核兵器に手をかすメガネのHOYA
2001.8

日本企業の軍事研究協力

光学ガラス再王手のHOYAが米国の水爆研究施設(NIF)にその中核的部品を納入している。これは核兵器研究への協力になるのではないだろうか。焦点はNIFが何を目的としているのかである。プリンストン大学の教授でクリントン政権で安全保障関係の科学顧問的役割を果たしたこともある物理学者、フランク・フォン・ヒッペル氏にその点について書いていただいたので、まずそれをいかに訳出しよう。

国立点火施設(NIF)の目的

 日本のHOYAの米国子会社が「国立点火施設(NIF)」と呼ばれる米国のレーザー核融合施設へのレーザー用高品質ガラスの供給に関わっていることについて日本で論争が起きていると聞きました。NIFは、米国の二つの核兵器設計研究所の一つであるローレンス・リバモア国立研究所(LLNL)で建設されており、その資金を出しているのは、米国の核兵器プログラムです。
 論争の焦点の一つは、NIFの目的が核兵器技術の「維持・拡大」にあるかどうかということのようです。
 私は、NIFの予算を出すべきか否かについて米国政府の決定が行われていた1993年から94年まで、ホワイトハウス科学技術政策局の国家安全保障担当副局長として、この議論に関わっていました。私は、また、95年には、エネルギー省の報告書『国立点火施設と核拡散防止問題』の部外査読委員会の委員となりました。
 ですから、私は、米国の『核兵器維持管理計画(ストックパイル・スチュワードシップ・プログラム=SSP)』の中におけるNIFの役割について説明する知識と責任の両方を持っております。SSPというのは、核爆発実験を行わないで核兵器の設計変更を評価検討すること、そして、米国の新しい世代の核兵器科学者を訓練することを目指している計画です。
 1994年以来、米国の核兵器設計計画の指導者達は、核実験ができない状態では、NIFは、核兵器物理についての理解を「維持・拡大」するために欠かすことのできないものだと主張してきました。
 これが、NIFの最も重要な目的です。ほかの目的ではありません。たとえば、米国の核兵器の安全性を確認したり改善したりするためには使うことはできません。偶発的な核爆発を防ぐ「安全性」を確保するためには、事故の際に、核兵器のプルトニウムが核分裂連鎖反応が起こりうる形状にならないようにしなければなりません。これに関連した実験は、化学爆薬を使って行われます。核爆発における状態を作り出す必要はありません。リバモア研究所でも、NIFが安全性の作業のために使われるとはいっていません。
 さらに、リバモアの主張に反して、NIFは、米国の核兵器の「信頼性」を維持するために直接的な貢献をすることはありません。核爆発実験を実施するか否かに関わらず、信頼性というのは、核兵器の中からサンプルを選んで分解し、その部品を検査して、劣化した部分については新しいものに交換するという形で維持されるのです。
 1994年に出された米国国防省の『核態勢見直し』という報告書がSSPにいくつかの要件を課しました。それ以来、NIFの予算要求は、主として、核実験を伴わずに「新しい核弾頭を設計・製造・認証する能力」を核兵器研究所は維持しなければならないとする国防省の要求に基づくものとなっています。
 NIFは、核爆発の際に達成される温度と圧力に近いものを達成するために設計されています。したがって、リバモア研究所とロスアラモス国立研究所(LANL)が現在開発中の最新の核兵器用コンピュータ・プログラムが、NIFによって点火される小さな核爆発の振る舞いを正しく予測することができれば、実際の核兵器に関する予測の正しさについての確信が高まります。
 私はコンピューターの計算に基づいて核兵器の設計を変更することに反対するものの一人です。実をいうと、核兵器研究所の側が新しいコンピュータ・プログラムを根拠にして、新しい核兵器、あるいは設計変更を施した核兵器の提案をするのを私は心配しています。このような提案は、すでに出されています。もし、軍部がこのような提案を受け入れ、そして、その後、コンピューターの予測を核実験によって実証するよう主張すれば、核実験禁止条約は崩壊してしまいます。
 NIFについて、正当化の議論としてもうひとつ出されているのは、NIFが新しいエネルギー源を提供するかもしれないというものです。しかし、リバモア研究所がNIF用に選んだガラス・レーザーは経済的な核融合エネルギーをもたらすことにはならないだろうと一般に理解されています。米国のエネルギー計画の方の予算からは、これまでレーザー核融合に数千万ドル程度の額しか出そうとしてきていないのはそのためです。実際にNIFの建設とその20年間の運用にかかる約100億ドルと比べてみてください。
 最後に、米国の核兵器計画と日本との関係の性格について真摯な議論が行われていることに敬意を表します。この文章が事実に基づく議論に貢献することになれば幸いです。

プリンストン大学公共・国際問題教授

何が問題なのか

 問題の中心は、被爆国日本の企業が米国の水爆研究施設(NIF)の建設に協力しているということである。2008年の完成を目指して建設中のNIFは、レーザーのエネルギーを使って、水爆の爆発現象(核融合)を小規模で実現しようというもので、核融合自体のエネルギーで反応が進行する「点火」の達成を目指す。日本で大きく取り上げられてきた未臨界実験は水爆の引き金となる原爆部分(第一段階=プライマリー)に関するものである。NIFは、第二段階(=セカンダリー)を成す核融合の研究に使われる。しかも、これまで発表されている未臨界実験は、臨界どころか核分裂も伴わないものであり、高温・高圧にさらされたプルトニウムの振る舞いを調べる物性実験であるのに対し、NIFは実際の水爆の核融合爆発を小規模ながら実現するものであり、水爆研究にとっての重要度ははるかに高い。現地法人を通してとはいえ日本の企業が水爆研究に関わっているというだけで大議論となるべきだが、HOYAの言い訳が多くの人々を煙に巻いているようである。
 フォン・ヒッペル教授は、HOYAが「NIF計画は『国防技術の維持・拡大を中心に据えたものではない』との結論を得て」いると主張してNIFへの納入を正当化しようとした点に注目して筆を執るにいたった。上の主張に私たち原水爆禁止日本国民会議(原水禁)が2月7日に出した公開質問状に対する2月20日付け回答の中でHOYAが示したものである。
 問題の結論を出したのは、大阪大学核融合研究センター山中龍彦教授(センター長)である。1998年に開かれたシンポジウムについてのまとめの中で山中教授は次のように述べている。「今回のパネル討論で得た最大の収穫は、NIF計画がわが国のマスコミで報道されている様な国防技術の維持・拡大をメインに据えた計画でないことが明らかになった点であろう(『Forum Flash』1998年5月23日付け)。」これを引用することによってHOYAはNIFが核兵器とあまり関係のない民生用の施設であるかのようなイメージを作り出し問題の焦点をぼかすことに成功した。実は、1985年にも同じ手法を使っている。このときは、NIFの前身のノバへの納入が問題になり、当時進行中だった戦略防衛構想(SDI=スターウォーズ)との関係が取りざたされた。HOYAは、同社のガラスが「あくまで核融合反応を起こさせるための起爆源など、エネルギー平和利用のために使われると信じている」と述べた(朝日新聞1985年4月12日)。ガラスがレーザー核融合用のものだという点ではHOYAの主張は正しい。だが、当時はノバはNIFよりも機密度の高い施設となっており、平和利用が行われているなどと勝手に信じようのないものだった。HOYAは、平和利用と唱えてごまかすという手法を今回もとっており、阪大がそれに手を貸す形になっている。
 阪大との関係についてHOYAは、1970年代初めにこの分野の研究開発に着手したのは、阪大工学部レーザー工学研究施設(現レーザー核融合研究センター)からレーザーガラスの供給を求められたことを契機とするものであると述べている。阪大を通じてリバモアの関係もできたようである。ノバのさらに前のシバからの付き合いである。
 HOYAのレーザー増幅用特殊ガラス(79X44X4.5cm)は、NIFの中核的部品である。HOYAは、NIFに必要な3500枚のガラス板のうちの約半分を納入する。残りの半分は、米国にあるドイツのショット・グループの子会社が納入する。このガラスの量産技術を持つ会社はこの二社しかなく、両社は、フランスの同様の核兵器施設「メガジュール(LMJ)」にもガラスを納入する計画だ。HOYAは1月段階でNIF用に600枚、LMJ用に125枚の製造を終えている。リバモア研究所によると両社合わせた年間製造能力は約1500枚、NIFとLMJを合わせてた最終的必要総量は、約8000枚である。HOYAは、広島市長や被爆者団体などの反対で一時納入を見合わせたが、3月22日に同月26日から納入再開と発表。実際に納入を再開したか否かについては確言を拒否しており、不明。
 山中教授は、原水禁、原子力資料情報室、グリーン・アクションに対する4月9日付けの回答で、「説明が舌足らず」だったが、本来の意味は、NIF計画は「新たな核兵器の開発につながるものではなく、国防技術の維持・管理を目的にしたものであり、拡大を目的にしたものではない」というものだったと述べている。HOYA総務部は、「研究は現存核兵器を放置する危険を避け、安全性、信頼性、性能を確認しつつ維持・管理するものと、当社も認識していた」と述べている(長崎新聞4月18日)。だが、LLNLからHOYAに宛てた3月19日付けの回答は、HOYAがLLNLに対し、NIFでの「研究の80%が平和目的のために当てられるものと確認できるか」と聞いたことを示している。これに対し、LLNLは、「NIFの機密の実験も機密でない実験もともに核兵器物理の理解の改善に役立つ」などと答えながら、当然、80%平和目的とは述べていない。質問の筆者は山中教授の「結論」や自社の宣伝を信じていたと見られる。米国会計検査院によると、NIFで行われる実験の85%は、核兵器の爆発過程を調べるためのものである。残りの15%にも核爆発が通信機器などに与える影響の研究が入る。
 LLNLの回答はまた、山中教授のいう「新たな核兵器」についても説明している。「新しい核兵器というのは、普通、相当に新しい核弾頭の設計概念や進んだ兵器概念を伴うものである。」核兵器の設計に「改善」を加えても、それが「相当に新しい」かどうかは米国政府が決める。エネルギー省は、NIFが設計の「改善」に役立つとしている。いずれにせよ、米国の定義による「新しい兵器」の設計能力の維持がNIFの主要任務であることはフォン・ヒッペル教授が指摘している通りである。「国防技術の維持・管理」というのも妙な表現だが、「核兵器物理の理解の改善」や設計の変更に役立つ研究が「国防技術の拡大を目的にしたものでない」とわざわざ主張する必要性を山中教授はなぜ感じるのだろうか。
 また、NIFがなくとも米国は核兵器を「放置」などしないし、偶発的核爆発を防ぐ「安全性」維持は、プライマリーに関するものでありNIFとは関係がない。この点を指摘すると、HOYAは、NIFを含むSSPが安全性に役立つという意味であり、NIFが安全性に役立つとは主張していないという。NIFと直接関係のないことを言って煙に巻く戦法のようである。
「信頼性」というのは、期待された通りの高度と威力で爆発することを意味し、先制攻撃の際の敵のミサイルサイロなどの破壊を確実にするためのものである。でなければ、期待されたとおりの人数を殺すことを意味する。いずれにしても、HOYAや山中教授の心配することではないだろう。
 付言すると、私たちは、NIFがリバモア研究所の宣伝文句通りに機能すると信じているわけではない。計画が杜撰であり、「点火」など達成できないだろうから、完成させるのは資金の無駄遣いになるだけだとの批判があることも知っている。また、NIFの研究を利用して設計を変更し、その有効性を確認した気になっても、それは核実験には代わり得ず、そのことが核実験への圧力になってしまう危険性を危惧するのはフォン・ヒッペル教授だけではない。しかし、リバモア研究所がNIFは核兵器設計陣の維持や設計の変更に役立つと主張して予算を得ていることは否定のしようがない。
 いずれにせよ、冒頭で述べたとおり、問題の核心は、日本の企業が水爆研究などに関わっていいのかというものである。
 これを機会に、日本の科学者・企業と核兵器研究・開発・製造へのかかわりについての議論が本誌で展開されることを期待したい。最後に阪大の研究者らはNIFが完成したら、NIFを使って研究するつもりかどうかをお聞きしたい。もしそうだとしたら、米国の反核運動が建設に反対している水爆研究施設の完成を望むことになる日本の研究者の倫理的問題も議論の対象に加えていただきたい。

『科学』8月号より