核情報

2007.9.21

南太平洋非核地帯から核兵器開発協力?

豪政府、インドへのウラン輸出計画を発表

オーストラリア政府は、8月16日、米印原子力協力協定が実施されることになれば、オーストラリアも、そのウランをインドに輸出する用意があると発表しました。「核不拡散条約(NPT)」の締約国以外にはウランを輸出しないとのこれまでの方針を変えるこの決定は、論争を呼んでいます。オーストラリアは、NPTに入っていない国へのウラン輸出を禁止した南太平洋非核地帯条約の締約国です。しかも、ダウナー外相が1996年に、自国の全ての原子力施設において保障措置を受け入れている国以外の非核保有国にはウランを輸出しないとの義務をこの条約は課していると述べています。今回の政府の決定は、この非核地帯条約違反の問題もあって国内外の専門家から批判されています。

ハワード首相は、「指定された全ての民生用核施設を対象とするインドと国際原子力機関(IAEA)との間の適切な保障措置協定の締結」などの厳しい条件をつけているから、インドへのウラン輸出は問題でないと主張しています。しかし、NPTの下での保障措置というのは、そもそも「非核兵器国」が核兵器を持たないようにするための措置です。非核兵器国は、核兵器を持たないと約束し、NPTはそれと引き替えに、非核兵器国が民生用原子力開発については協力が得られるように保証する。その際に提供された核技術・物質が核兵器用に使われないようにしようというのが保障措置です。その国の全て原子力活動を対象とするので「包括的(フルスコープ)保障措置」と呼ばれます。NPTに入らず核開発を続け、核実験を行い、現在も核兵器用核分裂性物質の生産を続けるとともに、核実験を再開する権利を主張している国に対して、まともな保障措置など施しようがありません。インドが一部の原発だけを民生用と指定して、IAEAがそれら「全て」を見張っていたところで、何の役にも立ちません。

たとえ、外国から輸入したウランが「民生用原子炉」だけで使われ、核兵器計画には利用されなくとも、量に限りのある国内ウランを安心して核兵器開発に回せるようになれば、それは核兵器開発を助けることになります。また、NPTの「交換条件」をまったく無視する行為はNPT体制を骨抜きにするものです。ウラン産出国カナダもオーストラリアに続く動きを見せています。米印原子力協力協定の実施のためには、日本を含む45ヶ国からなる「原子力供給国グループ(NSG)」が、包括的保障措置を輸出の条件とする現在の規則においてインドを免除する修正をコンセンサスで認めることが必要ですから、日本の姿勢がますます重要になってきています。NSGの「協議グループ」の会合は11月に、総会は来年4月に予定されています。

* 注: インドは、1974年と1998年に核実験を実施し、1998年に自らを核兵器国と宣言しているが、NPTの下では、1967年以前に核保有をしていた国だけ──米・ソ(露)・英・仏・中──が「核保有国」とみなされる。NPTは、これ以上核保有国を増やさないことを前提として作られた条約である。従って、NPTの文脈の中では、条約改正をしない限り、インドは「非核保有国」でしかあり得ない。NPTに入っていないインドがNPTに入る場合には、南アの場合のように、核兵器を放棄して「非核保有国」として入る以外に道はない。

以下、関連文書を訳出してまとめました。

  1. オーストラリア ジョン・ハワード首相メディア・リリース
  2. 南太平洋非核地帯条約
  3. 核不拡散条約
  4. 南太平洋非核地帯条約の下ではインドのような国にはウランを輸出できないとする外務省の以前の説明
  5. オーストラリア医師グループの反応
  6. 野党の反応
  7. パキスタンの反応
  8. 国際的な反応 米国「軍備管理協会(ACA)」プレスリリース

オーストラリア ジョン・ハワード首相メディア・リリース

2007年8月16日

オーストラリアのウランのインドへの供給

オーストラリア政府が、厳密な条件の下で、インドへのウラン輸出を認める決定をしたことをお伝えしたいと思います。私は、今日、シン首相にこの決定についてお知らせしました。首相はこれを歓迎されました。

この政策変更は、次の条件を伴うものです。

  • 指定された全ての民生用核施設を対象とするインドと国際原子力機関(IAEA)との間の適切な保障措置協定の締結
  • インドによる強化された保障措置に関する追加議定書の締結
  • 原子力供給国グループ(NSG)のガイドラインに例外措置を設けてインドへの国際的な民生用供給を可能にするNSGのコンセンサスによる決定。
  • インドと米国の間の二国間民生用原子力協力協定の締結
  • 指定された民生用原子力施設を永久的にIAEAの保障措置下に置くとのインドの約束の実施に関する満足の行く進展。

オーストラリアのウランのインドへの供給は、また、オーストラリアのウランが常に平和利用の下に置かれるとの保証を提供するオーストラリア・インド2国間保障措置協定が締結され、それが、インドに供給されたオーストラリアの核物質はいかなる軍事目的にも寄与しないことを保証する満足の行く検証措置によって支えられていることを条件としています。

インドは、世界最大の民主主義国家であり、地域的大国として影響力を増大させつつあり、オーストラリアにとって重要な戦略的パートナーとなる可能性を持っています。この決定は、この重要な関係を強化するために政府がとっている包括的パッケージ措置の重要な要素です。上述の条件が満たされとして、この決定は、両国にとって経済的・戦略的に相当の利益をもたらすことになるでしょう。

オーストラリアでは、それは、長期的に輸出と雇用の増大をもたらすでしょう。産業は、既に、輸出で6億5800万ドルを生み出していますが、インドは、巨大で成長を続ける市場となるでしょう。信頼できるクリーンなエネルギー源に対するインドの需要は急速に伸びています。インドは、原子力からのエネルギー生産を三倍にするために11基の原子炉を建設する予定で、2032年までに最高で年間1万2000トンのウランを必要とするようになると見られています。

原子力のような低排出エネルギー源を使って、急速に増大を続けるそのエネルギー需要をインドが満たすのを助けることは、世界的な温室効果ガス排出を減らすのに大きく寄与することになるでしょう。原子力の利用は、今日でも、世界的な排出量を、年間20億トンも減らしています。

今回の決定は、環境面の問題に対処しながら経済的開発を追求するインドを助けるとともに、不拡散面でのインドの確かな実績を認めるものであり、インドを不拡散のメインストリームにもっと完全に入らせるのに役立つでしょう。

南太平洋非核地帯条約(条文)

平和的核活動

各締約国は、次のように約束する:

(a)原料物質若しくは特殊核分裂性物質、または、平和目的の特殊核分裂性物質の再処理、使用若しくは生産のために特に設計され若しくは作成された設備、若しくは資材を、

(i)非核兵器国には、NPTの第3条1で規定された保障措置の適用を受けていない限り(ii)核兵器国には、国際原子力機関(IAEA)との間の適切な保障措置協定の適用を受けていない限り、

提供しない。

核不拡散条約 (条文 pdf)

第3条

1 締約国である各非核兵器国は、原子力が平和的利用から核兵器その他の核爆発装置に転用されることを防止するため、この条約に基づいて負う義務の履行を確認することのみを目的として国際原子力機関憲章及び国際原子力機関の保障措置制度に従い国際原子力機関との間で交渉しかつ締結する協定に定められる保障措置を受諾することを約束する。この条の規定によつて必要とされる保障措置の手続は、原料物質又は特殊核分裂性物質につき、それが主要な原子力施設において生産され、処理され若しくは使用されているか又は主要な原子力施設の外にあるかを問わず、遵守しなければならない。この条の規定によつて必要とされる保障措置は、当該非核兵器国の領域内若しくはその管轄下で又は場所のいかんを問わずその管理の下で行われるすべての平和的な原子力活動に係るすべての原料物質及び特殊核分裂性物質につき、適用される。

南太平洋非核地帯条約の下ではインドのような国にはウランを輸出できないとする外務省の以前の説明

+ダウナー外相 1996年10月31日 

「南太平洋非核地帯4条(a)は、NPT3条1で規定されている保障措置──つまり包括的(フルスコープ)保障措置──の適用を受けていなければ、核物質を提供しないとの法的責任を課している。」

これはNPTの締約国となっていない台湾へのウラン輸出についての国会質問(メルハム議員)を受けての回答:

「南太平洋非核地帯4条(a)は、NPT3条1で規定されている保障措置──包括的(フルスコープ)保障措置を意味する──の対象となっていなければ、非核兵器国に核物質[ウランその他の核物質]を提供しないとの公式の法的責任を課しているか」

+外務省ビル・パターソン高官の発言 2001年8月27日

「核不拡散条約と南太平洋非核地帯条約の締約国として、オーストラリアは、包括的(フルスコープ)のIAEA保障措置が適用される国にのみに核物質を提供するとの義務を負っている。」

これはアルゼンチン、チェコ共和国、ハンガリー、台湾への核輸出についての説明に当たっての発言 (ダウナー外相の承諾を得ての発言と推測される。)

出典

AUSTRALIAN FOREIGN MINISTER SAID SOUTH PACIFIC NUCLEAR TREATY BANS AUSTRALIAN URANIUM EXPORTS TO INDIA (pdf) By Leonard S. Spector, with Leah Kuchinsky

オーストラリア医師グループの反応

医師ら、インドとの核取引に「ノー」

2007年7月26日

「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)」オーストラリア・ネットワークは、今日、オーストラリア政府に対し、オーストラリア・ウランのインドへ輸出を認めないよう要請した。

「核戦争防止国際医師会議(IPPNW)」ICANワーキング・グループ議長とオーストラリアICAN運営委員会議長を務める「オーストラリア核戦争防止医学協会(MAPW)」会長のティルマン・ラフ助教授は次のように語った。

「我が国は、紛れもない核テロ国家インド*に対して、核兵器を作るための燃料を提供することを真剣に考えているのだろうか。この可能性について、私たちは恐怖感を覚えるべきだ。

インドは、核不拡散防止条約を公然と無視して核兵器を製造してきた。インドに対し、その見返りに核兵器を作るための燃料をさらに与えるようなことをしてはならない。

そんなことをすれば、インドとパキスタン、あるいは中国との間の核戦争のリスクを高めることになってしまう。

政府は、我が国のウランが核兵器製造のために使われないと保証することはできない。保障措置は、このような使用を防ぐことはできない。そして、我が国のウランが純粋に平和目的に使われたとしても、我が国は、インドがその国内のウランを兵器計画に回せるようにしてしまう。

インドは、核不拡散条約と包括的核実験禁止条約(CTBT)への署名を拒否している。米印合意は、全世界の核拡散の扉を開けるものだ。

オーストラリアは、不拡散体制全体をさらに弱体化する核合意について無批判的に米国に従ってはならない。」

*核情報訳注

オーストラリアのグループの出している「ICANの要求」というリーフレット (pdf)の冒頭に次のような宣言がある。

全ての核兵器はテロ兵器である。核兵器は、非道徳的、非合法的であり、その使用は、いかなる目的、いかなる文脈においても正当化することはできない。核兵器の所有の継続は、事故、判断の誤り、あるいはテロリストによって使われるリスクを伴い、非核保有国に保有を促すことになる。ICANのゴールは、核兵器のない世界である。

参考:

ノーベル平和賞受賞の医師グループ、米印原子力協力協定に反対─南アジアの核軍拡競争を悪化させると警鐘

野党の反応

野党の労働党と民主党はともに、この政府の決定に反対を表明している。ウラン産出地として知られる南オーストラリア州の首相で労働党幹部のマイク・ラン氏は、秋に行われる選挙で労働党が政権を取れば、インドが非核保有国としてNPTに入らなければインドにウランを売ることはないとインドの新聞『ヒンドゥー』紙のインタビューで述べている。

パキスタンの反応

パキスタンの外務省のタスニム・アスラム氏は、8月20日、定例記者会見で「南アジアの戦略バランスを影響を与えるいかなる事態も我々にとっては、極めて重要な関心事だ」と述べ、パキスタンは地域の軍拡競争を望まないが、地域の平和のために欠かせない戦略的バランスのためには最小抑止力を維持する所存だと付け加えている。また、パキスタンにも原発の計画があり、NSGに対し、基準に基づくアプローチを取るよう呼びかけた。インドだけに例外措置を認めるのでなく、NPTの枠外で核兵器を開発した国にも原子力協力をするという基準にして、パキスタンにも協力するようにというものだ。「我々は、核不拡散体制が効果的なものであるようにするには、パキスタンをパートナーとして扱い、そうみなさなければならないと考える。」と彼女は述べている。

国際的な反応 米国「軍備管理協会(ACA)」プレスリリース

核拡散防止団体、ウランをインドに売るとのオーストラリア政府の決定を激しく非難


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