世界のヒバクシャはいま

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日本の被爆者「モラン法」を批判 共通の目標をアピール

すでにお伝えしましたように、フランスで2009年末に成立した「核実験被害者補償法(モラン法)」にはいくつもの欠陥があります。その欠陥を、日本の被爆者の立場から指摘し、批判した声明を、原水禁と広島・長崎の被爆者・被爆二世が発表しました。また、当日開催中の「第2回フランス核実験被害者アルジェ国際会議」に合わせて、この声明のフランス語版が会議参加者、フランス核実験被害者団体、フランス、アルジェリア両国政府に対して送られました。

フランス核実験被害者の権利は 原爆被爆者の権利よりも劣るのか?

去る2009年12月、フランスで「核実験被害者補償法(モラン法)」が成立しました。この法律は、長年にわたるフランス核実験被害者の闘いの結果、それまで「フランス核実験の被害は一切ない」としてきたフランス政府の頑な立場を破り、フランス核実験の被害を認め、その補償を目的としてい るという点で、歴史的な一歩を踏み出したものと言えます。

しかし、その一歩はあまりにも遅く、またあまりにも臆病な一歩であり、フランス核実験被害者の権利回復からはほど遠いものと言わざるを得ません。モラン法は、その華々しい宣伝とそれを鵜呑み にしたマスコミ報道とは裏腹に、次のような点で極めて不十分な法律であり、フランス核実験被害 者の人権を貶め、民主主義を生んだフランスに対する私たちの尊敬の念を裏切る法律です。

私たち日本の被爆者とその支援者は、フランス政府に対してこれらの欠陥の早急な改正を要求するとともに、フランス核実験被害者に対して国による補償の格差を超えて世界のヒバクシャ共通の権利確立のために協力し合うことを提案します。

1. 実際に補償を受けられる人はごく一部

モラン法が不十分である理由として最初に挙げなければならないのは、補償の対象となる被害者が極めて限定されていることです。

モラン国防省は、今回の「核実験被害者補償法」の法案提出と同時に、フランス核実験に関わっ た人員(軍人および民間人、周辺住民)が、計15万人近いことに言及することで、両者を単純に結 びつけた報道を誘導しています(実際、日本でもそのような報道が行われています)。

しかし、モラン国防相自身「この補償法の対象となりうるのは数十~数百人」と、小数に限定されることを認めています。これは、これまでフランス国防省が公表している被爆線量とその人数に基づいた予想値です。

他方、先日来マスコミで報道されているように、多数の人員に多量の被曝を強いたと見られる作戦 行動がいまだに「国防機密」として公表されていません。こうしたことを考えると、フランス政府がこ れまでに公表した被曝値の網羅性・信頼性を疑わずにはいられません。また、被曝線量の記録が 極めて不完全である以上、被曝線量の証明による線引きが、補償を受けられない被害者を多数生むことは明らかです。

2.日本ではすでに破綻し放棄された手法で補償対象者を制限

モラン国防省による補償対象者の見積もりが極めて少なくなる最大の理由は、運用政令で定めら れ、補償対象者の認定に際して用いる「確認された疾病と電離放射線被曝が関連している確率 の計算」を「国際原子力機関(IAEA)の方法にもとづいて行う」としているためと考えられます。

この方法は、原爆傷害調査委員会(ABCC)およびそれを引き継いだ放射線影響研究所(RERF) が広島・長崎原爆の生存者から集めた放射線の晩発性障害のデータに基づいて作成した「原因確率」概念に近いものと考えられます。

しかし、日本では2009年8月から、この「原因確率」に基づく方法は「放射線の影響が個人ごとに異 なる」、「被曝の実態に一層即したものとする」(つまり、残留放射能の影響など、これまで原因確 率の計算に含められていなかった効果を含める)ために放棄されました。新たな認定では、過去 および現在係争中の裁判の判決を政府が受け容れ、それに基づいて被爆者認定を行うことになっています。これまでの被爆者認定訴訟では、下の表[省略]のようなガン性・非ガン性の疾病が原爆に起因する疾病として認められており、政府による被爆者援護の対象となります。

「原因確率」と、モラン法に盛り込まれている「立証義務は使用者側にある」という考えとは相容れ ないものです。

3. 環境に残留している大量の放射能の監視体制が欠落

長崎では、爆発で飛散したプルトニウムが、被爆者の組織のなかに取り込まれ、いまも放射線を出し続けていることが組織標本の写真撮影によって最近確認されました。

フランス核実験の残留放射能の問題は、広島・長崎原爆よりもはるかに深刻です。なぜなら、フラ ンス核実験は、サハラ砂漠で大気圏が4回、地下核実験が13回、ポリネシアで大気圏が46回、地 下147回と多く、生成された核分裂生成物の量が極めて多量だからです。さらに、プルトニウムを用いた未臨界の「安全性実験」も行われています。

核実験の被害は、現時点での損害を評価して保証金を払えば済むというものではありません。いまはまだ知られていない問題が後になって明らかになることは、過去の例が示している通りです。いまも続いているこれらの核汚染は、現在だけでなく将来世代に至るまで核実験の被害を長引かせるものです。

モラン法では、国民議会での多数の議員の要請により「核実験被害追跡諮問委員会」の設置が追加されましたが、その対象は核実験の健康被害に限定されていて、放射能の環境への影響や、現存する放射能汚染の除去、将来汚染が拡大した場合の対策がまったく入っていません。

世界のヒバクシャ共通の目標設定を

もとより、現在の日本の被爆者援護法には、まだまだ改正しなければならない問題がいくつもあります。また、他国のヒバクシャ補償法に、日本の法律よりも進んだ点が多々あることも承知していま す。

しかし、こうした格差は、本来許されてはならないものではないでしょうか。他国のヒバクシャに対し てすでに実現されている補償が、別の国のヒバクシャに対して適用されないということは、私たちに とって堪え難いことです。同じ人間であり、同じ苦しみを生きている私たちヒバクシャは、最低限、 世界のどこかで実現されている補償を受ける権利があるのであり、国家という枠によって補償に違 いがあるとすれば、それは国家によるヒバクシャ蔑視以外の何者でもないからです。

同時に私たちは、世界のヒバクシャが求めてきた被害の認知と権利回復、補償の要求は、世界共 通のいくつかの項目に収斂しつつあり、また同じ被害を二度と繰り返したくないという思いは同じ であると感じています。私たちは、全地球的なヒバクシャの権利回復と、今後新たなヒバクシャを絶 対に出さないために、世界のヒバクシャが国家の枠を超えた共通の目標を設定し、今後各国での 運動を進めて行くなかでその目標に近づくよう協力し合うことを提案します。

「第2回アルジェリア領サハラ砂漠におけるフランス核実験の影響に関する国際会議」に寄せて

2010年2月23日広島

原水爆禁止日本国民会議

広島・被爆者:坪井 直

被爆者:橋爪文子

被爆二世:木原省治

長崎・被爆者:奥村英二

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