核情報

2007.2.7

米印原子力協力問題意見書用参考資料

  1. 基礎事実
  2. 米印原子力協力実施のために今後必要な措置
  3. 根本的矛盾
  4. 印パ軍拡競争の火に油
  5. 核兵器用核物質生産禁止条約(カットオフ条約=FMCT)交渉の障害
  6. 最低限の条件は?
  7. CTBT未署名トリオ:北朝鮮、インド、パキスタン
  8. 国連安保理決議1172(1998年、共同提案国:日本、スウェーデン、コスタリカ、スロベニア)
  9. 印パの平和運動の声−日本は南アジアの軍拡競争に手をかさないで
  10. 日本政府の態度
  11. インド首相訪問(2006年12月13−16日)の意味
  12. ロシアの動き
  13. 協力に批判的な日本の原子力産業界の声
  14. 広島・長崎両市長の政府への要請書

基礎事実

 2006年12月18日にブッシュ大統領が署名して成立した米印平和原子力協力法 (pdf、英文)は、NPTに加盟していない国への核関連輸出を禁止した国内法においてインドを特別扱いすることを認めるものである。

参考

米印原子力協力実施のために今後必要な措置

参考:

根本的矛盾

米国の国内法もNSGも、1974年にインドが行った核実験を契機に出来たものである。インドは、「平和利用目的」で入手したカナダ製の原子炉サイラスで米国製の重水を使ってプルトニウムを生産し、これを材料として核実験を行った。米国は、このような「平和利用」技術の軍事用転用が生じるのを防ぐために作った法律と、自らが主導して設立したNSGの規則を対中国の戦略的構想の下で変えようとしている。

印パ軍拡競争の火に油

軍事用核物質生産をまったく規制しない現在の条件では、ウラン不足に悩むインドは、民生用には外国からウランを輸入して使い、そこで浮いた国内産ウランを軍事用に回すことで核兵器の年間生産量をこれまでの数倍に増やせる。これは、単にインドの現在の核保有状態を認めるかどうかという認識の問題ではなく、インドによる核増強に積極的に手をかすのかどうかという問題である。インドの核増強は、当然パキスタンの対応をもたらす。

核兵器用核物質生産禁止条約(カットオフ条約=FMCT)交渉の障害

カットオフ条約(FMCT)成立に向けて日本他各国が努力している中、印パ両国は核兵器用核物質の生産を続けている。NPTで規定された核保有国5ヶ国(米露英仏中)は既に生産を停止している。

参考:

最低限の条件は?

核兵器用核物質生産の即時停止と包括的核実験禁止条約(CTBT)への署名。

核兵器をただちにすべて放棄して非核保有国としてNPTに加盟するという条件が無理とするなら、少なくとも最低限の条件として、核兵器用核物質の生産をこれ以上しないことをインドが約束することを要求すべきだ。FMCTの交渉に協力するという宣言だけではまったく不十分。交渉が長引く間生産が続けられる。

CTBT未署名トリオ:北朝鮮、インド、パキスタン

CTBTの発効には高度な原子力技術を持つ44ヶ国の署名・批准が必要。

44ヶ国のうち署名もしていないのは、北朝鮮、インド、パキスタンの3ヶ国。

参考:

国連安保理決議1172 (1998年、共同提案国:日本、スウェーデン、コスタリカ、スロベニア)

国連安全保障理事会は、1998年に印パ両国が核実験を行った際、決議1172号 (pdf)(1998年6月6日)を全会一致で採択し、インド及びパキスタンに対し、「ただちにその核兵器開発計画を中止」するよう要求すると同時に「核兵器用の核分裂性物質のすべての生産を中止する」よう求めている。日本が共同提案国となっているこの決議はまた、「すべての国に対し、インド及びパキスタンの核兵器計画に何らかの形で資する可能性のある設備、物質及び関連技術の輸出を防止するよう奨励」している。

印パの平和運動の声−日本は南アジアの軍拡競争に手をかさないで

 印パの平和運動の代表や科学者たちは、2月1日、インドの核兵器生産速度を速め南アジアの核軍拡競争をもたらすことになる米印原子力協力をそのままの形で認めないようにと要請する書簡を総理大臣・外務大臣に提出した。(同内容の書簡は、衆参両院議長にも提出された。)

書簡は、日本も参加する原子力供給国グループ(NSG)での規則変更に当たっては、最低でも核兵器用の材料の製造停止を印パとの原子力協力の前提条件とするよう日本政府に要請している。

参考:

日本政府の態度

 米印両政府や国内の産業界などからNSGで米印原子力協力を支持するようにとの圧力がかかっている。

 読売新聞は、2007年1月10日、『日本政府がインドの核保有容認へ、経済関係を優先』との見出しで「政府は9日、核兵器を保有するインドに対し、民生用原子力利用への協力として、日本企業が原子力発電所建設などに参入することを容認する方針を固めた。」と報じた。これに対し、塩崎恭久官房長官は、10日の会見で、「日本は唯一の被爆国としてNPT体制を堅持する」と述べたと報じられている。

参考

インド首相訪問(2006年12月13−16日)の意味

「インド最前線 日印関係促進の展望」(森尻純夫 東京財団 2007年01月)は次のように述べて、日印のマスコミの理解の差に注目している。

シン首相が離日した12月16日、インドの各新聞は、一面で前日の15日、両国首相が同意書にサインするカラー写真を掲載した。記事も、詳細な内容を記している。

  『ザ・ヒンドゥ』のリードは「日本、原子力開発への対応を抑制」だった。しかし、記事の要旨は「日本は、インドの民生核開発を理解しその推進に協力する」というのだ。 日本では同日、EPA(経済連携協定)の締結を二年以内に目指し、定期協議をはじめると、各紙、小さく報じていた。

 おなじ会合がこれほど違う伝えられ方をするのは異常である。

このインド首相訪日の際、安倍首相が2007年中にインドを訪れることで合意が成立している。訪印の手土産に米印原子力協力をそのまま認める決定が伝えられることのないよう監視するとともに国民の声を日本政府に届けることが重要である。

参考:

ロシアの動き

1992年に定められたNSGのガイドラインは、NPTの下での核保有国(米・露・英・仏・中)以外の国に対しては、その国がIAEAと包括的保障措置協定(その国のすべての核施設を保障措置下に置くもの)を結んでいない限り、原子力関連の輸出をしてはならないとしている。ただし、1992年4月以前に結ばれた契約は別とするとなっている。ロシアが1998年から2基(クダンクラム原発)の原子炉をインドに建設しているが、ロシアは、契約の起源は、ソ連時代1988年にさかのぼると主張して、この契約をまとめた。プーチン大統領が2007年1月にインドを訪問した際に提示した新たな原発建設計画は、NSGの規則の変更がなければ実施できない。

参考:

協力に批判的な日本の原子力産業界の声

日本の原子力産業の関係者の中には、米印原子力協力の問題点を鋭く指摘している人々がいる。

例えば、秋元勇巳日本経済団体連合会資源・エネルギー対策委員会委員長(三菱マテリアル(株)名誉顧問)は、2006年5月18−19日開催の「核不拡散科学技術国際フォーラム」(主催:日本原子力研究開発機構主催。後援:原子力委員会、文部科学省、経済産業省、外務省)で次のように述べている。

しかし、当該協力には幾つか問題点がある。

第一は、核兵器保有を断念することにより原子力平和利用の恩恵を享受できるとするNPTの基本原則との関係である。NPT枠外で核兵器を保有しているインドとの協力は、NPTの基本原則を覆すものであり、NPT体制への影響が懸念される。核兵器を保有していてもインドには原子力協力や核燃料サイクルを認める一方で、イランや北朝鮮には認めないというのはダブルスタンダードとして非難されかねず、ダブルスタンダードと言われない客観的な理由や基準が必要と考える。また、米印協力においてもNPT同様、何らかの形で将来的な核軍縮や核廃絶に向けた取組みが盛り込まれる必要があるのではないか。

第二はインドの信頼性の問題で、インドは平和目的で米国から供給された重水素やカナダ産の原子炉を核爆発実験に利用した経緯があり、そのような国をどこまで信頼できるのかが問題である。

第三は、保障措置の問題である。3月の米印合意では、インドは運転中もしくは建設中の原子炉22基のうち14基を民生用施設として分離し2014年までにIAEA保障措置下に置くこと、将来すべての民生用原子炉を保障措置下に置くとしているが、完全な軍民分離ができるのか、また分離しても民生用に提供される核燃料や原子力技術が軍事転用されないことを担保するのが重要であり、そのための適切な保障措置が行われるのか疑問である。

第四は、保障措置対象の施設の問題である。3月の合意では高速炉、再処理、濃縮などの施設は保障措置の対象外となっており、これでは他国から供給される燃料を民生用に利用する一方で、自国の資源を核兵器製造に利用することができ、結果としてインドの核兵器生産を助長することになるのではないか、と懸念される。核燃料サイクル施設全体への保障措置適用、兵器用核分裂性物質の生産禁止などの措置が必要である。

いずれにしても、米国内で様々な議論があり、また国際的には原子力供給グループでインドをどう取り扱うのか検討されており、各国の動向や状況を見守る必要があると考えている。

キーノートスピーチ「原子力の平和利用と核不拡散の両立に向けた日本の取組み」(主催者まとめ。講演原稿はこちら (pdf)

また、日本国際問題研究所の小山謹二氏の論文も早くから米印協力の問題点を指摘したものとして重要である。同研究所軍縮・不拡散促進センターCTBT国内運用体制事務局客員研究員の肩書きを持つ小山氏は、日本原子力研究所主任研究員、IAEA常設保障措置実施諮問委員会日本代表、日本原子力研究所保障措置技術研究室長などの経歴を有しており、その分析はさすがである。

この協力協定は単に米国とインド2国間の問題では無く、NPTを中心とする核不拡散体制の崩壊にも繋がりかねないものである。日本外交の主要な柱の1つとして「核兵器の廃絶と核不拡散体制の強化」を推し進めている我が国にとっては「成り行きを注視しつつ大勢に従う」という第3者的な対応は許されない。

2005年の国連総会に我が国が提出した核軍縮決議案に賛成した168カ国の支持を無にしては成らない。決議案に反対した国はインドと米国の2カ国であることを忘れてはならない。

 協力協定の締結に賛成することの出来る条件を提示するとすれば、IAEA保障措置の完全な受諾であり、核兵器とその開発計画の放棄を意味する以下の4項目を満たすことであろう。

  • A. 包括的保障措置と追加議定書で規定されている全ての措置を無条件に受け入れる。
  • B. 保有する核兵器は全て核兵器国の管理下に移す[21]。
  • C. 核兵器開発計画を先ず凍結し、関連施設を順次廃棄する。
  • D. CTBTを批准する。

NSGへの加盟は上記の4項目を満たすことを条件とする。

広島・長崎両市長の政府への要請書

米国の輸出実施には、日本を含む原子力供給国グループ(NSG)の承認が必要とされており、唯一の被爆国である日本政府の対応は大きな影響力を有しています。総理が、訪日したインドのシン首相に、原子力技術協力について将来的に容認する方向を示唆したとの報道もありますが、これが事実であれば、被爆地ヒロシマとして断じて容認できるものではありません。

軍事用のプルトニウム生産炉と高速増殖炉は、査察の対象外と伝えられており・・・

日本政府におかれましては、これまでの核兵器廃絶の取り組みに矛盾することなく、インドに対して、NPT加盟を粘り強く促し、包括的核実験禁止条約(CTBT)への加盟を求めるとともに、国際原子力機関(IAEA)や原子力供給国グループ(NSG)による承認にあたりましては、被爆国として慎重な対応をなされますよう要望いたします。


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