核兵器に手をかすメガネのHOYA
2001.7

核兵器に協力するメガネのHOYA

 HOYAによる米国水爆研究施設への部品納入は、被爆国の企業倫理に反するだけでなく、日本を包括的核実験禁止条約(CTBT)違反国にする恐れがある。

 光学ガラス最大手HOYAの米国現地法人が米国の水爆研究施設に主要部品を納入している。広島市長や被爆者団体などの反対で一時納入を見合わせたが、三月二二日に同月二六日から納入再開と発表。被爆国日本の企業のするべきことだろうか。
 問題の施設は、サンフランシスコの近くに建設中の「国立点火施設(NIF)」で、レーザーのエネルギーを使って、水爆の爆発現象(核融合)を小規模で再現しようというものだ。核融合自体のエネルギーで反応が進行する「点火」の達成を目指す。これが実現すればNIFの核融合現象は、水爆でのものに近づく。
 HOYAが納入しているのは、レーザー増幅用の特殊ガラス(七九X四四X四・五センチメートル)で、施設の中核的部品だ。窓ガラスの納入とはわけが違う。HOYAは、NIFに必要な三五〇〇枚のガラス板のうちの約半分を数年かけて納入する。残りの半分は、米国にあるドイツのショット社の子会社が納入する。この特殊ガラスの量産技術を持つ会社はこの二社しかなく、両社は、フランスの同様の核兵器施設「メガジュール」にもガラスを納入する計画だ。
 HOYAは、原水爆禁止日本国民会議(原水禁)への二月二〇日付け回答においてNIFが「国防技術の維持拡大を中心に据えたものではない」と主張して、納入を正当化しようとした。HOYAは、一九八五年にNIFの前身のノバへの納入が問題化したときも、この軍事用秘密研究施設が「平和利用のために使われると信じている」と述べた(朝日新聞一九八五年四月一二日)。 だが、日本のレーザー核融合施設と違い、これら施設の建設費は全額がエネルギー省の核兵器部門からでている。米国会計検査院によると、NIFで行われる実験の八五%は、核兵器の爆発過程を調べるためのものだ。残りの十五%を、通信機器などへの核爆発の影響の研究、エネルギー開発、科学研究などが分けあう。
 HOYAはまた、「核兵器を放置する危険性を回避」するのが「NIFのミッションの一つ」だという(四月四日マスコミ向け回答)。NIFがなくとも米国は核兵器を放置などしないし、偶発的核爆発防止にはNIFは役に立たない。
 NIFの本当の役割は、核実験をせずに核兵器とその設計能力を無期限に維持・強化する計画のかなめとしてのものである。二〇〇二年度の核兵器部門の予算書は、「NIFは実験室で核融合の実験的研究をする唯一の施設」となり、それは、「将来に渡って核抑止力を維持する能力にとって欠くことのできない要素」だという。また、HOYAが提供したエネルギー省の文書が「NIFの主たる目的は、核兵器に関連した物理学の専門家集団を米国で維持すること」としている。また、一九九四年の「核態勢の見直し」は、「新しい核弾頭を設計し、製造し、認証する能力を維持する」ことをエネルギー省に義務づけている。この能力のかなめになるのがNIFだ。
 つまり、小規模の形で核実験の予行演習をさせることによって科学者の設計・核実験能力を維持すると同時に、実験で得られるデータによって核兵器開発用のコンピューター・コードを開発するのが主目的だ。
 包括的核実験禁止条約(CTBT)を批准した日本の企業がこのような核兵器用施設に手を貸すことは、同条約の下での日本の義務に関して重要な問題をもたらす。まず上記の目的を持つNIFに協力することは「核兵器の開発及び質的改善を抑制し並びに高度な新型核兵器の開発を終了させる」という条約の主要な目的の精神に反する。また、NIFの完成後、米国が核実験を行った場合に日本はCTBTの違反国となる。米国は、核実験を再開する「基本的能力を維持することを」宣言している。NIFはそのような基本的能力の中心だ。核実験の前に条約の脱退を宣言するだろう米国自体は条約違反国とはならない。だが、日本は、批准国として「核兵器の実験的爆発若しくは他の核爆発の実験を実現させ、奨励し又はいかなる態様によるかを問わずこれに参加することを慎む」義務を負ったままだ。また、たとえ米国などの批准拒否のため核実験実施時点でCTBTが未発効でも、日本には、条約法に関するウイーン条約の下で、「条約の趣旨目的[核実験の禁止]を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務がある。」
 日本は、CTBT第三条第一項(a)の下で、自国の領域内及び管轄地域で「自然人及び法人がこの条約によって締約国に対して禁止されている活動を行うことを禁止する」よう義務づけられている。現地法人は日本の管轄地域にはないが、NIFの納入を一時なりとも中止させることが本社にできたこと、HOYA本社の鈴木洋社長が現地法人の社長を務めた経歴を持つことからして、ガラス納入に日本が責任を負うことは明らかだ。さらに(b)では、「自国の国籍を有する自然人がいかなる場所においても上述のような活動を行うことを禁止すること」を義務づけられている。だから、少なくとも、日本は、現地法人の日本人社員の行動には責任を持つ。「禁止された活動」を放置するのは条約違反だ。条約発効に伴い日本が国内法を整備した後米国(あるいはフランス)が核実験を実施すれば日本人HOYA社員は国内法の下で犯罪者となる可能性がある。
 田中真紀子外相は、五月一八日の衆議院外務委員会における桑原豊民主党議員の質問に対して、「NIFの実験」は「CTBTの禁止する核爆発には該当しないということが報告されている」とHOYAとまったく同じ答え方をしている。「核爆発」の定義の問題はおくとしても、米国の将来の決定次第で日本がCTBT違反国となる可能性を私企業の行為が引き起こしていることの重要性を理解してない。

『世界』7月号より