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2008.6  

シリア─北朝鮮─イラン
核開発をめぐるブッシュ政権の動き

シリアに本当に核施設はあったのか?

 昨年9月6日、イスラエルがシリア東部を空爆しましたが、どのような施設を爆撃したのかなどは一切明らかにしてきませんでした。ところが4月24日、米・ブッシュ政権が、イスラエルが爆撃した施設は、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の支援によって建設中の原子炉施設だったと発表しました。

 発表は米情報当局の報告書類を記者団に公表する形で行われ、報告書には「シリアが東部砂漠地域でプルトニウムを生産できる原子炉を建設していた。この原子炉は北朝鮮の実験用黒鉛減速炉に酷似していて、北朝鮮が支援していたことが確信できる」とし、イスラエルが空爆する前の画像も公開しました。たしかに画像はヨンピョンの実験用黒鉛減速炉にそっくりです。

 しかし、この画像がどのようにして撮影されたかは明らかでありません。シリアの原子炉らしいとされる写真は、昨年10月23日に、米科学国際安全保障協会のディビット・オルブライトによって、初めて公開され、オルブライトは「建物は建造中の原子炉を内包している可能性がある」と指摘しました。この写真は米国の民間衛星企業・デジタルグローブ社が8月10日に撮影したものです。

 しかし、オルブライトの発言や衛星写真について、国際原子力機関(IAEA)の多くの核専門家が、衛星写真を詳しく分析した結果、その建造物が核関連施設だったとは考えにくいと疑問を呈していることなどを米国のジャーナリスト、シーモア・ハーシュが詳細な記事にしています(雑誌「世界」5月号「真夜中の攻撃作戦」)。

 ブッシュ政権はなぜこの時期に発表したのでしょうか。

「テロ支援国家」指定解除に抵抗する保守派

 現在、6ヵ国協議の合意に基づいて、北朝鮮自身による「核施設無能力化」の作業が進んでいて、問題は北朝鮮による「すべての核計画の申告」に移っています。

「すべての核計画申告」は、(1) 北朝鮮の抽出したプルトニウムの量はどれくらいか、(2) 北朝鮮は高濃縮ウラン(HEU)製造計画を持っていたか、(3) 北朝鮮はシリアの核開発に協力しているのではないか──の3点に絞られています。

 4月8日、シンガポールでアメリカのヒル国務次官補と北朝鮮の金桂寛外務次官が会合し、大きな前進があったと伝えられました。内容は非公開ですが、(1) については原子炉の稼働記録の提出を求め、(2) と(3) については米国の主張を北朝鮮が間接的に認める、という曖昧な形で決着を計ることで合意したといわれます。

 しかし、このような曖昧な形で北朝鮮の核問題が決着し、「テロ支援国家」指定が解除されることは問題だとする、米国・保守派議員たちが巻き返し、4月24日に米議会秘密公聴会が開かれました。その後に、前述の情報当局の報告書が公開されたのですが、ブッシュ大統領には別の思惑が存在しているようです。

ブッシュ大統領の狙いはイラン攻撃

 4月24日の発表とは関係なく、米国務省が4月30日に公表した「07年の世界のテロ活動に関する年次報告書」で、「テロ支援国家」に指定している北朝鮮を非核化の進展に応じて指定を解除すると明記しました。

 5月10日には米国務省のソン・キム朝鮮部長らの北朝鮮実務者チームが、北朝鮮から提出された原子炉、再処理施設の稼働記録を持って帰国しました。北朝鮮の非核化に向けての作業は着実に進み、米国による「テロ支援国家」指定の解除は時間の問題ともいえます。

 一方、ブッシュ大統領は4月24日の発表について「核開発を進めるイランに対して核拡散がいかに中東を不安定化させるかとのメッセージを伝えたかった」と、29日の記者会見で語っています。

 米・CIAなどは07年12月3日に、「イランは03年秋から核兵器計画を停止している」などとした機密報告書の結論部分を公表しましたが、ブッシュ大統領は1月にも、イランを「世界第一のテロ支援国家」と非難し、イラン包囲網構築を呼びかけました。

 3月末、イラン空爆に強く反対していた中東地域統括の米中央軍・ファロン司令官が辞任しました。後任のペトレイアス司令官は、4月8日の米議会でのイラク戦争公聴会で、「イラン革命防衛隊の精鋭『コッズ部隊』は……イラクの『特別グループ』に軍資金を与え、武器を供給し、軍事訓練をほどこし、作戦の指図をしている」と証言しました。

 イランの核開発阻止、イラクの安定という名目で、米軍、あるいはイスラエルのイラン空爆が現実のものとなる危険は高まっています。アメリカの大統領選を控えて、イラン制裁論も高まってきています。