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2008.4  

地球温暖化に加担する原子力発電

明治大学名誉教授 藤井 石根

火力発電所で燃料を燃やして得られる熱量のうち、電力としてわれわれの手に届けられるエネルギー量は、送電ロスによって約3割しかありません。原子力発電所も本質的に同じです。それにも関わらず、地球温暖化で二酸化炭素(CO2)の排出を減らす世論が世界的に高まっている現在、電力会社はオール電化住宅とかエコ給湯などと、より多くの電力消費を促しています。省エネの観点から見て矛盾を感じる話です。

他方、政府は、原発が発電時にCO2を排出しないことと、エネルギーの安定供給を理由に原発の一層の利用拡大に躍起になっています。こうした話がどうして生まれてしまうのでしょうか。その主因の一つに、原発そのものに必然的に備わっている独特な特性があると考えられます。

省エネの時代に逆行して電力消費を進める原発

原発はアメリカのスリーマイル島や、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の事例からも明らかなように、大変危険であり、致命的な結果をもたらしかねないものです。加えて、放射性物質による環境汚染も伴いますので、原発の設置には当然、電力の大消費地付近は避けられ、あえてより多くの送電ロスを伴うような遠隔の地が選ばれることになります。ここにまず省エネに逆行する事態が生まれます。

次なる不都合は、火力発電所に比べて倍以上という高い建設費があります。費用対効果を考えれば一基あたりの出力を大きくし、しかも設備利用率を高めることも当たり前となります。その上、電力需要の動向に応じた電気出力の微調整が苦手な原発は、停止したときの混乱を軽減する目的も兼ねて、バックアップのために火力などの発電も用意しなければならないのです。こうした余計な設備で資源やエネルギーを浪費させ、余分なCO2を排出します。

他方で電力需要の少ない夜間時の原発運転で生じる余剰電力のため、消費者にさらなる電力消費を強いるのです。ここに、省エネが重要視される時代に電力消費の推奨という矛盾が生まれてくるのです。

しかも原発は火力などと異なり、電力しか供給できないという宿命があります。これを増やせば増やすほど、電力中心のエネルギー消費社会を醸成させ、他方で莫大な発生熱を利用することなく環境中に放出し続けます。それは、地球温暖化に側面から手を貸すことになります。

エネルギー変換の観点からすれば、私たちが強いられている熱にして使う行為はエネルギーの質を無視した使い方で、世界的に有名な学者エイモリー・ロビンズはこの行為を「チーズを電動ノコギリで切るようなもの」と例えています。このしわ寄せは当然、CO2の余分な排出という形で現れることになります。エネルギー浪費を陰で進めていると言っても過言ではないでしょう。

廃棄物や廃炉処理の管理にも莫大なエネルギー

しかも、こうしたことは原発にまつわる直接的な課題に対するものです。これに間接的に関わってくる話も無視できません。具体的には核燃料再処理問題、莫大な量の放射性廃棄物の処理や保存、管理、これから本格化してくる廃炉処理など極めて重大な課題も待ち構えています。これらの問題をずさんに扱えば、対処できない状況になることは必定です。必然的にこれらの問題の処理にあたっては慎重かつ完璧を求めざるを得ないでしょう。

当然、そうした行為に対し計り知れない量の種々の資源やエネルギーが消費され、それに付随してCO2の排出もある訳です。安全性確保のための監視・管理にもエネルギーが必要になります。暫時で済まされず、半永久的にCO2を出し続けなければならないかもしれません。これらの「つけ」は、発電時にCO2を排出せずに得られた電力で埋め合わせがつくはずもありません。

以上のように「原発を設置することで他の型の発電所設置も必要となり、その結果の潤沢な電力供給は温暖化や後世への負の遺産の蓄積をよそに、省エネルギーどころかエネルギー多消費社会の構築に力を貸していく」というシナリオになります。地球温暖化に加担するこのシナリオのどこに人類の英知が見出せるでしょうか。