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2008.6  

自分たちの街のことは、自分たちで決めたい
原子力空母の横須賀母港問題を考える市民の会共同代表 呉東 正彦さんに聞く

【プロフィール】

1959年神奈川県横須賀市生まれ。86年から弁護士を務めるかたわら、原子力空母問題に10年にわたって取り組む。「原子力空母母港化の是非を問う住民投票を成功させる会」、「原子力空母の横須賀母港問題を考える会」共同代表。

──呉東さんが原子力空母の母港化問題に取り組まれるきっかけは何だったのでしょうか。

私が弁護士になったのは1986年です。当時は基地問題や反核・平和の運動が盛り上がっていました。その頃に「ネパの会」というのを作りまして、アメリカの「ネパ」という環境アセスメント法を使って、横須賀基地の問題についてアメリカで裁判をするプロジェクトに関わりました。その裁判は負けてしまったのですが、環境面からも基地問題をチェックしようという試みは続いています。

1994年に横須賀で弁護士として独立して、やっぱり地元の問題にしっかり取り組まなければならないと思っていたところに、ちょうど原子力空母の問題が起こりました。2008年に、現在、横須賀を母港としている通常型空母キティホークの退役後に、原子力空母ジョージ・ワシントンが配備される計画が1998年頃に出てきました。同じ頃に12号バースの延長計画と同時に海底の土壌汚染の話も出てきたのです。これは今までのテーマの延長上にもあるし、なんと言っても横須賀に原子力空母を配備するのはひどすぎる話です。首都圏に原発よりも危険なものを作るのですから、なんとしても反対しなければならないと思いました。そこで色々な人たちに呼びかけて「市民の会」を立ち上げました。

──06年11月にも「住民投票に関する条例制定の請願」を行い、結局、市議会で不採択になりました。再度、住民投票を請求する意味はどこにあるのですか。

住民投票請求運動を始めた頃に、「なぜ2回目をやるの?」という声はありました。その辺りをきちんと説明してかなり理解されてきたのではないかと思います。一つはまだ母港化を止められるということです。もともと市長は12号バースの延長工事を2005年に許可する際に、原子力空母が使うようになったら再協議をするのだという条件を付けています。市長が、市民の声を聞いて再協議に応じないとすれば、母港化は止められるのだという思いがあります。

また、原子力空母の安全性の問題は市民の共通の課題です。国や米軍を信頼して安全対策を任せるのか、それとも市民の心配の声をもとに、自治体が情報公開、立ち入り調査など安全性の強化を求めていくか。やはりそれは後者でしょう。そうだとすると住民投票で、原子力空母の配備の是非だけではなくて、安全性に対する情報公開が十分かどうかを聞くことによって、安全性の強化を求めていくことができます。これには誰も反対する理由はない訳です。例えば、国が電力会社と仲良くして、電力会社が言っていることが全部正しいと言ったらどうなりますか。それが間違いだったというのが今までの原発の歴史ではないですか。やはり市としては、事業を進めようとしている米軍や国に対して、もっと情報公開するべきという闘う安全対策を確立しなければいけません。そこに緊張関係がなかったら、やはりいつかは事故が起こると思います。

──市長は最初そう言っていましたが、今は原子力空母の配備は国策だから仕方がないと言っています。そんな中で、安全性に対する取り組みも遅れています。

もともと、蒲谷亮一横須賀市長ががんばれば、原子力空母の母港化はできなかったわけです。私たちは容認したこと自体に大きな問題は感じるけれど、仮に容認したとしても、より強い安全性の対策を求めるべきです。ところが、基本的に国や米軍との友好関係を強調し、お任せの安全対策を取ろうとしています。しかし、国が安全性を保証した根拠というのは何もなくて、米軍が安全だと言っているからにすぎない訳です。独自に全く検証されていません。汗をかかない安全対策という方向に収縮していっているように感じます。その典型は、市から国や米軍に対して安全性の説明会の開催を求めて欲しいという要請を拒否したことです。本来ならば母港化を受け入れたらやるべきです。その程度のことすら国に要求できない市が、どうやってそれ以上の安全対策を求めることができるでしょうか。

──米海軍の司令官は「原子力空母は事故を起こしていない」と言っていますが、99年11月に米原子力空母ステニスが座礁して原子炉が緊急停止したことがあります。そういう事実は、米海軍の定義では事故にはならないのですか。

そもそも定義がおかしいのですが、アメリカの海軍の定義では、格納容器が破壊されて放射能が外に出るようなことが事故であるとしています。ということは、全世界でロシアの軍艦の事故は別として、チェルノブイリとスリーマイル島の原発でしか事故は起こっていないことになります。しかし、大事故につながりかねないような、冷却水が急に失われたとか、放射能漏れ事故とか、危険な状態はたくさん起きているのです。破滅的な事故が起きていないという定義のトリックで事故が起こっていないと言っているだけです。

──米海軍司令官はさらにコメントの中で、「もし事故が起こっても基地内に放射能が留まる」という言い方をしています。

それにも全く根拠はありません。日本政府のアセスメントですら、3kmまでは放射能が及ぶと言っている訳ですから、全く政治的な宣伝にすぎないですね。アメリカのサンディエゴのアセスメントでも、基地内ではなくて、いちばん近いコロナド市でも被曝すると言っています。米海軍の内部的なマニュアルの中に、原子炉事故対策マニュアルというのがあって、その中で「海軍は事故を起こしたことはない。努力は払っている。しかし、そういう努力をもってしても、事故を起こす確率がゼロとは言い切れないし、そこでの対処の仕方を間違えると米海軍は全世界で作戦ができなくなってしまう」と述べられています。やはり、事故は起こりうると考えられている訳です。

──今回、住民投票条例を求める署名数は52,438筆でした。この数字をどのように考えておられますか。

運動を始めたときは、前回(06年)も市議会で否決されているので、今回は前回を下回るのではという声もありました。しかし、前回を1万筆も上回ったということは、運動が完全に市民権を得たと言えるのではないでしょうか。署名を取りに行くと、「原子力空母は不安だ。私たちの意見も聞いてほしい。自分たちも署名を集めたい」などと言われました。もう一部の人が反対している問題ではありません。横須賀は「軍都」と呼ばれ、基地とともにありましたが、自分たちの街のことは自分たちで決めたいという、だんだん普通の街になってきたという気がします。非常に大きな手応えを感じています。

──7月19日には、全国から多くの人に集まってもらい集会が予定されていますが、そこに横須賀市民がどれだけ集まってくれるのかということが大事ですね。

市民的な活動者が増えてきています。いろんな人が加わってきていて、レベルは何倍にもアップされている状態だと思うのです。それは、これまでやってきたことの成果ではないのかと思います。

だんだん横須賀も市民が主人公になりつつあるという実感があります。後退しているように見えても、私たちは前進しているのではないかと実感しています。私たちひとり一人では力が弱いから、市長の容認を許してきました。そういうことからも、原子力空母の問題も、憲法を守るという問題も、みんなで手を結んで新たなエネルギーを補給しつつやっていくということが必要なのではないかと思います(4月21日インタビュー)。

〈インタビューを終えて〉

横須賀が「原子力空母の母港化問題」で燃えています!インタビューは、そんな中で行われました。市民運動の先頭で、強いリーダーシップを発揮してきた呉東さんの正義を貫こうとする強い意志を感じました。今夏、私もその闘いに全力を尽くしたい。         (藤本泰成)