医療の給付と月額約13万円の手当の支給を行うと定めています。ところが、この認定制度が法律の趣旨に反して実態とかけ離れた運用がなされているのです。

昨年7月、東京地裁での結審の日に意見陳述をした故・齊藤泰子さんは、4歳の時、母親に連れられて入市して被爆、全身をガンに侵されて下半身が麻痺していました。それでも、原爆の恐ろしさを知ってほしいと点滴を打ちながら出廷し車椅子から陳述しましたが、今年2月、判決を目前に亡くなりました。

 厚労省がこのような運用をするのは、原爆の恐ろしさを隠ぺいし、小さく見せようとする意図です。原爆が放出した放射線のうち、直接地上に到達した直爆放射線だけをカウントして、土壌や建物・人体等が放射線を浴びて放射性物質となった場合(誘導放射線)や、キノコ雲の下に充満していた放射性微粒子が体表に付着し被曝した場合、さらにそれが体内にとりこまれて微量ではあっても集中的な被曝をした場合(内部被曝)の危険性を一切無視して切り捨てているのです。

国・厚生労働省を追いつめる闘いを

 全国の集団訴訟では、被爆者が自らの60年間の放射線とのたたかいを証言するとともに、各分野の専門家が、放射線の恐ろしさを科学的に明らかにする証言を行いました。私も、市川定夫さん(埼玉大名誉教授・原水禁議長)の尋問を担当し、低線量放射でも人体を傷つける放射線の恐ろしさを証言していただきました。

 その結果、昨年来、大阪、広島、仙台では原告全員が勝訴し、仙台、東京でも、国の審査の方針を厳しく断罪する判決が出され、国の基準は完全に破綻しています。厚労省は頑強に控訴を続けていますが、このような流れの中で、国会内の各党すべてが、認定制度の抜本的改正を求める事態となり与党内の動きも活発になっています。厚労省は完全に孤立しています。

 夏前には熊本地裁の判決も予定され、私たちは幅広い市民の支援をいただいて、原爆症認定訴訟の一括解決を勝ち取りたいと思っています。