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Gensuikin

2008年07月29日

米印原子力協力協定について外務省に要請

インドの国内政治状況の変化で、米印原子力協力協定の動きが急展開しています。8月1日に開かれる「国際原子力機関(IAEA)」理事会でインド・IAEA保障措置協定案が審議されようとしています。さらにその後に「原子力供給国グループ(NSG)」の会議でインドを例外扱いするかの議論が予定されます。

原水禁では29日、外務省へ外務大臣宛の要請書を提出、外務省軍縮不拡散・科学部 軍備管理軍縮課の首席事務官に申し入れしました。

参考

2008年7月29日

外務大臣
高村正彦 様

原水爆禁止日本国民会議
議長 市川定夫

NPT体制の原則を完全に覆す米印原子力協力協定について(要請書)

被爆国としての核軍縮外交に関する貴職の日頃のご健闘に敬意を表します。

「核不拡散条約(NPT)」に加盟せず、1974年と1998年に核実験を行い、核兵器計画を進めているインドに対し、原子力関連輸出を行うことを認める米印原子力協力協定に国際的承認を与えるための審議が、8月1日開催の「国際原子力機関(IAEA)」理事会で、そして、その後、早ければ8月中に「原子力供給国グループ(NSG )」で、なされようとしています。

被爆国日本は、IAEAの理事国であり、また、コンセンサスで決定を行うNSGのメンバーでもあることから、世界の核拡散防止・核廃絶を願う市民からその態度が注目されています。貴職が5月15日に参議院外交防衛委員会で述べられた「国際的な核軍縮核不拡散体制の維持強化に支障のないように積極的に議論に参加していく」との日本の立場を、先日シンガポールで兒玉和夫報道官がインドの『ヒンドゥー』紙にそのまま説明されたことについても、各国の軍縮関係NGOの間では、日本が強い懸念をIAEAやNSGでも表明するだろうとの期待が高まっています。

8月1日のIAEA理事会、そしてその後すぐに開かれそうなNSGの会合に臨むに当たっては、少なくとも次のような事実を考慮する必要があります。

1) 外務省のホームページの説明にあるとおり、NSGは、そもそも「1974年のインドの核実験(IAEA保障措置下にあるカナダ製研究用原子炉から得た使用済み燃料を再処理して得たプルトニウムを使用)を契機に設立された」ものである。現在45カ国からなるNSGは、自国のすべての原子力活動を対象とする包括的保障措置をIAEAと結んでいない国に対する原子力関連の輸出を認めていない。このため、米印原子力協力協定の実施には、この規則の変更が必要になる。インドの核実験を契機に設立されたNSGの規則において、当のインドだけ例外扱いするのは、NSGにとって自己矛盾であり、日本の核不拡散政策にも反する。

2)1995年NPT再検討・延長会議が採択した『核不拡散と核軍縮のための原則と目標』は、NPTの認める5つの核兵器国(米英ロ中仏)以外への核関連輸出に関しては「IAEAの包括的保障措置を受諾し、かつ、核兵器その他の核爆発装置を取得しないという国際的に法的な拘束力のある約束を受諾することを要求すべきである」としている。この原則を無視して、インドにだけ例外措置を認めることは、NPT体制の崩壊をもたらす恐れがある。被爆国日本はこのような行為に加担すべきではない。

3)1995年の会議の議長を務めたジャヤンタ・ダナパラ元国連事務次長は、米国のNGO「軍備管理軍縮協会(ACA)」のダリル・キンボール事務局長との共同論文で、米印原子力協力協定の問題について次のように警鐘を鳴らしている。米印原子力協力協定は、「その推進派の主張に反して、インドをNPT加盟国に求められているような核不拡散行動遵守の方向に動かすことはできていない。178の他の国々と異なり、インドは包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名していない。そして、核分裂性物質の製造を続け、その核兵器の量を拡大し続けている。にもかかわらず、この取り決めは、NPT加盟国にだけ認められてきた民生用原子力貿易の特権をインドに与えることになる。それは、『良い』拡散者と『悪い』拡散者を分けるという危険な区別を作り出し、NPTの規範について誤解を招くメッセージを国際社会に送ることになる。」

4)ダナパラ元国連次長らが指摘している通り、インドは、CTBTの署名を拒否している。インドはCTBT発効要件国44ヶ国に入っており、インドの署名・批准がない限りCTBTは発効しない。発効要件国のうち未署名は、北朝鮮、パキスタン、インドの3ヶ国である。さらに、NPTの認める核保有国5ヶ国は、核兵器用核分裂性物質の製造を中止しているが、インドは、製造を続けている。CTBTの署名・批准及び核兵器用核分裂性物質の即時生産停止さえも条件とせず、インドを原子力関連貿易においてNPTの原則の例外扱いすることは、CTBTの発効と核兵器用「核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)」締結を求めて国際的努力を続けてきた日本の核政策に矛盾する。

5)インドは、運転・建設中の国産発電用原子炉16基のうち8基だけを 2014年までにIAEAの保障措置下に置くと宣言しており、輸入した燃料は保障措置下の原子炉でのみ使用するとしている。だが、インドは、残りの国産発電用原子炉8基、すべての研究炉、高速増殖炉などは、軍事用プログラムの一部だとし、保障措置に入れることを拒否している。インドはまた、将来作る原子炉を民生用と分類するか軍事用と分類するかはインドに決める権利があると宣言している。(外国製6基については、元々保障措置の下に置かれることになっていた。)軍事用核物質生産をまったく規制せず、一部の原子炉だけを保障措置下におくという方式では、ウラン不足に悩むインドは、民生用には外国からウランを輸入して使い、そこで浮いた国内産ウランを軍事用に回すことで核分裂性物質の年間生産量を現在の核兵器約7発分から40~50発分にまで増やすことができると国際的な専門家グループが推定している。これは、南アジアにおける更なる軍拡競争をもたらす恐れがある。

6)8月1日にIAEA理事会で審議されるインド・IAEA保障措置協定案は、国産発電用原子炉の一部にだけ関するものであり、NPTへの加盟を拒否し、核兵器を作り続けている国の一部の原子炉に対する保障措置を実施すること自体、IAEAの限られた人的・物的資源の無駄遣いに等しい。

7)7月9日にIAEA理事会に配布された保障措置協定案には、上述の根本的問題の他にも、いくつもの問題がある。例えば:

  • (1) 協定案には、保障措置の対象となる施設のリストが存在しない。協定案は、リストに入れるべき施設をインドが指定するとその施設について協定が発効し、リストは逐次拡大されると規定している。インドの意向次第で決まる手続きに事前承認を与えるこのような協定は前例がない。
  • (2) 協定案は、「供給の途絶に対処するための核燃料の戦略的備蓄を用意しようというインドの取り組みに対する支持」をIAEA加盟国に義務付けている。供給が途絶えるのは、インドが核実験を行い、その制裁措置が取られた場合のみか、少なくとも、そういう場合が含まれうる。核実験をしても、国際的制裁措置が効果を発揮しないように準備する手助けをすることをIAEA加盟国に義務付けるのでは、IAEAの存在意義が問われる。米国の米印原子力協力推進法は、インドが核実験をした際には、燃料の返還を要求する権利を米国が持つものとすると定めている。
  • (3) 協定案は、「インドは、外国の燃料供給の途絶の際には、その民生用原子炉の継続的運転を保証するために是正措置を講じても良い」と述べている。これも核実験に対する国際的制裁措置が取られた場合には、インドは「是正措置」を講じても良いということである。外国の燃料供給の途絶が核実験による制裁の結果を意味しないのならそう明確に書くべきである。条件も不明、それに対する「是正措置」の中身も不明ななま、「是正措置」を講じても良いとする協定が許されて良いわけはない。このような例は、他の国とのIAEA保障措置協定ではもちろん存在しない。
  • (4) 「民生用」と指定された国産原子炉の使用済み燃料の再処理は、「軍事用」の再処理と同じ再処理施設で行われることになっており、「民生用」再処理の期間だけ施設を保障措置下に置くというが、これはまともな保障処置とは呼べない。
  • (5) 協定案の前文では、IAEA加盟国が高速増殖炉や再処理を含むインドの「完全な」原子力政策に「完全に」協力することが謳われている。インドは、(4)の問題を解決するため、「民生用」専用の再処理施設を作る可能性があるとしている。米国は再処理技術を提供しないと言っているが、保障措置協定案がIAEA理事会で承認され、NSGにおいてインドとの「完全な」協力を認める規則変更が行われれば、米国以外の国から提供された再処理技術などが、軍事用にコピーされる可能性がある。

8)米印がこのような重要な問題を急いで8月中にIAEA理事会とNSGで処理しようとしているのは、米国の事情によるものである。米国の米印原子力協力促進法(2006年12月)は、米印原子力協力協定(2007年8月発表)の発効には、インド・IAEA保障措置協定とNSGの規則変更の文書を米国議会が受け取った上で上下両院支持決議を通過させることが必要と定めている。米国議会は9月末で来年まで閉会となるので、米国は、ブッシュ政権下で協定を発効させるため、国際的な手続きを8月中に済ませようとしているのである。パキスタンは、IAEAには45日ルールがあり、早くとも、保障措置協定案が配布された7月9日から45日後の8月25日まで協定案の審議はできないと主張している。米国の事情だけで、十分な審議を経ないまま米印原子力協力協定が国際的に認められてはならない。

9)国内では、広島・長崎両市長がすでに2006年12月の時点で、また、これまで、全国の約30の自治体が、米印原子力協力の問題点を指摘して、この問題について慎重な議論がなされるよう日本が国際社会で指導力を発揮することを求める要請書・意見書を政府に提出している。

10)2010年のNPT再検討会議が迫っている今、世界はNPT体制強化の努力を必要としている。オーストラリアから提案のあった核不拡散・軍縮に関する国際委員会について、日本は、日豪の共同イニシアティブとして同委員会に参加することを表明し、川口順子元外相が日本側共同議長となることになった。核不拡散・軍縮面における日本の行動は今までにも増して世界から注目されている。

以上のような事実に基づき、南アジアの軍拡競争とNPT体制の崩壊を防ぐために、日本が下記の行動を取るよう要請します。

  1. 8月1日のIAEA理事会において、インド・IAEA保障措置協定案に反対すること。
  2. もし、IAEA理事会で同協定案が何らかの形で承認された場合には、その後に開かれるNSGの会合で、インドをNSGの規則の例外扱いすることに反対すること。

以上