核兵器北朝鮮
2002.2

カソリック大学「東北アジアにおける平和と非核地帯会議」2001年1月30−31日

TMD日米共同開発と北東アジア

田窪雅文

初めに

 与えられたテーマは、戦域ミサイル防衛(TMD)日米共同開発と北東アジアだが、TMDが軍拡競争や非核地帯構想に与える影響については、別の方が分析されることになっているので、ここでは、主として、日本が米国と「技術研究」をすることに決定した海軍戦域広域(NTW=Navy Theater Wide)防衛システムと、その決定の背景をみることで、議論の材料を提供することにしたい。

日本が取り組むTMD

 クリントン政権の下で発表された米全土ミサイル防衛(NMD)は、ブッシュ政権の下で強化されようとしており、関心を呼んでいるが、クリントン政権は当初、TMDの方に重点を置く方針だった。93年に登場したクリントン政権のアスピン国防長官は、5月13日、スターウォーズ時代の終焉を告げ、焦点をTMDに当てると発表した。
 ここでおさらいをしておくと、TMDは、海外に出た米軍や同盟国を守るシステムで、射程3000〜3500キロメートル程度までのものを対象とする。(これは米軍の側からみた場合の区別で、日本から見れば、TMDで守ろうとしているのは日本全土である。それで日本政府は、TMDを単に弾道ミサイル防衛(BMD)と呼んでいる。)これは、上層の大気圏外で打ち落とすものと下層の大気圏内で打ち落とすものとに分かれる。両者にはさらに陸上配備と海上配備のものがある。主要な陸上配備のものがそれぞれ戦域高高度地域防衛(THAAD)、パトリオット能力発展型第三段階(PAC3)、海上配備のものが海軍戦域広域(NTW)、海軍地域防衛(NAD)と呼ばれる。1995年から6回続けて迎撃実験に失敗し、大きく報道されて有名になったのは、THAAD(サード)である。これは、99年になってやっと2回「成功」したことになっているが、これらの実験は成功を容易にするために操作されていたとする指摘が国防省内部から出ている。
 日米の共同技術研究の対象となっているのは、NTWである。NTWは、防空戦闘用に開発されたイージス艦から発射する三段式のミサイル(SM−3)にLEAP(軽量大気圏外飛翔体:もともとSDI用に開発)と呼ばれる体当たり装置を載せるもので、研究・開発初期の段階にある。イージス艦のレーダー能力などを改善し、新規開発のSM−3と組み合わせて使うという計画である。日本は、イージス艦を4隻保有している。米国以外でイージス艦を持っているのは日本だけである。
 共同技術研究というのは、これは開発の一つ前の段階とされるもので、対象となるのはつぎの四つの分野である。1)LEAPの赤外線シーカー(赤外線を利用し、目標の識別追尾を行う装置)2)ノーズコーン(LEAPの赤外線シーカーを大気との摩擦熱から守るカバー)3)LEAP、4)全3段中第2段のロケットモーター。1999年度版『防衛白書』は、「この4つの項目の試作に関する日米間のそれぞれのより詳細な担当部位などについては、今後日米間で調整した上で決定されることになると考えている。」としている。そして、99年度予算においては、「赤外線シーカについて、日本側が試作する部分があることから、赤外線シーカの構成要素を試作する経費を計上している。」

日米交渉概観

 米国は九三年にTMD重視の方針を発表すると同時に日本に協力を求めてきた。同年五月に北朝鮮が能登半島の沖に向けてノドンの実験を行ったことが説得材料となった。(これが実は、太平洋に着弾していたと米国国防省は見ている。)日本は最初、THAADに参加する可能性を検討していた。だが、96年12月に来日したペリー国防長官が「THAADには日本が研究・開発に参加する余地がなく、イージス艦など海上から発射するシステムに参加した方がよい」と提案した(朝日新聞1997年6月5日)。
 防衛庁に詳しい記者らによると、防衛庁の関係者らは、本当はTMDに消極的だったという。技術的に当てにならないし、他の装備費をくってしまう恐れがあるからである。開発・配備まで入れると、兆円単位となるとされている。だが、日米安保の関係からいって断り切れない。産経新聞の岡芳輝論説委員はいう。「そもそも日本にTMDが必要かどうかの議論すら抜きにして共同研究に着手している。とりあえず共同研究で時間稼ぎをし情勢の変化があれば、それを機にTMDから手を引きたい、もしコミットしなければならないのなら一番安上がりなLEAPでご勘弁願いたい、そんな気配さえ窺われる」(『世界の艦船』1998年11月号)。
 最初は、TMD構想の有用性を検討するための日米共同研究をすることが合意されたが、1994年9月9日のことである。そして、米側の圧力によって、1998年6月4日、防衛庁は、日米共同研究を翌年から一歩進め、技術研究段階へ移行する方針を固める。そして、8月16日には、米国との共同技術研究のため1999年度防衛予算で10億円前後を要求する方針を固める。その直後の8月31日にテポドン1ミサイル実験が行われる。9月20日、日米安全保障協議委員会(2プラス2)で、日米共同技術研究を99年度から開始するとの合意に達する。11月初めには、情報収集衛星打ち上げの方針が閣議決定される。12月25日、日本政府安全保障会議の了承を得て、共同技術研究を99年度から開始することが閣議決定される。
 この流れからみて分かるように、共同技術研究を1999年度から始めることは、テポドン実験の前にほぼ決まっていたのである。だが、タイミングが良すぎたために、テポドンが共同技術研究実施の正当化のために使われた。閣議決定と同日付けで発表された官房長官談話では次ぎように述べられている。「なお、この関連で、本年9月、衆議院においてなされた北朝鮮によるミサイル発射に関する国会決議において『政府は我が国国民の安全確保のためのあらゆる措置をとる』べきこととされているところである。」外務省の軍備管理部門の高官に会った際に驚かされたことには、彼も、テポドンの実験によってTMDについての日本政府の関心が急に高まり、共同技術研究の実施が決まったと、信じ込んでしまっていた。一度消えかけていながら、テポドンによって急に浮上したのは、偵察衛星の計画の方である。
 長期的に見た場合、日本でTMDの対象として考えられているのは中国だというのがおおかたの意見だろう。日米同盟や防衛産業政策に詳しい桃山学院大学の松村昌廣助教授の『日米同盟と軍事技術』の中の「日本の戦域ミサイル防衛(TMD)」を扱った部分には、北朝鮮の脅威は登場しない。「もし中国が現存する国際システムに順応する路線を進み、攻撃性の高い軍備拡大や軍備の近代化を自重するならば、日米両国は日本もしくは北東アジアにおいていかなるTMDシステムも配備すべきではない」と言い切っている。
 松村氏はまた、「東アジアの安全保障環境は日本が大規模なTMD装備を直ちに必要とするほどまでに深刻であろうか。また、将来、そのような状況が予期されるであろうか。」と自問し、NOと答える。その一方で「日米同盟における両国の力関係とTMDを推進する米国の利害を考えると、日本にはTMDシステムを拒絶するという選択肢は許されないと考えねばならない」とも述べている。これが日米関係を専門とする人々のほとんどが持っている発想ではないだろうか。

日米共同技術研究

 1999年8月16日、日米両政府は、NTWの共同技術研究に関する交換公文とその細目を決めた了解覚書を交わし、正式な合意の成立となった。そして、1999年度予算では、9億6200万円、2000年度予算では、20億4800万円が共同技術研究費として計上された。主契約社として受注したのは、三菱重工である(他に三菱電気、東芝、川崎重工、富士通、IHIエアロスペース、石川島播磨重工などが参加)。
 1988年に戦略防衛構想(SDI)計画の中の西太平洋地域防衛構想(WESTPAC)の研究開発に参加した日本側企業の中心となったのも三菱重工だった(他に三菱電機、日本電気、日立製作所、富士通、三菱商事、三菱スペース・ソフトウェア、日本無線が参加)。米国のLTV社を中心とするもう一方の受注グループには、川崎重工が加わった。防衛問題に詳しいある記者は、TMDについて米国が最初に話を持ちかけたのは、防衛庁ではなく、三菱の方だという。
 共同技術研究の実態についての報道はほとんどない。わずかに、『軍事研究』誌(2000年11月号)に次のような記述がある程度である。
「三菱重工は、[1999年度に]弾道ミサイル防衛用(BMD)主要構成要素研究試作(その1)を8億9800万円をもって受注したが、続く[2000年度]も同試作(その2)を20億4000万円をもって実施、さらに、2004〜5年度は、総額250〜300億円をもってシステム設計・・・試作を続行する。
 [1999〜2001]年度は、技本[防衛庁技術研究本部]IRシーカーを主に試作し、その性能などの技術/評価試験は、米海軍の協力を得るものとなる。米国防省、空/海軍は大型調査システム搭載のAST機(実用試験促進機。ボーイング767改)により各種IRシーカー、IRST(赤外線捜索・追尾)などの機能評価テストを行い、米海軍開発のSM2BLK4A用シーカーに次ぐNTWDシステムの飛行試験に協力、技本IRシーカーの評価試験は、2002年度頃の予定。」
 次に、日本政府が共同技術研究についてどのように説明しているか、少し長くなるが、2000年度版『防衛白書』から引用しておこう。
「冷戦終結後の核を初めとする大量破壊兵器や弾道ミサイルが拡散している状況や、我が国が弾道ミサイル対処を想定したシステムを保有していないという現状を踏まえると、弾道ミサイル防衛(BMD)が専守防衛を旨とする我が国の防衛政策上の重要な課題であり、また、純粋に防御的なシステムであり、専守防衛という我が国の政策に適することから、我が国の主体的取り組みが必要であるとの認識の下、これまで検討を行ってきた。
 これまでの調査研究の成果及び米国の研究開発の状況などを踏まえれば、現段階において我が国として具体的な装備の導入を判断する段階になく、システムの実現に必要な要素技術の検証などを行うことが適切である。政府としては、今後の我が国の取り組みとして、米国との間においてBMDに係る共同技術研究を行うことがもっとも効率的かつ実りあるものであり、また、このような日米間の協力は、日米安全保障体制の信頼性の向上に資するものであると考えている。・・・・
 一般に、装備品の技術研究開発及び配備を行う場合には、『技術研究』、『技術開発』『量産・配備』の3段階を経る。しかし、今回の共同技術開発研究は、あくまでもBMDの技術的な実現可能性などをさらに見極めるために行う『技術研究』段階のものである。開発段階への移行、配備段階への移行は、別途判断するものであり、これらの判断は、BMDの技術的実現可能性及び将来の我が国の防衛のあり方などについて十分検討した上で行う。」
 米国の側ではどのような説明をしているのだろうか。その点で興味深いのが、Inside Missile Defense(1995年10月11日)に掲載された海軍のTMDと日本の米軍の防衛に関する記事である。この記事は、日米安保の取り決めの中で、日本は、在日米軍の防衛に責任を負っているが、日本はミサイル攻撃から米軍を守るすべを持っていないとして、レンプト海軍少将(戦域防空責任者)の発言を引用している。「日本にある我々の港や飛行場に防衛を提供できないと言うことになると、我々の政治的指導者たちに残されたオプションはあまりないことになる。」撤退を迫られるかもしれないというのである。日本にとって一つの選択肢は、イージス艦を使うことだと述べる。「日本には、2隻イージス艦があり、後、2隻[建造中だ]。もっと建造することになるだろう。」
 レンプトは、イージス艦なら日本の上空ではなく、日本海で迎撃を行うことができるという利点を強調する。日本のミサイル防衛について行われた環境影響評価は、日本本土に残骸が落ちるということで、陸上配備のシステムには批判的だった、とレンプトは述べている。前述の通り、日本は1996年12月に米国にNTWで協力するよう言われてTHAADをあきらめたことになっているのだが、この環境影響評価は日本でどれほど検討されたのだろうか。このような話は日本のマスコミを通じてはなかなか入ってこない。

NTWの開発状況

 NTWは、ブロック1、ブロック2と二段階に分けて開発する計画になっている。さらにブロック1をA、B、Cと三段階にわけて開発し、ブロック1Cを二〇一〇年度に完成させることを目標としている。日本の共同技術研究の対象はブロック2の方である。赤外線シーカーは、ブロック1では単一色のものであるのに対し、ブロック2では二色となる。また、ブロック2では、迎撃ミサイルの速度も上がるが、最終的にどのようなシステムになるかはまだ確定されていない。
 1999年4月29日に米国議会に国防省が提出した『アジア太平用地域の戦域ミサイル防衛の構成の各種選択肢』という報告書は、脅威を北朝鮮とした場合、日本を守るには次のような必要があるとしている。PAC3だけなら100以上の地点。THAADなら6地点。NTWブロック1なら4隻。NTWブロック2なら1隻。ただし、マサチューセッツ工科大学のジョージ・ルイスは、これは、たとえばNTWブロック2が1隻あれば日本をカバーできると言っているだけで、守れるかどうかは別問題だと強調する。カバーすることになっているというだけで、なんの役にも立たないかもしれないという点を忘れてはならない。
 同報告書は、韓国の防衛については次のように述べている。THAAD型4カ所と、PAC3型7カ所でほぼ全土をカバー(後者はソウルを防衛)。NTWは、高度100kmが迎撃の最低ラインだから、その下を飛んでくるミサイルに対しては用をなさない。つまり、韓国北部の3分の2は守れない。PAC3だけを使った場合、criticalな地点だけの防衛に25カ所必要となる。
 ブロック1は、ブロック2へのつなぎ的なものと考えられており、配備数はイージス艦4隻、ミサイル総数80基とされている。本来の防空機能を持たせない単一ミッション能力を持つものを2008年に配備し、複数ミッションを持つ最初の1隻を2010年に配備するという計画のようだが、計画通りにはことは進んでいない。ブロック2の方は、予算も付いておらず、最終的にどのようなシステムとするかも決まっていない。放棄されてしまう可能性もあれば、姿を変えてNMDに組み込まれていく可能性もある。

 ブロック1の最初の迎撃実験は、予定より遅れて2001年の四月あるいは六月になると海軍は発表している。原因は、2000年三月の地上実験で、LEAPの姿勢高度制御装置(DACS)の八つの小型反動推進エンジンの製造に使われた材料が燃料の燃焼で生じる高熱に耐えられないことが判明したからである。また、2000年七月一四日にハワイ沖で行われたSM−3の第二回飛翔実験では、第三段ロケットモーターの点火に失敗している。迎撃実験の前の段階の打ち上げ実験の失敗である。これは、1週間前の七月八日に行われた米全土ミサイル防衛(NMD)システムの三回目の迎撃実験の失敗の陰に隠れてほとんど注意を引かなかった。
 ブロック1の迎撃実験は行われていないが、LEAPを使った迎撃実験は、1992年6月19日、93年6月22日、95年3月4日、同3月28日の計4回行われており、全部失敗に終わっている。最初の2回はSDIの一環として行われたものであり、後の2回は、海軍によるTMD用の実験だったが、現在のNTWブロック1の計画に移行する前のものである。防衛庁は、7月8日のNMDの迎撃実験の失敗の後、TMDは技術的にもNMDより容易で、今回の実験の失敗とは関係ないとの態度を表明しているが、それほど容易でもないようである。

NTWとABM制限条約

 さて、1993年にTMDに重点を置く方針を決めた米国は、日本など同盟国に協力を呼びかけるとともに、弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約の下でロシアにTMDの開発・配備を認めるよう働きかけ始めた。
 AMB制限条約には、どのようなTMDなら条約で認められるかについて規定がなかったのである。条約は、その第一条二項で「各締約国は、その国の領域[全体]の防衛のためのABMシステムを展開しないこと、及びそのような防衛のための基礎を準備しないこと」を約束するとしている。「ABMシステムとは、戦略ミサイル及びその構成部分をその飛翔軌道において迎撃するためのシステム」(第二条)を意味し、「各締約国は、海上配備、空中配備、宇宙配備または移動式の地上配備のABMシステムまたはその構成要素を開発、実験または展開しないことを約束する」(第五条)とある。また、「ABM迎撃ミサイル、ABM発射基またはABMレーダー以外のミサイル、発射基またはレーダーに対し、戦略弾道ミサイルまたはその構成部分をその飛翔軌道において迎撃する性能を与えないこと、及びそれらをABM様式において実験しないこと」(第六条)も約束されている。だが、この性能やABM様式についての規定がない。何が禁止されているか定かでないのである。それで、米国はTMDの実験・配備に向けて、ロシアの合意を取り付けることを試みた。
 TMDについて、1997年3月、ヘルシンキの首脳会談で合意が成立し、同年9月ニューヨークにおいて正式の合意文書が取り交わされた(ロシアは昨年これらの文書を批准。米国は未批准。)だが、これは、実際は結論を先送りする内容となっていた。合意文書は、ABM制限条約の制限の対象になる弾道弾迎撃ミサイル(ABM)と、対象外のTMDについて定義を試みたもので、速度の速い迎撃ミサイルと遅い迎撃ミサイルに分けて文書を作っている。秒速3キロメートル以下の迎撃ミサイルを扱う第一の文書は、秒速五キロメートルを越える速度あるいは3500キロメートルを越える射程を持つミサイルを標的にした実験をしない限り、制限の対象とならないとしている。一方、秒速三キロメートルを越える速度の迎撃ミサイルを扱う第二の文書は、低速の場合と同様の実験を禁止すると同時に、「別の当事国の戦略核戦力に現実的脅威を与えず、そのような能力を与えるような実験をしないとの原則」を確認している。THAADは、秒速2.6キロメートルで低速の範疇に、NTWは、秒速4.5キロメートルで高速の範疇に入ると理解されていた。NTWブロック1の速度は、LEAPの重量とロケットの推力の限界のためか、秒速3kmとなっている。ブロック2では、4.5km以上となることになっている。
 米国側は、これで米国のTMDが計画通り配備できるとした。合意文が即座に発表されなかったこともあって、米国のマスコミも政府の見解を鵜呑みにして報じた。しかし、ロシアのプリマコフ外相(当時)は、このとき、これで境界問題が解決されたわけではなく検討を続けなければならないと述べている。実際、第二の文書は、「戦略弾道ミサイル以外の弾道ミサイルを迎撃するシステムに関連した技術の進展に従い・・・協議を行うことを約束する」としている。「現実的脅威」については定義せず、個々のシステムについての判断は将来の協議に委ねる形となった。
 ロシアは日本に対しこの点について警告している。たとえば、1999年2月に日本を訪れたロシアのイワノフ外相は、「ロシアでの報道によると、日米が[九九年から]始める戦域ミサイル防衛(TMD)の共同技術研究についても、米ロ間の弾道弾迎撃ミサイル(ABM)制限条約に抵触する可能性があるとして、日本側に懸念を伝えた」(共同通信一九九九年二月二三日)。また、野呂田芳成防衛庁長官が1999年八月にロシアを訪問した際には、セルゲーエフ国防長官が念を押している。「ロシア側は、TMDを非戦略的ミサイルとは言い切れず、戦略的かどうかは技術が発展する過程ではっきりしなくなるなどという懸念を表明。『透明性と信頼性を失わないことが大事だ』とクギをさした。」(朝日新聞一九九九年八月二〇日)。
 TMDシステムがNMDシステムとしてどれほど機能しうるかについて、米国の「憂慮する科学者同盟(UCS)」とマサチューセッツ工科大学(MIT)の科学者ら(リスベス・グロンランド、デイビッド・ライト、ジョージ・ルイス、シオドア・ポストル)が行った研究がある。彼らは、『アームズ・コントロール・トゥデイ』誌(一九九四年四月号)に掲載された論文の中でつぎのように述べている。「われわれの分析は、高度な能力を持った戦域ミサイル防衛システム−−最大秒速五キロメートルの速度で大気圏内に再突入するような戦域核弾頭に対して広範な地域を防衛する能力を持ったシステム−−なら、ほとんど間違いなく、戦略核弾頭に対しても相当の能力を持つだろうということを示している。」研究は、THAADによって守れる地上の面積(フットプリント)を、戦術ミサイルによる攻撃に対する場合と戦略ミサイルによる攻撃に対する場合とで比較し、後者は前者の七〇%ほどに達することを示している。これは、「低速」のシステムについても、九七年のような合意内容ではABM制限条約を骨抜きにしてしまうと警告したものである。
 弾道ミサイル迎撃システムは、早期警戒衛星及びレーダー、捕獲・追尾用衛星及びレーダーなどと迎撃ミサイルからなる複雑なシステムであり、地上及び宇宙配備の探知・追尾システムが重要な役割を果たす。単純にTMDとNMDを区別することはできない。NTWの場合も、イージス艦のレーダーだけを使うか、早期警戒衛星や、低軌道宇宙空間配備赤外線システム(SBIRS−low)を利用するかどうかで性能が大きく変わってくる。右の分析は、そもそも高層TMDがこれら支援システムに支えられて「高度な能力」を持つとすればという前提に立って行ったものである。
 ただし、高層TMDの成功を阻む要素はいろいろある。たとえば、THAADやNTWは、NMDと同じく、大気圏外での迎撃を目指すもので、囮に弱い。大気圏外では、空気抵抗がないため風船も弾頭も同じように飛翔するから区別しにくい。前述の論文の著者の一人ポストルは、昨年5月にNMDの実験にごまかしがあると指摘した人物でもある。1997年7月に行われたEKVのセンサーの識別能力確認のための飛翔実験で、囮を識別できないことが明らかになり、その後の迎撃実験では、予定より囮の数を減らしたり識別しやすいように実験の条件を操作したりしているというのである。(ホワイトハウスに彼が送った書簡は、秘密情報が入っているということで秘密文書に指定されてしまった。だが、書簡はその前にインターネットを通じて世界中に出回ってしまっている。)また、ミサイルが核兵器ではなく生物・化学兵器を運んでいる場合、大気圏外で多数の小型容器(子弾)が放出される可能性が高く、これらすべてに対処することは不可能だと指摘されている。NMDがうまく行かないならNTWもうまく行かない。
 NTWがうまく行くならNMDに組み入れられる。NTWをそのまま、あるいは、改善してNMDに組み入れるアイデアはNMD推進派の一部にある。たとえば、SDIの支持派として知られるヘリティッジ財団が1999年3月に出した『米国の防衛−−緊急のミサイルの脅威に対処するプラン』という報告書は、NTWを使えば短期間でNMDシステムを構築できると論じている。また、海軍トップのジェイ・ジョンソン海軍作戦部長も、1999年2月18日、コーエン国防長官に書簡を送り、海軍のシステムもNMDの要素として考慮するように要請している。また、BMDOも、議会の指示に従って、98年5月15日付けでNTWの利用についての秘密報告書を作成し、同年六月二六日に議会に提出している。この報告書を要約した公開用の文書『NMDにとっての海上配備システムの有用性に関する議会への要約報告書』(99年6月1日付け)は、「NTWブロック2迎撃ミサイルは、地上配備のNMDシステム用に計画されているのと同じセンサーを利用すれば、第三世界の単純な脅威による攻撃に対して、米国に防御を提供する」と述べている。2000年5月27日のワシントンポストは、BMDOの新しい秘密報告書が、NTWは、地上配備のNMDの貴重な補完となるとしていると報じている。
 ここでの問題は、NTWが実際に能書き通り機能するかどうかではなくて、ロシアがそれを「戦略兵器に現実的脅威を与える」ものとみなすかどうかである。

 TMDは、このように多くの問題を抱えており、正確な情報に基づく広範な議論を巻き起こすべき時にきている。この会議がその一つのきっかけになることを願うものである。