核兵器北朝鮮
2003.3.26

パトリオット・ミサイル(PAC2改良型)でノドンを迎撃?

 2003年3月14日付けの読売新聞は、日本政府が「当面は、今夏に配備を開始する地対空誘導弾パトリオット・ミサイル(PAC2改良型)で、日本領空内での迎撃を目指す」方針を決めたと報じています。マサチューセッツ工科大学のミサイル問題の専門家ジョージ・ルイスにPAC2(パトリオット能力発展型第2段階)の能力について問い合わせたところ、PAC2ではとてもノドンに対する防衛の役に立たないとの返事が来ました。

 読売新聞の記事は、「航空自衛隊が現在保有しているPAC2は、射程600キロ程度の弾道ミサイルにしか対応できない。しかし、今年7月から2007年度にかけて27基配備する計画のPAC2改良型は、射程約1000キロの弾道ミサイルに対処できるとされる。政府関係者は「射程1300キロのノドン・ミサイルの場合、地上近くで迎撃できる可能性はある」と見ている」とも言っています。

PAC2は、湾岸戦争の際にイラクのスカッド・ミサイル(射程600km程度)に対してまったく効果をあげなかったものです。近くまで行って自分で爆発して、その衝撃と破片で相手を破壊するシステムで、もともと敵の飛行機を打ち落とすために開発されたものです。湾岸戦争の際は当たったと思われたのは単に自分で爆発しただけで、スカッドは、そのまま落下を続けていたことが後で判明しました。

PAC2は、改良を加えても、弾道ミサイルに対処できないというので、開発されているのがPAC3です。こちらは体当たり方式です。このPAC3もノドン・レベル(射程1300km程度)のミサイルに対する実験はしていないとジョージ・ルイスは指摘しています。

ノドンのような射程の長いミサイルについては、PAC3は、上層での迎撃に失敗して地上近くに落ちてきてしまったミサイルに対処しようというもので、高いところでの迎撃は、陸上配備の高高度広域防衛システム(THAAD)や海上配備のイージス・リープ・システムで対処する計画です。日本は、このうち、2段階に分けて行われている海上配備システムの第2段階の研究に協力しています。第1段階のものは役に立つレベルにならないとの判断から第2段階の研究が計画されたわけです。(*参考:ミサイル防衛

ところが、その完成はずっと先になりそうなので、日本の政府内部ではこの海上配備の第1段階の方か、PAC3を急いで導入する話が出ています。(*参考:北朝鮮の「ノドン」迎撃可能?)それも、時間がかかるからというので、今年夏に配備開始予定のPAC2の改良型でノドンに対処できると信じたいということのようです。

今回、イラクでミサイルを迎撃したと言われているのは、PAC3の方です(*注1)。ただし、打ち落としたのは、スカッドではなく、射程の短いAbabil-100(射程150-200km?)と見られています。

ミサイルの「脅威」も「防衛システム」も冷静な評価が必要です。

 ジョージ・ルイスの反応は次の通りです。


 PAC2のノドン迎撃能力

ジョージ・ルイス
マサチューセッツ工科大学安全保障プログラム副主任

 PAC2(パトリオット能力発展型第2段階)は、北朝鮮から発射されたミサイルから日本を守るのに適していないのは明らかである。北朝鮮からのミサイルは、1000キロメートル以上の射程を持っているものとなる。ミサイルの射程が長ければ長いほど、大気圏に再突入する際の速度が速くなり、PAC2は、このような射程のミサイルに対する防衛には全く向いていない。

PAC2は、300キロメートル以下の射程のミサイルに対する初期の実験では大いに成功したと報じられている。しかし、1991年の湾岸戦争で600キロメートルの射程のイラクのミサイルと対面した際には、完全に失敗してしまった。湾岸戦争以来さまざまな改良が行われ、湾岸戦争で判明したさまざまな問題に対する対応措置がとられた。しかし、基本的な問題は残っている。それは、PAC2が、限定的な機動性しか持たない防空システムを改善したものだという点である。弾道ミサイルに対して使用するために設計されたのではないのである。PAC2は、北朝鮮から発射されたミサイルに対しては、まったく用を為さないことになるだろう。

PAC3(パトリオット能力発展型第3段階)は、最初からミサイル防衛システムとして設計されたもので、ずっと機動性のある迎撃体(体当たり装置)を使う。日本が、ミサイル防衛システムを取得することに決めるなら、PAC3が入手可能な場合にPAC2を購入するのは、まったく意味を成さない。PAC2の方が安いとしても、それは、PAC2でカバーできる面積がPAC3の数分の1となることで相殺されてしまう。[湾岸戦争の際にPAC2の1部隊で防衛を試みたのは、直径15kmほどの地域。]

上述の通り、PAC3は、PAC2と比べ、相当高い能力を持つ。どのくらいの最大射程をもつ標的ミサイル(敵のミサイル)に対処できることが想定されているのかは、公表されていない。しかし、ノドンのような射程のミサイルに対して使うことを想定していることは間違いない。

しかし、現在公表されている情報だけでは、PAC3がノドンに対してどの程度の効果を持ちうるか定かではない。このシステムは、その実験プログラムの比較的初期の段階にあり、ノドンのような射程のミサイルに対しては実験されていないだろう。

PAC3の大きな問題の一つは、比較的小さな地域しかカバーできないということである。半径30キロメートルほどである。従って、大都市は、それぞれ一つの砲兵中隊を持たなければならない。広い都市地域の場合には、一つでは足りないことになるだろう。

陸上配備の高高度広域防衛システム(THAAD)と海上配備ミッドコース(中間飛翔段階)システム(SMB)(=イージス・リープ・システム)は、どちらも開発中だが、ずっと広い地域をカバーするもので、比較的射程の長いミサイルに対処することを目指したものである。比較的少数のユニットで日本全体をカバーできるかもしれない。しかし、どちらのシステムも、利用できるようになるとしても、何年も先のことである。さらに、SMBは、大気圏外だけで機能するものであり、従って、さまざまな対抗手段に対して弱点を持つことになる可能性がある。THAADは、大気圏内の上層部で機能する能力を幾分持っており、このような対抗手段に対しては弱点が少ないかもれない。

*注1:ニューヨークタイムズ紙2003年3月23日Patriot Missiles Bag Their Prey Again, Reportedly Shooting Down 4 Of 6 Iraqi Missiles (Nicholas Wade)
この記事は、米軍の発表を下に、米英軍に対して発射されたミサイル6基のうち4基の迎撃に成功したのは、PAC3だと報じている。ただし、この後も打たれた数と「迎撃」された数は増えており、何をどの迎撃ミサイルが打ち落としたのかは、定かではなくなってきている。
詳しくは*「パトリオットが米軍機にロックオン」を参照。

PAC3関連データ


[米国のNGOアームズ・コントロール・アソシエーションのホームページ(2002年12月作成)より]