核情報

2008. 8. 7

NPT運命の夏──2008年8月
 NPTを根底から覆す米印原子力協力協定──問題点の整理

「核不拡散条約(NPT)」に加盟せず、1974年と1998年に核実験を行い、核兵器計画を進めているインドに対し、原子力関連輸出を行うことを認める米印原子力協力協定に国際的承認を与えるための審議が8月1日開催の「国際原子力機関(IAEA)」理事会で行われ、協定は理事会を「通過」しました。次の審議は、8月21日と9月初めの2回に渡って「原子力供給国グループ (NSG)」でなされようとしています。ここでNPTの運命が決まるかもしれません。

NPT加盟国は、1995年NPT延長・再検討会議で、IAEAが自国の原子力関連活動すべてについて監視・査察を行うための「包括的保障措置」を受け入れたNPT加盟国以外には、原子力協力をしないことを決めています。

8月1日にIAEA理事会で承認されたインド・IAEA保障措置協定は、NPTの下で原子力協力をしないはずのインドに対して例外的に原子力協力を約束することを前提に、インドの一部の発電用原子炉だけに関する部分的「保障措置」を施すことを定めたものです。

[インド・IAEA保障処置協定]がもし採択されれば、我々は、我々みんなが知っている核不拡散条約はその終焉を迎えたと認めなければならなくなり、その後を継ぐものについて考えなければならなくなる。

2008年8月1日 IAEA理事会での発言 スイス

NSGでの審議は、NPTの根幹を揺るがすものとなる恐れのあるものですが、いまだにことの深刻さは十分に理解されているとは言い難い状況にあります。以下、これまで核情報で指摘してきた米印原子力協力協定の問題点を現時点での情報を加えて再整理してみました。


  • 背景
  • 問題点
    1. NSG規則変更の根本的矛盾
    2. いい加減な保障措置案
    3. インドの核兵器製造の手助け──南アジアのさらなる軍拡競争の恐れ
    4. NPT体制の崩壊の危険性
    5. 核実験禁止及び核兵器用物質生産禁止条約推進の日本の政策と矛盾
    6. 日本が共同提案した国連安保理決議1172に違反 
    7. 穴だらけの保障措置協定
    8. 米国の事情によるごり押し
  • 日本の取るべき道
    1. 広島・長崎の声
    2. 産業界の批判の声
    3. 核不拡散・軍縮に関する日豪共同イニシャチブ
  • 参考



  • 背景

    米印原子力協力協定の発効のためには、「民生用」の原子力施設に対するIAEAの保障措置と、自国のすべての原子力活動を対象とする包括的保障措置をIAEAと結んでいない国に対する原子力関連の輸出を認めていない「原子力供給国グループ(NSG)」での規則変更が必要である。現在45ヶ国からなるNSGは、コンセンサスで決定を行う。

    被爆国日本は、NSGのメンバーでもあることから、世界の核拡散防止・核廃絶を願う市民からその態度が注目されている。日本は8月1日、インド・IAEA保障措置協定を支持しながら、インドにNPTと「包括的核実験禁止条約(CTBT)」へ署名を呼びかけた。協定が無条件で認められてしまった後、日本が呼びかけたというだけで、インドがNPTとCTBTに加盟・署名するはずがない。NSGの会合で、NPT加盟、CTBT署名・批准、兵器用核物質の生産停止など具体的な行為を原子力協力の条件とすることを求めるのでなければ、単なる呼びかけは、「要請はした」と弁明するためのアリバイ的ジェスチャーでしかない。

    問題点

    米印原子力協力協定、インド・IAEA保障措置協定、NSGでのインドの例外扱いには次のような問題がある。

    NSG規則変更の根本的矛盾

    外務省のホームページの説明にあるとおり、「原子力供給国グループ(NSG )」は、そもそも「1974年のインドの核実験(IAEA保障措置下にあるカナダ製研究用原子炉から得た使用済み燃料を再処理して得たプルトニウ ムを使用)を契機に設立された」ものである。平和利用の名の下に核兵器の材料となる物質を作る技術を得た国が核保有に向かうことを防がなければならないと考えた米国が自国の法律を強化するとともに、国際的に主導してできたのがNSGなのである。原子力の先進国であるNSG参加国は、1977年、受領国が核爆発装置に繋がるいかなる使用をも除くことを明確にした場合にのみ原子力関連技術・物質の輸出を認めるガイドラインを発表した。NSGは、その後、1992年に、原子力関連活動のすべてをIAEAの監視下に置いて見張るという「包括的保障措置」を受け入れた国にのみ原子力輸出を認めるガイドラインを採用した。インドの核実験を契機に設立されたNSGの規則において、それを主導した米国が、当のインドだけを例外扱いしようというのは、NSGにとって自己矛盾であり、日本の核不拡散政策にも反する。

    いい加減な保障措置案

    NPTへの加盟を拒否し、核兵器を作り続けている国の一部の原子炉に対する保障措置を実施すること自体、IAEAの限られた人的・物的資源の無駄遣いに等しい。インドは、運転・建設中の発電用原子炉22基のうち14基を2014年までにIAEAの保障措置下に置き、輸入した燃料は保障措置下の原子炉でのみ使用するとしている。このうち、6基は外国製でそもそも自動的に保障措置下に置かれるものである(NPTの前に提供された原子炉やNSGの規則設定の前に結ばれた協定に基づくものとして建設中の原子炉)。つまり、NSGでの特別扱いを受けるのと引き換えにインドが保障措置下に置くべく提供しようというのは、国産発電用原子炉16基のうち8基だけである。(8+6=14)

    インドの核兵器製造の手助け──南アジアのさらなる軍拡競争の恐れ

    インドは、残りの国産発電用原子炉8基、すべての研究炉、高速増殖炉などは、軍事用プログラムの一部だとし、保障措置に入れることを拒否している。インドはまた、将来作る原子炉を民生用と分類するか軍事用と分類するかはインドに決める権利があると宣言している。軍事用核物質生産をまったく規制せず、一部の原子炉だけを保障措置下におくという方式では、ウラン不足に悩むインドは、民生用には外国からウランを 輸入して使い、そこで浮いた国内産ウランを軍事用に回すことで核分裂性物質の年間生産量を現在の核兵器約7発分から40〜50発分にまで増やすことができると国際的な専門家グループが推定している。これは、南アジアにおける更なる軍拡競争をもたらす恐れがある。(日本が支持を表明した保障措置の内容については、下の穴だらけの保障措置協定を参照。)

    NPT体制の崩壊の危険性

    NPTの「交換条件」の一つは、核兵器を持たないとの約束と引き換えに、原子力面での協力を約束するというものである。そして、1995年年NPT再検討・延長会議が採択した『核不拡散と核軍縮のための原則と目標』は、NPTの認める5つの「核兵器国」(米英ロ中仏)以外への 核関連輸出に関しては「IAEAの包括的保障措置を受諾し、かつ、核兵器その他の核爆発装置を取得しないという国際的に法的な拘束力のある約束を受諾することを要求すべきである」としている。つまりは、NPT加盟国以外との原子力協力を禁じているのである。(これは、米国の先導によって先に確立されていたNSGの規則を受け入れたものである。)NPTに加盟せず1974年と1998年に核実験を行い、現在も核兵器を作り続けているインドに対し、原子力面で協力するというのは、NPTを根底から覆す行為である。被爆国日本はこのような行為に加担すべきではない。

    核実験禁止及び核兵器用物質生産禁止条約推進の日本の政策と矛盾

    1995年の会議の議長を務めたジャヤンタ・ダナパラ元国連事務次長は、米国のNGO「軍備管理軍縮協会(ACA)」のダリル・キンボール事務 局長との共同論文で、米印原子力協力協定の問題について次のように警鐘を鳴らしている。米印原子力協力協定は、「その推進派の主張に反して、インドを NPT加盟国に求められているような核不拡散行動遵守の方向に動かすことはできていない。178の他の国々と異なり、インドは包括的核実験禁止条約 (CTBT)に署名していない。そして、核分裂性物質の製造を続け、その核兵器の量を拡大し続けている。にもかかわらず、この取り決めは、NPT加盟国にだけ認められてきた民生用原子力貿易の特権をインドに与えることになる。それは、『良い』拡散者と『悪い』拡散者を分けるという危険な区別を作り出し、 NPTの規範について誤解を招くメッセージを国際社会に送ることになる。」

    ダナパラ元国連次長らが指摘している通り、インドは、CTBTの署名を拒否している。インドはCTBT発効要件国44ヶ国に入っており、インド の署名・批准がない限りCTBTは発効しない。発効要件国のうち未署名は、北朝鮮、パキスタン、インドの3ヶ国である。さらに、NPTの認める核保有国 5ヶ国は、核兵器用核分裂性物質の製造を中止しているが、インドは、製造を続けている。CTBTの署名・批准及び核兵器用核分裂性物質の即時生産停止さえも条件とせず、インドを原子力関連貿易においてNPTの原則の例外扱いすることは、CTBTの発効と核兵器用「核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)」締結を求めて国際的努力を続けてきた日本の核政策に矛盾する。

    日本が共同提案した国連安保理決議1172に違反 

    国連安全保障理事会は、1998年に印パ両国が核実験を行った際、決議1172号 (pdf)(1998年6月6日)を全会一致で採択し、インド及びパキスタンに対し、「ただちにその核兵器開発計画を中止」するよう要求すると同時に「核兵器用の核分裂性物質のすべての生産を中止する」よう求めている。決議はまた、「すべての国に対し、インド及びパキスタンの核兵器計画に何らかの形で資する可能性のある設備、物質及び関連技術の輸出を防止するよう奨励」している。日本は、スウェーデン、コスタリカ、スロベニアとともにこの決議の共同提案国となっている。

    穴だらけの保障措置協定

    8月1日にIAEA理事会が承認した保障措置協定には、上述の根本的問題の他にも、いくつもの問題がある。例えば:

    1. 協定には、保障措置の対象となる施設のリストが存在しない。協定は、リストに入れるべき施設をインドが指定するとその施設について協定が発効し、リス トは逐次拡大されると規定している。インドの意向次第で決まる手続きに事前承認を与えるこのような協定は前例がない。
    2. 協定は、「供給の途絶に対処するための核燃料の戦略的備蓄を用意しようというインドの取り組みに対する支持」をIAEA加盟国に義務付けている。供給が途絶えるのは、インドが核実験を行い、その制裁措置が取られた場合のみか、少なくとも、そういう場合が含まれうる。核実験をしても、国際的制裁措置が効果を発揮しないように準備する手助けをすることをIAEA加盟国に義務付けるのでは、IAEAの存在意義が問われる。米国の米印原子力協力推進法は、インドが核実験をした際には、燃料の返還を要求する権利を米国が持つものとすると定めている。
    3. 協定は、「インドは、外国の燃料供給の途絶の際には、その民生用原子炉の継続的運転を保証するために是正措置を講じても良い」と述べている。これも核実験に対する国際的制裁措置が取られた場合には、インドは「是正措置(corrective measures=矯正措置)」を講じても良いということである。外国の燃料供給の途絶が核実験による制裁の結果を意 味しないのならそう明確に書くべきである。条件も不明、それに対する「是正措置」の中身も不明ななま、「是正措置」を講じても良いとする協定が許されて良いわけはない。このような例は、他の国とのIAEA保障措置協定ではもちろん存在しない。
    4. 「民生用」と指定された国産原子炉の使用済み燃料の再処理は、「軍事用」の再処理と同じ再処理施設で行われることになっており、「民生用」再処理の期間だけ施設を保障措置下に置くというが、これはまともな保障処置とは呼べない。
    5. 協定案の前文では、IAEA加盟国が高速増殖炉や再処理を含むインドの「完全な」原子力政策に「完全に」協力することが謳われている。インドは、4. の問題を解決するため、「民生用」専用の再処理施設を作る可能性があるとしている。米国は再処理技術を提供しないと言っているが、保障措置協定案がIAEA 理事会で承認され、NSGにおいてインドとの「完全な」協力を認める規則変更が行われれば、米国以外の国から提供された再処理技術などが、軍事用にコピーされる可能性がある。

    米国の事情によるごり押し

    米印がこのような重要な問題を急いで8月中にIAEA理事会とNSGで処理しようとしているのは、米国の事情によるものである。米国の米印原子力協力促進法(2006年12月)は、米印原子力協力協定(2007年8月発表)の発効には、インド・IAEA保障措置協定とNSGの規則変更の文書を米国議会が受け取った上で上下両院支持決議を通過させることが必要と定めている。米国議会は9月末で来年まで閉会となるので、米国は、ブッシュ政権下で協定を発効させるため、国際的な手続きを8月中に済ませようとしているのである。米国の事情だけで、十分な審議を経ないまま米印原子力協力協定が国際的に認められてはならない。

    日本の取るべき道

    米印原子力協力のもつ上述のような問題点を考えれば、日本の取るべき道は明らかである。さらに次のような点を考慮すべきである。

    広島・長崎の声

    広島・長崎両市長がすでに2006年12月の時点で、米印原子力協力の問題点を指摘して、この問題について慎重な議論がなされるよう日本が国際社会で指導力を発揮することを求める要請書を政府に送っている。また、2008年7月30日には、IAEA理事会に先立って、インドが核不拡散条約(NPT)と「包括的核実験禁止条約(CTBT)」加盟しない段階で、原子力協力が行われることのないよう主導的役割を果たすことを日本政府に求める要請書を発表した。また、これまで全国の約30の自治体が、米印原子力協力の問題点を指摘して、この問題について慎重な議論がなされるよう日本が国際社会で指導力を発揮することを求める意見書を政府に提出している。また、数々の反核・平和団体が協定に反対の声を上げている。

    産業界の批判の声

    原子力推進派にも米印原子力協定批判の声がある。例えば、秋元勇巳日本経済団体連合会資源・エネルギー対策委員会委員長(三菱マテリアル(株)名誉顧問)は、2006年5月18−19日開催の「核不拡散科学技術国際フォーラム」(主催:日本原子力研究開発機構主催。後援:原子力委員会、文部科学省、経済産業省、外務省)で、「核兵器を保有していてもインドには原子力協力や核燃料サイクルを認める一方で、イランや北朝鮮には認めないというのはダブルスタンダードとして非難されかねず、ダブルスタンダードと言われない客観的な理由や基準が必要と考える」と述べ、協定の問題点を指摘している。

    核不拡散・軍縮に関する日豪共同イニシャチブ

    2010年のNPT再検討会議が迫っている今、世界はNPT体制強化の努力を必要としている。オーストラリアから提案のあった核不拡散・軍縮 に関する国際委員会について、日本は、日豪の共同イニシアティブとして同委員会に参加することを表明し、川口順子元外相が日本側共同議長となることになっ た。核不拡散・軍縮面における日本の行動は今までにも増して世界から注目されている。

    参考:

    「原子力供給国グループ(NSG)」45ヶ国参加国

     アルゼンチン、オーストラリア、オーストリア、ベラルーシ、ベルギー、ブラジル、ブルガリア、カナダ、中国、クロアチア、キプロス、チェコ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、ハンガリー、アイルランド、イタリア、日本、カザフスタン、韓国、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、ロシア、スロバキア、スロベニア、南アフリカ、スペイン、スウェーデン、スイス、トルコ、ウクライナ、英国、米国

    「インド・アジア・ニュース・サービス(IANS)」によると、8月7日時点での参加国の色分けは次の通り。

    カテゴリー1(賛成しそうな国々)

    ベラルーシ、ブルガリア、クロアチア、チェコ共和国、エストニア、フランス、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、マルタ、ポーランド、ルーマニア、ロシア、スロバキア、南アフリカ、ウクライナ、英国、米国

    カテゴリー2(懐疑的だが最終的に賛成か)

    アルゼンチン、オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、中国、デンマーク、フィンランド、ドイツ、ギリシャ、イタリア、日本、カザフスタン、ルクセンブルグ、ノルウェー、スロベニア、スペイン、韓国、スウェーデン、トルコ

    カテゴリー3 (反対しそうな国)

    オーストリア、アイルランド、オランダ、ニュージーランド、スイス


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