核情報

2010.6.3

IAEA、イラン問題報告書で核兵器計画に懸念表明
 イラン・トルコ・ブラジルが合意したスワップ計画の行方は

国際原子力機関(IAEA)は、最新のイランに関する報告書(5月31日付け, pdf)の中で、イランは、1)2007年2月以来、濃縮度約3.5%の濃縮ウラン(六フッ化ウラン)を2427kg製造(このウランをさらに濃縮すれば約2発分の兵器級濃縮ウランができる)、2)この一部をパイロット・プラントに送り、2010年2月9日以降の運転で濃縮度20%弱の濃縮ウラン5.7kgを製造と発表しました。報告書はまた、IAEAは、核兵器研究が2004年以降も継続している可能性に懸念を抱いているとも述べています。

また、報告書は触れていませんが、5月17日、イラン・トルコ・ブラジルの3ヶ国は、イランの3.5%濃縮ウラン1200kgをトルコに搬出し保管する代わりに、ロシアとフランスが、テヘラン研究炉用の19.75%濃縮ウラン燃料120kgを1年以内に提供するとの案で合意したと発表しました。以下、この問題と注目されている下の4つの施設について、まとめておきます。データは、主として、今回のIAEA報告書と米国の「科学・国際安全保障研究所(ISIS)」ウェブサイトの文書類からのものです。

燃料濃縮プラント(FEP) ナタンツ(ナタンズ)

パイロット燃料濃縮プラント(PFEP) ナタンツ(ナタンズ)

フォルドウ燃料濃縮プラント(FFEP)

テヘラン研究炉(TRR) 医療用アイソトープの製造に利用

参考




  1. 燃料濃縮プラント(FEP) ナタンツ(ナタンズ)
  2. パイロット燃料濃縮プラント(PFEP) ナタンツ(ナタンズ)
  3. フォルドウ燃料濃縮プラント(FFEP) 
  4. IAEAに対する施設の設計情報の申告の義務は?
  5. テヘラン研究炉(TRR)
  6. 20%弱の濃縮の意味
  7. テヘラン研究炉(TRR)燃料不足と3.5%ウランと19.75%ウラン燃料のスワップ(交換)案
  8. イラン・トルコ・ブラジルによるスワップ共同宣言(2010年5月17日)(5月24日書面でIAEAに通告)
  9. 1200kgの六フッ化ウランでどのくらいテヘラン研究炉が運転できるか
  10. 核兵器計画
  11. 10カ所に濃縮施設建設?
  12. パイロプロセシング(高温再処理=乾式再処理)
  13. 参考


燃料濃縮プラント(FEP) ナタンツ(ナタンズ)

遠心分離機 

 設置数 合計8528台 原料の六フッ化ウランを入れているのは3936台。

 将来計画 5万台

低濃縮ウラン(3.5%)製造量 

 2007年2月以来 2427kg (濃縮プラントでの製造量は、六フッ化ウランの量で示されている。これは、ウランそのものの量ではないことに注意。)

 このレベルの濃縮ウラン1000kg-1200kgを再濃縮すれば核兵器1発分が得られる

  

パイロット燃料濃縮プラント(PFEP) ナタンツ(ナタンズ)

6組のカスケード

 内、2組(それぞれ遠心分離機164台を組み入れられる)が20%まで濃縮用に指定

 2010年2月9日─5月31日 FEPで製造した低濃縮ウラン約172kgを一組のカスケードに注入

 4月7日 5.7kgを取り出し。イランは、19.7%濃縮と申告。IAEAの測定では19.3%

 イランは、近々2組のカスケードを連結する計画

  

フォルドウ燃料濃縮プラント(FFEP) 

 2009年秋に発覚した第2濃縮プラント(衛星写真:ISIS)

 建設中 まだ遠心分離機は設置されていない。

 計画 18組のカスケード、合計3000台の遠心分離機

9月21日
イラン、IAEAに新たなパイロット濃縮プラントを建設中と通告 場所を明らかにせず
9月25日
米、英、仏首脳、ピッツバーグのG20 金融・世界経済首脳会議の最中、イランがゴム(コム)の北西(20km)の山中に近くに同施設が建設中と発表(ホワイトハウス:英文)
 イラン側の発表は、米英仏の情報把握を察知し先手を打ったものと見られている。

  

IAEAに対する施設の設計情報の申告の義務は?

イランはIAEAとの協定で、核施設の設計情報について、「新しい施設に核物質が導入されるできるだけ早い時期」に提供することを義務づけられている。(イラン核開発データ:IAEAに対する施設の設計情報の申告の義務は?)

 1992年まではスタンダードだった補助取り決めでは、できるだけ早い時期とは、施設に核物質が導入される180日前までを意味していた。

 92年以後IAEAが受け入れを呼びかけ、イランが2003年2月26日になってやっと受け入れた新しい補助取り決めでは、イランは、建設する決定、建設を許可する決定、あるいは修正する決定がなされてからできるだけ早く暫定設計情報を提供することを義務づけられている。

 イランは、2007年3月こ9日、この取り決めSubsidiary Arrangements General Part, Code 3.1の実施を停止と宣言しているが、IAEAは、この取り決めの一方的変更は認められないと定められており、現在も有効と指摘している。現在、この取り決めを遵守していないのは、相当量の原子力活動を行い、IAEAと包括的保障措置協定を結んでいる国では、イランだけ。

  

テヘラン研究炉(TRR) 

プール型軽水研究炉

1967年に臨界

 米国が高濃縮ウラン(93%)、ホットセルと共に提供。この燃料6kgは敷地内に使用済み燃料として保管。

1980年代末にアルゼンチンと低濃縮ウラン使用の炉に改修することについて交渉

1993年以来、19.75%濃縮のウランを使って運転。アルゼンチンは、合計115.8kgの燃料を提供。これは、酸化ウラン(U3O8)の粒子をアルミニウムの母材に散りばめた形式のもの。イランによると今年中に燃料切れとなる。このため、イランは昨年半ば、20%弱濃縮ウランの確保についての協力をIAEAに求めた。

1988年から93年にかけて、イランは、この炉を使って、プルトニウムや核兵器の爆発装置に利用できるポロニウム210の製造実験を行っている。

  

20%弱の濃縮の意味

IAEAの規定では、ウラン235の比率が20%以上のものが直接核兵器の材料に使える高濃縮ウランとされている。高濃縮ウランに含まれるウラン235の量にして25kgが行方不明になれば核兵器が1発できたものと思えというのがIAEAの考え方だ。(これは、広島に投下されたウラン原爆の設計でなく、長崎に投下されたプルトニウム原爆と同様の設計<爆縮型>を使った場合。)一般的には兵器用には90%以上の濃縮度のものが使われる。テヘラン研究炉の燃料は、保障措置上の問題で、20%よりわずかだけ低い濃縮度のものを使用することになっている。問題は、約20%の濃縮ウランを直接核兵器に使うということではなく、このレベルの濃縮ウランから出発すると、兵器級のウランが作りやすいと言うことだ。

例えばISISは、3月3日の記事で次のように述べている。

19.75%の濃縮ウランの段階にイランが達すれば、濃縮アウトプット(分離作業)から言えば、兵器級ウランへの道の90%の所にいることになる。

この記事は、天然ウラン、3.5%濃縮ウラン、19.75%濃縮ウランから出発した場合に、ナタンツの現在の運転方法を使って、兵器級ウランが年間どのくらいできるかを次のように示している。

天然ウラン 22kg/年 (1年で1発分)

3.5% 105-130kg/年 (数ヶ月で1発分)

19.75% 350-680kg/年 (1ヶ月以下で1発分)

(上の数字は、六フッ化ウランではなくウランの量)

「これらの計算は、十分な量の19.75%濃縮ウランを作れば、核兵器1発分の兵器級ウランの保有にイランがどれだけ近づくかを示している。イランは、IAEAの査察官の訪問と訪問の間に兵器級ウランをこの物質[19.75%濃縮ウラン]から作ることができる。査察官は、常時ナタンツのサイトにいるわけではない。」

下の表は、約20%まで濃縮すれば、兵器級濃縮ウラン製造の作業の90%が終わることを別の形で示している。

ウラン濃縮作業
供給原料ウラン濃縮製品 遠心分離機割り当て率
濃縮度濃縮度
0.72%311.0kg 3.50%32.0kg 67.50%
3.50%32.0kg20%4.6kg 22.50%
20%4.6kg 60%1.5kg 7.80%
60%1.5kg 90%1.0kg 2.20%
出典: Alex Glaser, "Characteristics of the Gas Centrifuge for Uranium Enrichment and
Their Relevance for Nuclear Weapon Proliferation," Science & Global Security

  

テヘラン研究炉(TRR)燃料不足と3.5%ウランと19.75%ウラン燃料のスワップ(交換)案

イランは、2009年半ばに、IAEAにテヘラン研究炉の燃料確保の協力を依頼。

10月1日 ウィーン・グループ(米、露、仏、IAEA)とイラン、スワップ案で基本合意(ホワイトハウス発表 英文)

ロシアにイランの低濃縮ウラン1200kgを送り、ロシアでこれを濃縮度20%弱に濃縮した製品120kgをフランスが燃料に加工すると言うアイデア。

この時点でのイランの保有量は約1500kg。1200kg搬出すれば、イランが核兵器1個分の1000kg程度をさらに製造するまで時間稼ぎができるというのがウィーン・グループ側の意図。この合意は結局まとまらなかった。

2010年2月7日 イラン、スワップ交渉が決裂すれば20%濃縮を始めるようイラン原子力庁(AEOI)に指示と発表。

同日、サレヒ原子力庁長官がテレビ局に対し、来年(3月21に始まる)10カ所に濃縮施設建設とも述べる。

  

1200kgの六フッ化ウランでどのくらいテヘラン研究炉が運転できるか

ISISの記事(2010年2月8日英文pdf)、詳細英文pdfは次のように説明している。

1200kgの低濃縮ウラン(6フッ化ウラン)は、19.75%低濃縮ウラン120kg(ウランの量)になる。

運転可能期間は、年間の利用率(設備利用率40-80%)により、次のようになる。

熱出力3メガワットで運転の場合 11-21年 (5.5ー11kg/年)

熱出力5メガワットで運転の場合  6-13年 (9.2-18.4kg/年)

上のkgは、六フッ化ウランではなく、燃料中に含まれるウランの量。

  

イラン・トルコ・ブラジルによるスワップ共同宣言(2010年5月17日)(5月24日書面でIAEAに通告)

イランは、1200kgの3.5%濃縮ウラン(六フッ化ウラン)をトルコに送りIAEA監視の下とに保管、ウィーングループ(米、露、仏、IAEA)がテヘラン研究炉(TRR)の運転に必要なウラン燃料120kg(ウランの量)を、1年以内に供給という内容。(Text of the Iran-Brazil-Turkey deal)

話し合いの可能性を作った点は評価されるが、次のような問題があり、この共同宣言案は難航している。

文書は、NPTの下でのイランを含むすべての国の原子力の平和利用の権利(核燃料サイクルを含む)を確認するとしており、これは、イランに対し、濃縮・再処理・重水関連活動の停止を義務づけた安保理決議に違反するものととれる。

宣言は1年以内に燃料を提供することを規定しているが、フランスの燃料製造者は、この量の燃料を作るには2年かかると言っている。

宣言は、「この宣言の条項が遵守されなかった場合には、トルコは、イランの要請があり次第、迅速かつ無条件にイランの低濃縮ウランをイランに返却する」としているが、遵守についての判断をイランが一方的にすることになる。

イランは、すでに2427kgの低濃縮ウランを保有している。つまり、昨年10月の時点と異なり、現在1200kgを搬出しても、1発分の高濃縮ウランの製造に必要な量が国内に残ることになる。しかも、3.5%の濃縮ウランと19.75の濃縮ウランの製造は続けられることになっている。

  

核兵器計画

IAEAは「イランにおける過去あるいは現在の未申告の核関連活動──核弾頭あるいはミサイルの開発に関連した活動を含む軍関連組織の関わる活動──の存在の可能性について懸念を持ち続けている。これらの活動の一部が2004年以後も続いたことを示す徴候がある。」

2007年12月3日に発表された米国『国家情報評価』は、イランの核兵器設計・製造計画が2003年から停止していたとの判断を示したが、2009年12月の報告(英文pdf)(p.20)は、「現在核兵器を開発することを意図しているかどうかは我々には分からないが、イランは、最低でも、核兵器を開発するオプションを維持していると我々は評価する」としている。

  

10カ所に濃縮施設建設?

IAEAは、2009年12月2日の書簡などで、10カ所に濃縮施設を作るとの発表について情報を提供するようイランに要求しているが、イランはこれに応じていない。

パイロプロセシング(高温再処理=乾式再処理)

IAEAは、2010年1月9日、テヘランの「Jabr Ibn Hayan多目的研究所(JHL)」で設計情報検認(DIV)作業を行っている際にイラン側から、JHLでパイロプロセシングの研究開発が行われていたと告げられる。金属ウランの電気化学的生産についての研究のためだという。次のJHLのDIV作業中の4月14日、目的は、イオン液体中におけるウラニルの電気化学的振る舞いに関するものだと告げられる。このDIVの際には、電気化学セルが取り外されていたという。どこに運び出されたのか?

元米国国務省の核拡散問題専門家マーク・フィッツパトリックは、パイロプロセシングについてロサンゼルス・タイムズ紙にこう述べている。

これにより、イランは、プルトニウムの分離能力、つまりは、核兵器への第二の道に近づくことになる・・・イランの核計画の軍事的関係についての証拠を考えれば、イランに金属ウランの製造についての研究の目的を聞いてみる価値があるだろう。

核兵器を作るには、高濃縮ウランの酸化物を金属ウランにする必要がある。

パイロプロセシングは、核拡散抵抗性の高い再処理技術として喧伝されている。

韓国もこれに関心を持っている。しかし、イランがこの技術を持つとなると懸念が生じる。これは、「核拡散抵抗性」の怪しさを物語っているといえるだろう。

  

参考

  


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