原発
2007.4.26

ラブロック博士へ公開質問状
地球温暖化問題と原子力の関わりについて14団体が送付

イギリスの地球科学者ジェームズ・ラブロック博士に宛て、グリーンピース・ジャパン、気候ネットワーク、原子力資料情報室、原水禁など、気候変動や原子力、環境、エネルギーなどの問題に取り組む日本のNGO・市民14団体は26日、「地球温暖化問題と原子力の関わりについての公開質問状」を送付しました。

ラブロック博士は著書『ガイアの復讐』や新聞への寄稿のなかで、「気候変動を生き抜くため原子力を最大限に活用する」よう説き、日本政府の政策説明(pdf)や原子力文化振興財団の新聞意見広告(全面、2006年10月29日付読売新聞他)のなかでその意見を大きく取り上げることにより、国民に原子力への理解を求めるための宣伝に使われています。

質問項目

  1. 原子力が「特効薬」としての役割を果たすには、世界全体でいつ頃までに何基の原発が運転している必要があると考えるか?
  2. チェルノブイリ原発事故(1986年)や東海村の臨界事故(1999年)のような事故は、今後二度と起きないと思うか?
  3. 原発の運転にともなって増大する低・中・高レベル放射性廃棄物は、どのように処分すべきだと考えるか?
  4. 核拡散やテロの危険については、どのように考えるのか?
  5. 原子力への圧倒的優遇策が、他のエネルギー源の開発と導入を圧迫していることを知っているか。
  6. 核分裂エネルギーは核融合エネルギーが実用化されるまでの“つなぎ”とのことだが、核融合発電が、全国の電力網に電力を供給するのは、いつ頃と見込んでいるか。
  7. 自然(再生可能)エネルギーを非現実的とする根拠は何か。
  8. より確実で、より安全な地球温暖化対策は存在するが、それでも原子力は不可欠なのか。

地球温暖化問題と原子力の関わりについての公開質問状

原文は英文(PDFファイル,132KB)

2007年4月26日
ジェームズ・ラブロック博士殿

貴方は地球が巨大な生命体のようにふるまう「ガイア仮説」を提唱し、地球温暖化が人間社会と地球生態系にもたらす脅威について、早くから警鐘を鳴らされてきました。そのご慧眼に敬意を表します。

しかし地球温暖化対策として「原子力発電によって生み出される核分裂エネルギーを最大限に活用する」(注1) とのご意見には、私たちは同意できません。

去る2006年10月25日、貴方は日本原子力文化振興財団が主催する第43回「原子力の日」記念シンポジウムにおいて、「ガイアの復讐」と題した基調講演をなさいました。その後、同財団は貴方の講演内容を紹介する体裁をとりながら、原子力発電を推進するための意見広告を、同29日、主要全国紙の全面に掲載しました(注2) 。なお貴方は、2004年にも同財団の新聞広告に登場しておられます(注3)

ご存知のように原子力文化振興財団は、政府の原子力政策を国民に普及するためにつくられた団体です。貴方がこのような形で日本政府の原子力政策を後押しなさるのは、非常に遺憾です。

私たちは、以下に述べるような理由から、原子力の拡大は地球温暖化の抑止に役立たないと考えます。そして原子力ではなく、より確実で安全なエネルギーの導入を積極的に進めるべきだと考えます。チェルノブイリ原発事故21周年の今日、ここに私たちの見解をお伝えするとともに、貴方の原子力にたいするお考えをあらためてお訊ねいたします。誠意あるご回答をいただけますよう、謹んでお願いいたします。なおこの質問状は、貴方ご本人にお送りするとともに一般公開いたします。


質問と私たちの見解

日本政府は原子力を推進するにあたり、貴方の以下のご意見を引用しています(注4)

「原子力のもたらす脅威などとるに足らないものだ。再生可能エネルギーは聞こえはよいが、今のところ効率が悪く高くつく。将来性はあるものの、非現実的なエネルギーを試している時間は今はない。私は原子力を、今使用すべき唯一の特効薬と考えている。」

1)貴方は、原子力が「特効薬」としての役割を果たすには、世界全体で、いつ頃までに、何基の原発が運転している必要があるとお考えになりますか?

【私たちの見解】

[1] 原子力発電は「特効薬」にならない

貴方は「化石エネルギーから原子力への転換」を主張しておられます。

過去の人為的な二酸化炭素の排出分の影響で、今すぐに排出をゼロにしたとしても、地球の平均気温の上昇は避けられそうもありません(注5) 。最新の科学的知見によると、気候変動による壊滅的な打撃を回避するには、平均気温の上昇を工業化以前(1850年頃)より2度C未満に抑える必要があるとされます。そのためには、ただちに温室効果ガスの排出を削減する方策をとり、この10年ほどのうちに世界全体の排出量を増大から減少へと転じさせ、2050 年までに1990年水準から半減化することが求められています。

こうした切迫した状況のなかで、以下に述べるような理由から、原子力発電は現実的な地球温暖化対応策になりえません。

2003年末で、世界の発電用原子炉数は434基です。それらは総発電電力量の16パーセント、一次エネルギー供給の6パーセントを担っているにすぎません(注6) 。原子炉の寿命を40年としても、2025年までに半数以上が、2050年までに全てが操業を停止し廃炉へ向かいます(注7) 。一方、火力が総発電電力量に占める割合は66パーセントです(注8) 。将来の電力需要を横ばいと仮定しても、既設分の原発を建て替え、さらに火力分を原子力で置き換えるなら、およそ2230基(100万キロワット級、設備利用率70パーセントと仮定)が必要となります。2025年までにこれを達成しようとするなら毎週2〜3基が、2050年までなら毎週1基が、送電を開始しなければならないほどです。

 日本では、現在55基の原発が運転されています。原子力の割合は発電量の約30パーセント、一次エネルギー供給の約10パーセントです。先と同じ条件で、既存分を建て替え、火力分(総発電電力量の約60パーセント)を原子力で置き換えるなら、およそ145基が必要となります。2050年までにこれを達成しようとするなら毎3〜4ヶ月に1基が送電を開始しなければなりません。

世界の電力需要が高まれば、そのスピードを加速しなければならないでしょう。原子炉の設置コスト(一基あたり数千億円)、設置計画から操業までに要する時間(およそ10年)、国によっては高圧送電線をはじめとするインフラの基盤整備に必要な時間などを考えると、二酸化炭素の排出量を減少へと転じなければならないこの決定的な10年間のうちに、原子力が「特効薬」としての役割を果たすのは、およそ不可能です。

[2] 省エネとエネルギー効率が最重要

私たちは、温室効果ガスを削減するうえで、もっとも効果的な施策は省エネとエネルギー効率の向上だと考えます。これは国際エネルギー機関(IEA)や日本の国立環境研究所などによる報告書も結論付けているとおりです(注9) 。なかでも世界の二酸化炭素排出量の4割近くを占める発電部門は、無駄になっているエネルギーが非常に大きいことから、この部門での効率向上がとても重要になります。

日本では一次エネルギーの約40パーセントが発電に投じられています。原発の発電効率は35パーセントを超えることはなく、最新の火発でも50パーセント程度です。発電で生じた熱のほとんどは温排水として環境中に捨てられています。つまり投入したエネルギーの大半が無駄になっているのです。原発の場合、電力の大消費地から遠く離れた場所に立地せざるをえないため、送電ロスも大きくなります。

こうした従来の大規模集中型発電システムにたいし、分散型エネルギー供給システムだと、必要なエネルギーを需要がある場所(オンサイト)でつくるため、発電・送電ロスを小さくできます。さらにコジェネレーションを導入し、排熱を冷暖房・給湯・蒸気などに有効利用すれば、総合エネルギー効率は80パーセント以上に向上し、省エネと二酸化炭素の大幅削減が可能となります。既にデンマークでは電力の50パーセント、地域熱供給の80パーセントがコジェネレーションでまかなわれています(注10)

 一方、以下に述べるように、原子力発電はその特性から、エネルギーの無駄遣いを拡大するシステムを社会に定着させるため、地球温暖化対策でもっとも重要とされる省エネとエネルギー効率の向上を、実質的に妨げます。

[3] 原子力発電は省エネに逆行する

原子炉は出力を容易に変動できないので、刻一刻と変動する電力需要に対応できません。それに応じているのは、主に火力です。つまり原子力と火力はセットなのです。また原子力はたくさんの電気をつくるため、需要が低くなる季節や深夜は電力が余るという、構造的な問題があります。日本では、この余剰電力を消費するための設備(たとえば消費電力量が発電量よりも大きい揚水発電)や制度(たとえば深夜電力料金)が導入され、電力需要を増大させる政策が推進されています。

また原発は、一基あたりの出力が非常に大きいので、事故や不祥事で運転が停止すると、電力の安定供給に支障をきたします。原子力でつくられた電気は、都市や工業地帯に送られることから、突然の運転停止は経済や社会に混乱をもたらします。そこで大量の電力をすばやく供給できるバックアップ用の火力発電所を、常に待機させておかなければなりません。

したがって原発を増設すれば、出力調整用やバックアップ用として、火力など他の発電所も増やすことになります。資金を投じて建設したこれらの発電所を遊ばせておくわけにはいかないので、オール電化住宅の普及など、もっと電力を使うように促されます。

このように原子力発電は省エネに役立ちません。

[4] 原子力発電では二酸化炭素の確実な排出削減は不可能

日本の原子力発電所の設備利用率は平均70パーセント程度です。日本政府は原子力発電所の設備利用率を88パーセントにまで向上させることを前提に、二酸化炭素の排出削減見込み量を算出しています(注11)

原子力は常に巨大事故のリスクを抱えています。そのため、ひとつの原子炉で事故やトラブルが生じると、同じモデルの炉を一斉に停止し点検する必要がでてきます(注12) 。発電効率を高めるため「合理化」と称して無理な運転を続ければ、事故リスクは高まります(注13) 。停止によって生じた不足電力は、主に火力発電所によって補われるため、いずれかの原発で事故などが起きるたびに、二酸化炭素の排出量が急増します(注14)

実際、2002年から03年にかけて、東京電力のいくつかの原子力発電所における不正行為をきっかけに、同社の原発全17基が一斉停止しました。これによる温室効果ガスの排出量増加分は4.8パーセントとされます。こうした計画外の長期停止はたびたび起きていますし、今後、原子炉の老朽化が進むにつれ、その頻度は増すでしょう(注15)

京都議定書で日本政府が約束した年間6パーセントの削減が難しくなってきていますが、その対策を原子力に大きく依存している限り、確実な削減は実現できません。

[5] 原子力の普及は地球温暖化を悪化させる

2005年に国際原子力機関(IAEA)が実施した世論調査によると、日本国民の76パーセントが原発の増設に反対しています(注16) 。日本の原子力産業は、国内での原発設置が難しいことから、アジアをはじめとする途上国への輸出を計画し、日本政府も「地球温暖化対策につながる」として、それを積極的に後押ししています(注17)

京都議定書は、海外で実施した事業による排出削減量を、投資国の削減実績とみなす仕組みを設けました。そのひとつが「クリーン開発メカニズム(CDM)」です。ただし原子力発電は、その対象にはなっていません。日本政府は、次期の枠組みで原子力をCDMに加えるよう働きかけを強化する方針です(注18) 。そうすることで原発輸出へ向けた基盤整備への投資を国内企業に促し、原子力産業が海外に進出しやすい環境をつくろうとしているのです。

しかし途上国への原子力技術移転は、非効率的なエネルギーシステムを輸出することに他なりません。原子力は数十年先まで見据えた立案が不可欠なため、原発を盛り込んだエネルギー政策がスタートしてしまうと、その見直しが難しくなり、エネルギー多消費型の社会が築かれていきます。これは日本をはじめ原発先進国が経験してきたことです。また前述のように、調整用やバックアップ用電源として、火力発電所も確実に増えます。

したがって途上国へ原子力発電を普及させることは、温室効果ガスの削減にはつながらないでしょう。普及すべきは、自然エネルギーを中心とする分散型エネルギーシステムです。

2)貴方はチェルノブイリ原発事故(1986年)や東海村の臨界事故(1999年)のような事故は、今後、二度と起きないと思われますか?

【私たちの見解】

原子炉が炉心溶融事故を起こす確率は、保守的な見積もりでも4000炉年に1回とされます(注19) 。世界で2000基もの原発が稼動するとしたら、その発生確率は2年に1回となります。ただし、こうした確率論では事故のリスクを評価できないのは、過去の事例が示すとおりです(注20)

核施設の事故が他の事故と大きく異なるのは、そのほとんどにおいて、放射能の放出をともなうことです。稼働中の一般的な原子炉のなかでは、ヒロシマで炸裂したウラン爆弾のおよそ1000倍もの「死の灰」(核分裂生成物)が蓄積されていきます。そのため放射能を大量放出するような事故が起きると、人、環境、社会、経済などが強いられる被害の規模は、桁違いに大きくなります。

チェルノブイリ原発事故は、北半球全体を放射能汚染しました。被災者は700万人を越えると考えられています(注21) 。事故に起因するがん死については、研究者によってその評価に開きがあります(注22) 。2005年、IAEAや世界保健機関(WHO)などで構成されるチェルノブイリ・フォーラムは「これまでに確認された死者と予測されるがん死を合わせて最終的に4000人」ときわめて低い見積もりを発表しましたが、これは対象集団の範囲を著しく狭めた結果です(注23) 。一方、たとえばグリーンピースは9万3000人と予測しています(注24)

同原発事故の被害について、貴方は「ダムが決壊したら・・・・・・百万人の人々が命を落とすだろう。・・・・・・チェルノブイリの死者は75人に過ぎない」と述べておられます(注25) 。まず、ダム決壊による死者数と原発事故によるそれとを比較する手法は、科学の常識に反します。次に、放射能をともなう事故の被害は、がん死者数だけで評価できるものではありません。被災地域では若年層のあいだに甲状腺がんの増加が確認されているほか、さまざまな心身への影響が報告されています(注26) 。生き残った人々も、事故による直接的、間接的な影響を抱えながら、その生涯を送ることを余儀なくされているのです。

 こうした深刻な事故が、世界のどこかで再び起きるリスクは、原子力発電が拡大されれば、さらに高まります。日本のように地震多発地帯に位置するなら、なおさらです。私たちは、これ以上、放射能の被害者を増やさないためにも、原子力に頼らないエネルギー政策へ転換すべきだと考えます。

3)原発の運転にともなって増大する低・中・高レベル放射性廃棄物は、どのように処分すべきだとお考えでしょうか?

【私たちの見解】

途上国の多くは、これから本格的にエネルギーシステムを構築していきます。一方、先進国は、老朽化した建築物や発電所などを建て替える時期にさしかかっています。したがって、今、どのようなエネルギーシステムとエネルギー源を選ぶかが、地球温暖化対策にとって、きわめて重要になります。数あるエネルギーの選択肢のなかで、私たちが原子力を支持しない理由のひとつは、原子力の利用にともなう廃棄物が放射性であることです。

原子炉をはじめとする機器や建物も、運転が終了すれば巨大な放射性廃棄物になります。

原子力を導入した国々は、いずれも廃棄物の管理・処分を後回しにしてきました。とくに高レベル廃棄物(使用済み核燃料、高レベルガラス固化体)については、ほとんどの国で最終処分場の目処がたっていません。これらは地下に埋め捨てられる計画ですが、それらに含まれる放射能の害を無視できるようになるには、数千万年以上かかるでしょう。その間に大地震や地層の隆起といった地殻変動が起きないと断言できませんし、地下水汚染やテロの危険もあります(注27)

原子力を拡大するということは、処分できない放射性廃棄物を増やし続け、後世に押し付けることを意味します。私たちは、このような無責任な「地球温暖化対策」には賛成できません。

貴方は高レベル廃棄物の捨て場として熱帯林を提案しておられます(注28) 。熱帯林は地球上で生物多様性がもっとも豊かな場所であり、その生態系はきわめて繊細で脆弱です。また二酸化炭素量のバランスを保つ吸収機能も担っています。巨大な廃棄物処分施設を、貴重な熱帯林やその周辺環境を破壊することなしに建設できるはずがありません。その建設は、地球温暖化の進行に拍車をかけることになるでしょう。

4)核拡散やテロの危険については、どのようにお考えになられますか?

【私たちの見解】

原子力発電の拡大は、世界の安全保障を脅かす大きな要因となります。貴方は爆弾と発電所は別物だと述べておられます(注29) 。しかし核開発の歴史をみれば分かるように、原子力発電は核爆弾をつくる工程の副産物です。その基本的な原理、原料、工程は同じです。多くの国々が、原子力発電のための設備と技術を導入し、多数の科学者や技術者を養成し、大量の核物質を保有したならどうなるでしょう。専門知識と技術を習得した国家や集団が、これらの設備や物質を使って核爆弾を製造する可能性は否定できません。これは過去の核兵器拡散の歴史が実証しています。

プルトニウムや高濃縮ウランだけでなく、低・中・高レベル廃棄物をはじめとする放射性物質も兵器の材料となります。放射性物質と火薬を組み合わせた爆発装置は、放射能爆弾と呼ばれます。このように原子力発電の普及と核・放射能爆弾の拡散は、切っても切れない関係にあります。原子力発電を拡大すると、保障措置や核物質防護を強化しなければならず、そのためのコストや人員も増大します。また市民的自由も制限せざるを得なくなるでしょう。何よりも、核施設や核物質を標的とする武力攻撃やテロを、世界中で日常的に警戒しなければならなくなるでしょう(注30)

5)貴方は、原子力への圧倒的優遇策が、他のエネルギー源の開発と導入を圧迫していることを、ご存知ですか。

【私たちの見解】

貴方は「原子力産業は原子力を支持してもらうための・・・・・・宣伝がほとんどできない」とし、自然エネルギーの「本当のコストが助成金でごまかされ・・・・・・、市場要因が法によって歪められている」と述べています(注31) 。これは、事実と大きく異なります。

原子力を導入した国の政府や原子力産業は、広報宣伝を中心とする活発なパブリック・アクセプタンス(PA:社会的受容)活動を展開してきました。たとえば原子力文化振興財団が、貴方の講演をもとにした顔写真付きの全面意見広告を主要全国紙に掲載したように、その規模の大きさは圧倒的です。

また原子力発電を導入した国々が、強力な優遇策でもってそれを推進してきたことも、よく知られている事実です。日本政府は原子力を国策と位置づけ、巨額の税金をその開発に投入し、原発の立地を進め、さらには原発導入にともなう経済的リスクを負担してきました。2006年に公表した「原子力立国計画」、そして2007年3月に改定した「エネルギー基本計画」では、これまで以上の積極的な支援策が示されています。

前述のように原子力は長期を見据えた立案が不可欠です。そのため、こうした過度の原子力優遇策のためにエネルギー計画の柔軟性が奪われ、自然エネルギーや分散型システムの導入など、本来、地球温暖化対策の主柱となるべき分野の開発が圧迫されがちです。

たとえば2004年度のエネルギー研究開発予算のうち、その約64パーセントが原子力に投じられ、自然エネルギー(日本政府はこれを「新エネルギー」と呼びます)へは約8パーセントでした(注32)

6)貴方は、核分裂エネルギーは核融合エネルギーが実用化されるまでの“つなぎ”とみなしておられます。では核融合発電が、全国の電力網に電力を供給するのは、いつ頃と見込んでいらっしゃるのでしょうか?

【私たちの見解】

ウランも化石燃料と同様、無尽蔵の資源ではありません。そこで原子力発電を導入した国々は、当初、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、それを高速増殖炉で利用する計画でした。そうすることで核分裂エネルギーを何千年も利用できると喧伝してきたのです。

しかしほとんどの国が、プルトニウムを燃料に使う「再処理─高速増殖炉」路線から撤退しました。コスト、技術的困難、放射能汚染、放射性廃棄物、核拡散のリスク・・・・・・等々の負担が、ウラン燃料とは比較にならないほど大きくなるからです。

ところが日本だけは、同路線をエネルギー政策と地球温暖化対策の要にすえ、その開発に巨額の予算を投じ続けています(注33) 。とはいえ日本政府の見通しでも、高速増殖炉サイクルが現行の軽水炉サイクルに取って代われるのは、早くても来世紀です(注34) 。第一、プルトニウムの有効な増殖が可能かどうかさえ、定かではありません。

 貴方は核融合エネルギー発電が、もうすぐ全国の高圧送電網に電力を供給するかのように述べておられます(注35) 。人類が核融合エネルギーを得るには、重水素(D)と三重水素(T)が反応する「D-T反応」を利用するしかありませんが、この反応で発生する強烈な中性子に長く耐えうる建材は、今のところ、地球上には存在しません。可視的な将来において、商業規模の核融合炉をつくるのは不可能ですし、核融合エネルギーが主要な電力源になることもありえません。つまるところ、核融合で巨大なエネルギーを生成できるとしたら、熱核兵器の爆発だけです。また貴方は、核融合はたいした放射性廃棄物を出さないとも述べておられます。しかし現実には、三重水素などで汚染された大量の放射性廃棄物が生み出されます(注36)

核融合はもちろん、高速増殖炉にしても、その実用化は机上の計画にすぎません。そのような技術に貴重な時間と資金を投入することは、事実上、抜本的な地球温暖化対策の導入を阻害することになります。

7)貴方が、自然(再生可能)エネルギーを非現実的とする、その根拠を教えてください。

【私たちの見解】

貴方は「どんな技術開発も・・・・・先進工業国で幅広く応用されるまでに約40年という時間が必要」であり、自然(再生可能)エネルギーは「ロマンチックで実現不可能な夢」と切り捨てています(注37)

実際には、自然エネルギーは今日もっとも成長著しい産業のひとつです。なかでも風力発電の設備容量は、ここ数年、年率30パーセント以上の勢いで伸びています(注38)

そのトップを走るのがドイツです。90年代、自然エネルギーの市場導入を拡大する法が制定されると爆発的な風力発電ブームがおこり、2006年には電力の5パーセントを供給するまでに成長しました(注39) 。ドイツ政府は2020年までに、これを少なくとも20パーセントまで引き上げることを目標にし、また自然エネルギー全体では26パーセントを目標としています(注40) 。これまでの実績からその達成は確実視されています。同国の原子力法で段階的廃止が定められている原発の電力供給分(現在、約30パーセント)は、省エネと自然エネルギーで十分に代替できるでしょう。

ドイツと同じような政策を導入することで風力発電を伸ばした国々には、たとえば米国、デンマーク、スペイン、インドがあります。このめざましい市場拡大によって、風力発電コストはここ数年で20パーセントも低下し、国によっては従来の電力源と競合できるほどになりました(注41)

太陽光発電の累積設置量でも、ドイツは日本を追い抜き、2005年、世界一に躍り出ました。これも自然エネルギー導入促進政策の後押しによるものです。

太陽光発電システムの価格も、大量生産によって販売価格が低減しています。日本における住宅用太陽光発電システムは、10年前の三分の一以下になりました(注42) 。普及を促進する政策が導入されれば、さらなるコスト低下が期待できます。

これらに加え、燃料電池の実用化と普及によって、自然エネルギーに代表されるマイクロパワーは飛躍的に伸びるでしょう。

一方、原子力をエネルギー政策と地球温暖化対策の中枢にすえる日本では、電力販売総量において今後増やす自然エネルギーの利用義務量は、現時点で1.35パーセント、2014年度時点での目標も1.63パーセントと、きわめて低くなっています(注43)

これらから明らかなように、自然エネルギーは非現実的などころか、きわめて現実的な選択であり、その普及は技術の問題ではなく、政策の問題です。

8)より確実で、より安全な地球温暖化対策は存在します。貴方は、それでも原子力は不可欠だとお考えになりますか?

【私たちの見解】

地球温暖化を抑止するうえで、もっとも効果的なのは省エネルギーと自然エネルギーの普及です。それを実現できるのが分散型のエネルギーシステムです。気候変動が現実的な脅威となってからというもの、ヨーロッパを中心に、世界中で自然エネルギーが急速に伸びています。これらの技術は、基本的に、二酸化炭素をほとんど排出しないからですが、それだけでなく、コスト面でも設置にかかる時間の面でも、原子力より圧倒的に有利だからです。さらにエネルギー自給率を高め、地域産業を育成し、雇用を促進するといった、多大な利益をもたらすからです。

貴方は「地球温暖化対応の成否は、いかに適切に科学と工学技術を活用できるかにかかっている」と述べておられます(注44) 。しかし適切に活用すべき科学・技術とは、原子力に代表される巨大科学・技術でないことは、これまで論じてきたとおりです。