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「第2回フランス核実験被害者アルジェ国際会議」への参加を日本代表団が中止した理由

フランスがサハラ砂漠で行った核実験についての機密文書の暴露により「人体実験」作戦がフランス核実験でも行われていたことが明らかになり、大きく報道されています。これと時を同じくして、当のアルジェリアでは「第2回アルジェリア領サハラ砂漠におけるフランス核実験の影響に関する国際会議」が開かれます。

この会議には、日本からの代表も招請され、その旨を伝えるマスコミ報道も国内で行われましたが、残念ながら参加を取りやめざるを得ない結果となりました。以下は、2010年2月19日にその経緯と理由を説明した代表団3名の連名によるコミュニケです。

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私たちはなぜ「第2回アルジェリア領サハラ砂漠におけるフランス核実験の影響に関する国際会議」への参加を中止せざるを得なかったのか?

2009年末に、アルジェリア政府は2010年2月22~23日に「第2回アルジェリア領サハラ砂漠におけるフランス核実験の影響に関する国際会議」の首都アルジェでの開催を決定し、広島原爆の被爆者で、詩人の橋爪 文(文子)に会議への参加を要請しました。その後の折衝で、橋爪に木原省治と真下俊樹も同行することになりました。同会議へのこれら3名による日本代表団の参加予定は、関係者はもとより、マスコミでも取り上げられ、広く知られるところとなっています。

会議への参加をめぐって、広島市から31枚の原爆写真パネルをアルジェリア政府に寄贈・送付していただいたり、広島平和記念資料館から各国語による多数の原爆に関するブックレットを寄贈いただく等、関係各方面の皆さんに大変お世話になっています。

しかし、非常に残念ながら、今回のアルジェ会議に日本代表団が参加できなくなったことをここに発表いたします。

その原因は、被爆者としてアルジェリア政府から招請を受けている橋爪文子が、当初より招請承諾の条件として健康上の理由からビジネスクラスでの渡航を要請していたにもかかわらず、招請者であるアルジェリア政府がこれを無視してエコノミークラスを予約し、その事実を本人および他の参加者に明らかにしなかったことにあります。

しかし、私どもが不参加を決めた理由は、航空券という、一見大きな問題ではなさそうな問題のなかに、アルジェリア政府のヒバクシャの健康問題と権利に対する軽視が如実に表れていると考えるからです。

以下、その経緯と私どもの対応を詳細に説明いたします。

これまでの経緯

アルジェリア政府ムジャヒディン(イスラム戦士)省は、フランスがアルジェリア領サハラ砂漠で1960~67年に行った17回の核実験(大気圏4回、地下13回)のアルジェリア国民とアルジェリアの環境への影響に関する国際会議を2007年に初めて開催しました。

最初の核実験(1960年2月13日)から50周年を迎えた今年、アルジェリア政府は「第2回アルジェリア領サハラ砂漠におけるフランス核実験の影響に関する国際会議」の開催を決定し、09年12月22日にムジャヒディン省の担当官より、真下を通じて、広島原爆の被爆者で詩人の橋爪文子(ペンネーム:橋爪 文)の参加の打診があり、翌10年1月8日に正式な招請を受けました。

橋爪は、広島の爆心地から1.5kmの地点で被爆し、瀕死の重傷を負いましたが、生き延びました。しかし、現在も様々な疾病を抱えており、今年1月末にも大腸ガンの手術を受けました。高齢であることと、こうした疾病により長時間の飛行機での移動が健康上の危険を伴うことから、当初より会議担当官に対して

  • ビジネスクラスでの渡航と、
  • 会議開始の2日以上前に現地入りできること

を参加承諾の条件として要請しました。橋爪の健康上の理由からビジネスクラスが不可欠であることは、その後の真下から担当官への連絡のなかでも再三確認を要請しました。

私ども日本代表団は、その後、講演予稿、日本の被爆者認定制度の変化についての資料、履歴等の会議書類の執筆とその仏語訳、ビザ申請・取得など準備を進めてきましたが、この間のアルジェリア政府との度重なる連絡のやり取りのなかでも航空券をビジネスクラスにすることついての返答はありませんでした。

また、eチケットの形で送付されるフライト情報は、真下の分のみ1月31日に到着しましたが、橋爪、木原の分については出発10日前を切っても送付されてきませんでした。再三問い合わせた結果、2月12日にようやく両人のeチケットが届きましたが、橋爪の航空券は、他の二人同様エコノミークラスであることが分かりました。

驚いて担当官に問い合わせたところ、2月15日に次のような返事が届きました。

われわれの予算では、エコノミークラスの4倍するチケットを買うことはできない。しかし、橋爪さんは前に座席のない席を頼めば足を伸ばすことができる。また前もって1日休むことができるし、27日に発つので、体力を回復するのに十分時間がある。一言でいうと、われわれは彼女を招待客として扱っている。われわれの状況を理解する必要があり、闘いは今後も続く。

これに対して、私ども3名の意見として「ヒバクシャの権利回復を目的とする会議に、ヒバクシャの健康を犠牲にして参加しろというのは、どう見てもおかしい。2月17日20時までに橋爪さんにビジネスクラスのeTicketを送付してほしい。この時間までに届かない場合、われわれ日本代表団は参加することはできない」という旨の要請を送りました。

この要請に対して、出発予定前日の2月19日現在まで、ビジネスクラスの航空券はおろか、何の返答もありません。このため、私どもは全員合意の上で、アルジェ会議への参加中止を決めざるを得ませんでした

アルジェリア政府にヒバクシャの権利を守ろうという気があるのか疑問

航空券ごときの問題で私どもが会議への参加を中止した理由は、今回の航空券をめぐるアルジェリア政府の対応のなかに、核の犠牲者に対する配慮がまったく見られないことを重視したためです

私どもの側から再三確認して初めて、橋爪の要請が無視されていたことが分かったわけですが、こちらから確認していなければ、出発当日空港に着いて初めて座席がビジネスクラスではなくエコノミークラスであることを知らされていたはずです。その場合、私どもとしては何の対応も取れず、橋爪はやむなく狭い座席での長時間の旅行を強いられていたことになります。

アルジェリア政府の行為は、極めて無責任かつ不誠実であるだけでなく、場合によっては橋爪の健康を危険に陥れかねない悪質な行為です。私どもは、アルジェリア政府のこのようなヒバクシャの健康の軽視(あるいは蔑視)を看過したまま、与えられたエコノミークラスで何事もなかったかのように会議に参加し、ヒバクシャの権利回復を主張することはとうていできません

今回の私ども日本代表団の参加中止は、したがって、参加する被爆者の健康を保証する条件をアルジェリア政府が用意しなかったことによるやむを得ない結果であると同時に、アルジェリア政府に対してヒバクシャの健康を守ることを最優先すべきことを示し、いまも核実験の被害に苦しんでいると思われるアルジェリアのヒバクシャの真の救済を促すための意思表示でもあります。そのために、私どもは参加中止の理由を明らかにするこの声明書を、日本語だけでなく、フランス語でも作成し、関係者ならびに関係各国のマスメディアに送付します[1]。

フランス核実験被害者への連帯は今後とも強化

最後に、私どもの意図は、あくまでヒバクシャの健康の優先とその権利回復にあるのであり、今回の会議参加中止は、私どものアルジェリアやフランス本国、ポリネシアのフランス核実験被害者への連帯に何ら影響を及ぼすものではないことを強調しておきます。

ちなみに、ここに言う「連帯」は、ただのかけ声だけではなく、具体的な内容をもっています。たとえば、昨年日本の被爆者運動が勝ち取った被爆者認定基準の改正は、他の地域、とくにフランス本国やポリネシアをはじめとする核実験被害者の補償請求運動を前進させるための有力な手がかりとなるもので、世界から注目を集めています。今回のアルジェ会議でその報告を行うことができないのは残念ですが、会議後にフランス語による詳細な資料をインターネット等を通して配布する予定です。当然、その逆方向の影響もあり得ます。フランスやアメリカのヒバクシャ運動が勝ち取った成果は、日本のヒバクシャの運動を前進させる力になります。その意味で、世界のヒバクシャは同じ闘いを闘っているのであり、私どもは今後とも地に足の着いた運動を進めることで、世界のヒバクシャ運動に貢献して行きたいと考えています。

2010年2月19日

橋爪 文子(文)

木原 省治

真下 俊樹

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[1] これに対して、ポリネシア、フランス本国のNGOから「あなた方が取った行動を支持し、尊敬します」という旨の反応が寄せられています。また、駐日アルジェリア大使から「ヒバクシャを軽視・蔑視しているというの言い過ぎです。アルジェリア政府はヒバクシャにたいしてきちんと配慮しています。ただ、今回の件については正式に本国政府に伝えます」という連絡が来ました(2010年2月26日追記)。

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