先月の「9月議会」で、二つの地方議会が米国の核兵器研究に協力するメガネのHOYAを名指しで批判する意見書を採択し、小泉一郎首相と田中真紀子外務大臣に提出した。一つは、東京都の調布市、もう一つは、四方を広島市に囲まれた「飛び地」的存在の広島県府中町だ。
調布市の意見書は、自民党、公明党も含め全会一致、府中町の方は、圧倒的の賛成多数で採択された。調布市の意見書が指摘しているとおり、広島・長崎の両市長は、この件ですでにHOYAを批判する声明を発表しており、これで、HOYAの行為に反対の声を挙げた自治体が少なくとも四つになった。一二月議会以降、このような動きが各地で連鎖的に広がるかどうかが注目される。
調布市の『CTBT(包括的核実験禁止条約)に関する意見書』について少し詳しく見ておこう。意見書は、「核兵器廃絶への道が揺らいで」おり、日本政府の姿勢が問われるふたつの問題が起きている」と述べる。問題の一つは、日本政府が今年国連総会に提出する予定の核廃絶に関する決議案を巡るものだ。日本が昨年提出した決議案では、CTBTの条約発効目標を2003年として期限を設定していたのに、今年の決議案ではその目標年の記述を取り下げる考えであることを外務省は明らかにしている。そうなれば、「昨年の決議に賛成した諸国の反発を招くことになるだろう」として、『意見書』は、政府に再考を促している。
HOYAについては次のようにある。問題の「もうひとつはアメリカの水爆における爆発現象(核融合)の研究を行い、核兵器に関する専門家集団と新しい核弾頭を設計し、製造する能力を維持することを目的として建設中の『国立点火施設(NIF)』に、日本の光学ガラス最大手メーカー『HOYA』の米国現地法人が主要部品を納入していることだ。CTBTをすでに批准している日本の企業がこのような核兵器用施設に協力することは『核兵器の開発及び質的改善を抑制し、並びに高度な新型核兵器の開発を終了させる』というこの条約の主要な目的の精神に明確に反する。ブッシュ政権は前政権の政策を踏襲せずCTBTの批准に後ろ向きな態度だが、もしこの施設(NIF)完成後にアメリカ政府が核実験を再開すれば、日本はCTBTの違反国となる。HOYAは広島・長崎市長や被爆者団体の抗議で一時はこのレーザー増幅用の特殊ガラスの納品を見合わせたが、この3月から再開すると発表して、その後は反核団体の抗議も受け付けない態度を明確にした。被爆国日本の企業として許されることではない。」
『意見書』は、このように述べた後、「米国現地法人とはいえ、本社を日本に持つ企業が核兵器開発の協力を行うことは許されない。HOYAに対し、外務省は適切な指導を行い、『国立点火施設(NIF)』への部品納入をやめさせること」を政府・外務省に要求している。
サンフランシスコの近くのローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)で建設中の「国立点火施設(NIF)」(2008年の完成予定)は、レーザーのエネルギーを使って、水爆の爆発現象(核融合爆発)を小規模で実現することを目指している。LLNLは、米国の二つの主要核兵器研究所のうちの一つだ。核兵器の研究・開発・製造に責任を負うエネルギー省の管轄下にある。レーザーを使った核融合の研究は、これまでも行われているが、現段階では、レーザーとして提供されるエネルギーを利用して核融合を起こすだけ、この外部のエネルギーの提供が終われば、反応も終わってしまう。NIFでは、きわめて短時間ながら、自発的な反応の持続を起こそうとしている。核融合自体のエネルギーで反応が持続するこの状況を「点火」という。ここから「国立点火施設」という名前がきている。要するに小規模の核融合「爆発」だ。これが実現すればNIFの核融合現象は、水爆でのものに近づくとNIF関係者はいう。
日本で大きく取り上げられてきた未臨界実験は水爆の引き金となる原爆部分(第一段階=プライマリー)に関するものだ。NIFは、第二段階(=セカンダリー)、つまり水爆のエネルギーの中心となる核融合の研究に使われる。水爆という名前の由来である水素の核融合爆発自体の研究だから、水爆研究にとっての重要度はこちらの方が遙かに高い。しかも、これまで発表されている未臨界実験は、臨界どころか核分裂も伴わないものであり、高温・高圧にさらされたプルトニウムの振る舞いを調べる物性実験であるのに対し、NIFは実際の水爆の核融合爆発を小規模ながら実現するものだ。おまけに、このような実験を八時間に一回の割合で実施する能力を目指している。未臨界実験に反対なら、当然、NIFの実験に反対すべきであり、そのNIFの研究に日本の企業が協力するなどもってのほかと言うべきだ。未臨界実験に関する関心の高さを考えると、HOYA問題がもっと大きな論議を呼んでいないのは、不思議とも言える。
NIFは、幅八五メートル、長さ二〇〇メートルほどの大きさで、ドーム型のフットボールのスタジアムより一寸小さい程度だ。この巨大な施設の中で一九二本のレーザー・ビームを走らせながら、その過程でエネルギーを増幅していく。最後に直径一〇メートルのターゲット・チェンバーの中心部にこのエネルギーを集中させ、直径数ミリのカプセル内に封入された二重水素と三重水素(トリチウム)の核融合を起こさせようという計画だ。
HOYAが納入しているのは、レーザー・ビームの進行の過程でそのエネルギーを何度も増幅させるために使う特殊ガラス(七九X四四X四・五センチメートル)で、施設の中核的部品だ。HOYAは、NIFに必要な三五〇〇枚のガラス板のうちの約半分を数年かけて納入する。(契約額は、五〇〇〇万ドル、約五八億円。)残りの半分は、米国にあるドイツのショット社の子会社が納入する。この特殊ガラスの量産技術を持つ会社はこの二社しかなく、両社は、フランスの同様の核兵器施設「メガジュール」にもガラスを納入する計画だ。。HOYAは一月段階でNIF用に六〇〇枚、LMJ用に一二五枚の製造を終えている。LLNLによると両社合わせた年間製造能力は約一五〇〇枚、NIFとLMJを合わせてた最終的必要総量は、約八〇〇〇枚だ。
HOYAは、今年の二月六日にNIFへの納入の事実が報じられた後、広島市長や被爆者団体などが反対の声を挙げた結果、同月九日、出荷を当分見合わせると発表した。その後、HOYAは、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)などへの二月二〇日付け回答において、未だ出荷は見合わせているが、元々の納入の決定をしたのは、「NIF計画は『国防技術の維持・拡大を中心に据えたものではない』との結論を得て」いるからだと述べている。NIFは主として民生用だとの主張と取れる。実は、HOYAは、一九八五年にも同じ論法を使っている。このときは、NIFの前身のノバへの納入が問題になり、当時進行中だった「戦略防衛構想(SDI=スターウォーズ)」との関係が取りざたされた。レーザーのエネルギーそのものを兵器として利用しようとする計画の一部としてノバが使われているのではないかと疑われたのだ。HOYAは、同社のガラスが「あくまで核融合反応を起こさせるための起爆源など、エネルギー平和利用のために使われると信じている」と述べた(朝日新聞1985年4月12日)。ガラスがレーザー核融合用のものだという点ではHOYAの主張は正しい。だが、当時はノバはNIFよりも機密度の高い軍事施設となっており、平和利用が行われているなどと勝手に信じようのないものだった。米国のレーザー核融合研究が核兵器研究のために続けられてきたこと自体は秘密ではなく、エネルギー省自体が明言している。HOYAとLLNLとの関係は、ノバの前のシバにまでさかのぼる。LLNLと核兵器との関係をHOYAが知らなかったはずがない。
問題の「結論」を出したのは、大阪大学核融合研究センター山中龍彦教授(センター長)だ。一九九八年に開かれたシンポジウムについてのまとめの中で山中教授は次のように述べている。「今回のパネル討論で得た最大の収穫は、NIF計画がわが国のマスコミで報道されている様な国防技術の維持・拡大をメインに据えた計画でないことが明らかになった点であろう(『Forum
Flash』一九九八年五月二三日付け)。」山中教授は、原水禁、原子力資料情報室、グリーン・アクションに対する四月九日付けの回答で、「説明が舌足らず」だったが、本来の意味は、NIF計画は「新たな核兵器の開発につながるものではなく、国防技術の維持・管理を目的にしたものであり、拡大を目的にしたものではない」というものだったと述べている。HOYAは、元の「結論」の根拠を求める原水禁の質問状に答えていないが、マスコミに対しては、「研究は現存核兵器を放置する危険を避け、安全性、信頼性、性能を確認しつつ維持・管理するものと、当社も認識していた」と述べている。HOYAは、山中氏の「真意」を理解しながら、なぜ「結論」をそのまま引用したのだろうか。研究をしても技術が「拡大」しないというのも妙な主張だ。「新たな核兵器の開発をしない」ということだろうか。LLNLは、「新しい核兵器というのは、普通、相当に新しい核弾頭の設計概念や進んだ兵器概念を伴うもの」と説明する。「相当に新しい」かどうかは米国政府が定義するから、新しい核兵器を開発するかどうか議論してもしょうがない。
納入については、HOYAは、三月二二日付けの文書で、三月二六日から再開すると発表した。だが、HOYAもリバモア研究所も、実際の納入が再開されたかどうかについての明言を拒んでいる。
日本のレーザー核融合施設と違い、ノバやNIFは、建設費は全額がエネルギー省の核兵器部門からでている。米国会計検査院によると、NIFで行われる実験の八五%は、核兵器の爆発過程を調べるためのものだ。残りの十五%を、通信機器などへの核爆発の影響の研究、エネルギー開発、科学研究などが分けあう。
HOYAは、「核兵器を放置する危険性を回避」するのが「NIFのミッションの一つ」だともいう(四月四日マスコミ向け回答)。だが、NIFがなくとも米国は核兵器を放置などしないし、偶発的核爆発防止にはNIFは役に立たない。偶発的核爆発に関係するのは、プライマリーの部分であり、セカンダリーの部分が勝手に爆発することはない。セカンダリーについての研究を行うNIFは、安全性とは関係がない。
NIFの本当の役割は、核実験をせずに核兵器とその設計能力を無期限に維持・強化する計画のかなめとしてのものだ。二〇〇二年度の核兵器部門の予算書は、「NIFは実験室で核融合の実験的研究をする唯一の施設」となり、それは、「将来に渡って核抑止力を維持する能力にとって欠くことのできない要素」だという。また、HOYAが提供したエネルギー省の文書が「NIFの主たる目的は、核兵器に関連した物理学の専門家集団を米国で維持すること」としている。また、一九九四年に米国政府が行った『核態勢の見直し』は、「新しい核弾頭を設計し、製造し、認証する能力を維持する」ことをエネルギー省に義務づけている。この能力のかなめになるのがNIFだ。つまり、小規模の形で核実験の予行演習をさせることによって科学者の設計・核実験能力を維持すると同時に、実験で得られるデータによって核兵器開発用のコンピューター・コードを開発するのが主目的だ。
包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准した日本の企業がこのような核兵器用施設に手を貸すことは、同条約の下での日本の義務に関して重要な問題をもたらす。上記の目的を持つNIFに協力することは「核兵器の開発及び質的改善を抑制し並びに高度な新型核兵器の開発を終了させる」という条約の主要な目的の精神に反する。また、NIFの完成後、米国が核実験を行った場合に、日本企業のNIFへの協力を放置した日本はCTBTの違反国となる。米国は、核実験を再開する「基本的能力を維持することを」宣言している。NIFはそのような基本的能力の中心だ。核実験の前に条約の脱退を宣言するだろう米国自体は条約違反国とはならない。だが、日本は、批准国として「核兵器の実験的爆発若しくは他の核爆発の実験を実現させ、奨励し又はいかなる態様によるかを問わずこれに参加することを慎む」義務を負ったままだ。たとえ米国などの批准拒否のために核実験実施時点でCTBTが未発効であっても、日本には、条約法に関するウイーン条約の下で、「条約の趣旨目的[核実験の禁止]を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務がある。
CTBT第三条(国内の実施措置)は次のように定めている。「締約国は、自国の憲法上の手続きに従いこの条約上の義務を履行するために必要な措置をとる。締約国は、特に、次のことのために必要な措置をとる。」これに続く(a)項で特にとるべき措置の一つとして挙げられているのが、自国の領域内及び管轄地域で「自然人及び法人がこの条約によって締約国に対して禁止されている活動を行うことを禁止する」ことだ。現地法人は日本の管轄地域にはないが、NIFの納入を一時なりとも中止させることが本社にできたこと、HOYA本社の鈴木洋社長が現地法人の社長を務めた経歴を持つことからして、ガラス納入に日本が責任を負うことは明らかだ。さらに(b)項は、もう一つの措置として、「自国の国籍を有する自然人がいかなる場所においても上述のような活動を行うことを禁止すること」を挙げている。現地法人の日本人社員も含まれる。
日本は、CTBT上の義務を担保するためとして、一九九七年に原子炉等規制法を改正した。この改正は、基本的には日本での核実験を防止することを念頭に置いており、条約の実施に責任を負う「包括的核実験禁止条約機関」の調査を受け入れたり、報告したりするための法整備である。だが、七六条の三に「核爆発を生じせしめた者は、七年以下の懲役に処する」、「前項の未遂罪は、罰する」とある。これらの条項は、CTBT発効とともに発効することになっている。ちなみに、英国の「一九九八年核爆発(禁止及び査察)法」では、核爆発を生じせしめたものは終身刑に処される可能性がある。死刑のない英国では最高の刑である。日本との差はどこからきているのだろうか。
NIFに関係したHOYAの社員は、CTBTが成立した後で米国が核実験を行えば、七年の懲役に処される可能性がある。英国の法律に従えば終身刑に処されうる行為をしていることを社員らは理解すべきだろう。米国は、核実験に先立ってCTBTを脱退するだろうから、米国人のNIF関係者はもちろん罪に問われることはない。
原子炉等規制法の改正は、CTBT第三条の「条約上の義務を履行するために必要な措置をとる」という日本の義務の一部分でしかない。この改正だけで後は知らないというわけにはいかない。日本の企業の行為を、将来CTBT違反となりうることを承知で放置しておいていいはずがない。同法の規定をHOYAに説明し、将来、犯罪者となりうる行為を社員にやらせないよう勧告するのも、義務に入るはずである。
もちろん、このような法律論以前に、日本の企業が核兵器研究に関わることについてもっと大きな反対運動が起きるべきである。日本の運動として米国の核政策に直接関われることは、日本への核配備・導入の問題を除いてあまりない。HOYAの問題は、日本の運動が影響力を直接発揮できるまたとない機会だ。今こそ日本の反核運動が世界にその行動力を示すときだ。広島、長崎、調布、府中などの声が全国に広がることを期待したい。「HOYAに核兵器研究・開発協力をやめさせる実行委員会」(原子力資料情報室、日本消費者連盟、グリーン・アクション、原水禁、グリーンピース、婦人民主クラブなど四十数団体で構成)では、署名活動も行っている。
『軍縮問題資料』12月号より