核情報

2008. 7. 7

米印原子力協力協定──米政権末期の駆け込み申請?
 9月閉会の米議会と国際的取り決めの行方

7月5日の『ニューヨーク・タイムズ(NYT)』紙は、その社説で、米印原子力協力協定発効に必要な措置を任期内に終わらせようとしているブッシュ政権に『急がないで』と呼びかけました(原文)。同協定は、「核不拡散条約(NPT)」に未加盟のまま核兵器開発を続けるインドに核燃料の提供などで協力することを定めたものです。協定の発効には二つの国際機関・グループによる承認措置、それを受けての米国議会の協定批准が必要です。議会は9月に閉会します。

  1. 閣外協力グループの入れ替え?
  2. 今後必要な措置
  3. 米国議会を無視した協定文を議会は認めるのか?
  4. 略年表:原子力協力協定の経緯及び今後の発効に必要な措置の流れ

閣外協力グループの入れ替え?

インドのシン政権は、閣外協力をしている左派政党の反対のため、米印原子力協力協定発効のための手続きを進められない状態にありました。反対理由は基本的に、協定が核問題についての主権を奪うからというものです。これらの政党の反対を無視して、「国際原子力機関(IAEA)」との手続きなどを進めると、解散・選挙に追い込まれる可能性があり、シン政権はこれを避けるために交渉を続けてきました。しかし、先ごろ、シン政権は、これら左派政党との協力を諦め、農民に支持基盤を置く「サマジワディ党(社会党)」など他の野党との協力を求める方向に転じました。7月2日、インド安全保障担当顧問のM. K. ナラヤナン氏が、「社会党」党首と会談し、同日、首相府がこの会談についてプレスリリースを出して、協定はインドの核兵器面での主権を奪うものではないと強調しました。(「社会党」は、まだ態度を明らかにしていません。)

このため、洞爺湖サミットで顔を合わせるシン首相とブッシュ大統領の会談で、協定発効に向けての動きが加速する可能性が出てきました。

今後必要な措置

ただし、ブッシュ政権中の協定発効のためには、次の三つの措置を米国議会が閉会する9月中に終わらせることが必要となります。(議会は、通常通りなら、次期大統領が就任する来年1月まで開かれない予定です。)

1)国際原子力機関(IAEA)理事会によるインドとの保障措置協定の承認

    *IAEA発表の予定:
  • 7月18日 インドがIAEA加盟国に協定説明
  • 8月1日 協定案検討のための臨時理事会
  • 参考 7月9日付IAEA・インド保障措置協定(pdf英文

インドは、運転・建設中の国産発電用原子炉16基のうち8基だけを2014年までに国際原子力機関(IAEA)の保障措置下に置くと宣言しており、この8基についてインドとIAEA当局が保障措置協定の交渉を終えている。(外国製6基については、元々保障措置の下におかれることになっている。)インドは、これらの原発を将来自由に保障措置から外す権限などを要求したとされるが、まとまった協定の中身は公表されていない。米印で合意が成立すれば、保障装置協定案をIAEA理事国に提示して承認を得るための手続きに入る。インド左派政党は、この中途半端な保障措置さえも主権を脅かすものとして嫌っている。

2)「原子力供給国グループ(NSG)」協議グループ会合及び臨時総会で、例外措置の承認 9月?

日本も含む45ヶ国からなる「原子力供給国グループ(NSG)」は、NPT未加盟国への原子力関連輸出を認めていないため、この規則の改定が必要となる。NSGは、コンセンサスでものごとを決めるので一国でも反対すれば改訂はできない。

3) 米国議会による協定支持決議 9月?

米国の「米印原子力協力協定法(ハイド法)」(2006年12月)は、米印原子力協力協定発効の条件として、協定文と共に、インド・IAEA保障措置協定と、NSGによる規則変更などの文書を政府が議会に提出し、上下両院の共同支持決議が採択されることを挙げている。

米国議会を無視した協定文を議会は認めるのか?

ハイド法と2007年8月に発表された米印原子力協力協定の間には相当の矛盾があります。ハイド法は、インドが核実験を行った場合には協力は終了すること、核実験やIAEAの保障装置終了などの場合には、核物質の返還を要求する権利を米国が持つとの規定を協定に入れることなどを定めています。しかし、協定文は、インドによる核実験のために米国の燃料提供が途絶えた場合には、他国からの輸入が可能になるよう米国が取り計らうなどの内容が盛り込まれています。

インド首相府が7月2日に発表したプレスリリースこの矛盾について極めて強気な立場を示しています。

明らかに[米印原子力協力]協定がハイド法に優越する。この立場は、条項を読めば誰の目にも明らかだ。

さらに保障措置協定については次のように述べています。

協定案(最終作業が残っている)の特徴は、は、燃料供給保証、戦略的燃料備蓄及び是正措置に関する主要な理解を反映するものとなっている。インドはその民生用施設を自主的に保障措置の対象として提供するのであり、[供給]保証を念頭に置いていることを明確にする条項が入っている。最も重要なのは、 協定では、[保障装置のための]申告は、主権的決定に従い、そして、民生用原子力協力協定とそれに付随する取り決めの目的に貢献するすべての条件が満たされているとインドが判断した場合にのみ、行われると規定している。これは、原子炉を保障措置下に置くまでは、最後の最後まで、インドがその権利を維持することを保証している。

NYT紙の社説は米印原子力今協定について次のように批判し、国際社会も米国議会も十分な時間をかけて協定の中身を検討する必要があるとしています。

「全く急ぐ必要はない。ブッシュ大統領は、この協定のためにあまりにも多くを与えたが、得たものは、あまりにも少ない。インドは、核兵器用物質の生産を止めると約束していない。核兵器を増やさないと約束していない。核実験を再開しないと約束していない。」

日本政府は、インドがこれらの約束をしないまま、米印協定が発効してしまうようなことがないようあらゆる機会を通じてその影響力を行使しなければなりません。

略年表:原子力協力協定の経緯及び今後の発効に必要な措置の流れ

2006年12月18日
米印平和原子力協力法 成立
2007年7月20日
米印原子力協力協定文で米印合意
2007年7月25日
インド内閣委員会、協定を承認
2007年8月3日
米印両政府、米印原子力協力協定の全文を発表
2008年7月2日
インド安全保障担当顧問のM. K. ナラヤナン、「社会党」党首と会談
首相官邸、会談についてプレスリリース発表
2008年8月?(7月28日?)
インドとIAEAの間の保障措置協定についてのIAEA理事会の承認
2008年9月
NSG協議グループ会合及びNSG臨時総会でインド例外扱いの承認
2008年9月
米国議会での承認(議会は9月で閉会。2009年までは開かれない確率が高い)

参考


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