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2008.7  

「天空の軍需利権法」=宇宙基本法は何を狙うのか

核とミサイル防衛にNO!キャンペーン 杉原 浩司

たった4時間だけの審議

 5月21日、日本の宇宙政策を大転換させる「宇宙基本法」が参議院本会議で賛成221人、反対14人の大差で成立しました。反対は共産、社民、無所属の糸数慶子、川田龍平議員のみでした(田中康夫議員は棄権)。
 成立プロセスは異常でした。1969年の衆参両院での全会一致の国会決議により確立された、世界でも類を見ない「非軍事」の宇宙規範を葬るのに要した時間は、衆参合わせてわずか4時間。多数派による専制とも言うべき「大連立」型政治によって「立法改憲」が強行されました。

新「国益派」の台頭

 成立劇から見えてきたのは、新「国益派」とも言うべき危険な政治潮流の台頭です。自民・公明・民主の三党の共同提案に向けた水面下の工作を担ったのは、「盟友」と呼び合う西村康稔(自民)、細野豪志(民主)ら「海洋基本法」を作った面々でした。自民党宇宙開発特別委の事務局長を務める西村議員は、4月に海外派兵恒久法をにらみ再始動した「新世紀の安全保障体制を確立する若手議員の会」(自公民で構成)の事務局長をも担う要注意人物です。
 「国益」という合言葉で結束する彼らにとって、海洋と宇宙は日本の国益最前線であり、基本法はそれらを切り開くために不可欠の立法なのです。誤ったフロンティア精神は有害無益。呼応するように、防衛省は8月にも「海洋・宇宙政策室」を発足さようとしています。この動きはそのまま海外派兵恒久法に連動する恐れがあります。与野党の垣根を超えて増殖する新「国益派」にいかに対抗するのかの議論が早急に必要ではないでしょうか。
 基本法成立は、日本版「軍産学複合体」の台頭をも決定づけました。中心は、自民党研究会「日本の安全保障に関する宇宙利用を考える会」です。海洋基本法と同様に石破茂防衛相が座長となり、河村建夫元文科相、久間章生元防衛相、額賀福志郎金融相らが顧問となりました。三菱電機(偵察衛星を製造)、三菱重工(H2Aロケットの製造、打上げを担当)、NEC(宇宙と防衛を部門統合)等の軍需企業幹部、青木節子(慶應大、『日本の宇宙戦略』著者)、鈴木一人(筑波大)ら学者に加え、憲法を順守すべき立場の防衛省幹部(事務次官、防衛政策局長ら)までもが結集しました。

日本版「軍産複合体」に対峙し得る運動が急務

 この「軍需利権連合」が仕立て上げた宇宙基本法体制の本質は何でしょうか。第一は宇宙開発の国策化です。8月末にも内閣に「宇宙開発戦略本部」が設置され「宇宙基本計画」策定が始まります。第二は軍需産業の保護育成です。宇宙産業すなわち軍需産業に「税制上及び金融上」等の優遇措置が与えられます。
 第三は言うまでもなく公然たる宇宙の軍事利用の解禁です。第四は、それに伴う「軍事機密」の拡大です。「情報の適切な管理」を口実に、自由な研究が窒息させられる懸念があります。
 基本法が導く未来図は、「考える会」の内部文書「わが国の防衛宇宙ビジョン」(06年)に描き出されています。偵察衛星の高性能化、ミサイル防衛(MD)用の早期警戒衛星や追尾監視衛星の開発、ロケットエンジン等の輸出(軍事転用を容認)、海外派兵恒久法と連動する軍事専用通信衛星の保有等です。参院内閣委で佐藤正久議員(元イラク派兵先遣隊長)が質問に立ったのは象徴的です。
 なお、コスト削減のために、運用中の気象衛星等への早期警戒機能の付加も提唱されています(中谷元・元防衛庁長官ら)。宇宙における日米軍事協力に関しては、日本の軍用通信衛星を米軍が軍事作戦に使用することが危惧されます。実効的な歯止めをかけない限り、事態は集団的自衛権の行使にまで進むでしょう。

危険な動きに「市民監視委員会」を作ろう!

 私たちの準備不足がたたり、この事態に対してファックスによる要請の呼びかけくらいしかできませんでした。それでも石附澄夫さん(国立天文台)が発した緊急オンライン署名には、短期間で宇宙に関わる多くの研究者を含めた900名を超える賛同と切実なメッセージが寄せられました。宇宙基本法の危険性に気づいた人々との連携が今後の課題です。
 関連法制定や「宇宙基本計画」策定、機構改革、予算措置、新プロジェクトの具体化、来年度からの中期防衛力整備計画(新「中期防」)への組み込み等が今後議論になります。推進派議員は既に「フォローアップ協議会」を発足させています。
 私たちは、MDや偵察衛星自体への批判を強めると同時に、「市民監視委員会」的な仕組みを立ち上げ、「宇宙における9条改憲」に具体的に対抗していく必要があります。