核兵器
2004.3.9

「日本・核兵器・原子炉級プルトニウム」

マービン・ミラー

『軍縮問題資料』 2002年8月号

訳者解説

 ここに訳出したのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)の物理学者マービン・ミラーが米国の民間団体『核管理研究所(NCI)』のセミナーで行った報告の原稿である。セミナーが開かれたのは、自由党の小沢一郎党首が、日本は数千発の核兵器を作るプルトニウムを持っていると中国に警告したとの発言をしたとされる4月6日にから遡ること10日前の、2002年3月27日のことである。ミラーは、1984年から86年まで米国政府の「軍備管理・軍縮局(ACDA)」で勤めた他、「国際原子力機関(IAEA)」、米国エネルギー省、それにロスアラモスとリバモアの核兵器研究所のコンサルタントとしても活動してきた経歴の持ち主である。現在は、MIT国際研究センター安全保障プログラム及び同核工学部の名誉高級研究科学者の地位にある。
 NCIが出したセミナーの案内の中でミラーは報告の内容をつぎのように要約している。「私は、まず、日本は米国の核の傘についての確信を失うと同時に日本の強い反核感情が衰退するということがないかぎり日本は核を持たないという一般的見解を要約し、これにコメントする。反核の政策がひっくり返ったとして、日本は核兵器を作るためにどのような技術的オプションを持つかを検討する。これは、核拡散防止条約(NPT)からは脱退したとしても、日本が結んでいる様々な2国間の保障措置の約束を冒すことを選択するかどうかによる。特に、日本が有している原子炉級プルトニウム(RGPu)のストックの使用の可能性について注目する。私の結論は、日本は、そのRGPuを使って信頼性のある高い威力の核兵器を作ることができるが、他の核分裂性物質のストックを使うこともできる、というものである。技術的観点からいえば、日本は、潜在的核保有国である。」
 兵器級プルトニウム(WGPu)の場合には、プルトニウム239の含有量が93%以上であるのに対し、原子力発電所で長期間燃やした「燃焼度」の高い燃料から得られるRGPuの場合、240、241、242などの同位体の含有量が増える。240は、自発核分裂を起こして中性子を出す。RGPuで核兵器を作った場合、化学爆薬による爆縮が進まないうちに、この中性子によって連鎖反応が始まってしまい、期待通りの威力が得られない可能性がある。この時期尚早の核爆発開始を、「プリデトネーション(早発)」という。日本のプルトニウム利用推進派は、この「早発」の問題などをあげてRGPuで核兵器を作るのは不可能、あるいは非常に難しいと主張してきた。(本誌1999年5月号拙稿を参照。)元動燃理事の栗原弘善氏は、RGPuで作った核兵器は、「早発」のため「核の花火にしかならない。まぶしい光と大きな音を出すが、核爆弾の大きな壊滅的な効果をもたらしはしない」と述べている。核兵器の設計者らは、早発でも1キロトンは確実に達成できるという。広島の15分の1。(被害面積は広島の3分の1。)アフガニスタンで使用された超大型爆弾デイジーカッターの約180倍である。これが「核の花火」の正体である。さらに、ミラーは、「早発」問題は、日本の技術力があれば解決できるという。RGPuで核兵器ができることを認めずプルトニウムをため込もうとするから余計に怪しまれる。その意味で日本の原子炉から得られたプルトニウムで数千発の核兵器ができるとの小沢党首の発言は正しい。彼の政治的意図がどこにあったかは別問題である。


* 論点

*政治的観点

*  保障措置とNPT

 政治的にいえば、NPT第10条第一項に従って3ヶ月前に通知すればNPTを脱退することができ、そうすれば、NPTの加盟国の地位にとどまりながら核兵器を獲得することによりNPTに違反するのを避けられる。しかし、日本が主要核供給国(米・仏・加)と結んでいる原子力協力協定は、すべて、日本がNPTから脱退した場合には、移転された核物質及び技術について「バックアップ」的保障措置を定めている。
 とりわけ、日米原子力平和利用協力協定(1987年11月4日)は、「機関(IAEA)との保障措置協定を終了させ若しくはこれに対する重大な違反をする場合には・・・この協定に基づいて移転された資材、核物質設備若しくは構成部分又はこれらの資材、核物質設備若しくは構成部分の使用を通じて生産された特殊核分裂性物質のいずれ」に関してもバックアップ的保障措置を定め、その返還を要求する権利を規定している。(第9条第2項及び第12条第1項。)
 したがって、これらの物質と技術を核兵器のために使うにはこれらの協定に違反せざるを得ない。さらに、日本がNPTを脱退すれば、核供給国は、その国の法律と核供給国グループ(NSG)のガイドラインに従って、これらの物質や技術の移転を中止する義務を負うことになる。たとえば、プルトニウム生産炉やウラン濃縮遠心分離プラントの原料物質として必要な天然ウランの移転中止である。(これは、原子力エネルギーの安全保障と核兵器の両方にとって、海水からのウランや増殖炉が有用であること強調するものである。)
 核兵器が必要だとの結論を日本が下した場合、これらの制限が、どれほどの意味を持つかは、議論のあるところである。だから、技術面での日本のオプションを検討する意味があるのである。

*  核兵器の技術的オプション

 原子炉級プルトニウム(RGPu)の直接的利用の他に、日本には、プルトニウムと兵器級ウラン(WGU)を入手するいくつかのオプションがある。

 これらのオプションのうちの一つあるいはそれ以上−−たとえば3や6−−はRGPuを使うよりも魅力的と言えるかもしれない。それは、どのぐらいの数の核兵器がどのような時間の幅で必要であるかという点、そして、核実験の必要性についての見方による。しかし、以下では、日本がRGPuを使って信頼性のある高い威力の核兵器を作ることができるかどうかを検討する。核兵器におけるRGPuの使用の問題に関する最新の非機密の米国エネルギー省ガイダンスには、つぎのようにある。
「RGPuの使用における障害がどの程度克服できるかは、核兵器を作ろうとしている国家又は集団の洗練度による。洗練度のもっとも低いレベルにおいては、第一世代の核兵器に使われたものと同程度以下の設計及び技術を使った潜在的核拡散国家又は国家レベル以下の集団は、1キロトン又は数キロトンについては確実な、信頼性のある威力を生みだし−−そして、おそらくはそれよりもずっと高い威力を生み出しうる−−核兵器をRPuから作ることができる。そして、反対の極においては、米国やロシアのような進んだ核兵器国は、新型の設計を使うことによって、WGPuから作られた核兵器とほぼ同等の信頼性できる威力、重さ、その他の特性を持った核兵器をRPu作ることができる・・・中間レベルの洗練度の設計を使った核拡散国家は、単純な第一世代の核装置で可能となるキロトンレベルより相当高い威力を確実に出せる核兵器を作ることができる。」
 したがって問題は、つぎのようになる。核兵器の洗練度の幅のどこに位置するか。また、「ファットマン」の爆縮型原爆(フックスのスケッチ)よりも進んだ設計を使うことによって、RGPuを使った場合に生じる問題がいかにして最小限にできるかという点に関して、非機密の形で、どの程度言えるか、言われてきたか、言う価値があるか?
 私の考えでは、日本は、核兵器の能力の幅において、少なくとも、中間ポイントにあり、おそらくは、高い方の端に位置していると思われる。といっても、日本が秘密の核兵器計画を進めていると言おうとしているのではない。そのような計画については何も知らない。私が言いたいのは、関連分野での日本の科学者の有能さからいって、政治的にゴーの決定が下されれば、RGPUを使って進んだ核兵器を作れるだろうということである。核兵器におけるRGPuの使用に際して設計上考慮すべき事柄は、まだ、機密に属するが、この問題については、すでに、公開された文献の中で、多くのことが語られている。

 詳細は省くが、高性能爆薬技術、慣性核融合、水素の同位体の製造と取り扱いなどの分野における日本の研究について調べてみた結果、核兵器におけるRGPuの使用に関連した問題、すなわち「早発」の問題を解決する能力を彼らは持っているとの結論に達した。要約するなら、リチャード・ガーウィンのつぎの見方に同意する。
「もっと洗練された設計者に関しては、5つの核兵器国だけでなく、インド、パキスタン、イスラエルの核兵器当局は、原子炉級プルトニウムを使って、兵器級を使った核兵器と同等の威力を持つ核兵器を作ることができると言うのが私の考えである。彼らは、原子炉級プルトニウムの高い中性子発生率で困ることは全くないだろう。」
 そして、このリストに、日本の他、ドイツなどの先進非核保有国を加えるといい。

* 結論

 疑問として残るのは、日本が、核保有を決めた場合に、RGPuを使って高い威力を持つ軽い兵器を作ることができるかどうかではなく、他の可能なオプションを考慮した場合、そのような選択をするかどうかである。私の考えは、この問題を真剣に検討する必要から日本をできるだけ切り離しておくために、核保有国、とりわけ米国は、努力すべきだというものである。このためには、一方では、中東、南アジア、北東アジアでの地域的緊張を緩和するために努力しながら、同時に、自らの手本を示すことによって核兵器の役割の価値を下げるというリーダシップが必要である。また、RGPuを含め、すべての現存する核兵器使用可能物質の保障措置と物理的防護を、改良し、そのストックを減らさなければならない。

紙面の都合で割愛した参考文献のリストについては原文を参照されたい

(翻訳 田窪雅文)