出版物原水禁ニュース
2008.2  

継続審議になった援護法改正案
見捨てられる在外ヒバクシャ──恥ずかしい日本政府の対応

広島高裁判決とそれを支持した最高裁判決の意義

 12月27日、大阪地方裁判所で被爆者健康手帳の交付を求める在韓ヒバクシャの裁判が行われました。7人の原告は広島市の事前調査によってヒバクシャとして認定され、「被爆確認証」を交付されています。老齢と病気などで来日できないため、「韓国の原爆被害者を救援する市民の会」(市民の会、事務局・大阪府)が府に代理申請しました。しかし、国は援護法の第2条に、「被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は居住地の都道府県知事に申請しなければならない」とあることを理由に、手帳交付を拒否。このため市民の会などが06年8月1日に大阪地方裁判所に提訴しました。

 その後、大阪地裁で審理が進むなかで、昨年10月31日に最高裁は「三菱広島元徴用工在韓被爆者補償請求訴訟」の原告40名に対する広島高裁判決(05年1月)を支持し、国の上告を棄却する判決を出しました。

 広島高裁は判決のなかで、「402号通達は、在外被爆者からの被爆者健康手帳の交付や各種手当の支給に係る申請が増大することを予測した上で、そのことへの対策として、被爆者健康手帳の交付を受けても出国すれば失権し、各種手当も受けられないとの解釈を示し、これに従った行政実務の取扱いを徹底して、当事者である在外被爆者に対して、被爆者健康手帳の交付等を受けることの意義が極めて限定されたものにとどまることを認識させる意図の元に発出されたものであると認めることができる」と述べ、その差別性を厳しく批判しています。画期的な判決と言えます。

 402号通達とは、74年に旧厚生省公衆衛生局長が「(原爆傷害に対する)特別措置法は日本国内に居住関係を有する被爆者に対し適用される」とした差別的な通達です。ところが、1994年末に成立した被爆者援護法には、402号通達の考えが引き継がれ、第2条に、「被爆者健康手帳の交付を受けようとする者は居住地の都道府県知事に申請しなければならない」と記されたのです。

 孫振斗裁判(1978年最高裁判決で勝訴)や郭貴勲裁判(1992年大阪高裁判決)によって、402号通達の差別性が明確となり、被爆者援護法はすべての被爆者の救済が目的の法律であって、行政が在外被爆者を差別してはならないことを広島高裁判決と最高裁判決が受け継ぎ、いっそう明確にしたのです。

郭貴勲裁判以降、19回も敗訴してきた国

 大阪府で生まれた孫振斗さんは広島でヒバクしたのち、いったん母国・韓国に帰国するのですが、体の具合が悪くなり原爆症ではないかとの不安から日本に密航してきて逮捕され、病気で入院中に手帳を申請しました。しかし、却下されて裁判に訴え、78年に最高裁判決で、「原爆医療法は……戦争遂行主体であった国が、自らの責任によりその救済をはかる一面をも有するものであり、その点では実質的に国家補償的配慮が制度の根底にある」ことが明確になりました。

この孫振斗裁判によって在外ヒバクシャ救済の道が開かれていくのですが、国は先に述べた402号通達を出して、在外ヒバクシャを差別してきました。92年の郭貴勲裁判は、「ヒバクシャはどこにいてもヒバクシャ」であり、日本国外にいることを理由に差別してはならないことを一層はっきりさせました。それでも厚生労働省は、在外ヒバクシャへの救済を妨害し続けてきました。郭貴勲裁判以降だけでも、国は19回も敗訴しましたが、差別的姿勢を改めようとはしません。

 しかし、この現実の前に、ようやく与党が動きはじめ、昨年の臨時国会に、「日本に居住地を有しないものは、政令で定めるところにより、被爆当時の広島、長崎などに申請することができる」などの改正案を提案しました。

 一方、野党側は、在外ヒバクシャの健康手帳はもちろん、居住地での健康診断や医療費援助が盛り込まれた改正案(中心的に作成したのは昨年12月22日に亡くなった民主党の山本孝史参院議員)を、幾度となく提案してきましたが多数を占める与党によって廃案とされてきました。

 そして昨秋の臨時国会で、これまでの野党案とほぼ同じ改正案を、山本議員が民主党案として参議院に提出しました。しかし与野党対立するなかで、両案とも審議されることなく、民主党案は廃案。与党案だけ継続審議となりました。これは「まず居住地条項の改正を」と、在韓ヒバクシャなどが強く求めていることに民主党などが配慮した結果といえます。

 しかし、通常国会で援護法改正案が可決されたとしても、当時幼かった在外ヒバクシャの前途は厳しいといえます。原爆が投下されてから63年が経ようとするいま、年老い、原爆症を患っていても、被爆を証明する2人の証人、または広島、長崎での被災証明がなければ、手帳も健康管理手当も支給されません。韓国では証人がいないため、多くのヒバクシャが手帳を取得できないといわれています。この問題の解決も緊急の課題です。