核兵器
2004.2.28

米国の民生用高濃縮ウラン輸出と核拡散

米国エネルギー省内部監査部門が、2月9日、『外国に提供された高濃縮ウランの回収』という報告書を同省長官に提出しました。報告書は、現在の計画では、外国に輸出された高濃縮ウランのうち、15%しか回収されないと述べ、核拡散問題の観点から計画を見直し、強化することを提案しています。報道だけでは、分かりにくいので、報告書そのものと「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」発行の『プルトニウムと高濃縮ウラン1996』などを参考にしながら、米国起源の高濃縮ウランの問題について簡単にまとめておきます。


外国に提供された高濃縮ウランの回収

 出典: 基本的には上記報告書(英文pdf)、SIPRIと書いてあるのは『プルトニウムと高濃縮ウラン1996』(アマゾン・リンク

 参考: 毎日新聞記事

○米国が輸出した高濃縮ウランの総量は

1950年代からの輸出された高濃縮ウラン(HEU)26トン

SIPRI:
 26トンに含まれるウラン235の量 18トン
 平均濃縮度    70% (全量に占めるウラン235の割合)

 米国内の研究炉・動力炉などに提供された兵器級ウラン(>90%) 30−35トン

○回収状況は

1992年末現在で海外(51ヶ国)に残っていた高濃縮ウラン 17.5トン

1996年に始められた「海外研究炉使用済み燃料受領プログラム」の対象 5.2トン
2003年10月までに米国に回収された量     1.1トン(22ヶ国から)
最終的に回収されそうな量 5.2トンの約半分=17.5トンの15%

*これらの数字は、当初量(輸出時の量)を示したもの。実際には、高濃縮ウランが原子炉の中で照射されると、ウラン235が核分裂を起こして量が減っていくので、その分、高濃縮ウランの量も減る。

SIPRI:
返還プログラムの対象となっている燃料は当初濃縮度90%以上のものが多いが、返還時の濃縮度は67%程度と推定。

○受領プログラムへの参加状態は?

受領プログラムの対象となる国 33ヶ国
うちつぎの12ヶ国が完全には参加しない見込み
 オーストリア、ベルギー、フランス、イラン、イスラエル、ジャマイカ、日本、メキシコ、オランダ、パキスタン、南ア、英国
 コスト及び運転の中断の必要などが原因

○高濃縮ウランとは?

北朝鮮の核開発データ−−ウラン関係」より:

核分裂を起こしやすいウラン235の率を20%以上に高めたもの。

 兵器級高濃縮ウラン 濃縮度が90%以上のもの。核兵器を作る際には普通このレベルに濃縮するが、濃縮度20%以上(=高濃縮ウラン)なら兵器ができる。

国際原子力機関(IAEA)は、高濃縮ウランの中に含まれるウラン235の量で計算して25kgを有意量と定めている。これだけ行方不明になると核兵器が1個作られるかもしれないという意味。実際には、18−20kgぐらいで初歩的な核兵器が1個できる。ただしこれは、ガンタイプという広島型ではなく、長崎型の爆縮方式の設計にした場合の数字。ガンタイプだと、兵器級のもので約50kg必要。

SIPRI:
 イラクは、フランスとロシアが民生用研究炉用として提供した高濃縮35−40kg(濃縮度80%以上)を使って核兵器を1個作るようにとの命令を1990年にフセインが下していたことを、95年8月に認めた。

○回収対象は?

5.2トン 
  96年に貯蔵されていた使用済み燃料及び96−06年に発生する使用済み燃料
残りの12.3トンは対象外:
 高速炉その他の特殊目的炉
 たとえば、仏独の場合1450kgが現行の計画の対象、対象外が9470kgもある

SIPRI:
対象:アルミニウムを素地としたウラン合金の燃料及びTRIGA型研究炉燃料
対象外:
 ウラン酸化物、ウラン金属の燃料
 SNEAKの燃料などのように再処理されたあと低濃縮ウランに薄められたもの
 フランスの臨界施設及び日本の高速炉「常陽」にある約4トン(当初量−−当初濃縮度20−60%)

○使用済み高濃縮ウランの返還政策の歴史は?

1950年代
高濃縮ウランをリースの形で提供し、使用済み燃料の返還を義務づけ
1964年
売却の形を取り、使用済み燃料の返還の義務づけ中止 使用済み燃料の受け入れは、一定の条件の下で継続
1978年
「研究・実験炉濃縮低減(RERTR)」プログラムを開始 核拡散を懸念して、外国の研究炉の燃料を低濃縮ウランに変えるよう推進 使用済み高濃縮ウラン燃料の受け入れ
1988年
使用済み燃料高濃縮ウラン燃料の受け入れを中止
1996年
使用済み燃料高濃縮ウラン燃料の受け入れ再開 「環境影響評価(EIS)」が終了後
1990年代初め
高濃縮ウランの輸出停止

○高濃縮ウランの輸出量の推移を示すデータは?

SIPRI:
 U235輸出量:
 70−77年 660kg/年
 78−82年 380kg/年
 83−88年 160kg/年

Nuclear Terrorism: Defining the Threatby P. Leventhal (Editor):(アマゾン・リンク)

*1950年代から80年代半ばまで米国の高濃縮ウラン輸出量の推移を示すグラフ
 縦軸の単位はトン、横軸が年

1954−82年の輸出先国とその総量・濃縮度を示す表
HEU U-235分 % U-235
国名 (kg) (kg) (平均%)
アルゼンチン 94 59 63
オーストラリア 10 9.2 90
オーストリア 9.8 7.3 75
ベルギー 187 159 85
ブラジル 7.7 7.2 93
カナダ 1,861 1,724 93
コロンビア 3.1 2.8 90
デンマーク 26 24 92
フィンランド 3.9 0.77 20
フランス 6,268 4,655 74
西ドイツ 9,990 6,611 66
ギリシャ 6.6 6.1 93
イラン 5.5 5.2 93
イスラエル 19 17 90
イタリア 382 307 80
日本 1,995 946 47
韓国 30 18 62
メキシコ 30 12 42
オランダ 63 57 89
パキスタン 5.8 5.2 90
フィリピン 3.3 3.1 93
ポルトガル 7.7 7.2 93
ルーマニア 39 37 93
南アフリカ 33 30 92
スペイン 9.4 8.3 88
スウェーデン 148 133 90
スイス 8.8 8.0 91
台灣 9.9 9.2 93
タイ 5.3 4.8 90
トルコ 5.3 4.8 90
イギリス 2,301 2,141 93
ユーゴスラビア 17 5.9 35
ザイール 1.4 0.28 20
合計 23,590 16,980 72

○「研究・実験炉濃縮低減(RERTR)」プログラムの対象は?

SIPRI:
米国の高濃縮ウランを使用している出力1MWth以上の研究・実験炉(95年半ば)*Appendix D より

対象の原子炉 熱出力(MWth) 濃縮度(%) 年間需要 235u/y (kg) 転換措置
RA-3 (アルゼンチン) 2.8 20 Yes
HIFAR (オーストラリア) 10 75 7.5
ASTRA (オーストリア) 8 20 Yes
BR-2 (ベルギー) 80 93 27 同意せず
IBA-R1 (ブラジル) 2 20-93 1
NRU (カナダ) 125 20 Yes
MNR (カナダ) 5 93 1.9
LO AGUIRRE (チリ) 10 90 0
LA REINA (チリ) 5 45-80 1
DR-3 (デンマーク) 10 20 Yes
OSIRIS (フランス) 70 7 Yes
RHF (フランス) 57 93 51 同意せず
SILOE (フランス) 35 93 23
SCARABEE (フランス) 20 ? 0
ORPBEE (フランス) 14 93 14.7 同意せず
FRJ-2 (ドイツ) 23 80 18
FRG-2 (ドイツ) 15 93 11
BER-2 (ドイツ) 10 92 4.8
FRG-1 (ドイツ) 5 20 Yes
FMRB (ドイツ) 1 93 1
GRR-1 (ギリシャ) 5 93 2.7
NRCRR (イラン) 5 20 Yes
IRR- 1 (イスラエル) 5 93 0 ?
JMTR (日本) 50 20 Yes
JRR-2 (日本) 10 45 10 1996年に廃炉
KUR (日本) 5 93 2.1
JRR-4 (日本) 3.5 93 0.9 1998年に転換
TRIGA (メキシコ) 1 70 0.7
HFR Petten (オランダ) 45 90 36 同意ないが転換可
HOR (オランダ) 2 93 1.7
PARR (パキスタン) 5 20 Yes
RPI (ポルトガル) 1 93 0.9
PRR (フィリピン) 1 20 Yes
SSR (ルーマニア) 14 20-70 11
SAFARI (南アフリカ) 20 93 15 同意ないが転換可
TRIGA (韓国) 2 20-70 1
R-2 (スウェーデン) 50 20 Yes
THOR (台灣) 1 20 Yes
TR-2 (トルコ) 5 93 1.5
HERALD (イギリス) 5 70 3
合計 410 248



低濃縮ウランへの転換前の年間需要量 U235:445kg

  (研究炉の場合、濃縮から燃料製造、再処理までのサイクルが4年:つまり上記の量の4倍が常に出回っていることになる。)

 1996年の時点で:
  12基 完全に転換
  26基 転換過程

○世界の研究炉用高濃縮ウランの総量は?

SIPRI:
データが不足しているが、約20トンと推定

これに核兵器用計画から「解放」される高濃縮ウランが加わる。