出版物原水禁ニュース
2008.2  

重大な局面を迎えた原爆症認定集団訴訟

原爆症認定集団訴訟・東京弁護団 弁護士 中川重徳

裁判で国の認定制度を次々と否定

昨年8月5日、安倍前首相は、被爆者の代表に対し、原爆症認定審査の基準を見直すことを明言し、原爆症認定集団訴訟は、解決に向けて新たな段階に入りました。安倍発言の直接のきっかけは、久間防衛大臣(当時)が、原爆投下について「しょうがない」と発言し辞任に追い込まれたことです。しかし、根本には、2006年5月以来、大阪・広島・名古屋・仙台・東京・熊本の各地方裁判所で、現行の原爆症認定制度が批判されて国が6回連続して敗訴し、厳しい世論の声が広まったことがあります。

「原爆症認定集団訴訟」は、広島・長崎で被爆した被爆者が03年に全国で提訴した裁判です(現在15の地裁と6高裁に係属。原告は約300人)。原告らは、被爆後60年近くを経てガンなどを発症し、自分の病気を被爆者援護法により「原爆症」と認定してもらうために申請したところ、厚生労働大臣から「原爆放射線に起因するとは言えない」として却下された人たちです。

厚生労働省を取り囲む被爆者
原爆症認定を求め厚生労働省を取り囲む被爆者(07年12月4日)

わずかな原爆症認定者

現在、全国に被爆者健康手帳所持者だけで約25万人いますが、高齢化し、がん等の病気が多発しています。しかし、国が原爆症と認定しているのは、その1%にも満たないわずか2,000人です。私が裁判で担当したある原告は、原爆投下の瞬間は爆心から4キロの地点にいて、徹夜で被災者の看護をし、翌日からは行方不明となった妹を捜して広島中を歩き回りました。もんぺの柄を頼りに川に浮く遺体も調べましたが、妹の行方はわからず、8月15日に自分が急性症状で倒れてしまいました。戦前は吹奏楽にバレーにと元気いっぱいだったのに、戦後は病気の連続の人生になりました。

ところが、国は、このような原告らについても、「ほとんど被曝していない」と主張します。原爆の恐ろしさ、とりわけ放射線の影響を覆い隠すために、原爆放射線のうち比較的数値的に把握されている「直爆放射線」だけをカウントし、「残留放射線」や「内部被曝」は無視してしまうのです。

裁判では、原告らが原爆による苦しみの半生と、各分野の専門家が放射線の恐ろしさを明らかにする証言を行い、国は6連敗し、安倍首相の発言となりました。国会の全党が、認定制度の抜本的改正を求める事態となり、厚労省は完全に孤立しました。

被爆者の提案に沿った抜本改革を

このような中、被爆者団体連絡会(被団協)と弁護団は、裁判所の判決を詳細に分析し、認定制度を抜本的に改革し裁判を解決するための具体的提案を行いました。その骨子は、裁判を原爆の残虐さを明らかにするものと位置づけた上で、被爆の実相に見合った認定制度とするため、(1) がんなど放射線との関係が学問的に確立している9つの疾病は審査を経ずに原爆症と認定する。(2) その他については、被爆者を広く救済した各地の判決及び被爆者援護法の趣旨を尊重して審査を行う、というものです。高齢化した被爆者を迅速に救済する提案として極めて現実的なものでした。

ところが厚生労働省は、厚労省と関係の深い「専門家」を中心に「原爆症認定の在り方に関する検討会」を立ち上げ、司法の判断を無視しようと企てました。しかし「検討会」の審議では、良心的な研究者が、ベータ線や内部被曝等の残留放射線の影響はまだまだ解明されておらず、被曝量の数値化にこだわる国の審査基準は原爆放射線を過小評価していること、また、放射線影響研究所の研究でも、放射線はきわめて低線量であっても、がんはもちろん、心筋梗塞や脳出血、糖尿病などさまざまな病気の発症を後押しすることが明らかなっていること等が指摘され、厚労省の意向とは異なる改革案の提案が出される事態となりました。

それにもかかわらず、厚労省は、これらの意見を強引にねじ曲げ、数値的に積算できる範囲でのみ放射線の影響を認める現在の基準を少しだけ手直しする提言をまとめました。これに対し、裁判の原告と被団協は直ちに強く抗議し、与党の原爆被爆者対策に関するプロジェクトチームも、被団協の提案した「自動認定」の考えを取り入れた提言をとりまとめました。

被爆者たちは、福田総理に対し被爆者の提案に沿った認定制度の抜本改革を決断することを求めるため大きな行動を予定しています。今後ともご支援をよろしくお願いいたします。